転生とらぶる   作:青竹(移住)

1989 / 4305
1919話

「なぁ、本当にこんな場所でいいのか? 何なら、沖縄とかにでも日帰りで行けるぞ」

 

 東京から少し離れた場所にも関わらず、現在俺とゆかりの……そして犬の前に広がっているのは、草原と呼ぶに相応しい光景だった。

 少し……本当に少し東京から離れただけなのに、こんな光景が広がっているというのは少し予想外だった。

 まぁ、世界でもトップクラスの人口密度を誇る大都市、東京。

 だが、そこから少し離れただけで、そこには自然が広まっているのだ。

 ……折角の自然だからという事で、長鳴神社に寄って犬を連れてきたんだが、その犬の方もいきなり目の前の景色が変わった事に驚きつつ、今は興味津々に周囲の様子を眺めていた。

 うん、やっぱりこうして見る限りだと、犬は自然の中で走っているのが一番似合うな。

 だが、ゆかりに言ったように、俺の影のゲートがあれば、それこそ沖縄にだって日帰りで行ける。

 それどころか、沖縄じゃなくて海外にだって日帰りで移動出来るのだ。

 日帰りの海外旅行……近い場所とかなら出来そうだが、オーストラリアとかイギリス、フランス、アメリカ……そんな場所だと日帰りで帰ってくるのは不可能だ。

 いや、そもそもパスポートとかも持ってないから、色々と微妙な感じがしないでもないが。

 もし何かミスってパスポートの提示を現地の警察に要求された場合、間違いなく大きな騒動になるのは間違いない。

 いっそ、桐条グループの力を借りて、パスポートを作るか?

 一応戸籍は用意されてるんだから、多分パスポートの方も特に問題なく作れると思うんだが。

 

「いいのよ。折角の春なんだから、春らしい雰囲気でゆっくりしたいと思ってもおかしくないでしょ?」

 

 普段の気を張っている表情とは違い、どこかリラックスした様子で草原を見るゆかり。

 遠く離れた場所には山もあり、太陽の光が緑の葉を色濃く映し出している。

 ……まぁ、ゆかりが満足してるなら、それでいいか。

 出来ればもっと驚かせたりしたかったんだが、こういうゆっくりとした時間ってのも悪くはない。

 特に最近は色々と忙しかったからな。テスト勉強とか、タルタロスとかそういうので。

 

「わん、わん!」

 

 俺とゆかりが話をしていると、草原を駆け回っていた犬がそう吠えてくる。

 一緒に遊ぼうと、そう言っているのだろう。

 最初は神社からいきなり違う場所に移動した事でかなり驚き、周囲を警戒していたのだが……周囲には特に何か危険な存在がいる訳でもないと悟ると、この草原は犬にとっていい遊び場所となった。

 一応境内で毎日のように走り回っている犬だったが、たまにはこういう自然一杯の場所で走りたくなってもおかしくはないのだろう。

 勿論、犬に直接聞いた訳じゃない以上、本当はどう思っているのかというのは分からなかったりするんだが。

 それでも、今の犬が何を考えているのかというのは、想像するのは難しい話ではない。

 空間倉庫の中から、以前犬と遊ぶ時の為に買ったフリスビーを取り出す。

 

「よーし、ほら、取ってこい!」

 

 そう言い、フリスビーを草原に向かって投げる。

 

「わん、わん!」

 

 犬はそれを見て、すぐにフリスビーを追っていく。

 こういう風に普通に投げる分にはフリスビーも大体真っ直ぐに飛んでいくんだけど、上に向かって投げると、何故か戻ってくるんだよな。

 まぁ、空気抵抗とかそういうのが何かしら関係しているんだろうけど。

 

「アクセル、レジャーシート持ってる? ほら、前に花見に行った時の」

「ああ、あるぞ」

 

 冬に咲いた桜を見に行った時に使ったレジャーシートを、空間倉庫から取り出す。

 こういうのって、普通は一度使ったら押し入れとか物置とかそういう場所に保管しておくんだが、いざ使おうという時に限って見つからないんだよな。

 だが、俺の空間倉庫の場合は、それこそいつでも好きな時に取り出せる。

 空間倉庫というのは、まさにその本質を表現した名称だと言ってもいいだろう。

 

「うーん……春らしく太陽も暖かいし、これ以上ない程に贅沢な休日よね」

 

