転生とらぶる   作:青竹(移住)

2011 / 4276
1939話

 桐条がはっちゃけた翌日の影時間……俺の姿はタルタロスのエントランスにあった。

 少し離れた場所では、ゆかり、荒垣、桐条、真田、順平、山岸といった面々が俺と、俺の前にいる有里の姿に視線を向けていた。

 結局のところ、模擬戦はエントランスで行われる事になったのだ。

 桐条も死神の件は幾月に言ったのだが、周囲に与える影響の事を思えば、やはりエントランス以外に場所はないと判断したらしい。

 ……その後ろに、死神をおびき寄せたいとか、それ以外にも何らかの計算があるように思えるのは、俺の気のせいだろうか?

 勿論シャドウや影時間について研究をしているのだと考えれば、そうなってもおかしくはないと思うが。

 そんな風に考えていると、桐条の言葉が耳に入ってくる。

 

「さて、ではこれより模擬戦を行う。言うまでもなく、これは模擬戦だ。相手に致命的なダメージを与えるような真似は、決してしないように」

 

 いいな? と視線で尋ねてくる桐条に、俺は頷きを返す。

 有里も、それには特に異論がないのか、頷いていた。

 こうして見ると、普段の面倒臭がりな有里と違って、今日はちょっとやる気に満ちているような気がするな。

 山岸辺りにいいところを見せたいとか、そういう感じか?

 

「さて、なら軽く手あわせといこうか」

 

 そう言いながら、俺は空間倉庫の中からゲイ・ボルクを取り出す。

 有里は右手に長剣を持っているが、素直に武器だけの格だけで考えれば圧倒的にこっちが上だ。

 また、武器だけではなく戦闘技術という点で考えても、それは同様だろう。

 この状況で有里が自分の不利を覆す方法……それは1つしか存在していない。

 

「ジャックランタン、マハラギ!」

 

 召喚器により、召喚されるペルソナ。

 それは、ローブを被ったカボチャといった様子のペルソナだった。

 なるほど、ジャックランタンか。

 

「マハラギ」

 

 ジャックランタンから放たれる、広範囲の炎。

 アギの広範囲版、マハラギだ。

 俺達が戦っている場所は、観戦している者達からかなり離れている。

 そのおかげで、観客達に被害はないのだろう。

 

「俺に炎? 舐められたものだ」

 

 こちらに迫ってくる炎を全く気にした様子もなく、俺は手を振るう。

 俺に必要だった動作は、たったそれだけ。

 それだけで、俺が降った手の軌跡に沿うかのように白炎が燃え上がる。

 マハラギによりこちらに向かってくる炎を、白炎は迎え撃ち……一瞬の拮抗すらなく、あっさりと呑み込む。

 だが、当然のようにそれだけでは終わらず、マハラギを呑み込んだ白炎は勢いを一切衰えさせる事がないまま、有里に向かう。

 

「ちぃっ!」

 

 鋭く舌打ちしながら、有里は横に跳ぶ。

 本来なら新たに白炎を産み出してもいいし、もしくは有里が回避した白炎をそのままコントロールしてもいいんだが……まずはこっちにしておくか。

 俺の影から伸びる影槍。その数5本。

 それぞれが真っ直ぐに有里に向かって飛んでいく。

 跳躍したばかりでバランスが崩れている有里は、それでも咄嗟に長剣を振って影槍を切り落とそうとし……次の瞬間、ギンッという金属音が鳴り……有里の振るった長剣は弾かれ、影槍を切断することは出来ずに5本の影槍の切っ先が有里の顔の前で止まっていた。

 

「この影槍はかなりの影精を練り込んである。軽く振った程度の一撃でどうにかなるような威力じゃないぞ」

 

 パチン、と指を鳴らして影槍を解除。

 

「今のは咄嗟の判断だったんだろうが、有里の戦闘スタイルなら、可能なら攻撃は弾くのではなく回避した方がいい。そうすれば次の動きに繋がるからな。まぁ、もっとも……回避するのに時間を掛けすぎてバランスを崩したりすれば、次の攻撃に繋げるのも難しいが。……次」

 

 その言葉に我に返った有里は、再び俺の方に向かって武器を構える。

 それを見ながら、俺は空間倉庫から取り出した漫画の雑誌を1冊床に放り出す。

 トサッという軽い音を立てて床に落ちるその本に、有里は意識しないまま一瞬だけ視線を向ける。

 そして、次の瞬間俺のいる方に視線を向けると……動きが止まり、慌てて周囲を見回す。

 当然だろう。今の一瞬で有里は完全に俺の姿を見失ったのだから。

 そんな有里に対し、気配遮断のスキルを使って俺は歩いて近づいていく。

 遠回りとかそういうのは一切せず、ただ真っ直ぐに。

 攻撃態勢に入った瞬間に気配遮断は効果が切れるが、逆に言えばそれまでは有里に俺を見つける手段はないという事だ。

 何らかの機械的な装置を通してこっちを見ていれば、気配遮断は簡単に見破る事が出来るんだが……今は影時間。普通の機械の類は使えない。

 うん? 機械の類じゃなくて……山岸のペルソナ、ルキアはどうなんだろうな?

