転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0280話

 寮の近くにある丘でパーティをした翌日、俺はエヴァの別荘にいた。こちらへと迫ってくるキリング・ドールのチャチャゼロが振り下ろした鉈の一撃を回避し、腕輪を付けている右手をチャチャゼロへと向ける。

 

『魔法の射手 火の七矢!』

 

 始動キーを省略して放たれた魔法の射手が火の矢と化してチャチャゼロへと向かう。

 

「ケケッ、ソノ程度デ俺ガ止メラレルトデモ思ッテルノカ?」

 

 己の小ささを利用して火の矢を潜り抜けるチャチャゼロ。だが、潜り抜けるという事は真っ直ぐこっちに進むよりも余計な手間が……つまり、ほんの僅かだが時間が稼げる。そしてその僅かな時間があれば!

 

『アリアンロッド ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の主にして再生の徴よ、我が手に宿りて敵を喰らえ……紅き焔!』

 

 本来であれば、中程度の爆発を引き起こすこの魔法。だが、俺のSPを余分に込めたその紅き焔は通常の紅き焔の数倍の爆発を引き起こす。

 

「チィッ」

 

 舌打ちをしながら後方へと跳躍するチャチャゼロ。

 その様子を見ながら、足へと魔力を溜めてそれを爆発させるように噴射させる。

 瞬動、あるいは瞬動術と呼ばれるこの世界独特の技法だ。

 本来なら精神コマンドの加速を使って速度を上げる所なのだが、この戦闘はこちらの世界にある技術だけで戦うという縛りがある。そもそも、この戦闘の目的が俺がこの世界の技術をどれだけ習得したかを調べる為なのだからしょうがないと言えばしょうがない。

 だが、この世界特有の技術とか言ってもそれが全て戦闘に関する技術ってのは正直どうよと思う。

 

「っと!」

 

 どこをどう移動したのかは分からないが、後方へと移動した筈のチャチャゼロが何故か紅き焔の爆炎を突き破りながら横から襲い掛かってくるのを再度瞬動を使って回避する。

 そのまま振り下ろされた鉈が地面へと叩き付けられ、周囲へと石の破片を撒き散らすのを見ながら再び瞬動。だが……

 

「うおっ!」

 

 当初の目論見ではチャチャゼロの真横へと現れる筈だったのが、魔力制御に失敗してチャチャゼロの横をすっ飛んでいく。

 

「ケケケ!」

 

 その後を追うようにしてチャチャゼロが右手に持った鉈ではなく、左手に持った巨大なナイフを振り上げていた。

 

「ちぃっ!」

 

 咄嗟に魔力を練り上げ、手で何かを掬い上げるかのように動かす。すると次の瞬間、俺の影が槍のような形状になり実体化してチャチャゼロへと襲い掛かる。

 影槍。俺が使えるようになった唯一の影魔法だ。

 

「オット」

 

 だが、所詮は付け焼き刃。たった1本の影槍ではチャチャゼロを一瞬驚かせる事しか出来無かったらしい。

 そのまま影槍をロール回転で回避し、両手にナイフと鉈を持ったまま回転して俺に突っ込んでくる。

 

「物理法則を無視した動きをしやがって!」

 

 瞬動術の要領で背中全体に魔力を乗せて、一瞬で倒れた状態から立った状態へと体勢を切り替える。

 

『火よ灯れ!』

 

 赤き焔と同じく、過剰にSPを注ぎ込んで『火よ灯れ』の魔法を発動させる。

 初心者が一番最初に習う魔法である『火よ灯れ』なので、当然俺の過剰なSPに耐えきれる筈も無く……

 

 轟っ!