 そう言い、ゆかりはレジャーシートの上に寝転がる。

 ここを指定したのはゆかりである以上、当然ゆかりの格好もいつものようにスカートという訳ではなく、ショートパンツを履いている。

 ちなみに、当然ながら俺にはショートパンツとかそういうのに詳しくはないのだが……今ゆかりが履いているショートパンツに関しては、ゆかりが自分でそう説明していたのでショートパンツで間違いはないだろう。

 白く肉感的な太ももの半ば以上が日の光に照らされている。

 普段から弓道部で……そしてタルタロスで鍛えているだけあって、引き締まっていながら、それでいて女らしい柔らかさを失っていない。

 

「……えっち。どこ見てるのよ」

 

 俺の視線を辿ったのか、はたまた女の勘で視線を感じたのか。

 男のチラ見は女の凝視とか言われる事も多いし、そう考えれば今の俺の視線を感じ取れても不思議ではない。

 

「わん!」

 

 薄らと頬を赤く染めたゆかりに対し、口を開こうとした俺の言葉に割り込むように、犬が咥えてきたフリスビーを俺の足下に置いてから、鳴き声を上げる。

 

「ああ、分かってる。ほら、行くぞ!」

 

 その言葉と共に、フリスビーを遠くに飛ばす。

 かなり力を加減して放ったフリスビーだったが、それでも春の暖かな空気を切り裂くかのような速度で空中を飛んでいく。

 それを見た犬は、すぐにフリスビーを追いかけていった。

 普通の人が投げるよりは、間違いなく遠くに飛んでいくだろうフリスビー。

 それが寧ろ犬にとっては、追いかけるのに丁度いい感じなのだろう。

 特にあの犬は、何気に走るのが結構速いしな。

 

「うわぁ……凄いわね」

 

 さっきまで頬を赤く染めて俺に視線を向けていたゆかりだったが、今は草原を走っている犬の様子を驚きと共に見ている。

 普通の犬がどれくらいの速度で走れるのかは分からないが、あの犬は間違いなくその限界に近い……下手をすれば、その限界を超えていてもおかしくない速度の走りだ。

 

「そうだな。普段から境内とかで走り回っている効果が出たとか、そんな感じなのか? ……まぁ、それだけであそこまで速くなれるとは思わないけど」

「そう? あのワンちゃんなら、そうなってもおかしくないと思うけど」

「そこまで言う程、お前はあの犬の事を知らないだろ?」

「あら、アクセルがいない時も、それなりに私は境内に遊びに行ったりしてるのよ?」

 

 ふふん、といった様子でゆかりが俺にそう告げてくる。

 その言葉は、俺にとってもかなり予想外だった。

 いや、ゆかりがあの犬をそれなりに可愛がっているのは知っていたのだが、それでも自分だけでわざわざ長鳴神社に向かうとは思わなかったのだ。

 

「それは間違いなく驚いたな」

「あのワンちゃん、結構人懐っこいしね。……犬って、中には他人を見ただけで思い切り吠えてくる犬もいるでしょ? そういう犬と違って、あのワンちゃんは大人しくて普通に撫でさせてくれるし。……それに私を見て吠える事もあるけど、その時はもっと遊んで、とか。撫でて、とか。そんな意思表示の時が多いでしょ?」

「そうだな。……俺の場合、最も多いのは腹減ったって鳴き声だと思うけど」

「ふふ。それは、アクセルがいつもワンちゃんにドッグフードを食べさせてるからでしょ? それも、安物のドッグフードじゃなくて、かなり本格的で高級な奴」

「そうだな。もっとも、高級は高級でも、結局スーパーで普通に売ってるドッグフードだし、そこまで高級って訳でもないんだけどな」

 

 実際、俺が買っているのは缶詰タイプのドッグフードでも1個数百円の代物だ。

 どんなに高価でも、千円を超えるような金額のドッグフードはない。

 だが……何日か前に、ちょっと気になって調べてみたんだが、本当に高級なドッグフードともなれば、数千……どころか、数万円するのもあるらしい。

 それに比べれば、数百円のドッグフードはとてもではないが高級なドッグフードとは呼べないだろう。

 もっとも、そのような高価なドッグフードは、それこそ専門店とかに行かなければ買う事は出来ない。

 俺の場合、影のゲートで移動に時間は掛からないし、金に関しても特に困ってないので、買おうと思えば買えるのだが……犬の為にそこまで高級なドッグフードを買うのは、正直どうかと思ってしまう。

 よって、俺が犬に買っているのは半ば妥協の産物と言ってもいいだろう。

 

「桐条先輩なら……」

 

