転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0014話 閑話 バリソン

 俺がアクセル・アルマーという人物に出会ったのは、士官学校に入学したその日だった。

 理由としては本当に単純で、席が近かったから。

 それだけだ。

 それだけなのだが、今では親友といえるアクセルに出会えたその偶然に心底感謝している。

 

 インスペクターと戦争後の復興は都市部から最優先で行われた為、俺の生まれ故郷のような田舎は後回しとなった。

 もっとも、それを恨むような気持ちは無い。

 何せ、都市部の復興が遅れると政府機能も回復しないという事になり、食料やらなにやらの配給もそれだけ遅れるのだから。

 だが、それでも安定期に入ったと言われている現在でも復興は完全ではなく、それ故不景気で仕事が無い俺は食う為に士官学校に入学した。

 ただ、そんな状況での入学だったからエリートコースと言われる参謀や4軍に入るにはちょっと成績が足りなかった。

 残るのは後方支援コース、整備コース、通信コース。そしてパイロットコースだ。

 身体を動かすくらいしか取り柄のなかった俺は、迷う事なくパイロットコースを選択した。

 

 パイロットコースには教官の方針か一般組25人に、幼年学校からの進学組が25人と丁度半々という構成になっていた。

 そして幼年学校組を教師とし、一般組は生徒のような扱いだ。

 で、俺の教師役がアクセルという事になった訳だ。

 

 正直、授業が始まってからのアクセルを見る限り幼年学校組というのはどのくらいのエリート集団なんだってかなりショックを受けたよ。

 だってそうだろ? 座学は殆どノーミスで教官の質問に答え、初めて撃ったという射撃で教官よりも好成績を叩きだし、シミュレータでも他の連中が歩いたりなんなりしている中、インスペクターの機体相手に無双。

 実機訓練に関しては、最初の授業で他の連中に足を引っ張られた為に腕立て500回をやらされていたが、その腕立てにしてもクラスのかなりの人数が途中で泣き言を言っていたのに対して、アクセルは表情こそきつそうだったが、泣き言を漏らさずに500回を休憩無しでやり遂げた。

 

 とてもじゃないが、俺達と同じ立場だとは思えない能力だった。

 それこそ、ベテランの軍人が正体を隠して士官学校に通ってると言われても『ああ、なるほど』と納得してしまう程に。

 

 あ、でも基本的に完璧超人のアクセルだが、格闘技だけはそれ程得意って訳じゃないようだった。

 格闘技の最初の授業の時にいつもの如く教官とアクセルが模擬戦をしたんだが、この勝負は教官がアクセルを気絶させるという形で終了した。

 ……よく考えてみれば、生徒が教官に勝つのを当たり前だという時点でちょっとおかしいんだが。

 まぁ、それはともかく。

 アクセルの奴も負けたのがかなり悔しかったみたいで、他の授業以上に熱心に格闘技にのめりこんだんだが、それでも勝率は30%程度。

 ただ、聞いた話だと俺達の担当教官は以前何かの格闘技大会で入賞した経験もある猛者だったらしい。

 そう考えると、アクセルのデタラメ具合は結局変わらないな。

 

 成績が凄いからと言ってアクセル自体に欠点が無いかと言われればきちんと欠点はある。

 

 自分自身のスキルを高める事には非常に熱心だが、他の連中に対しては適当に流させる。

 つまり自分の能力を高める事と、クラスメイトの面倒を見る事の2択になった場合は間違いなく前者を選ぶ。

 正直、何故あんなに能力を高めるのに熱心なのかは分からない。

 だが、たまにトレーニングをしている時に何かに追い詰められた獣のような、そんな顔をしているのを見掛ける。

 何かあるのは間違い無いだろうが、それを無理に聞き出すというのも俺らしくないし、話してくれるのを気長に待つとするさ。

 

 そして俺達が士官学校に通い始めて1年近く。もう少しで2年に進級という時にあの事件が起きた。

 3年の先輩達が乗っていたシャトルが原因不明の事故で大破。

 生き残りは3年主席のキョウスケ・ナンブ先輩だけという、あの大事故が。

 その話を最初にクラスに知らせたのは、お調子者として有名な幼年学校組の生徒だった。

 その知らせを聞いた時のアクセルの表情は今でも忘れられない。

 悲しみ、無念、怒り、納得……そして、希望。

 そんな、正負入り乱れたぐちゃぐちゃな感情を浮かべたその顔を。

 だがそれもすぐに消え失せ、最後には何かを決めたような意志の強さを感じさせる表情を浮かべていた。

 アクセル自身は意識していなかったのだろうが、1年主席のアクセルと3年主席のキョウスケ・ナンブ先輩は馬が合うようだった。

 2年主席がおちゃらけた性格の為、ある意味ストイックに自分を鍛えるといった似たような感じの2人だっただけに相性が良かったんだと思う。

 そんな仲の良かった先輩以外は全員死亡というこの事故は普段超然としているように見えるアクセルにとってもきつかったんだろう。

 

 実際、その事故から1ヶ月程はなかなかいつもの調子を取り戻せないようだった。

 もっとも、逆に言えば1ヶ月で調子を取り戻したという事なんだが。

 ただ、それ以降は今までよりも訓練に熱中していったな。それこそ、何かに追い詰められるみたいに。

 ま、その結果ただでさえ高かったその能力がさらに高くなったんだが。

 

 そう言えば、アクセルの奴は基本的に学校外の知り合いが極少ないみたいだった。

 人付き合いがそれ程得意じゃない俺でさえ故郷には親や友達なんかがいるが、アクセルからその辺の話を聞いた事はなかったな。

 あ、でもタイムマシンがどうとかいう研究者とは手紙のやりとりをしてたみたいだった。

 

 ま、なんだかんだと言ったがアクセルは俺にとって親友と言ってもいい奴だってのは間違いは無い訳だ。


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