転生とらぶる   作:青竹(移住)

2003 / 4305
番外編063話 その頃のレモンとマリュー 前編

 シャドウミラーの魔法区画にある魔法球の中にある研究所の1つで、レモンは難しい表情を浮かべながら目の前にあるデータを眺めていた。

 だが、すぐに溜息を吐いて首を横に振る。

 そんなレモンの様子に、マリューは淹れたばかりの紅茶の入ったカップを置く。

 

「ちょっと、難しいわね」

「そうね。……そもそも、アクセル以外に念動力を使える人がいないってのが、大きいわ。もっとも、だからこそこのシステムの研究を始めたんだけど」

 

 紅茶を受け取ったレモンが、気分転換をするようにその紅茶を飲みつつ、告げる。

 モニタに表示されているのは、T-LINKシステムのデータ。

 T-LINKシステムがどれだけ有用なシステムなのかというのは、それこそアクセルと幾度となく戦場を共にしてきたレモンにしてみれば明らかだ。

 だが、そんなT-LINKシステムにも大きな欠陥がある。

 そう、念動力を使えなければ、T-LINKシステムそのものを使う事が出来ないという事。

 T-LINKシステムの根幹ともいえる能力だが、現在シャドウミラーで念動力を使えるのはアクセルしかいない。

 もしOGs世界との間にゲートが開いていれば、念動力の素質を持った人物を引き入れる事も出来たかもしれない。

 だが、現在それが出来ない以上、現状で何とかするしかなかった。

 そうして考えられたのが、念動力がなくても――正式には計測出来る数値ではなくても、というのが正しい――使用可能なT-LINKシステム。EASY T-LINKシステム。通称ET-LINKシステム。

 簡単に言えば、T-LINKシステムの量産型と呼ぶべき代物だ。

 以前であれば、案はあっても完成するのが難しいと判断し、開発に着手する事はなかっただろう。

 だが、今のシャドウミラーには、これまでに得てきた様々な技術や、その世界特有の物質といったものがある。

 

「フォールドクォーツならもしかしたら、と思ったんだけどね」

「G元素は? フォールドクォーツよりは希少性も低いし、そっちを重視した方がいいんじゃない?」

 

 紅茶を飲みながら、マリューはレモンに答える。

 バジュラ戦役の際に、アクセルは……いや、シャドウミラーは大量のバジュラを殺し、その死体を全て回収した。

 中には、宇宙空間でS.M.Sが倒した死体ですら入手している。

 それによって大量のフォールドクォーツを入手はしたのだが、当然だが使えばなくなってしまう。

 使えばなくなるという意味ではマブラヴ世界のG元素も同様だったが、こちらはマブラヴ世界の火星にあるハイヴから、定期的に量産型Wやメギロートによって盗み出されたG元素が送られてくる。

 勿論湯水のように使い捨てに出来るという訳ではないが、それでもフォールドクォーツより使い勝手がいいのは間違いのない事実だった。

 

「そうね。そっちから試してみた方がいいかしら。……出来れば、アクセルが使ってる程のとまではいかないけど、3割……いえ、2割くらいの稼働率でいいから数字を出したいんだけど」

 

 はぁ、と。レモンは桃色の髪を掻き上げつつ溜息を吐く。

 その様子は非常に色っぽく、何も知らない者が見れば一目で目を奪われてしまうのは間違いない。

 もっとも、この場にいるのはマリューだけなので、折角のその色っぽさもあまり効果はないのだが。

 

「アクセルがいないのはともかく、T-LINKシステムのデータが残っているのはよかったんじゃない?」

 

 多少であってもレモンの気分転換をさせようと、マリューの口からそんな言葉が出る。

 実際、それは事実であり、決して間違っているという訳ではない。

 T-LINKシステム搭載機として、ニーズヘッグ以上の機体を探すというのは、OGs世界との行き来が可能になっても、まず不可能ではないかとすら、マリューは……そしてレモンも思っていた。

 もっとも、その唯一のT-LINKシステム搭載機のニーズヘッグがアクセルの行動の結果、宝具化してしまっており、非常に手を出しにくくなっているというのもあるのだが。

 

「凛に聞いても、宝具化というのは予想外の結果で、魔術的にどう手を出せばいいのか分からないって言ってたしね」

「……そう言えば、あっちの件はどうなったの? 量産型Wに魔術刻印を植え付けるって方」

 

