転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編104話 ナイツ&マジック編 第21話

 国旗を出した飛行船は、当然のように首都を守っている幻晶騎士達からもその姿を確認出来る。

 ジャロウデク王国の国旗を掲げているのだから、現在自分達が戦っている相手に所属しているというのは分かったのだろう。

 地上にいる幻晶騎士は、急いで迎撃準備を整えていた。

 現在戦争している相手がいきなりこうやって首都にまで乗り込んできたのだから、それを警戒するなという方が無理か。

 とはいえ……こうしている現在の状況から考えると、ジャロウデク王国の飛行船にそこまで大きな戦力がある訳ではない。

 いや、この世界において幻晶騎士というのはかなり強力な戦力である以上、あの飛行船から空挺降下的な事をしても、十分な戦力となるのは間違いない。

 だが、それでも首都を落とすといった事はまず不可能である以上、現在の状況では陽動くらいしか出来ない。

 それも、幻晶騎士が破壊されてもおかしくはないだろう、そんな危険な手段。

 それこそ、賭けと呼ぶ方が相応しいだろう行動だろう。

 今のジャロウデク王国で、そんな真似が出来るか?

 ……というか、下手をすれば空挺降下の為に飛行船から飛び降りた時点で幻晶騎士が破壊されてもおかしくはなかった。

 テレスターレのような網型結晶筋肉とかを使ってる機体なら、何とかなった可能性もあるのだが。

 そんな風に思っていると、首都の上空に飛んできた飛行船に動きがあった。

 

「あー……なるほど」

 

 その光景を見て、納得の表情を浮かべる。

 最初はてっきり飛行船を輸送船として使うのかと思ってたのだが、違った。

 飛行船で幻晶騎士が動いているのは間違いないが、その幻晶騎士は飛行船から飛び降りて地上に向かう……のではなく、巨大な、幻晶騎士が使うのに相応しいクロスボウのようなものを装備したのだ。

 幻晶騎士が使ってはいるが、恐らく本来は要塞とかの防衛用だったり、もしくは攻城兵器とか、そんな感じなのだろう。

 そんな武器を手に何をするのか。

 それは考えるまでもない。

 そして幻晶騎士が行った方法は、やはり俺の予想通りのものだった。

 首都にあるべき存在、この国の王族の住む城に向かって一斉に手に持っている武器を発射したのだ。

 それはいい。いや、この城にいる者にしてみればよくはないだろうが、戦争をしている以上、城を攻撃されてもおかしくはないのだ。

 だが、しかし……城とかではなく、一般市民が暮らしているような街を、家と、店を、面白半分に破壊していくというのは、見ていて気持ちのいいものではない。

 ジャロウデク王国軍にしてみれば、自分達の国に宣戦布告をしてきた国の1つなのだから、何をしてもいいという認識なのかもしれないが。

 あるいは、この世界の戦争ではそれが普通なのかもしれない。

 だが、だからといって、俺がそれに付き合う必要もない。

 雲の中で待機していたミロンガ改を、一気に飛行船に向かって進める。

 ……とはいえ、飛行船をここで破壊するつもりはない。

 もしここで飛行船を破壊した場合、飛行船の技術がこの国に渡ってしまう事になりかねない。

 フレメヴィーラ王国の事……いや、エルの事を考えると、出来るのなら飛行船はこちらで確保しておきたいのだ。

 その為、今回俺が行うのは、飛行船の撃墜ではなく牽制。

 飛行船に撃墜しない程度の被害を与え、首都から撤退させる事だ。

 可能であれば、ここから撤退した飛行船を確保したいが、それは難しいだろう。

 何しろ、1人でも残っていれば、空間倉庫に収納が出来ないのだから。

 そんな訳で、ビームマシンガンを飛行船の端の方に命中させる。

 この飛行船がどんな原理で浮かんでいるのか分からない以上、下手に攻撃を命中させると、最悪爆発という可能性もなくはない。

 だからこそ慎重に攻撃をする必要があった。

 当然のように、飛行船側でも近付いてくるミロンガ改の姿に気が付いたのか、飛行船を移動し、近付いてくるこちらに攻撃を命中させる位置取りをしようとするが……

 

「甘い」

 

