転生とらぶる   作:青竹(移住)

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祝! 番外編だけで100話到達しました。
もっとも、初期の番外編は数百字程度の非常に短い話でしたので、ハーメルンに移住してきた際に本編と一緒になってますが。


番外編100話 ナイツ&マジック編 第17話

「うーん……いやまぁ、分かってはいたけど……ここまでとは思わなかった」

 

 ライヒアラ騎操士学園の格納庫……いや、寧ろもうエル一味のアジトと呼ぶべき場所で、目の前に広がっている光景に俺は思わずといった様子でそう呟く。

 目の前に広がっているのは、アンブロシウスがエルに開発を希望した通りの代物。

 具体的に言えば、ジャロウデク王国が開発した飛行船へ対抗する為の対空兵器だ。

 その存在は、基本的にあり合わせの物で開発したので、目新しい物ではない。

 だが、新しい技術だったりを必要とするとなると、当然のようにそれを開発するには色々と手間が必要になるので、現在ある物を使って開発するというのは、それこそ量産するという意味で便利だ。

 幾ら強力な兵器であろうとも、ここでしか量産出来ないとなると、ダーヴィド達は忙しすぎて倒れてしまいかねない。

 そういう点でも、エルの開発したこの対空兵器は容易に量産出来る代物だ。

 

「どうですか、魔導飛槍は!」

 

 自慢げに叫ぶエル。

 説明を聞く限り、魔導飛槍というのはかなり有効な武器なのは間違いない。

 言ってみれば、これは幻晶騎士が使う槍を使った有線ミサイル的な代物だ。

 いや、ある程度誘導も出来るので、有線誘導ミサイルと言うべきか?

 ……難点としては、有線の部分に使ってるのが銀線神経という、魔力とかを伝える代物なので、有線での射程距離はそこまで長くないといったところだが。

 

「ああ、素直に驚いた。これなら量産もそこまで難しくないだろうし、いい感じだと思う」

「では、これで約束を果たしたと思ってもいいんですね!」

 

 好奇心で目を輝かせながら、得体の知れない迫力を発しつつ近付いてくるエル。

 俺はその迫力に頷く事しか出来ない。

 ……そして、エルの注目を一身に集めている俺に対し、こちらもまた当然のように嫉妬の視線を向けてくるアディ。

 いや、アディの場合は嫉妬の視線以外にも、チラシを書く手伝いをして貰ったというのも大きいんだろう。

 そんな訳で、アディから俺が向けられる視線は以前よりも鋭いものになっていたりする。

 ……うん。取りあえずその件はスルーしておくとしよう。

 

「ああ、分かった。これで完成と認める」

「なら、新しいロボットをお願いします! それと、ミロンガ改に乗せて貰うという約束も!」

「分かってる。……それでどうする? こっちは特に何か役職がある訳でもないし、それこそやる事といったらテレスターレを使ってディー達に訓練をつける程度だ。エルの都合に合わせるけど」

 

 基本的に俺はフレメヴィーラ王国の客人という立場である以上、ライヒアラ騎操士学園の生徒という訳ではない。

 だからこそ、他の皆が授業をしていたりする時も、特にやるべき事はなくて図書館でこの世界の本を読んでいたり、ディー達に訓練をつけていたりもする。

 ……実は俺の監視兼護衛といった感じでスパイとか隠密とか忍者とか、そんな感じの奴がいたりするのだが、それは別に構わないのでスルーしていたりする。

 こちらに敵意があればともかく、敵意の類はないし。

 特にその手の者の視線が多くなったのは、やはりテレスターレを奪取する為に襲われた件があってからだな。

 ともあれ、そんな連中がいるのは分かっているが、今の状況では特に何かをするつもりはない。

 向こうも監視よりは護衛の意味が強いみたいだし。

 

「勿論、今からです!」

 

 エルがそう断言する。

 ……何となく、予想通りの話の流れではあったが。

 エルにしてみれば、その為に頑張ってアンブロシウスからの依頼を片付けたのだから、その報酬は少しでも早く欲しいと、そう言ってるのだろう。

 

「分かった。なら……ここでいいか」

 

 俺の能力については今更だし、特に隠す必要もないだろう。

 そう判断し、エルと共に幻晶騎士の演習場に向かう。

 当然ながら、そんな俺とエルの後ろには興味を持った面々が一緒に来ていた。

 いやまぁ、エルに見せる以上はそれはそれで別に構わないんだけどな。

 そうして演習場にやってくると、俺とエルだけが前に出て、それ以外の面々は少し離れた場所で待機する。

 