 気分転換の意味も含め、再びマリューは話題を変える。

 魔術刻印……それはFate世界の魔術師が持っている代物で、魔術師という存在の集大成と言ってもいい。

 呪文を唱えるといった事をしなくても、魔術刻印は魔術を発動させる事が出来る。

 いや、場合によっては魔術師の意思は関係なく自動的に魔術を発動する事すら可能な……そう、生きた魔導書とも呼ぶべき代物だ。

 ただ、当然ながらそのような便利な代物だけに扱いは難しく、基本的には血の繋がりのある者にしか魔術刻印の全てを継承させる事は出来ない。

 魔術刻印の一部を他の魔術師に与える株分けという行為もあるが、それはあくまでも魔術刻印の一部だけであり、ましてや与える以上はその与えた魔術刻印はなくなってしまう。

 そんな魔術刻印に興味を持ったレモンが進めている研究の1つが、量産型Wに魔術刻印を与えるというものだった。

 今の量産型WにはアクセルがFate世界で入手した金ぴか……ギルガメッシュの細胞を培養して組み込まれている。

 そのおかげで、魔力という点では以前に比べてかなり向上している。

 また、今のところはギルガメッシュの性格を引き継ぐといった者もいないので、最近生産されている量産型Wは、ギルガメッシュの細胞を組み込まれた者が多くなっている。

 だが、当然のように魔力が多くても、魔法を使うのに毎回呪文を唱えたりといった真似をするのであれば、それこそ銃を使った方が早いという事になる。

 勿論シャドウミラー製のプロテクターは、非常に高い防弾能力、防刃能力といったものを持っている。……が、それでも完璧という訳ではない。

 そんな時にレモンが魔術刻印について知ったのだから、それに手を出さない訳がなかった。だが……

 

「駄目ね。取りあえず凛の協力は得られるようになったけど、凛の持っている魔術刻印そのもののコピーというのは、ちょっと難しいわ」

 

 最初は凛もレモンからの協力要請に渋っていた。

 それは、魔術は秘匿すべきという魔術師としての当然の行為ではあったが……そもそも、現在いるのはFate世界ではなく次元の狭間に存在するホワイトスターだ。

 である以上、Fate世界の原則に縛られなくてもいいという意見は強烈だった。

 また、凛は他の世界の技術を学ぶのに、自分達が凛の世界の技術を学ぶのが駄目なのかという意見で凛は更に大きなダメージを食らってしまう。

 ……そして最終的には夜のベッドの上で行われた行為で散々焦らされ、結局レモンの要望を受け入れる事になったのだ。

 尚、翌日凛は前夜、もしくは朝方の行為を思い出して顔を真っ赤にしながら起きてきたという一幕もあったのだが、それはそれ。

 ともあれ、凛の協力を得る事が出来るようになったレモンは、魔法について詳しいエヴァや葉加瀬と共に魔術刻印のコピーに挑戦したのだが……その結果はとてもではないが、順調とは言えなかった。

 

「ふーん。……今の状況でも難しいなると……少し厳しいわね。ネギま世界に応援を頼んでみる? ……駄目か」

「駄目ね」

 

 マリューの言葉に、レモンはすぐに同意する。

 Fate世界の魔術についての調査を凛が許したのは、あくまでもレモン達……正確にはアクセル率いるシャドウミラーだからこその話だ。

 それがシャドウミラーと友好的な関係にあるとはいえ、ネギま世界はネギま世界で、別の世界となる。

 そうである以上、そこから魔法使いを派遣して貰うという事は、魔術刻印に関しての情報がネギま世界にも流れる事になるだろう。

 シャドウミラーならば、という事でレモンの寝技まで使って得た条件だけに、そこにネギま世界の人間を加えるというのは、凛が絶対に納得しないというのは、レモンだけではなくマリューも同様だった。

 

「魔術刻印全てを、じゃなくて……例えば、それこそガンドだったかしら? あの、魔術を使えるだけの魔術刻印があれば、取りあえずは十分なんだけどね」

「ああ。……あのガンドは強力だし、レモンの気持ちも分かるわ」

 

 ガンドは、本来であれば相手を病気に……例えば風邪にするような効果を持つ魔術だ。

 だが、凛が使うガンドは、それこそ実弾の如き力を持っている。

 銃の類を持たない状況で、いきなりそんな攻撃を可能とする……となれば、それは敵の意表を突くことが出来るだろう。

 それだけに、マリューはレモンの気持ちが十分に分かった。

 

「そんな訳で、ちょっと難しい訳よ。……まぁ、アクセルがいれば、こっちの予想外のアイディアを出してくれるんだけどね。全く、今頃どこにいるのやら」

 

