「げぇっ!」
ムラタと共に現れた俺の姿を見て、獪岳の口からは聞き苦しい声……それこそ悲鳴と呼ぶに相応しいような声が上がる。
獪岳にしてみれば、ムラタと一緒に行動しているだけでも罰ゲームのようなものなのに、そこに俺が姿を現したとなれば獪岳の反応もおかしくはないのだろうが。
「おいおい、そこまで驚く事はないだろう? 俺は一応お前の命の恩人なんだぞ?」
その言葉は、決して大袈裟なものではない。
それなのに何故俺を見て驚くのか。
「し……失礼しました……」
色々と言いたい事はあるのだろう、それでも獪岳は俺の方を見てそんな風に言ってくる。
かなり苦労して丁寧な言葉遣いをしているものの、別にそこまでする必要はないと思うんだがな。
「別にそこまで堅苦しい言葉遣いをする必要はない。公の場ではきちんとした言葉遣いをして貰う必要があるけどな」
「ぐ……わ、分かった……」
不承不承といった様子で、獪岳が頷く。
これはどう判断すればいいんだろうな?
普段は俺に丁寧な言葉遣いをしなくてもいいというのが不満なのか、それとも公の場ではきちんとした言葉遣いをしろというのが不満なのか。
普通に考えれば、やっぱり後者だろうな。
「それで、その、アクセル……さんは何故ここに?」
別にアクセルと呼び捨てにしても構わないんだが、一応さんづけをするというのは獪岳が色々と思うところがあるんだろう。
「ムラタに用件があってな」
「ムラタに……? そう言えば、何故ムラタは日輪刀を?」
俺の事はアクセルさんと呼ぶんだが、ムラタはムラタなんだな。
この辺は付き合いの長さによるものなんだろう。
「ああ。ムラタ、見せてやれ。それが一番手っ取り早い」
「構わんぞ」
俺の言葉に頷くと、ムラタは鞘から日輪刀を引き抜く。
今の時点では特に何も色が変わっていない普通の日輪刀ではあったが、ムラタが気で身体強化をした状態で柄を強く握り締めていくと……
「な……」
日輪刀の刀身が赤くなり、周囲に熱を放つ赫刀となったことに獪岳が驚きの声を上げる。
シャドウミラーと親しい者達の中では、既に赫刀というのはそれなりに知られている情報だった。
しかし獪岳はムラタと共に行冥の担当地区で鬼と戦い、あるいは修行を続けていた為に赫刀の件は全く知らなかったのだろう。
とはいえ、獪岳が赫刀を知ってもどうしようもないのは間違いないのだが。
鬼殺隊の中でも、純粋な力という点では最高峰の蜜璃ですら、赫刀を発動出来なかったのだ。
それなりの強さを持っていても、まだ柱には届かない獪岳にしてみれば赫刀を知っても自分で赫刀を発動させるといった真似はまず不可能だっただろう。
「これが赫刀。今のところはシャドウミラーの者達しか発動出来ていない、日輪刀の持つ可能性の1つだな」
「日輪刀の可能性」
「そうだ。で、問題なのはこの赫刀がどういう効果を持つのかが不明だという点だ。まさか人に対して使う訳にもいかないし、何より人と鬼で同じ効果を発揮するとは思えない。そうである以上、実際に鬼に使ってみるのが一番手っ取り早い」
その説明は獪岳にも十分納得出来たのだろう。
まだ少し……本当に少しだけだが不満そうな表情をしていたものの、俺の言葉に素直に頷く。
あるいは獪岳もまた赫刀という、日輪刀のもう1つの可能性が一体どのような効果を持っているのか、実際に自分の目で確認してみたいという思いもあったのだろう。
あるいは自分が鬼と戦える回数が減るのを不満に思っているのか。
普通なら鬼と戦う回数が減るのは望むところだろう。
しかし、獪岳にしてみれば鬼と戦うという実戦経験を積むという事を意味している。
行冥との約束によって、鬼との戦いで成果を挙げる必要がある獪岳にしてみれば、自分の手柄が減るというのは出来るだけ避けたいと思うのは当然だろう。
文字通りの意味で命懸けの戦いなのだから。
とはいえ、行冥にしてみれば十二鬼月はともかく雑魚鬼を幾ら倒してもそこまで評価しないと思うんだが。
「赫刀がどんな効果を持つのか……場合によっては、これが鬼殺隊の剣士を強化する切っ掛けになるかもしれないしな」
今のところ、鬼殺隊の剣士は赫刀を発動出来ない以上、絵に描いた餅でしかないが。
「実際に赫刀を使ってみる必要があるので、少し楽しみではあるな」
ムラタもまた俺の言葉を聞いてやる気に満ちているのか、そんな風に言う。
そして獪岳の師匠……というのとは少し違うが、それに近い感じの存在であるムラタがやる気に満ちているのを見ると、獪岳も何も言えなくなる。