 いや、正確には遅いか。

 機動性特化のミロンガ改と、運用され始めたばかりの飛行船では、どうしても反応速度やパイロットの練度が違う。

 ……何より、機体の特性としてミロンガ改と飛行船では相手にならないのだ。

 ビームマシンガンの弾丸の一発が、飛行船に命中する。

 本来なら、ビームマシンガンというのは連射して使う事が多いのだが、飛行船の防御力が分からないので、意図的に単発での攻撃を行っている。

 そうして真っ直ぐに飛んでいったビーム弾は、飛行船に命中して黒い煙が生まれる。

 飛行船はそうした被害を受けながらも、何とか迎撃の準備が完了して、クロスボウのような物を持った幻晶騎士が一斉にこちらに向けて発射する。

 だが、放たれた矢――人間の感覚では槍に近い――が貫いたのは、ミロンガ改がいたのとは違う空間。

 敵が攻撃を開始した時点で、俺はエナジーウィングの力でその場から退避していたのだ。

 そうして退避した先で、再びビームマシンガンを1発撃つ。

 今度狙ったのは、飛行船……ではなく、飛行船に乗っている幻晶騎士。

 クロスボウでこちらを狙っていたその幻晶騎士は、まさか自分が狙われるとは思っていなかったのか、ビーム弾をまともに受ける。

 ビームに貫かれた幻晶騎士は、そのまま後ろに倒れ込んだ。

 飛行船から落下しなかっただけ、幸運だったのだろう。

 そうして幻晶騎士が撃破されると、他の幻晶騎士達は動揺する。

 まさか飛行船ではなく自分達が狙われるとは思っていなかったのだろうし、もしここで攻撃された場合、地上に落下する可能性が高いというのもある。

 ジャロウデク王国にしてみれば、空を飛べるようになったのはつい最近で、自分達だけの技術と思っていた筈だ。

 そこに急にミロンガ改が姿を現した事で飛行船を武装したのだろうが……飛行船が出来たばかりのジャロウデク王国には、当然のように空戦のノウハウがない。

 もしもっと前……それこそ数年前とかに既に飛行船が完成していたのなら、ジャロウデク王国軍にも空戦のノウハウがあってもおかしくはないんだろうが。

 ともあれ、まさか自分達が攻撃されるとは思っていなかったのか、動揺して動きの鈍くなった幻晶騎士達は、ただでさえ狙いが付けづらいというのに、自分が狙われるかもしれないという事で、余計に動きが鈍くなる。

 敵にしてみれば、初めての空戦である以上は緊張しているという面もあるのだろう。

 そんな訳で、敵の攻撃の精度は余計に落ちる。

 こうして見る限りでは飛行船の武装は幻晶騎士の持つ巨大なクロスボウだけのようで、それ以外の攻撃方法はない。

 ……あるとすれば、それこそ体当たりの特攻くらいか?

 自分達が上空から一方的に攻撃は出来ても、狙われる側になれば動きが鈍くなる。

 飛行船に乗っている以上、この連中は精鋭なんだろうが……

 まぁ、いいか。

 ともあれ、俺は飛行船の周囲を跳び回りながら、撃墜はしないように次々と攻撃していく。

 飛行船は何とか俺から逃げようとするものの、機動力では圧倒的にこっちが上だ。

 そうである以上、飛行船が逃げるような真似は出来ない。

 あるいは、飛行船が1隻ではなく2隻、3隻といれば、まだ逃げる事は可能だったかもしれないが……残念ながら、もしくは俺にとっては幸運ながらと言うべきか、敵は1隻だけだ。

 何とか逃げようとしても回り込まれ、飛行船の一部をビームマシンガンから発射された、1発だけのビーム弾によってダメージを受ける。

 ……自分でやっておいて何だが、これって見ようによってはいたぶってるように見えるのかもしれないな。

 ビームマシンガンの威力があれば、それこそあっさりと飛行船を撃破する事が難しくないというのは、見ている者なら誰にでも分かる。

 だというのに、実際にはこうして撃破されないまま、少しずつ、少しずつダメージを受けているのだから。

 ともあれ、こうして暫く攻撃をしながら時間が経過し、向こうがもう飛ぶのでやっとという状況になったのを見計らって、攻撃を停止する。

 その頃になると、地上にも多くの者が集まっており、こちらの様子を興味深げに眺めているのが分かった。

 中には、撃破出来るのなら撃破しろと言ってるような者もいるのは間違いない。

 映像モニタに表示された群衆の中の何人かは、それこそ怒りに満ちた表情で大きく手を振り回したりといったことをしているのだから。

 恐らくだが、飛行船に乗った幻晶騎士の攻撃で自分や友人、恋人の家が壊されたり、もしかしたら死んだ可能性もある。

 とはいえ、ここで撃破したらどうなるのかは普通に考えれば分かると思うが。

 

