頭部を失い、そこから血を流しているガッター。
そんなガッターを眺めていたマーベルだったが、やがて空を飛んでいたゲドは地上に降りてくる。
そして膝を突いた駐機姿勢を取ると、そこからマーベルが転がり落ちるように出て来た。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
気分を落ち着けるように、そして息を整えるように激しく呼吸するマーベル。
生き物を殺した事がなかったのか、それとも単純にガッター程に巨大な生き物を殺したのが気になったのか。
その辺は俺にも分からなかったが、ともあれ今はマーベルを落ち着かせる方が先だと判断し、そちらに向かって走り出す。
「落ち着け。そうやって激しく息を吸うんじゃなくて、ゆっくりと、それでいて大きく息をするんだ」
マーベルの背中を撫でながら、落ち着かせるように言う。
俺の言葉が聞こえたのか、マーベルは今までのように激しく息をするのではなく、ゆっくりと息をする。
そうして数分が経過し、やがてマーベルも落ち着いた様子を見せた。
「ほら、取りあえずこれでも飲め」
空間倉庫から取り出したスポーツドリンクをマーベルに渡す。
こういう時は、冷たい飲み物や温かい飲み物を飲んだ方がいいのだろうが。今の状況では冷たいものの方がいいだろう。
「ありがと。……ん……」
俺から受け取ったスポーツドリンクを飲むマーベル。
白い喉が蠱惑的に動く様子は、男を惹き付けるだけの強い魅力を持っている。
とはいえ、いつまでもそんなマーベルを見てるのを気が付かれたら不味い事になると判断し、俺の視線はマーベルではなく首を切断されたガッターに向けられた。
切断された場所からは、大量に血が流れている。
首は少し離れた場所に生えていた木にぶつかって、地面に転がっていた。
この血の臭いを嗅ぎつけて、何らかの恐獣が来る可能性もあるが……いや、そこまで心配はいらないか?
この森において、ガッターは生態系の頂点に立つ存在だ。
そんなガッターからの血が流れているからといって、近付いてくる恐獣はそういないだろう。
もしガッターが生きていれば、それこそ餌として喰い殺される可能性が高いのだから。
「ふぅ、ありがとう。何とか落ち着いたわ」
「そうか。ならいい。で、こう聞くのは何だがどうだった?」
「今はまだ色々な思いで複雑な気持ちだけど、それでも決していい気持ちじゃなかったのは間違いないわ」
「だろうな」
普通の大学生をしていたマーベルだ。
生き物を殺すといった経験は……まぁ、虫とかなら蚊を潰したりとかであるかもしれないが、これだけ大きな生き物となると、当然初めてだろう。
「けど、これに慣れるしかないんでしょう?」
「このバイストン・ウェルで生きていくのなら、な。少なくても俺とマーベルにとって、他の道はないだろう」
あるいは農家として働いたりすれば、生き物を殺したりとかしなくてもいいかもしれない。
だが、それだとドレイクの同盟者という立場である以上、色々と不味い。
ドレイクが俺を同盟者として扱い、マーベルを俺の女という事で納得しているのも、俺が持つ戦闘力を目当てにしてのものなのだから。
あるいは、マーベルだけなら農業とか……もしくは家で家事をするといったような事でもいいかもしれないが、地上人であるというのは知られている以上、いずれ最終的には戦場に向かう事になる筈だ。
その辺の事情を考えれば、やはりマーベルにも戦って貰う必要があるのは間違いないのだ。
「分かってるわ。今はこうだけど、いずれ慣れるから」
そう言い、マーベルは沈黙し、やがて数分後に口を開く。
「アクセルが初めて生き物を殺したのって、いつ?」
妙なことを聞いてくるな。
そう思いながら、初めて生き物を殺した事を思い出す。
小さい頃に食事に行った時、テロに巻き込まれて、その時にスライムを使っての事だったか。
