転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編072話 if ゲート編 08話

「えー……」

 

 国会からの帰りの車の中、俺の口からはそんな声が漏れていた。

 あれだけ国会でやったのだから、てっきりネットでは盛大に叩かれていると、そう思っていたのだが……伊丹が見せた匿名掲示板では、何故か多くの書き込みが俺を褒めるものだった。

 ぱっと見ただけでも、『よくやった!』『アクセル代表を日本の代表にして欲しい』『シャドウミラーに移住したい』『政治屋! うん、まさに政治屋だよな』『政治屋ざまぁ!』『シャドウミラーの属国になった方が、日本の為だ』『グリちゃん、モフモフしたい』といったように、俺を肯定するような書き込み多数。

 これは、掲示板に書き込みしてる面々を褒めればいいのか、それともそういう連中を選んで当選させたのはお前達だろうと突っ込めばいいのか分からない。

 勿論中には『軍事国家とか最低』『政治家を馬鹿にしている』『蛮族国家なんか自衛隊の力があればすぐにでも対処出来る』といった風に、攻撃的な書き込みもそれなりにあるのだが。

 

「あはは。皆、それなりに政治が腐ってるというのは、分かってるんですよ」

「……分かっていても、それをどうにか出来る自浄作用がなければ、意味がないと思うけどな」

「そうですね。……あ、ちょっと失礼」

 

 携帯に出た伊丹だったが、少し話すと申し訳なさそうにこちらに視線を向けてくる。

 

「すいません、アルマー代表。その……色々と問題があって、車での移動はここまでになりそうです」

 

 いっそ転移魔法でどうにかするか? と伊丹に言ってやろうかと思ったが、そう言えば転移魔法についてはまだ知らせてなかったな。

 まぁ、ピニャには見せたし経験もさせたから、そのうち知られる事にはなりそうだが。

 ともあれ、結局そのまま車から降りて地下鉄に乗り、そこで門から出た時に合流した爬虫類のような男と再度合流。途中でロウリィが降りたいと言って地下鉄から降りると、ロウリィのハルバードを盗もうとしてその重さに潰され、最終的には伊丹の元妻の家に転がり込んでそこを宿にするのだった。

 ……伊丹の妻は、それなりに人当たりのいい人物ではあったが……うん、まぁ、俺とは合わない人物だということははっきりとした。

 取りあえず、同人誌に俺を出すような事はせず、イザークとムウで我慢してくれ。

 

 

 

 

 

「じゃ、アルマー代表。皆と合流する時間までは私が一緒に行動させて貰いますね」

 

 そう言い、栗林が嬉しそうな笑みを浮かべて俺に言ってくる。

 栗林が好意を抱いてくれるのは嬉しいんだが、そうなればそうなったで……うーん、正直なところ、複雑な気分ではある。

 

「そうか、助かる。……けど、正直俺が行きたい場所なんて、特にないぞ?」

 

 実際、この世界で俺がやりたい事なんかは特にない。

 観光……とか言っても、それこそ時間関係で遠くに行く事は出来ないし。

 そうなると、次に考えられるのは、何か買い物になるんだが……これもまた、ぶっちゃけこの世界で買えるような物であれば、普通に他の世界で購入した方が性能の良い物を……ああ、いや。そうだな。

 

「なら、どこか美味い料理屋を紹介してくれないか?」

「え? えーっと、あの……料理屋、ですか?」

「ああ。特にやりたい事もないし。それに、日本ってのは料理のレベルが高い事でも知られてるだろ?」

 

 これは、決して嘘ではない。

 この世界に限らないが、基本的にどの世界でも日本というのは料理のレベルが高い。

 ちょっと趣向は違うが、スーパーとかで普通に売ってる板チョコ。

 それこそ、100円程度で買える日本の板チョコだが、そのレベルは海外の下手な専門店よりも美味いとか。

 実際、ネギま世界での話だが、目隠しして高級チョコとスーパーで普通に売ってるチョコを食べ比べて美味い方を選ぶというアンケート……こういうのもアンケートなのか? ともあれ、そんな風にしたところ、半分くらいがスーパーで売ってるチョコの方が美味いって選択したらしいし。

 勿論、本当に美味い高級なチョコレート……それこそ小さなサイズで数千、数万円のチョコとかだと、そっちが美味いと分かるのかもしれないが……ともあれ、日本の食べ物のレベルが高いのは間違いない。

 

「その……ちょ、ちょっと待って下さい!」

 

 そう言いながら、栗林は一旦俺から離れて、携帯を取り出す。

 

