転生とらぶる   作:青竹(移住)

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1974話

 まず最初に沈黙を破って口を開いたのは、武治の方だった。

 その視線には数秒前の険しいものは消え、どこか言い聞かせるような色を持つ。

 

「美鶴、お前の気持ちは嬉しい。だが、お前は自分なりの人生を歩めばいい。無理に桐条グループに関わる必要はないのだ」

「違います。私は義務感とか、そのようなものから桐条グループの経営に関わろうとしている訳ではありません。ただ、少しでもお父様の手助けになればと……」

「私の方は問題ない。実際、今までも特にこれといった問題なかっただろう」

「それはっ! ですが、お父様は間違いなく疲れているではありませんか。私は、お父様が身体を壊さないかが心配です」

 

 そう告げる美鶴の言葉は、決して嘘ではないのだろう。

 武治を心配する視線は、真剣なものだ。

 だが、そんな視線を向けられても武治が美鶴の言葉に頷く様子はない。

 

「美鶴の気持ちは嬉しい。だが、私とて仮にもこれまで桐条グループの総帥としてやって来たのだ。今日明日に美鶴がいなければ身体を壊す……という事はない。美鶴には私の為ではなく、もっと自分の為に時間を使って欲しい。親というのは、そう願うものなのだ」

 

 美鶴に負けない程に真剣な様子で告げる武治。

 ……普通こういう時ってのは、親の方が自分の後を継げと強制し、子供の方は自分が好きに生きたいと、そう主張するのが一般的だと思うんだが……完全に正反対だな。

 

「それでしたら、娘としても父親の健康を心配するのは当然の事なのでは?」

 

 お互いに平行線とでも呼ぶべき、この光景。

 正直俺がいる必要はあるのかと、そう思わないでもない。

 となると、やっぱり俺がこれをどうにかする必要があるのか?

 けど、俺が何か言っても、どうにか……いや、丁度いい話題があったな。

 

「話は変わるが……」

 

 2人がまだ言い争いをしているのを見ながら、それを承知の上で強引に話に割って入る。

 

「最近、巌戸台分寮に新しい生徒が入ったんだって?」

「む。それは……別に正式に巌戸台分寮に入った訳ではない。理事長の知り合いの子供が、夏休みになったにも関わらず両親の都合で家に帰ることが出来なくなったらしくてな。それでだ」

 

 美鶴にとっても関わりのある話だった為か、取りあえず武治との言い合いを中断し、そう答えてくる。

 

「小学生だって?」

「うむ。……その、色々と訳ありの子でな」

 

 言いにくそうな様子を見せる美鶴だが、幾月が連れてきた以上に何かあるのか?

 ちなみに、その子供についての情報源は、順平からのメールだったりする。

 剣道部の練習があるので、一緒に遊ぶという訳にはいかないが……それでも、メールのやり取りくらいはしている。

 折角の夏休みなのに、全く休む暇がないという泣き言がよくメールで送られてくる。

 まぁ、強豪校の剣道部ともなれば、練習が厳しくても当然なのだろう。

 最近は短期集中型の練習が効率いいとか聞く時もあるけど、どんなスポーツにしろ、強豪校で練習時間が短いという事はない筈だ。

 あくまでも俺の知ってる限りだから、実際には違うかもしれないが。

 

「訳あり、か」

「ああ。取りあえず今は皆で面倒を見ている。その辺は心配いらないだろう」

 

 そう告げる美鶴だったが、幾月の住んでいる寮に小学生を入れておいて悪影響がないとは……正直、思えないんだが。

 もっとも、美鶴は幾月が裏切っている可能性があるという事を知らない以上、それを気にしろという方が無理があるのだが。

 ……にしても、なんだってまた小学生が。

 その訳ありって部分が若干気になるけど、それを言わないという事は、恐らく相応の理由がある筈だ。

 

「小学生、か。長鳴神社の境内には小学生が結構遊びに来てるって話だし、そこに遊びに行かせてもいいんじゃないか?」

「ふむ、そうだな。それも面白いかもしれない」

 

 そうして、取りあえず話題は美鶴の進路から逸れる……かと思いきや、20分程話していると、何故か再びそちらに話は戻ってしまう。

 

