転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編101話 ナイツ&マジック編 第18話

「銀鳳騎士団?」

「はい。陛下からそのように」

 

 ミロンガ改にエルを乗せてから暫く。

 エルもミロンガ改に乗った事で、ロボットに対する思いがある程度は落ち着く……筈もなく、あれからも何度かミロンガ改に乗せて欲しいと頼まれるような事があったのだが、それを適当にいなし、更にはケンタウロス型の幻晶騎士の開発も頑張っている中で、テレスターレを開発した面々が城に呼ばれて、戻ってきたらテレスターレの開発チームは銀鳳騎士団という騎士団になっていた。

 ちなみに俺は首都に行くのが面倒だったし、図書館で読んでいた本が結構面白いところだったので、ライヒアラ騎操士学園に残ってそっちに顔を出さなかった。

 ……まぁ、ジャロウデク王国の動きが気にならないと言えば嘘になるのだが、その動きを作り出す原因となったあの一件で、俺はちょっとフレメヴィーラ王国の政治に関わりすぎた。

 その件もあって、少し距離を置いた方がいいのかもしれないと、そう判断したのだ。

 いざとなったら、影のゲートですぐに向こうに行けるというのも、今回俺が一緒に行かなかった理由の一つだが。

 そんな訳で、悠々自適な時間を楽しんでいたのだが……

 

「騎士団を結成か。……驚いたけど、考えてみればそう悪くない話ではあるんだよな」

「そうですね。それに、テレスターレに関しては国立機操開発研究工房に任せる事が出来ましたし」

「……ディーやダーヴィドが、面倒なのは全部そこに投げたと言ってたが……」

「いえいえ、別にそんな訳ではないですよ。適材適所という奴です、国立機操開発研究工房は、今までカルダトアの開発や改修を行ってきた実績があります。テレスターレは、カルダトアに比べてかなり性能の高い幻晶騎士であるのは、間違いありません。ですが、製造コストが高く、操縦性も決して良好とは言えませんからね。その辺の調整をするのは、やはり国立機操開発研究工房が一番ですよ」

 

 色々と理由を付けているが、実際にはエルとしてはケンタウロス型の幻晶騎士の開発を優先したいというのは間違っていない。

 ……これって、もしかして俺がサラマンダーを見せたり、ミロンガ改に乗せたりした影響だったりしないよな? うん、取りあえず違うと思っておこう。

 

「そうか。……まぁ、フレメヴィーラ王国の方でそれが決まったのなら、それはそれでいいんだが。それよりも、スパイの件は聞いたか?」

「……はい」

 

 幻晶騎士の事について語っていた時とは、また違った意味で真剣な表情を浮かべるエル。

 まぁ、その気持ちも分かる。

 自分達の中に裏切り者がいたんだから、そういう気分にもなるだろう。

 そう、それはケルヒルト達銅牙騎士団から得られた情報の1つだ。

 そもそも、何故ケルヒルト達がテレスターレの事を知っていたのか。

 ライヒアラ騎操士学園で新型の幻晶騎士を開発しているというのは、噂で知っていてもおかしくはない。

 だが、この世界において新型の幻晶騎士の開発がいったいどれだけ大変なのかは、それこそこの世界の住人なら十分に理解している筈だ。

 それを、まだ学生のエルが……それも12歳の子供が中心になって開発しているという幻晶騎士は、当然のように普通なら子供のお遊びと判断されてもおかしくはない。

 だというのに、銅牙騎士団は開発されたテレスターレが非常に高性能な……それこそ、今までこの世界で使われていた幻晶騎士とは一線を画すかのように性能であるというのを知り、奪取しようとした。

 そうなると、よほど詳しくテレスターレの情報を得る必要がある。

 つまり、その情報を得る手段があったのだ。

 ……操縦性の情報とかは上手く伝わっていなかったようだが。

 それが誰なのかというのは、実は早い内に分かっていた。

 何しろ銅牙騎士団の一件があってから、いきなり姿を消した男がいたのだから。

 しかし、当然のようにそんな事があれば逃げる相手を追う必要も出て来る。

 特に銅牙騎士団によるテレスターレの奪取を防いだのに、そこから情報が漏れてはどうしようもない。

 そんな訳で、アンブロシウスは諜報に特化した部隊……もしかしたらこれも騎士団という扱いなのかもしれないが、そういう連中を放った。

 更にケルヒルトから情報を聞き出し、アジトとして使っていた場所を知る事が出来たというのが正しい。

 そうした結果、消えたスパイは無事に捕まったのだ。

 勿論、そのスパイが1人だけという事はなく、他にも何人かスパイがいて、その連中も無事捕まえることが出来たらしい。

 