ただ、俺の経験はマーベルにとってはあまり参考にならない筈だ。
何しろ、俺は前世の経験を持って転生したのだから。
「どうだったろうな。多分戦争に参加した時だと思うぞ」
取りあえず、そう誤魔化しておく。
今の自分の状況で正確に説明出来るとは思わなかったのだから。
「そう。……なら……」
「ちょっと待った」
何かを言おうとしたマーベルだったが、俺はその言葉を途中で止める。
何故なら、何者かが近付いてくる気配や音が聞こえた為だ。
あるいは、これが森の中から恐獣が近付いてきたのなら、そこまで気にするような事はなかっただろう。
だが、音が聞こえてきたのは森の外の方。つまり、恐獣ではなく別の存在だ。
いやまぁ、森の外に出ていた恐獣がやって来たという可能性も否定は出来なかったのだが、それよりは誰かが様子を見に来たという可能性の方が高いだろう。
「どうしたの?」
「森の外から誰かが近付いてきたみたいだ」
そう告げると、マーベルの表情が厳しく引き締まる。
ここで俺達が恐獣狩りをしているというのは、知っている者はそう多くはない。
そんな中で、わざわざここに来るような奴となると、一体何を考えてそのような真似をしたのか、気になるのは当然だろう。
「誰? ドレイクの手の者?」
「さて、どうだろうな。可能性としては、ゲドの実戦データだけではなくて、実際にどのように戦ってているのかを自分の目で見てみたい技術者がやって来たって可能性も否定は出来ない」
ショットやゼットが来たとは思わないが、それ以外の技術者が来たという可能性は決して否定出来ない。
オーラバトラーというのは、未だに色々とはっきりとしていないところのある兵器なのだから。
その辺りの事情を思えば、実際にゲドを見たいと思った者が来てもおかしくはない。
そう思っていたのだが……
「あの馬車ってドレイクが使っている物と微妙に違うよな?」
「だとすると、別の領主の?」
「その辺は事情を聞いてみないと分からないな」
そんな風にマーベルと会話をしている中で馬車は停まる。
とはいえ、俺とマーベルがいるのは森の中に少し入った場所だ。
馬車が停まったのは森の外なので、こっちと向こうの間には木々が遮っているのだが。
「すまない、ちょっと話を聞かせて貰えないか?」
馬車から降りた人物が、こちらにそう声を掛けてくる。
声の様子からすると、こちらに対して敵対的な様子ではない。
となると、ドレイクと親しい相手か?
「どうするの?」
「どうすると言われてもな。まさか、問答無用で攻撃するといった訳にはいかないだろ? 向こうが何を考えているのかは分からないが」
恐獣狩りをしている場所までやって来て、それでいながらこうして声を掛けてくるのだ。
正直なところを言わせて貰えば、邪魔でしかない。
マーベルも先程初めて命を奪うという経験をしたばかりという事もあって、出来ればもう少ししてからやって来て欲しかったというのが正直なところだ。
「大丈夫か?」
「……大丈夫よ」
俺の言葉にそう返すマーベルだったが、数秒の沈黙がその気持ちを表している。
それでもマーベル本人が大丈夫と言ってる以上、俺からは直接何も言えないが。
そんな俺達の前に、馬車から降りた者達がやって来る。
人数は5人。
そのうちの1人は小柄な女で、もう1人はバンダナをしている、桃色の髪の男。そして残る3人は武器や防具を装備している騎士といった感じだ。
この様子から考えると、最初の2人のどっちかが……いや、女の方が男に気を遣っているのを見ると、この男が一行の中でもリーダー。
「少しいいか? 聞きたい事があるのだが」
「それは構わないが、何者だ?」
そんな俺の言葉が気にくわなかったのか、騎士達の視線が鋭くなる。
けど、普通に考えて見ず知らずの相手から聞きたい事があると言われて、それに素直に応じると思うか?