 

 一瞬火花が散ったと思った次の瞬間には、まるで魔力に引火するかの如く炎が燃え広がる。その勢いは、通常の紅き焔とそう大差ないだろう。

 そして暴走という事は、当然俺にすらコントロール出来ない訳で。

 

「熱っ!」

 

 チロチロとこちらにも伸びてくる炎の舌から距離を取る。

 ふと見ると、チャチャゼロもその炎の中に突っ込むのは遠慮したいのかこちらと同じで距離を取っていた。

 ある程度の距離を離れてお互いに距離を取り、ジリジリとだが間合いを詰め……

 

「そこまで!」

 

 唐突に周囲の空間にエヴァの声が響き渡った。

 少し離れた位置で俺とチャチャゼロの戦いを見守っていたエヴァがもう十分と判断したのか戦いを中止させたのだ。

 

「エー。御主人、モウ終ワリカヨ? モット斬ラセテホシイゼ」

「黙れチャチャゼロ。そもそも今回の戦いの目的は、アクセルがこちらの世界の技術をどれだけ身につけたか確認の為のものだったのを忘れたのか」

「チェー。マア、デモイイカ。コイツノオカゲで別荘ノ中ダケダガ戦イガ出来ルヨウニナッタンダシナ」

 

 チャチャゼロはそう言いながら両手で鉈と巨大ナイフをぶらぶらさせながら去っていく。エヴァはその後ろ姿を苦笑しながら見ていたが、すぐにこちらへと向き直った。

 

「炎の魔法に関してはまぁ、合格点をやってもいいだろう。もっとももう少し使える魔法を増やした方がいいと思うがな。だが、影の魔法に関しては影槍1本を作るのがやっとか?」

「まぁ、な。魔法に関しては炎を中心にやっているからどうしても影に関しては疎かになる。召喚魔法に関して言えばまだ何も手を付けていない状態だしな」

「それはしょうがないだろう。そもそも召喚魔法と言うからには、何かを召喚する必要がある訳だが……こちらの世界でその対象となるようなものは殆どいないしな。魔法世界にでも行けば、ドラゴンなりなんなりいるんだが」

「ドラゴンか……」

 

 ロボット物の世界を生き抜いてきた俺だけに……いや、だからこそか。ドラゴンという存在には非常に憧れる。

 出来ればその魔法世界とかいう場所に行って、ドラゴンなりなんなりを捕獲してホワイトスターの牧場で飼いたいものだ。

 

「取りあえず召喚魔法に関してはおいておけ。……それにしても、雪広あやかや那波千鶴も一緒に来る筈じゃなかったのか? 奴等の魔法の腕も見てみたかったんだが」

 

 エヴァのその言葉に思わず苦笑を浮かべる。確かに昨日の夜に今日の事を話した時には2人共来ると言っていたのだ。だが……

 

「あやかは馬術部の方で急な用事が。千鶴はボランティア先の保育士が熱を出してその代役としてな」

「ふん、なるほどな」

 

 どこかつまらなさそうに呟くエヴァだったが、それを横で見ていた茶々丸が見逃す筈も無く……

 

「マスター、いじけてる?」

 

 そう小首を傾げながら尋ねる。

 

「ええいっ、そんな訳がないだろうが」

 

 ダイオラマ魔法球の中という事もあり、空中に浮かんで茶々丸の頬をグニグニと引っ張る。

 

「じゃれ合いはその辺にしておけ。それで、影の魔法についてだが……」

「うーむ、アドバイスはしたいんだが……私としても使える影の魔法はゲートくらいだからな。そもそも以前も言ったと思うが、影の魔法は基本的にマイナーで使い手が少ない。関東魔法協会の本拠地であるこの麻帆良でも確か魔法生徒に1人いただけだった気がするしな。かと言ってゲートはそれなりに難易度の高い魔法だから、幾らお前が魔法の習熟度に関してバグ並だとしてもまだ早い」

 

 影のゲート。ようは転移魔法だな。聞いた話では水を使った転移魔法とかもあるらしいが……それなら火の転移魔法とかもあるんだろうか。と言うか、個人でポンポン転移出来るとか。システムXNの優位性が……

 