 何かを言い掛け、ゆかりの言葉が途中で止まる。

 それが何を意味しているのか、俺は理解出来た。

 桐条美鶴という個人は、ゆかりにとっても既に友好的な存在だと言ってもいい。

 だが、それはあくまでも桐条美鶴という人間だけであって、話が桐条グループという事になれば、やはりゆかりにはまだ色々と思うところがあるのだろう。

 もっとも、今の俺達は色々と桐条グループの世話になっているのも事実なのだが。

 シャドウについての情報しかり、タルタロスで宝箱からゲットした代物の解析しかり、俺の戸籍しかり。

 ああ、それとゆかりの矢の補充とか、そういうのもあったな。

 ともあれ、今の俺達が楽にタルタロスを攻略出来ているのは、間違いなく桐条グループの力がある。

 ……ゆかりにしてみれば、その事はやはり気にくわないのだろう。

 ただ、文句を言ってもどうしようもないと理解しているからこそ、それ以上は口にしないだけで。

 

「アクセル、ちょっと早いけどお昼にしない?」

「そうだな」

 

 話を誤魔化すように、そう言ってきたゆかりの言葉に頷く。

 もっとも、ゆかりにとっては本当に腹が減ったというのもあるのかもしれないが。

 ともあれ、俺は空間倉庫の中からサンドイッチを取り出す。

 スーパーでいつも俺が買ってるような、ただのサンドイッチではない。

 美味いと評判のパン屋で特別に注文して作って貰ったサンドイッチだ。

 カツサンド、卵サンド、野菜サンド、ハムサンド、ツナサンド、ポテトサンド、エビアボガドサンド……それ以外にも様々なサンドイッチが、一口サイズで盛りつけられたサンドイッチ。

 

「うわぁ……」

 

 ゆかりも、こんなサンドイッチが出てくるとは思っていなかったのか、驚愕していた。

 まぁ、大きな皿の上に幾つものサンドイッチが綺麗に並べられていて、味だけではなく、目でも楽しませてくれるサンドイッチだしな。

 ……そんな風に思いながら、俺はもう一つのサンドイッチを取り出す。

 こちらは一口サンドと違い、大きめの――正確には普通サイズの――サンドイッチだ。

 ただ、中身が違う。

 サンドイッチに挟まれているのは、A5ランクの高級牛肉をビーフカツにして作ったカツサンド。

 パンとビーフカツ、キャベツの千切りと薄くスライスしたタマネギという酷くシンプルなサンドイッチだが、その値段は……ちょっとサンドイッチという言葉では考えられない値段となっている。

 しかも出来たてを空間倉庫の中に入れておいたので、衣は未だにサクサクのままだ。

 実は一口サンドもだが、このビーフカツサンドが今日の俺にとってはメインディッシュだったりする。

 勿論一口サンドの中にもカツサンドはあるのだが、そっちは普通のトンカツだしな。

 そもそも、ビーフカツというのは俺は今まであまり食べた経験がない。

 やっぱりカツ=トンカツというのが俺の認識だったし。

 まぁ、関西とかだとビーフカツってのは珍しくもないらしいけど。

 寧ろカツ=ビーフカツって認識のある場所もあるとかなんとか。

 ともあれ、そんなビーフカツを使ったサンドイッチだけに、期待するなというのが無理だろう。

 

「わん!」

 

 そうしてサンドイッチを食べようとすると、ここまで咥えてフリスビーを持ってきた犬が、自分も腹減ったと吠える。

 そんな犬の様子に、俺は渋々といった様子で空間倉庫の中からドッグフードの缶詰を取り出す。

 さっきゆかりと話していた時に話題に出ててきた、高級だけど高級じゃないドッグフード。

 だが、犬にとってはこのドッグフードは非常に美味い代物と認識されているのだろう。

 缶の蓋を開けて目の前に置くと、嬉しそうにドッグフードを食べ始める。

 そんな犬の様子を見ながら、俺も早速一番楽しみにしていたビーフカツサンドを食べる。

 

「ああ、こっちはゆかりの分な」

 

 新たに取り出したビーフカツサンドを、一口サンドが載っている皿の上に置き、改めて楽しみにしていたビーフカツサンドを口に運ぶ。

 しっとりとしていながら、焼きたての風味はまだ残っている柔らかなパン。

 それを噛みきっていくと、やがてキャベツやタマネギの食感が……そして揚げ立てのさくりとしたビーフカツの衣の食感と、口の中に広がる肉汁と肉の味。

 ……美味い。

 その一言しか出てこない味だった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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