転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編094話 ナイツ&マジック編 第11話

 あのまま司令室にいても、特にやるべき事もないので、俺は取りあえず砦の中を適当に見て回る事にした。

 ……クヌートは微妙にいい顔をしなかったが、案内役の騎士が入っては駄目だという場所には入らなければという事で渋々とだが許可を出した。

 ちなみに当然の話ながら、この騎士は俺の案内役であると同時に、見張り役でもある。

 クヌートにとって、俺はまだ完全に安心出来る相手ではないという事なのだろう。

 その辺は、俺も特におかしく思わない。

 国王のアンブロシウスの懐刀と呼ばれているクヌートにしてみれば、ある意味でこの対応は当然なのだろうと。

 

「おや」

 

 俺の案内をしていた騎士が、不意に小さく呟く。

 一体何があった? と騎士の視線を追うと、そこには外から入ってくる幻晶騎士という光景があった。

 その数は2機。

 機体がそれなりに損傷しているのは、魔獣との戦いで受けた傷か。

 だが、俺が疑問に思ったのは、その幻晶騎士と一緒に馬車が入ってきた事だ。

 

「あの馬車、何だと思う?」

「さあ? ちょっと分かりませんね。考えられるとすれば、ダリエ村への補給物資を運ぶ為にやって来た、とかでしょうか?」

「……そうか? クヌートはもう補給物資を運ぶ為の準備をしていたぞ? なら、わざわざダリエ村からやって来るのは、少しおかしくないか?」

 

 普段であれば、俺もそこまで気にするような事はなかっただろう。

 だが、エルと話した内容と、何よりも俺のこれまでの経験から、テレスターレという新型機を運んできたタイミングで魔獣の襲撃があったという点で、少し……いや、かなり強い疑問を抱いたのだ。

 

「うーん、そう言われればそうですけど。……あ、でも気になるなら少し行ってみますか?」

 

 騎士がそう言ったのは、俺が馬車に強い興味を抱いていたというのもあるが……要塞の中を好き勝手に歩き回らせない為というのが大きいだろう。

 まぁ、色々と歩き回って、騎士が俺を止めるというのが何度もあったのは事実だが。

 その理由はともあれ、やって来た幻晶騎士と馬車に興味を抱いた俺は、騎士と共にそちらに向かう。

 だが……その行動は、少し遅かったらしい。

 次の瞬間、格納庫の中で爆発が起きたのだ。

 そして同時に、馬車の近くにいた兵士が矢で射貫かれる。

 何が起きたのかは、考えるまでもなく明らかだ。

 ……そう、つまり俺が考えていた事が始まったのだ。

 

「ちぃっ、やっぱりか。悪いが先に行くぞ!」

「え? ちょっ、アクセル殿、ここは2階……」

 

 騎士が後ろで何か言っていたが、俺はそのまま窓から飛び出して地面に着地する。

 要塞の2階なので、当然のように普通の家の2階とは大きさがかなり違う。

 それこそ、普通の家の3階、もしかしたら4階分くらいはある高さだったが、正直なところ、俺にとってはその程度の高さはどうという事はない。

 騎士を置いてきたのはどうかと思うが、騎士を連れてこの高さを飛ぶのは……まぁ、不可能ではないが、ぶっちゃけた話、幻晶騎士に乗ってるのならともかく、生身での戦いでは騎士は足手纏いになる。

 幻晶甲冑でも着てれば、話は別なのだが。

 ともあれ、まずは格納庫よりも馬車だ。

 幻晶騎士の方が厄介ではあるのだが、馬車に乗っている連中がそれぞれ好き勝手に暴れられるのも困る。

 それに、捕虜とするのはそこまで人数は多くなくてもいいだろう。

 ……馬車の中に敵の指揮官がいると厄介ではあるが、今はとにかく敵の数を減らす方を優先させて貰う。

 

「食らえ」

 

 走りながら白炎を放つ。

 純白の、真っ白い炎が馬車に触れるや否や、馬車の荷台を一瞬にして燃やしつくす。

 俺の魔力によって生み出された白炎だからか、それ以外の場所……具体的には、馬車を牽いていた馬を燃やすといったことはなかった。

 

「馬鹿なっ!」

 

 他の馬車に乗っていた奴が、いきなり目の前で燃やしつくされた馬車を見て驚愕の声を発する。

 だが、俺はそのような相手の反応を無視して、次々に白炎を放っていく。

 

「止めっ! うっ、うわああああああああああああああああああっ!」

 