「正直、僕も彼とはそれなりに話した事がありますから、複雑な気持ちですけどね」

 

 エルの気持ちは理解出来る。

 俺はダーヴィドを始めとして、数人くらいとしか主に関わってはいない。

 だが、テレスターレの開発で中心人物だったエルにしてみれば、ダーヴィドやそれ以外の面々とも接する機会が多かったのだろう。

 

「まぁ、今はその辺をあまり気にしても仕方がないだろ」

「……そうですね。まずは銀鳳騎士団としてやるべき仕事をしっかりとやらなければ。そういう事で、アクセルさんからも色々とお話を聞きたいんですが、構いませんか?」

 

 すっかり気分を変えたエルに、俺は不承不承頷くのだった。

 そして、この日からケンタウロス型の幻晶騎士の開発は本格的に進む。

 進むが……その開発は、決して順調とは言えなかった。

 まず最初に完成したケンタウロス型の幻晶騎士……ツェンドルグは、キッドとアディの2人乗りで操縦しようとしたが、出力が……つまりこの場合は魔力が足りず、結局動力炉となる魔力転換炉の数を通常の1基から2基に増やしたりと、普通なら考えられないような事をしていた。

 ……ちなみにこの魔力転換炉。実は幻晶騎士を開発する上で一番高価な品らしく、その分だけツェンドルグのコストは上がる事になってしまった訳だ。

 とはいえ、銀鳳騎士団の背後には国王のアンブロシウスがいる以上、そのくらいは何とかなる訳だが。

 他にも、テレスターレに乗る前にディー達が乗っていた幻晶騎士に補助腕を使った可動式追加装甲だったり、補助腕で使う武器を自由に選べる選択装備を開発したりと、色々とやっていたのだが……

 

「なぁ、これ本当に大丈夫なのか?」

 

 目の前にある幻晶騎士を見て、キッドが呟く。

 ライヒアラ騎操士学園から離れた場所にある草原。

 現在その草原には、俺、エル、キッド、アディ、バトソンの5人。

 そんな中で、バトソンは幻晶甲冑を着ており、幻晶騎士に色々なパーツを外部からくっつけていた。

 これで何をやるのかというのは、前もって聞いている。

 だが、本当の意味でそれを想像出来るのは、恐らく俺とエルだけだろう。

 これは、エル達が魔法を使って空を飛ぶ……いや、吹き飛ぶ? そんな表現が相応しいが、それを幻晶騎士で再現しようとして開発された代物だ。

 魔法云々を抜きにして、分かりやすく言うのなら、外付けのジェットエンジン的な存在と言ってもいいだろう。

 ぶっちゃけた話、この部品をエルが作った原因は多分俺にあるんだろう。

 ミロンガ改で空を飛ぶロボットというのを見せてしまった関係上、エルとしても幻晶騎士で空を飛ばしたくなったという事か。

 もしくは、ジャロウデク王国軍の有する飛行船を見たのも関係しているのかもしれないが。

 

「では、行きますよ!」

 

 幻晶騎士に乗り込んだエルは……そのまま星になるのだった。

 

 

 

 

 

「なってませんよ!」

 

 俺が幻晶騎士の飛行実験についての説明をすると、エルは椅子に座ったまま抗議する。

 ここは、ライヒアラ騎操士学園の格納庫。

 ……というか、銀鳳騎士団の溜まり場と言った表現が相応しいか。

 そこで、現在エルは椅子に座らされていた。

 飛行実験は見事に失敗。

 それもただ失敗しただけではなく、幻晶騎士そのものを破壊してしまったのだ。

 うん、まぁ、ダーヴィド達が怒るのも納得ではある。

 そんな訳で、現在エルは反省中ということで、幻晶騎士の開発に関わらせて貰えなくなっていた。

 ロボット好きのエルにとっては、それこそかなり厳しい処罰と言えるだろう。

 とはいえ、幻晶騎士1機の値段を考えると、皆がここまで怒るのも無理はないのだが。

 ともあれ、この日から暫くエルはツェンドルグの開発にも関わらせて貰えずに、ただ皆がツェンドルグを開発していくのを側で見ているだけとなる。

 ……もっとも、俺が見た感じでは実際には開発に関わっていなくても、頭の中で設計図を引いたりとか、そんな感じだったが。

 ともあれ、そんな風に時間は流れ……ツェンドルグの試運転も終わって、街道に人馬型の魔獣が出るという噂が流れる頃、首都のカンカネンから通達が来た。

 即ち、開発した機体のお披露目を兼ねて、模擬戦を行うと。

 ちなみに模擬戦の相手は、国立機操開発研究工房がテレスターレをベースに開発した新型機らしい。

 

「それで、俺もそれに来いと?」

「ええ。アンブロシウス陛下から招待状が届いています」

 

 エルが俺に渡した手紙は、確かに招待状だった。

 ……とはいえ、わざわざ俺が行く必要があるのか?