「この程度でいいか」

 

 呟き、飛行船の被害が比較的大きくなってきたところで、その場から離脱する。

 まさか、自分達を一方的に攻撃していたミロンガ改が、こうもあっさり戦場から離脱するというのは、飛行船にとっても信じられなかったのだろう。

 数秒……いや、十数秒の間、一体何が起きたのかといった様子で飛行船が空中で停止する。

 だが、ミロンガ改が本当に戦場から離脱したというのを理解したのか、飛行船は首都から移動していく。

 これ以上、首都に攻撃するだけの余力は残されていないと判断したのだろう。

 ……もしくは、ここで首都に攻撃をした場合、またミロンガ改が姿を現すのかもしれないと、そう恐怖を抱いた可能性もある。

 ともあれ、理由としては様々なものがあるのは間違いないだろうが、飛行船が首都から移動したのは俺にとっても嬉しい事だ。

 再度雲の中に隠れてそれを見送ると、これからどうするべきかと考える。

 あの飛行船を入手するべきかどうか、と。

 飛行船を奪っていけば、エルは喜ぶだろう。

 いや、エル以外にもフレメヴィーラ王国の多くの者が喜ぶのは間違いないのだろうが、それでもかなりの手間なのは間違いない。

 それに、壊れかけの飛行船を奪っても……いやまぁ、エルならそれでも十分に喜ぶだろうけど。

 そんな風に考えつつ、取りあえずエルにはツェンドルグやそれ以外の幻晶騎士の開発に専念して貰う事にした方がいいだろうと判断し、飛行船は見逃す事にする。

 問題なのは、ジャロウデク王国軍が開発した飛行船は一体どれだけの数になっているのかという事だろうな。

 まさか、俺が見つけたこの1隻だけではないだろう。

 そうである以上、ジャロウデク王国に攻撃している多くの国に対して、飛行船を派遣していると思ってもいい。

 だとすれば、またこの世界での事情は動くという事になる。

 先程見たように、空から一方的に攻撃をすると、対抗手段がない。

 おまけに、敵が好きな時に首都の上空にやってきて攻撃をする事が出来ると知れば、士気が下がり続けてしまうだろう。

 今までは周辺諸国が圧倒的に有利だったが、ジャロウデク王国の反撃がこれから始まるという事になる。

 ……とはいえ、ジャロウデク王国も飛行船は虎の子だ。

 そう簡単に使い捨てるような真似は出来ないだろうから、飛行船を使う場合も慎重に使う筈だ。

 そうなると、考えられるのは……膠着状態か?

 ジャロウデク王国を攻めている国々にしてみれば、自国の首都をいつ攻撃されるか分からない以上、積極的に攻勢に出るのは難しいだろう。

 勿論、中にはジャロウデク王国が飛行船で首都を攻撃するより前に、ジャロウデク王国の首都を落としてしまえばいいと考える強硬派とかもいるだろうけど。

 ジャロウデク王国側にとっても、上空から一方的に攻撃が可能な飛行船は圧倒的に有利だが、それでも結局飛行船だけで相手に降伏を迫るような真似は出来ない。

 結果として、膠着状態になる可能性が高い。

 あ、でも他国に出ている飛行船を纏めて攻撃すれば……もしかするかもしれないな。

 ただし、その間ジャロウデク王国が周辺国家からの攻撃に持ち堪えられるかどうかという問題もあるが。

 その打開策となるのは……一体何なんだろうな。

 あるいは、このまま膠着状態が続いて、最終的にはなし崩し的に停戦状態になるのか。

 その辺りは俺にも分からなかったが、ジャロウデク王国としても、周辺国家にしても、出来ればそんな事にはしたくないと思ってもおかしくはない。

 まぁ、フレメヴィーラ王国は距離があってこの戦争に関わるような真似は出来ない。

 そうである以上、どうなっても特に構わないというのが正直なところだ。

 もっとも、フレメヴィーラ王国と友好国のクシェペルカ王国に手を出してくるような事になれば、フレメヴィーラ王国も手を出す可能性があったが。

 その辺は、やはりこの先の出来事次第で色々と変わるという事か。

 周辺諸国から攻撃されている今のジャロウデク王国に、そんな余裕があるとは思えなかったが。

 そんな風に思いつつ、俺はこの国から離れてフレメヴィーラ王国に向かって帰る事を決める。

 本来ならもう少し様子を見てもよかったのだが、飛行船を使った首都攻撃をしているとなれば、これは報告しておいた方がいいだろうし。


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