 白炎によって燃やされた男が悲鳴を上げていたが、そんなのは気にせずに次々と攻撃していき、やがて敵の馬車は全てを燃やしつくした。

 もっとも、馬車は燃やしたが、俺が燃やすよりも前に馬車から逃げ出した奴がいた可能性はあるが。

 俺がここに到着してから、10秒も経たずに敵の馬車は燃やしつくされたのを確認し、近くにいる騎士に声を掛ける。

 

「敵の攻撃で怪我をした奴の治療を頼む。それと、馬車から逃げ出した奴がいるかもしれないから、そっちの対処も頼む」

「わ、分かりました」

 

 騎士のその声に頷き、次に俺が向かったのは格納庫。

 特に、テレスターレが置かれている格納庫だ。

 ……こうして敵が攻撃してきた以上、敵の目的はテレスターレの奪取に間違いない。

 あるいは何か他の目的があるのかもしれないが、今のところ一番怪しいのは、やはりテレスターレだった。

 そうして格納庫に到着すると……

 

「ちっ、やっぱりか」

 

 俺の視線の先では、カルダトア同士が戦っている光景が広がっている。

 そして戦っていないカルダトアのうちの何機かは、まだ誰も乗っていないと思われるカルダトアを破壊し、格納庫の中を破壊してすらいた。

 カルダトア同士が戦っている場合は、どちらが敵でどちらが味方なのかは分からない。

 だが、それでも格納庫の中を破壊しているカルダトアは、敵だと判断してもいいだろう。

 さて、どうするか。

 取りあえず考えるよりも前に、やるべき事があるな。

 空間倉庫の中から、真っ赤な槍……ゲイ・ボルクを取り出す。

 格納庫の中だけに、幻晶騎士を使って戦うよりも生身で戦った方がいいと、そう判断したのだ。

 また、幻晶騎士が暴れている格納庫の中では、人のサイズである俺を見つけるのは難しいだろうという認識もある。

 

「はぁっ!」

 

 格納庫の中を破壊していたカルダトアのコックピットの前まで跳躍すると、ゲイ・ボルクを突き出す。

 魔獣との戦いを行う為、当然のように装甲は相応に強靱な物となっているカルダトアだったが……俺が放ったゲイ・ボルクの一撃は、その装甲をあっさりと貫き、コックピットにいるパイロットの命を奪う。

 装甲とコックピットの一部を破壊してしまったが、クヌートもこれには文句を言ったりはしないだろう。

 そもそも、このままにしておけば大きな被害を受けるのは間違いないのだから。

 それを防いだだけでも、十分に褒められてしかるべきだと思う。

 パイロットが死んだ影響で、その場に立ったままのカルダトア。

 虚空瞬動を使い、また別のカルダトアの前に移動し……

 

『なっ!?』

 

 今度は声を上げるだけの余裕はあったのか、カルダトアのパイロットが驚愕の声を出す。

 だが、次の瞬間には最初のカルダトアと同じくコックピットを貫かれ、死ぬ。

 今度は何か行動をしようとしていた為か、パイロットを失ったカルダトアはそのまま倒れ込んだ。

 そんな感じで、格納庫を破壊して回っていたカルダトアは次々と破壊していったのだが……問題なのは、カルダトア同士で戦っている連中だ。

 どっちかがこの砦の騎士で、どっちかが侵入してきた敵だというのは分かるのだが、問題なのはそのどちらがどちらなのかが分からないという事だろう。

 そうなると、どっちのカルダトアに攻撃をするか……そうして迷っている間に、ふと気が付くとテレスターレが動き出す。

 あー……馬鹿な真似をしたな。

 いや、最初からそのつもりだろうというのは、予想していた。

 していたのだが……てっきり、カルダトアで運び出すんだとばかり思っていたのだ。

 そもそも、俺がこの砦の騎士に訓練してやったように、テレスターレは今までの幻晶騎士と操縦感覚が大きく違う。

 網型結晶筋肉を始めとして、様々な新技術が使われているのだから、カルダトアのような幻晶騎士と操縦感覚が同じ筈がない。

 暴れている連中がどこからテレスターレの情報を得ていたのかは、俺にも分からない。

 分からないが、それでもテレスターレの特別さを知っていれば、この状況でテレスターレに乗り込むなどといった真似をするとは思わなかった。

 こうなると、一体どこからテレスターレの情報を得たのかが気になる。

 気になるが……今はそれより、これを奇貨として事態を収めるべきだろう。

 

『なぁっ! 何だいこれは……』

 

 テレスターレの1機から聞こえてくる、驚愕の声。

 こういう仕事をするのだから、当然のように幻晶騎士の操縦には自信があったのだろう。

 だが、その自信があっても、テレスターレを十分に操縦する事は出来なかった。

 にしても、今のは女の声だった。

 まぁ、特殊部隊的な性質を持つ部隊であっても、男だけとは限らないか。

 そして、何よりもテレスターレに乗った連中にとって不運だった事は……

 