「サラマンダー……新しい機体を見せるのと、ミロンガ改に乗るの。どっちがいい?」

「悩みますね。……ですが、やはり直接乗る方が楽しみなので、それは後に取っておくとしましょう。まずは新型機でお願いします」

 

 期待に輝く視線を受け、俺は空間倉庫の仲からサラマンダーを出す。

 

『おおおおおおお』

 

 周囲で見ていた他の面々は、いきなり目の前に現れたサラマンダー……戦闘機たるファイターの状態になっているサラマンダーを見て、驚きの声を上げる。

 この世界の人間にしてみれば、ファイターというのは初めて見る形状だろう。

 

「えっと、アクセルさん? 僕が見たかったのはロボットであって、戦闘機ではないのですが」

 

 そんな周囲の状況と異なり、戸惑ったように呟くのはエル。

 新しい人型機動兵器を見られると思っていたら、実は出て来たのが戦闘機だったのだから、その気持ちも分からないではない。

 

「分かってる。ちょっと待ってろ」

 

 そう言い、俺はサラマンダーのコックピットに向かい、機体を起動させる。

 停止状態だったサラマンダーに火が入っていく。

 そうして空中に浮かぶサラマンダー。

 また空を飛ぶ機体ということで、エル以外の面々は揃って驚愕している。

 この世界で空を飛ぶ機体なんてのは今まで存在しなかったんだから、驚くのも無理はないが。

 ともあれ、テスラ・ドライブで空中に浮かんだところで、バトロイドに変身する。

 そうしながら映像モニタに視線を向けると、そこではエルがもの凄く興奮しており、飛び跳ねていた。

 戦闘機かと思ったら、実際には二足歩行の人型機動兵器に変身したのだから、エルにしてみれば驚くに十分だったのだろう。

 バトロイドに変身した後は少し機体を動かしつつ、エルが喜ぶようなポーズを取って見せる。

 そんなポーズを見たエル以外の面々も、そこでようやく我に返ってそれぞれにざわついていた。

 戦闘機すら初めて見るのに、まさかその戦闘機が人型に変身するというのは完全に予想外だったのだろう。

 それでも少しざわめくだけで、すぐに我に返るのは……大体エルのせいだな。

 さて、ならエルにとっては完全に予想外な……そして他の面々にとっても驚くべき光景を見せるとしよう。

 そう判断し、バトロイドの状態からガウォークに変身する。

 戦闘機に手足が生えているような、一種異様な外見のガウォーク。

 当然ながら、エルは大きく目を見開いて驚いていた。

 うん、そうだよな。

 戦闘機について詳しく知らないこの世界の人間なら、ガウォークを見てもそういうのもあるのかといった感想しか抱かない。

 だが、転生者たるエルの場合は、地球での知識がある。

 戦闘機に手足が生えるというのは、エルにとっては驚愕に値する光景だったのは間違いない。

 あるいは、エルの前世にマクロス、もしくはマクロスと似たような世界観のアニメや漫画があれば、もしかしたらエルもそこまで驚かなかったかもしれないが……この様子を見る限りでは、エルはその辺を知らなかったらしい。

 ガウォークの状態のままで、空を飛びつつ軽く手を振ったりして、大体10分程はガウォークのままで飛んでいただろうか。

 やがて地上に戻ってくると、ガウォークの状態のままコックピットから降りる。

 

「さて、どうだった?」

「凄いです! まさか、戦闘機とロボットの中間の状態があるなんて……そんな事は、考えた事もありませんでした!」

 

 強烈な好奇心で目を輝かせながら、エルがそう言ってくる。

 

「だろうな。俺も正直最初に知った時は驚いたし。……ともあれ、次はお待ちかねのミロンガ改だ。言っておくが、あくまでもコックピットに乗せるだけで、実際に操縦させる訳じゃないからな」

「ええ、分かっています」

 

 俺の言葉に素直に頷きつつ、それでも残念そうな様子のエル。

 エルにしてみれば、出来ればミロンガ改を実際に操縦してみたかったのだろう。

 ……実際、エルならミロンガ改をある程度操縦出来てもおかしくはないような気もするが、だからといってそれを試す訳にはいかない。

 ホワイトスターと繋がっていない現状、万が一にもミロンガ改を破壊する事はあってはならないのだから。

 戦闘での破壊は全く起こらず、操縦ミスでの破壊の方が危険が高いというのは……うん。まぁ、その辺は気にしないでおくとしよう。

 

「じゃあ、行くぞ」

 

 そう言い。エルを掴んだままミロンガのコックピットに飛んでいき……

 

「あーっ! エル君をそんな風に持っちゃ駄目ぇっ!」

 