「ですから、お父様。お願いします。高校を卒業した後は、私にも桐条グループの経営に関わらせて下さい」

「まだ早い。そもそも、今のお前で桐条グループを……何万人、何十万人といった人達の生活を支えられると思うのか?」

「それは……勿論今の私では無理でしょう。ですが、今すぐに私がそうならなければならないとは思いません。まずはお父様の秘書という事で……」

「却下だ。そもそも、今の状況で桐条グループの経営に関わるにしても、美鶴は知識が決定的に足りていない。私の秘書と言っていたが、その秘書にしてもしっかりと知識がなければならん。その知識を得る為には、大学に行って専門の教育を受ける必要がある」

「それは……」

 

 その辺りは、美鶴にとっても痛いところだったのだろう。それ以上は何も言えなくなる。

 さて、このままだと武治と美鶴の2人にとって色々と不味い事になるのは確実だ。

 となると、ここで口を挟む必要があるか。

 

「提案だ」

 

 進路についての話になってから、ずっと黙っていた俺が突然口を開いたのが驚いたのだろう。美鶴と武治の2人は、揃ってこっちに視線を向けてくる。

 そんな視線を感じながら、俺は言葉通り1つの提案を口にする。

 

「美鶴は桐条グループの経営に関わりたい、武治は美鶴に大学に行って専門の勉強をして貰いたい。前提となるお互いの希望はこれでいいな?」

 

 そう尋ねると、2人は揃って頷く。

 

「なら、話は簡単だ。美鶴は大学に行きながら、桐条グループの経営に関わればいい。勿論、本当の意味での経営じゃなく、それでいて美鶴の能力を考えると……桐条グループ直属の、シャドウ対策班とかそんな感じで」

 

 武治が来る前に美鶴の口から出た内容、それは影時間はともかく、シャドウそのものは以前からこの世界に存在したという話。

 つまり、影時間が解決してもシャドウそのものは消えたりしない事を意味している。

 であれば、影時間を通してこの世界で恐らく唯一シャドウに対してノウハウのある桐条グループが対シャドウ対策班のようなものを作るというのは、それ程おかしな話ではないだろう。

 何だかんだと、折角ここまでノウハウを溜め込んできたんだ。影時間の件が解決したからって、それを過去のものとする必要はない筈だ。

 

「美鶴はペルソナに関しては第一人者なんだろう?」

 

 俺が聞いた情報では、美鶴が初めてペルソナを覚醒した人物という事になっている筈だ。

 勿論実際には過去に同じようなペルソナ能力者がいた可能性は高いが、取りあえず現在進行形でペルソナ使いという事では、美鶴が一番経験が長いのは間違いない。

 もっとも、経験が長いからといって能力が優れているって訳じゃないが。

 実際、まだペルソナ使いとして覚醒してから半年程度のゆかりが、現在俺の知っている限りでは最強のペルソナ使いだし。

 また、使用しているペルソナの潜在能力という点で考えれば、荒垣やコロマルのペルソナの方が明らかに高い。

 特に荒垣のカストールは、能力が高い為に最初は荒垣がコントロール出来なくなる時とかあったしな。

 かなりのシャドウを倒して経験を積んだ今では、到底そのような事はないが。

 ……もっとも、その荒垣は最近連絡が取れないし、ポートアイランド駅に行ってもいないんだが。

 

「シャドウの対策班となれば、何かあった時には桐条グループが即座に対応出来るし、普段はそこまで忙しくないから、美鶴が学校に行く時間も取れる。……どうだ?」

「それは……」

「ふむ」

 

 美鶴と武治の2人は、俺の言葉に戸惑った様子を見せる。

 両方の意見を通した形だから、それなりにいいアイディアだと思うんだが。

 そんな中、最初に口を開いたのは俺にとっては予想外な事に、武治だった。

 

「なるほど、アクセルの意見は検討に値する。だが……美鶴、お前はどう思う?」

「私ですか? その……正直なところを言わせて貰えば、あまり気は進みません。進みませんが……他に何か良いアイディアがあるかと言われれば、ありません」

 

 美鶴にとって、現在最も急いでするべきことは、武治の負担を減らすこと。

 そして、武治にとって影時間というのは、桐条鴻悦という自分の父の件もあって、かなり負担を掛けている場所だ。

 その影時間やシャドウについて、美鶴が大きな力となれるのであれば……それは、間違いなく武治の負担の軽減に繋がる。

 まぁ、桐条鴻悦が起こした影時間はもう数ヶ月で解決する事になる以上、その効果が具体的にどこまで広まるのか……というのは、微妙なところだと思わないでもないが。

 ともあれ、今必要なのは2人が納得した結論を出す事だ。

 多少詭弁に近い内容であってもそうしなければ、いつまでもこの2人の意見は平行線のままなのだから。

 