「召喚魔法は駄目。影の魔法はエヴァはゲートくらいしか使えないし、そのゲートに関しても俺ではまだ習得不可能。……となると、炎の魔法がメインになるのは変わらないか」

「だろうな。そもそもお前と私の得意な魔法属性が違う以上は詳細な助言は出来ないし、お前の魔力を考えると下手に私の言葉を聞くよりも自分のやりやすい方法で魔法を使った方がいいかもしれんな。……と言うか、それだけ魔法の才能があるくせに何で炎と影と召喚魔法以外は駄目駄目なのやら。普通なら自分に適性のない属性でもそれなりに使う事は可能なんだがな。私だって雷の魔法をある程度は使えるし」

 

 俺の様子を見ながら首を捻るエヴァ。恐らく俺の得意な属性というのは無いか、あるいはあったとしても炎、影、召喚のどれかだったのかもしれない。一応、他の属性の魔法も使えない事は無いのだが、消費SPが得意属性3つに比べて3~5倍、下手をしたら10倍とか消費するのだ。それならスキル覧にある3つを集中して覚えた方がいいだろう。広く浅くよりは狭く深くといった感じだな。

 結局その後は特に何が起きる事も無く、エヴァに今回の礼として血を数滴わけて別荘の中で1日が過ぎるまで適当に過ごしたのだった。

 ちなみに、俺はエヴァの書庫を借りて炎の魔法に関して勉強をしていた。

 尚、この時にエヴァの書庫で『紫炎の捕らえ手』という魔法が書かれている本を発見した。魔法の説明をざっと見た所では対象を円筒状の火柱で捕獲するという魔法らしい。火柱で捕獲というと対象が炎でダメージを受けそうだが、どうやら魔法自体に何らかの制御が働いているか何かしてある為、対象が火傷を負うという事態にはならないらしい。もっとも、その代わりといっては何だが火柱内は高温のサウナのように高熱であり同時に火柱も結界の役割をしており脱出するには何らかの魔力を行使しないといけないらしいが。

 炎の魔法で捕縛というのも珍しいが、同時に対象を火傷させないようにするというのもまた珍しい。自分に適性のない属性の魔法でもある程度使えるこの世界の魔法使いならもっと専門的な捕獲魔法を覚えるのかもしれないが、残念ながら俺は炎と影と召喚魔法以外は駄目駄目だ。なのでありがたくこの魔法は覚えさせて貰う事にしよう。

 それにエヴァ曰く『馬鹿魔力』である俺の魔力を上手く使えれば、それなりに使い所があるかもしれないしな。

 

「アクセルさん、お茶をどうぞ」

 

 魔法に関しての書物を読んでいると、唐突にそう声を掛けられる。声のした方を見ると、そこにはメイド服の格好をした茶々丸がお盆に紅茶のカップを乗せて立っていた。ちなみにお盆には他にもサンドイッチやクッキーといった軽食が乗っていた。

 

「悪いな」

「いえ、アクセルさんが来てくれるようになってからマスターが嬉しそうにしているのでそのお礼とでも思って貰えれば。それにマスターの従者としてはこの別荘に来てくれたのですから是非ともおもてなしをしたいと思っていましたし」

 

 おもてなし、ねぇ。エキドナやラミアに比べればまだまだ薄いが、それでも量産型Wと比べると確実に自我が発展している。

 魔法と科学を融合させたのがこの茶々丸らしいので、もしここにレモンがいたら茶々丸にどれくらいの興味を持つのやら。……楽しみなような、怖いような。

 少なくても、技術班……とマードック辺りは暴走しそうな気がする。

 

「あの、お口に合いませんでしたか?」

 

 黙って自分を見つめている俺に戸惑ったような態度で尋ねてくる茶々丸。

 その態度にも人間らしさを感じ、苦笑を浮かべながら何でも無いと首を振ってサンドイッチを口に運んだ。

 ちなみに、そのサンドイッチはエビのタルタルソース和えとレタスのサンドイッチで非常に美味かった事をここに記しておく。




名前:アクセル・アルマー
LV:38
PP:625
格闘:262
射撃:282
技量:272
防御:272
回避:302
命中:322
SP:462
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    ギアス(灰色)
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    ???
    ???

撃墜数:376

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