 アディの声が聞こえてくるが、それはスルーしてコックピットに入る

 ミロンガ改のコックピットは、そこまで広い訳ではない。

 あるいは、複座型のコックピットなら、多少話は違ったかもしれないが。

 運動性と機動性を重視したミロンガ改は、当然のように重量になりそうな物は可能な限り排除してあり、その結果としてコックピットはかなり狭い作りとなっていた。

 ミロンガからミロンガ改に改修された時に幾らかは広くなっているが、それはあくまでも幾らかの範囲でしかない。

 本格的にコックピットを広くするのなら、それこそフレームから作り直していく必要があり、そうなると改修ではなく、最初から設計し直した方が早くなる。

 ともあれ、コックピットが多少広くなったとはいえ、2人乗るのは無理だ。

 だが……幸いにも、本当に幸いの話ではあるが、エルはかなり小柄だ。

 この小柄さなら、コックピットの隙間に入るくらいは難しくなかった。

 そうして機体を動かす……よりも前に、ミロンガ改の映像モニタに記憶してあった映像を映し出す。

 

「これは……これが飛行船ですか?」

 

 いきなりの映像に少しだけ驚いた様子のエルだったが、すぐにその映像がどのような物なのかが分かったのだろう。

 興味深そうに映像に見入る。

 

「ああ。見ての通り、武器の類はないが、それでも輸送艦としてなら十分に使える。それに、俺が見た時は武器がなかったが、これから先も武器がないままとは限らないしな」

「それはそうでしょうね。僕が飛行船を開発したとしても、ミロンガ改のような機体と遭遇したら飛行船に武装させますよ」

 

 少し狭そうにしながら映像モニタを見ていたエルだったが、俺の方を見てそう言ってくる。

 ……そして、エルの言葉を否定出来ない俺がいた。

 本来なら、飛行船は輸送機として使えれば十分だと、ジャロウデク王国の者達もそう思っていたかもしれない。

 だが、そこに自由に空を飛ぶことが出来る幻晶騎士――正確には違うが――のミロンガ改が姿を現したのだ。

 そうなれば、同じ空を飛ぶ相手に対抗する為に飛行船を武装させようと考えるのは当然だろう。

 ましてや、同じ空を飛ぶと言っても、飛行船とミロンガ改では、機動力も運動性も段違いだ。

 そうである以上、飛行船に出来るのはハリネズミのように多数の武装をして、ミロンガ改を近づけないようにする……といったくらいだ。

 とはいえ、ミロンガ改にはビームマシンガンという遠距離攻撃の手段があったりするのだが。

 

「武装させると、その分だけ飛行船の積載量は減って、運べる幻晶騎士の数も減るだろうけど、撃墜されるよりはいいか」

「でしょうね。それにしても、この飛行船。……一体、どういう手段で飛んでるんでしょうね? まさか、科学の力という訳ではないでしょうから、考えられるとすれば幻晶騎士のように……」

 

 映像モニタに表示された飛行船を見ながら、疑問を口にするエル。

 いつもならこのまま好きにさせておくのだが、こうしてコックピットのすぐ近くでこんな風にブツブツと呟き続けられるのも、少し面白くない。

 

「エル、その辺にしておけ。取りあえず飛行船の映像は見せたんだし、そろそろミロンガ改で空を飛びながら移動するぞ」

「……え? あ、はい。勿論です! 問題ありません。大丈夫です。さぁ、僕に空を飛ぶロボットを体験させて下さい!」

 

 俺の言葉で一瞬にして我に返るエル。

 ……うん。こういうのを見ると、やっぱりエルだよなと納得出来るよな。

 色々とそんなエルに言いたい事はあったが、とりあえず今はまずミロンガ改に乗せて移動してやるのを優先する必要があった。

 

「じゃあ、まずはゆっくり行くぞ」

「はい」

 

 エルがコックピットの後ろで操縦席にしっかりと掴まっているのを見ながら、ミロンガ改を飛ばす。

 言葉通り、ゆっくりと……それはもう本当にゆっくりといった感じで。

 

「アクセルさん、もう少し速度を出しても構いませんよ」

「分かった。ならもう少し」

 

 ぶっちゃけた話、具体的にどのくらいまでの速度なら問題ないのかというのが分からないのが痛い。

 ディーやエドガー、ヘルヴィといった者達なら、ある程度身体が出来ているので多少の無理は問題ない。

 だが、エルはまだ12歳なのだ。

 そんな状況でミロンガ改の最大速度を体験させる……何てのは、それこそ自殺行為でしかない。

 そんな訳で、俺はエルの体調を気にしながらミロンガ改で空を飛び回るのだった。


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