 紅茶を飲みながら、レモンは呆れと心配、苦笑、羨望……そして何より愛しさといった、様々な感情が混ざった表情を浮かべる。

 もっとも、心配はしてもアクセルがどこかで死んだとは全く思っていない。

 アクセルの能力があれば、どこにいても生きていけるというのは、今までの経験から明らかなのだ。

 時の指輪がある以上、時差があってもシャドウミラーのメンバーであれば問題はないというのも影響している。

 ……シャドウミラーのメンバーは問題ないのだが、それは他の世界では問題があるという可能性もあるのだが。

 ともあれ、そのうちアクセルがホワイトスターに戻ってくるというのは決まっている。

 

(問題なのは、どれだけ新しい女を連れてくるかよね。……本当に、このままハーレムメンバーを増やし続ければ、そのうち家の増築をしなきゃいけなくなるかもしれないわね)

 

 現在レモン達が住んでいるのは、屋敷と呼ぶに相応しいだけの大きさを持つ建物だ。

 だが、このままアクセルがどこかの世界に行く度に恋人を増やしてくるようであれば、いずれもっと増築する必要があるだろう。

 もしくは増築ではなく、建て直すか。

 

「……ねぇ、マリュー。今度アクセルが戻ってきた時、何人を連れてくると思う?」

「突然ね。魔術刻印についてはどこにいったのよ」

 

 レモンの口からいきなり出た言葉に、マリューは呆れの視線を向ける。

 

「だって、ちょっとは気になるでしょ?」

「それは……まぁ、否定しないけど。W世界では誰も連れてこなかったし、前の門世界でもそれは同じだったでしょ? だとすれば、絶対に女を誑し込んでくるとは限らないんじゃない?」

「一応、凛と綾子が来たけど?」

「あの2人は、Fate世界から来た人でしょうに。何だかんだと、W世界ではアクセルと一緒だっただけで」

 

 そう告げるマリューの言葉に、レモンは小さく笑みを浮かべて紅茶を口に運ぶ。

 Fate世界だろうと、W世界だろうと、新しい女を連れてきたのは変わらないのではないか……と、そう思いながら。

 そんなやり取りをしつつ、ET-LINKシステムについてのデータを閉じ、別のデータを表示する。

 それは、W世界で得たエピオンのヒートロッドを基にして、現在開発されているニーズヘッグの尾。

 

「ああ、そっちもあったわね。……技術班を率いる立場って、大変よね」

 

 そのデータを見ながら、マリューはレモンに同情するように告げる。

 もっとも、マリューの口が弧を描いているのを見れば、内心が言葉と違うのは明らかだったが。

 

「あら?」

 

 そのデータを見て、マリューは少し首を傾げる。

 そんなマリューの様子を見て、何についてそう思っているのか、レモンにもすぐに分かった。

 

「輻射波動でしょ? それとも電撃?」

「どっちもよ。……取りあえず、簡単に話の済む電撃の方から話してくれる?」

「技術班からの意見を取り上げた形ね。物理的な鞭、ヒートロッド、輻射波動、そして電撃。この4つが攻撃手段ね」

「……何で電撃?」

 

 電撃以外の3つは、前々から話に聞いていたので納得出来るのだが、何故ここで電撃? と。

 そんな疑問に、レモンは紅茶を飲みながら口を開く。

 

「簡単に言えば、敵を鹵獲する為の攻撃方法ね。一応ウルドの糸があるけど、ハッキングやウィルスが効果を発揮するまでに時間が掛かる事も多いでしょう? なら、電撃で一気に相手のシステムをオーバーヒートさせた方が早いって事ね」

「なるほど。それに電撃だと対人用にも使えるわね。……それで、輻射波動は? 私が知ってる限りだと、輻射波動を広範囲に使えたり、円形状にして投げたりといった事も出来るって聞いたんだけど?」

「ええ。ただ、尾の構造やシステム的に、そっちまで入れるのはちょっと難しかったのよ。それに、ニーズヘッグは射撃武器は大量に持ってるでしょ? なら、近接攻撃用に特化した方が、最終的にはいいだろうって事で」

「……なるほど。なら……」

 

 そうマリューが何かを言おうとした瞬間、通信機が着信を告げる。

 それも、ただの通信ではなく緊急の通信を知らせる通信機だ。

 もしかして、アクセルのいる世界の座標が判明した?

 そんな気持ちで通信機に出ると……そこに映し出されたのは、興奮した様子の技術班の技術者の一人。

 

『レモン様、朗報です! ホワイトスターのデータから、不完全ながらヴァイクルのデータを吸い出す事に成功しました!』

 

 そう、告げたのだった。


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