「あ、ちょっと菜々美。どこか美味しい料理を食べられるお店を知らない? その、男の人と2人で行くような、そんな店。……えっと、うん。まぁ、そんなところ。え? ちょっ、待ってって。そんなんじゃないから。まだ知り合いって……いや、だからまだなら将来的にはとか、そういう話じゃないから。それより、どこかいいお店を教えてよ。彼を待たせてるんだから。……だから、別にまだそんな関係じゃないって言ってるでしょ。あくまでも彼ってのは呼び方なんだから。……うん、そう。ジャンル? えっと、ちょっと待って」

 

 そう言い、栗林はこっちに視線を向けてくる。

 うーん、声は全部聞こえてるって言った方がいいのか?

 

「アルマー代表、その、美味しいお店という事ですけど、ジャンル的には何を食べたいですか?」

「うーん、そうだな。折角日本まで来たんだし、寿司とか」

「え? その……ちょーっと予算の方が……」

「ああ、大丈夫だ。予算はこっちで出す」

「……円、ですよね?」

「ああ。エザリアが日本と交渉して、結構な額を貰ってるからな」

 

 ちなみ交渉材料は、ポチの鱗だ。

 炎龍の鱗だけに、日本側でも興味津々で、相当な値段がついたんだよな。

 それこそ、数百万くらい。

 ちなみに、無理矢理ポチから鱗を剥いだ訳ではなく、俺がポチと最初に会った場所……何十回となく殴ったあの場所で、俺に殴られた衝撃で剥げた鱗だ。

 拾っておいてよかった。

 しみじみとそう思う。

 そんな訳で、今回俺は結構懐が暖かい。

 勿論、わざわざそんな真似をしなくても、ネギま世界で手に入れた金とかもあるんだが……その辺は、ちょっとな。

 一応別の世界という事で、使わないようにしている。

 下手にネギま世界の金を使ったのが知られて、それで色々とクレームを付けられても面倒だし。

 宝石とかを金に換えるにしても、日本とかだと身分証がないと無理なんだよな。……ああ、でも栗林が一緒にいるのなら、その辺は問題ないのか?

 

「え? そうなんですか? じゃあ、ちょっとお高い店でも構いませんか?」

「ああ、それで構わない」

「そうですか。じゃあ、ちょっといいお店を妹から紹介して貰ったので、行きましょうか。夜はちょっと手が出ないくらいの高級店ですけど、ランチはそこそこの値段で食べられるらしいですよ。……それでも、ランチの値段としてはちょっと高いらしいですけど」

 

 そう言った栗林に案内されるように、タクシーに乗ってその寿司屋に行く。

 栗林の妹がお勧めするだけあって、その店の寿司は美味かった。

 昼食に2500円というのは、ちょっと高いが……夜は一般人には食べられないくらいの値段で寿司を出している店だと考えれば、そのくらいの値段は納得出来る。

 アジがかなり肉厚で美味いのには、特に驚いた。

 穴子もそれに負けずに肉厚で……出来れば今度夜にここに来て、好き放題に食べたい気がする。

 ともあれ、寿司屋で食事をした後は栗林と一緒にウインドウショッピングをしたり、アイスを食べたり、たこ焼きを食べたり、クレープを食べたりした。

 ……ゴーヤクレープがなくて安心したのは、栗林にも内緒という事にしておこう。

 ともあれ、そんな風にデートを楽しみ……やがて待ち合わせの時間となる。

 そして合流すると、そこには何故か疲れた顔の伊丹の部下……富田だったか? がいたり、伊丹の元妻がいたりと、色々とあったが、最終的には温泉に行く事になるのだった。

 

 

 

 

 

「へぇ……これが山海楼、ね。……ふーん」

 

 こんなあからさまな場所に俺達を連れてくるという事は、つまり餌という事なのだろう。

 ジト目を伊丹に向けると、それに気が付いた伊丹は汗を掻きながらそっと視線を逸らす。

 まぁ、エザリア辺りからこっちの力はしっかりと聞いてるし、何より昨日の国会でグリを召喚しても見せた。

 それらを理解した上で向こうがこっちを餌にするのは……まぁ、エザリア辺りから許可を得ているのだろう。

 普通に考えれば、国家の代表を餌にする政治家というのは、それこそ反乱でも企んでいるのではないかと、そう思われても不思議ではないのだが……まぁ、門世界ならともかく、地球に魔法とか気が存在しない以上、俺をどうにかするってのは無理だろうしな。