道を尋ねてきたとかなら分からないでもないけど、この男の様子からして、明らかにそんなつもりではない。
何か明確な目的があって俺に尋ねてきたと、そう考えるべきだ。
であれば、何か俺から情報を聞き出そうとしていると考えるのは当然だろう。
そして俺はドレイクと同盟関係にある以上、迂闊な事は言えない。
「これは失礼をした。私はニー・ギブンだ」
「ギブン? ……それって……」
「ああ。このルフト領の隣にあるロムン・ギブンの息子だ」
「それはまた、そんなお偉いさんがなんでこんな場所に? ここはルフト領だと思うんだが」
「ドレイク・ルフト殿と少し話すべきことがあってな」
それでルフト領にいる、という事らしい。
とはいえ、そのような状況でわざわざここに寄るという事は、俺とマーベルに用事があったのだろう。
「そうか。俺はアクセル、こっちはマーベルだ。マーベルは戦いが終わったばかりで気分が悪いらしいから、勘弁してやってくれ」
そう言い、少し離れた場所にある頭部を失ったガッターを示す。
当然だが、ニーを始めとする者達も、そんなガッターの姿に気が付いてはいたのだろう。
感心した様子で、マーベルを見る。
もしかしたら、ガッターを倒したのは俺だと思っていたのかもしれないな。
「そうか。ちなみに、ガッターはあそこのゲドで倒したのか?」
倒したのか? と聞いてはいるが、実際にはゲドで倒したと確信しているのだろう。
普通に考えて、生身でガッターを倒したとは到底思わないだろうし。
俺が戦っている光景を見ればともかく。
「ああ。マーベルにとっては初めての実戦だったからな。少し疲れたらしい」
「そうか」
納得したように頷くニー。
他の者達……特に騎士は、ゲドを興味深そうに見ていた。
バイストン・ウェルの者にとって、たった1人でガッターを倒すといったようなことが出来る者はいない……とは限らないが、それでも間違いなく少ない筈だ。
ギブン家と敵対とまではいかないが、それでも現状では決して友好的な関係ではない。
そんなドレイクが、ガッターを1人で――この場合は1機でと表現すべきか――倒す事が出来る兵器を持っているのだから、興味を抱くなという方が無理だろう。
あ、でもドロとかはギブン家にも普通に輸出されてるのか?
でも、ドレイクとの関係を思えば、ちょっと微妙なところだ。
「それはそうと、ラース・ワウで聞いた話によると、君達2人は地上人らしいね」
不意にニーはそう話題を変えてくる。
けど、2人?
マーベルはともかく、俺は異世界の人間であるという事は別に隠してはいない。
なのに、何で俺も地上人といった扱いになってる?
一瞬そう思ったが、普通に考えてバイストン・ウェルの人間に地上はともかく、異世界という存在を理解出来るかどうかは微妙なところだろう。
その辺の問題で、噂が広まる時に俺もまた地上人といった扱いになったのか?
「地上人はそっちのマーベルだけだ。俺は異世界の存在だな」
「異世界? ……ともあれ、君達2人がバイストン・ウェルの人間でない事は間違いない、と?」
「そう思ってくれていい」
取り合えず、その言葉で納得はしてくれたらしい。
異世界というのを信じたのか、それとも適当に誤魔化しているだけだと思ったのか。
その辺りは俺にも分からなかったが、一応納得してくれたのならそれでOKと思っておく事にする。
「そうか。なら聞きたいのだが……君達がバイストン・ウェルに来た時、最初はどこにいたんだ? もしかして、ギブン領にいなかったか?」
「……は?」
一体、いきなり何を? といった疑問を抱くのは当然だった。
マーベルに視線を向けると、そちらでも俺と同じく戸惑った視線をニーに向けている。
「何がどうなってそんな事になったんだ?」
「いや、もしかしたら……と、そう思ってね。地上人がバイストン・ウェルに来た時にどこに出るのか少し気になっただけだ」
今、何か誤魔化したか?
ニーの様子を見ていると、ふとそんな風に思う。
何だ? 何を誤魔化した?
いや、それとも誤魔化したと思ったのは俺の気のせいか?
「取りあえず、俺とマーベルがいたのは、ギブン領じゃなかったな」
うん、取りあえず嘘は言っていない。
ニーが何を誤魔化した……もしくは隠しているのは、俺にも分からない。
分からないが、それでも今の状況を考えると素直に情報を教えるというのは止めておいた方がいいのは間違いなかった。
「そうか。少し残念だな。君達のような者がギブン領にいてくれたら、色々と助かったんだけど」
本当に心の底から残念そうにそう告げるニー。
その言葉だけは嘘がないと、そう理解出来た。
こうして見る限り、ニーという人物は決して悪い奴ではないらしい。
それでもドレイクと敵対しつつあるのは、やはりドレイクがオーラバトラーを開発した事により、危険視されているというのが正しいんだろうな。
だからといって、それを俺がどうこうするつもりはなかったが。
いや、ドレイクの同盟相手として、何か頼まれればやるかもしれないが。
「ニー、そろそろ時間よ」
「分かったよ、キーン。じゃあ、悪いけどこの辺で失礼するよ。また会える事を願っている」
そう言い、ニーは他の面々と共に馬車の方に戻って行くのだった。
アクセル・アルマー
LV:43
PP:1400
格闘:305
射撃:325
技量:315
防御:315
回避:345
命中:365
SP:1987
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1648