 探知とかそういうのを得意としている以上、気配遮断とかを見る事は出来るかもしれないな。

 

「ちょっ、おい。アクセルの奴どこに行ったんだよ!?」

 

 驚愕の声を発する順平。

 けど、以前順平にも気配遮断は見せた事があったように思うんだが。

 単純に忘れているだけか、客観的な状況だからそれに気が付かないのか。

 ともあれ、俺はそのまま歩き続け……有里の眼前にゲイ・ボルクを突きつける。

 その瞬間攻撃と認識されたのか気配遮断の効果はなくなるが、その時には既に有里はゲイ・ボルクの穂先を回避出来ない状況になっていた。

 

「え……」

 

 いきなりの展開に、有里も何故こうなったのかが全く分からなかったのだろう。

 ただ、唖然とした状況のまま、小さく声を漏らす。

 

「変則的だけど、こういう攻撃手段もある。……さて、じゃあ次だ」

 

 構えていたゲイ・ボルクを外し、先程まで俺がいた場所まで移動する。

 

「他にも幾つかの能力はあるけど……有里の不意を突くような一撃だけで、というのは桐条が欲してる訓練にはならないから、今度は普通に武器だけで相手をするぞ」

 

 以前の順平のように、驕り高ぶった相手をするのであればこういう隠し技で向こうが何も出来ないように……無力感を抱かせるような戦いの仕方でもいいんだが、今回は有里の戦闘経験を、それも強敵との戦闘経験を積ませるのが目的だ。

 そうである以上、一方的にこっちが攻撃するような真似をするのは、あまり趣旨に合わない。

 最初に俺が立っていた位置まで戻ると、ゲイ・ボルクを手にして口を開く。

 

「来い」

「ナーガ!」

 

 タイミングを計っていたのか、俺の言葉と同時に有里は召喚器を頭部に向けてペルソナを召喚する。

 召喚されたのは、その名前通り蛇の下半身を持った……男。

 あくまでも俺のイメージだが、ナーガというのは蛇の下半身を持った女というイメージがあったんだが……まぁ、いい。

 

「僕と一緒にアルマーに攻撃を!」

 

 有里の指示に、ナーガは言葉もなく従う。

 ナーガが手に持つのは、ファルシオン……いわゆる曲刀だ。

 それを手に、俺の右側に回って蛇の下半身を使い、滑るように音もなく近づいてくる。

 その速度はなかなかのもので、普通に地面を走って移動するのと、そう差はない。

 有里は俺の左側に回り込み、長剣を振るう。

 挟み撃ちではあったが、その攻撃は威力はそこまで高い訳でもなければ、お互いの連携が完璧に決まっているという訳でもない。

 ファルシオンの一撃をゲイ・ボルクの穂先で弾き、その隙を突くかのようにして放たれた有里の長剣の一撃は、ファルシオンを弾いた勢いを利用してゲイ・ボルクの石突きで弾く。

 有里にとってもその一撃は予想外だったのか、体勢を崩したところで先程も見せた影槍を放つ。

 当たっても致命傷を受けないように、そこまで頑丈な代物ではない。

 だが、それでも有里にとっては完全に虚を突かれた一撃だったのか、影槍の一撃を咄嗟に長剣で受ける事には成功する。

 これは、咄嗟に長剣で受けた事を褒めればいいのか、それともあの程度の攻撃を回避出来ない事を残念がればいいのか。

 ともあれ、影槍の一撃を防ぎつつも完全にその勢いを殺すことが出来ずに有里は吹き飛ばされ……次の瞬間、ゲイ・ボルクの穂先はナーガを貫く。

 ペルソナだけに、ナーガは別に生きているという訳ではない。

 それでもやはりペルソナを撃破された衝撃は受けるのか、有里は一瞬その場に蹲る。

 

「ぐっ!」

「戦場で動きを止めるのは愚策でしかないぞ」

 

 そう告げた時には、既に有里の眼前にゲイ・ボルクの穂先が突きつけられている。

 

「さて、じゃあ次だ。……言っておくが、折角の機会なんだ。桐条からの頼みってのもあるし、有里にはこの際たっぷりと戦いの経験を積んで貰うからな。そう簡単に終わるとは思わない事だ」