 そう考えれば、エザリアが何を考えたのかも想像出来る。

 ……だからこそ、昨日は国会で派手にやれと言われたんだろうし。

 伊丹から視線を逸らすと、俺は溜息を吐いて山海楼の中に入っていくのだった。

 

「ま、普通だよな」

 

 いやまぁ、別に豪華絢爛な部屋を期待していた訳ではないので、その辺りは特に気にしていないのだが。

 

「アルマー代表、取りあえずどうします? 温泉にでも……」

「そうだな。折角来たんだ。温泉にでも入るか」

 

 伊丹の言葉に頷き、俺と伊丹、富田の3人は風呂に入り……その後、女達の宴会に引きずり込まれ、湯上がりの栗林にひたすら誘惑されたりしたものの、取りあえずその猛攻を防ぐ。

 酒を飲まなかったのは……うん、この状況で酒を飲めば、間違いなく色々な意味で凄い事になると理解していたからだろう。

 そうして数時間が経てば、宴会も終わり……俺は通信機でエザリアと話していた。

 

「それで、この建物の周囲にいる連中はどうすればいいんだ?」

『出来る限り生かして捕らえて欲しいわ。ああ、運ぶのは安心して。メギロートを向かわせるから』

「……いいのか?」

 

 メギロートはこの世界の戦闘機と比べても圧倒的な強さを持つのは間違いない。

 だが、それでもバリアの類がある訳でもないので、ミサイルの類を食らえば被害は受けるし、ステルスの類がある訳でもないので、門から出てくる時には確実に発見されてしまう。

 そうなれば、当然のように日本との関係は悪化するが……

 

『構わないわよ。向こうが招待した国の代表を守る事すら出来ないんだから。それに、この機会に他の国にもしっかりと躾をしておく必要があるでしょ?』

 

 躾、と。エザリアは言い切る。

 それはつまり、この世界の国々を明らかに格下と見ているのだろう。

 いやまぁ、この世界の国々でシャドウミラーに勝っているのは、それこそ国民の数だけなんだろうが。

 

「まぁ、話は分かった。なら、そういう流れで」

『ええ、お願い。こっちでも歓迎に対する返礼の準備は、もう終わってるわ。ラピスがアクセルの為にって頑張ってるわよ? 早く帰れるようにしなさいな、お父さん……いえ、お養父さんかしら』

 

 そう言い、エザリアの通信が切れる。

 形式としては養父でも、個人的には義兄くらいの気持ちではあるんだけどな。

 まぁ、その辺はどうでもいい。

 外でもそろそろ始まったみたいだし……俺もそろそろ出るか。

 影のゲートに身体を沈め、山海楼の庭に侵入してきた勢力のすぐ後ろに姿を現す。

 そんな俺の存在にまだ気が付いていない連中の様子に、少し呆れる。

 だが、この世界では気配とか殺気とか、そういうのを感じる訓練とかはやらないと考えれば、当然の結果なのか?

 そんな風に思いつつ、背後から次々に首に手刀を振り下ろして意識を断っていく。

 数人が意識を失い……そして地面に倒れれば、当然のようにその音で他の面々も俺の存在に気が付く。

 咄嗟に銃口を向けようとしてきたのだが、その動きは……この世界の人間にすれば素早いと判断出来たのかもしれないが、残念ながらシャドウミラーの基準で言えば鈍い……いや、鈍すぎると言っても間違いではないものだ。

 結果として銃声一つ残すことなく、その集団は全員が気絶して地面に倒れ込む。

 マスクを取ってみれば、そこにあるのは黒人や白人の混ざっている顔。

 間違いなくアメリカ人だろう。

 取りあえず他の連中に見つからないように影のゲートで遠く離れた場所にある、どこぞの草原に男達を放り出し、次の標的を狙う。

 そうして中国、ロシアの者達を全員気絶させ……

 

「ちょっとぉ……それはないんじゃない?」

 

 最後のロシア人を気絶させたところで、ロウリィが不満そうに言ってくる。

 どうやら、戦いたかったらしい。

 まぁ、ロウリィの性格を考えれば、それも不思議ではないのだろうが。

 

「悪いな、この連中は色々と使い道があるからな。出来るだけ生かしておきたいんだよ」

 

 それだけを言い、気絶させたアメリカ人、中国人のいる場所に向かう。

 そうしてエザリアに連絡すれば、すぐにメギロートがやって来て……日本の上空が色んな意味で大騒ぎになったが、一国の代表たる俺のいる場所に対する襲撃を許した日本に発言権などある訳がなかった。


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