『こ、これは……団長、魔力の残りが!』

 

 別のテレスターレに乗った男の声が、格納庫に響く。

 ……そう、俺がテレスターレに乗ってこの砦の騎士と模擬戦を繰り返した結果、どのテレスターレも魔力が殆ど残っていなかった。

 本来なら模擬戦が終わったところでその辺をどうにかしていたのだろうが、模擬戦が中止になった理由は魔獣によってダリエ村が襲われたのが原因だ。

 当然ながら、ダリエ村に出撃する幻晶騎士の準備で忙しく、新型とはいえテレスターレの整備や補給の類は後回しになった。

 そうして魔力を大きく消耗したままの状況に、襲撃してきた者達は乗り込んだのだ。

 当然のように、その稼働時間は万全の状態には遠く及ばない。

 

「それと……それは俺の機体だ。返して貰うぞ」

 

 新たに起動したテレスターレ……俺のテレスターレに向かい、空を飛んで移動する。

 コックピットの類を壊すのはあまり嬉しくないが、カルダトアを散々破壊した今となっては、考えるまでもないか。

 何よりも、その辺に関しては後でエルに直して貰えばいいだけだし。

 そう判断し、ゲイ・ボルクを放つ。

 こちらもまた、あっさりと装甲を貫通し、コックピットに乗っていたパイロットを串刺しにする。

 崩れ落ちるテレスターレを一瞥し、次の獲物を探す。

 

『貴様ぁっ!』

 

 そんな光景を見たのだろう。テレスターレの1機に乗っていた敵が、こちらに向けて背面武装を向けてくる。

 格納庫の中でその武器を使うってのは、正気か!?

 そう思いつつも、俺はテレスターレに向けて白炎を放つ。

 純白の炎はテレスターレに向かって真っ直ぐに進み、次の瞬間、テレスターレに触れた途端に機体全体を覆って1秒と経たずに炭と化す。

 正直なところ、テレスターレを破壊するのは惜しい。

 だが、格納庫で背面武装を好きなように使われるよりは、随分とマシだろう。

 

『何だい、あんたは!』

 

 団長と呼ばれた女の乗っているテレスターレが、こちらに視線を向けて叫ぶ。

 向こうにしてみれば、俺という存在は全く理解出来ないのだろう。

 テレスターレの操縦性の件もそうだが、こっちの情報をある程度仕入れてはいるが、妙にその情報の精度が低いんだよな。

 

「さて、何なんだろうな。ともあれ……テレスターレも長い時間は動けないだろうし、カルダトアも残り少ない。表にいた馬車に乗っていた連中も、全員死ぬか捕らえられるかしている筈だ。……その状態で、どうする? まだやるつもりか?」

 

 空中に浮かんだまま横に手を振り、白炎の炎球を幾つも生み出す。

 1つ1つが、幻晶騎士1機を瞬時に燃やしつくすだけの威力を持つ炎球が複数。

 実際に白炎の威力を目の前で見ているからだろう。

 テレスターレに乗り込んだ者達は、動けなくなる。

 あるいは、テレスターレの魔力貯蔵量が十分にあれば、また話も違った可能性があるのだが……この辺は俺にとっては運がよかったな。

 いや、それともこの砦の騎士達の勤勉さを褒めるべきか。

 その辺の事情は俺にも分からなかったが、それでもテレスターレは動かない。

 

「どうする? 繰り返すが、ここで降伏をしない場合、お前達の末路はそこのテレスターレと同様だ」

『……降伏すれば、命は助けると?』

「さて、どうだろうな。命が助かるかどうかは、お前の態度次第だ。だが、一つだけはっきりしてるのは、このままテレスターレに乗ったままなら、お前の仲間と同様に炭になるってだけだ。……それとも、テレスターレの性能を信じて、一か八か俺に向かって攻撃してみるか?」

 

 混沌精霊の俺の身体は、物理的な攻撃ではダメージを受けない。

 だが、背面武装は魔力を使っての攻撃……言わば魔法なので、命中すれば十分にダメージを与える事が出来る。

 とはいえ、それを馬鹿正直に教えてやるつもりはないのだが。

 もし教えて本気で暴れるような事になった場合、それこそ格納庫が今よりも酷い事になりかねないし。

 

『……そんな真似をしても、あんたには勝てそうにないね。何者だい?』

「アクセル・アルマー。……そうだな。まぁ、フレメヴィーラ王国の客人といったところか」

『あんたのような規格外の化け物の存在を把握していなかったのが、敗因だね。……降伏するよ』

 

 そう言うと、団長の女の乗っていたテレスターレはコックピットを開いて出て来るのだった。


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