「じゃあ、話はそれで決まりだな。美鶴がどこの大学に行くかとか、シャドウ対策班をどのような人員や機材を集めて、どのくらいの規模にするのか……ってのは、2人でしっかりと話し合って決めてくれ」

 

 もっとも、美鶴であればどこの大学でも喜んで入学させるだろうが。

 成績は常に1位で、生徒会長をやり、家は桐条グループで大口の寄付を望める。

 おまけに美鶴も美人としか言いようがない顔立ちで、大学の顔としてこれ以上の存在はそうそういない。

 ……まぁ、自分にも他人にも厳しく、下手をすれば処刑される可能性があるが……普通の人間相手に、ペルソナを使った処刑をするような事はないと信じたい。

 シャドウ対策班については、俺が考えるべき事はない。

 いや、もし何かあった時の戦力として、外部協力員くらいならやってもいいと思うが。

 

「さて、話も大体決まったところで、折角だし料理を楽しむとするかな。……うん、この焼き魚は美味いな」

 

 これ以上面倒な話は勘弁して欲しいので、俺はそのまま料理を楽しむのだった。

 

 

 

 

 

「……さて、アクセル。早速本題だが」

 

 一通りの話が終わり、美鶴は先に帰るように武治に言われて部屋を出ていき、残るのは俺と武治の2人だけになる。

 テーブルの上にあった料理も片付けられ、現在は軽く摘まめる料理が幾つかあるだけだ。

 一口サイズの焼きおにぎりとか。

 そのおにぎりは普通に食べる以外にも、茶碗に入れてわさびや白髪ネギといった薬味を入れて、出汁茶漬けとして食べる方法も用意されている。

 いわば、料理の締めって奴だな。

 そんなお茶漬けを食べながら、俺は武治に視線を向ける。

 

「本題か。美鶴を帰したって事は、やっぱり幾月の件か?」

「そうだ。お前に言われてから色々と調べているが、現在のところは限りなく黒に近い灰色と言ってもいい。特に屋久島で見た映像を加工したのは、ほぼ幾月で間違いないだろう。内部監査からの報告によれば、幾月のコンピュータにそれらしい痕跡が残っていたそうだ」

「……なるほど」

 

 この場合、コンピュータにその痕跡を残したままだった幾月の間抜けさ加減を喜ぶべきなのか?

 ただ、普通なら見つけた映像を加工するなんて真似をする場合、用心深く行動する筈だ。何だって、痕跡……ログをそのままにしておく?

 幾月だって、映像に加工したのを見つかれば、自分が怪しまれるのは確実だと思っている筈。

 となると、恐らく痕跡とかも消している筈で……それでも痕跡を見つけたという内部監査の者達が褒められるべきなのか。

 ただ、その痕跡がコンピュータに残っていたという事は、やっぱりあの映像は最近見つかったものだったのか。

 俺はてっきり、以前から幾月が隠し持っていた映像の可能性もあると考えていたんだが。

 だが、そのパターンだと映像の加工は随分と前に行われている可能性が高く、コンピュータに痕跡が残っているのはどう考えてもおかしい。

 

「限りなく黒に近いのなら、これ以上妙な動きをするよりも前に手を打ったらどうだ? 警察じゃないんだから、証拠がなければ動けませんなんて事はないんだろ?」

「それは当然だ。今もその準備はしている。だが……幾月が現在残っているエルゴ研のメンバーの中ではトップの人物でな。桐条グループのシャドウ研究においては第一人者という立ち位置だ。そう簡単に極端な手を打つ事は出来んよ」

 

 そう告げる武治だったが、表情は微かに歪んでおり、不満を隠し切れていない。

 ……まぁ、話を聞く限りだと幾月は影時間やシャドウに関しては、武治の側近中の側近といった感じだったかな。まさに裏切られたといった感じがするのだろう。

 

「何なら、俺の方で手を打ってもいいけど、どうする? 俺の能力は知ってるだろ?」

 

 ペルソナを使わずに使用可能な魔法の数々。

 特に影のゲートを使った転移魔法は、拉致や暗殺といった手段にはこれ以上ない程、有効だった。

 多少なりとも魔法が研究されているこの世界だが、それでも俺の暗殺を防ぐ事はまず不可能だ。

 そう暗に示したのだが……武治は俺の言葉に首を横に振るのだった。




アクセル・アルマー
LV:43
PP:1435
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1415
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    鬼眼
    気配遮断A+

撃墜数:1389

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