 

 その言葉に、何故か離れている場所でこちらの様子を見ている順平の頬が引き攣る。

 有里と仲の良い山岸が心配そうにしているのは分かるが、順平がそこまで気にする必要はないと思うんだが。

 ちなみに真田の方は羨ましそうにしており、ゆかり、桐条、荒垣は特に表情を変えずに一連の戦いを見守っていた。

 俺がこうして模擬戦を引き受けたのは、桐条からの頼みというのもあるが……それよりは、やはり恐らくこの世界の主人公だろう有里の戦闘経験の場を奪っているという思いがあるからだ。

 タルタロスを踏破という点では、俺達の方が圧倒的に先を進んでいる。

 その結果、特定の階層にいる番人シャドウ……他のシャドウよりも強いシャドウとの戦いは、俺達が全て引き受けている形になっているのだ。

 単純にタルタロスを攻略するという意味では、桐条達にとっては非常に楽だが、その楽というのは本来なら有里が積むべき戦闘経験を、俺達が奪っているという事でもある。

 そうなると、この先強力なシャドウが姿を現せば……そして毎月満月に姿を現すイレギュラーシャドウとの戦いでは、有里達が苦戦をする事になるのは間違いない。

 最初のイレギュラーシャドウは、有里が何とか倒せた。

 だが、次のイレギュラーシャドウは、順平の暴走もあったが、それでも俺がいなければ負けていた可能性が高いのは間違いない。

 そして、この前の山岸の時のイレギュラーシャドウ。

 ……弱点を無効化するというスキルを持っていた相手だったが、こっちに関しては精神コマンドの直撃を持つ俺がいたからこそ容易に倒せたが、もし俺がいない状況であれば非常に苦戦していただろう。

 そんな訳で、とにかく今の有里には強敵との戦闘経験を積ませる必要があった。

 それもゆかりや荒垣のような、頑張れば手が届くかもしれない……といった相手ではなく、もっと圧倒的な存在との戦闘経験を。

 もっとも、俺との戦いも所詮は模擬戦。

 命懸けの戦いと考えれば、どうしても緊張感は低い。

 それでも、戦わないよりは間違いなくマシだろう。

 そんな訳で、戦闘はまだ続く。

 

「次、行くぞ」

「……分かってる」

 

 基本的に面倒臭がりな有里だが、それでもこうも一方的にやられるというのは、面白くはないのだろう。

 有里は微かに視線の力を強くして召喚器を頭部に当てる。

 

「ベリス!」

 

 その言葉と共に姿を現したのは、馬に乗った騎士といった姿のペルソナ。

 形態で考えれば、荒垣のカストールに似ているが……カストールに比べると、どうしても迫力で落ちる。

 実際、こうして見ていてもベリスから感じる力は、決して強力という感じはしない。

 正面からぶつかれば、間違いなく俺が勝つだろう。

 

「行け、ベリス!」

 

 有里の命令に従い、ベリスは槍を手にこっちに突っ込んでくる。

 物理攻撃という点では先程のナーガと一緒だったが、蛇と馬では当然移動速度が違う。

 小回り、いわゆる運動性という意味では蛇の方が勝るが、有里が欲したのは機動力の方だったのだろう。

 いっそ、最初に使ってきた魔法を得意とするペルソナを使ってフォローを受けながら俺に攻撃をしてきた方が、有効な攻撃を出来ただろう。

 だが、有里の中にある何らかの判断により、魔法を使っての攻撃ではなく、俺に直接攻撃してくる事が選択された。

 勿論、その選択が決して悪いという訳ではない。

 普通であれば、挟み撃ちにされるというのは圧倒的に不利な状況なのだから。

 だが……それは、まさしく普通であれば、の話だ。

 少なくても、俺の能力は普通とは言い切れない。

 こちらに向かって突っ込んでくるペルソナ……ベリスに対し、鬼眼を発動する。

 どのような効果になるのかがランダムである以上、模擬戦で有里に使えるようなスキルではないが……その対象が有里でなく、ペルソナであれば話は別だった。

 ペルソナが死んでも――正確には倒されても――召喚した者はフィードバックを受けるが、それでも致命傷となるような事はない。

 そんな訳で発動した鬼眼だったが……今回は相手の動きを止めるという効果が発揮され、結局ベリスは何も出来ないままに倒され、返す刃で――持ってるのが槍だが――有里を倒すのだった。

 その後も何度となく模擬戦を行ったが、結局有里は俺に一撃を与える事が出来ないまま、その日の影時間は終わる事になる。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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