 国立機操開発研究工房の開発した機体に興味がない訳ではないし、ツェンドルグの開発には俺もそれなりに協力したので、その活躍を見たいとは思う。

 そうだな。今はライヒアラ騎操士学園で特にやりたい事もないし、そっちに行くのは構わないか。

 そう判断し、俺はカンカネン行きを承諾するのだった。

 

 

 

 

 

 招待状を貰った数日後……俺の姿はカンカネンにある闘技場とでも呼ぶべき場所にあった。

 いや、それは構わない。構わないのだが……

 

「何で俺がこんな席に座るんだ?」

 

 隣に座るアンブロシウスにそう尋ねる。

 そう、何故か俺の席はアンブロシウスのすぐ隣に用意されていたのだ。

 当然そんな場所に座れば、目立つ。

 特に今日はアンブロシウスが直接見に来るという事で、多くの貴族もこの闘技場に集まっていた。

 そんな中で、見ず知らずの俺がアンブロシウスの隣に座っているのだから、それで興味を持つなという方が無理だろう。

 貴族の中でも、クヌートを始めとして俺の存在を知っている者なら、俺がここに座っていても驚くような事はなかったのだが、そのような者は少数だ。

 そのような者達の視線が集まり、正直なところ鬱陶しい。

 とはいえ、こちらに視線を向けてきている者達は、何かを言ってくるような真似はしない。

 俺がアンブロシウスの隣に座っているのを、アンブロシウス本人が認めているのだから、それも当然だろうが。

 

「そう言わないでくれ。アクセル殿も今回のお披露目には興味があるだろう?」

 

 アンブロシウスの側にいたクヌートが、俺にそう告げてくる。

 ……そして、クヌートが俺を殿付けで呼んだことで、また俺に向けられる貴族の視線が変わってくる。

 クヌートはフレメヴィーラ王国の中でも屈指の貴族だ。

 アンブロシウスの側近という立場もあることを考えると、そんなクヌートが俺に丁寧に接するというのは、他の貴族達にとっても意味深なのだろう。

 もしかして、そんな貴族達の視線を俺に集める為に、わざと今のような態度をとったのか?

 だとしたら、次に胃薬を分けるのは考える必要があるな。

 そんな風に居心地の悪い思いをしていると、やがて一人の男……老人が姿を現す。

 同時に、闘技場の中に幻晶騎士が運ばれてきた。

 それを見たアンブロシウスが、座っていた場所から立ち上がって少しでも近くから見たいと思ったのは……まぁ、フレメヴィーラ王国の国王としては、当然なのだろう。

 目の前にある機体は、それこそこれからフレメヴィーラ王国の主力となる機体なのだから。

 ……外見はテレスターレというよりも、カルダトアの色が強く残っているが。

 そんなアンブロシウスに満足そうな視線を向けると、男はその幻晶騎士の説明を始める。

 この機体は、簡単に言えばテレスターレの持つ新型の技術をカルダトアに加えた代物らしい。

 とはいえ、ただそのまま技術を移植した訳ではなく、相応の改良も行っている

 網型結晶筋肉の量と配置を調整して、従来機の3割強の出力増加。

 外装に蓄魔力式装甲を使っており、初期のテレスターレで問題になった稼働時間の問題もクリア。

 カルダトアをベース機としているだけあって、その操縦性もカルダトアと同じ操縦感覚。

 補助腕も強度はテレスターレで使われているものと同程度でありながら、簡易化して整備性を向上。

 それこそが、カルダトア・ダーシュという新型機なのだと。

 ……なるほど。国立機操開発研究工房というのは俺が思っていたよりも技術は高いらしい。

 てっきりテレスターレの廉価版、もしくは劣化版を開発するのかと思っていたが、実際にはテレスターレの血を引きながら、しっかりとこの世界の人間にとって操縦しやすいように改良されている。

 この爺さんが自慢げに言うだけあって、結構興味深い代物なのは間違いない。

 そんな俺の視線の先では、アンブロシウスが満足そうに頷くのだった。


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