「分かった。鬼との戦いでは、その赫刀を任せる。……アクセルさんは赫刀を使わないのか?」
「俺が握ると、赫刀とはまた別の状態になるしな。赫刀が日輪刀のもう1つの可能性であるというのはさっきも言ったが、俺が日輪刀を使うとそれはそれでまた別の形になるんだよ」
赫刀と俺が握った日輪刀の性質は違う。
赤系の色になるというのは同じだが、正確な色として比べると違う。
また、赫刀は熱を発するという効果を持つが、俺が握って赤く色の変わった日輪刀は熱を持たない。
ただし、赫刀は比較的短時間で元の色に戻るのに対して、俺が握った日輪刀は数時間は色が変わっている。
この辺は大きな違いだろう。
赫刀も俺が握って色の変わった日輪刀も、具体的にどのような効果を発揮するのかはまだ分からないのだが。
「アクセルさんの日輪刀は別なのか。……話は分かった。それで、鬼と戦うのは具体的にいつになるんだ?」
「出来るだけ早くだな。刀鍛冶達も出来るだけ早く日輪刀に関して知りたいと言っていたしな」
赫刀が具体的にどのような能力を持つのか、出来るだけ早く確認したい。
そう思うのは俺だけではなく、刀鍛冶達も同様だった。
「そうなると……やはり今夜だな」
ムラタのその言葉に、俺は頷く。
少しでも早く鬼に対する赫刀の性能を確認したい俺としては、ムラタのその言葉に素直に頷くしかない。
「とはいえ、問題なのは今夜やると思っても具体的に今日すぐに鬼が動いてくれるかどうかだよな」
鬼と戦う以上、結局は鬼が動いてくれなければ意味はない。
こればかりはこっちの都合でどうこう出来る問題じゃないしな。
「その辺は問題ないだろう。何匹か鬼と戦ったが……基本的に鬼は自分が人間の上位種だと考えている」
「なるほど。鬼は太陽が駄目という致命的な欠点があるものの、純粋な身体能力は人間とは比べものにならないし、日輪刀以外の武器で攻撃されれば首を切断されても生きていられる。そして血鬼術という特殊能力も使えるとなれば、そんな風に考えてもおかしくはないか」
また、言葉には出さないが鬼が人間を食うというのも、自分達が人間よりも上の存在であると認識する理由になっているのだろう。
「そうなるな。だから基本的には鬼が人間を怖がって姿を現さないという事はない。もっとも、中には慎重な奴もいるらしい。そういう鬼は、それこそ危険を察知するとすぐにその場から逃げ出すから厄介だ。……だろう?」
「ああ、噂で聞いた話だと、十二鬼月の中には柱が近付くとすぐに逃げるような奴もいるとか。これは噂だから、何とも言えないけど」
普通の鬼だけじゃなくて、十二鬼月でも逃げるのか。慎重だな。
俺がこの世界に転移してきた時に戦った、糸を使う十二鬼月の鬼は俺と向き合ってもお互いの実力差を全く理解出来ず、結局そのまま俺と戦って死んだけどな。
鬼であっても、それぞれに色々な個性があるという事らしい。
「今回狙っている鬼が、獪岳の言ってるような鬼じゃないといいんだけどな」
「アクセルがそういう事を言うと、実現しそうで困る。何だったか。確かフラグだったか?」
おい、一体誰がムラタにフラグなんて単語を教えたんだ?
そう思うも、シャドウミラーの面々を考えれば普通に何人も候補者が出て来る。
「フラグ?」
獪岳がフラグという言葉に不思議そうな様子を見せているものの、そちらは取りあえずスルーしておく。
けど、本当にフラグがどうとかならないよな?
そんな風に思いながら、取りあえず夜まで時間を潰すのだった。
「よし、フラグなんてなかった!」
夜、俺は目の前にいる鬼を前にして、そう叫ぶ。
20代程の男の鬼は、俺の言葉に一体何を言ってるんだといった表情をしている。
それどころか、どこか馬鹿にしたような笑みすら浮かべていた。
「はっ、何を言ってやがる。鬼殺隊が3人かと思ったら、1人だけじゃねえか」
鬼の視線が向けられているのは、黄色の刀身の日輪刀を手にした獪岳の姿。
獪岳だけを鬼殺隊と判断したのは、日輪刀を持っているのもそうだが、やはり鬼殺隊の制服を着ているからだろう。
「ムラタ、頼む。俺はこいつを逃がさないようにするから」
「おう」
「ああ!? 俺を甘く見てるのか!」
自分の言葉を無視されたのが気にくわなかったのか、鬼は苛立ち混じりに叫ぶ。
叫ぶが……俺が指を鳴らすと俺の影から影槍が伸びて鬼の周囲に何本も伸びる。
鬼の身体を突き刺すのではなく、その周囲を覆うように放たれた影槍は、鬼を全く身動き出来なくする。
それでいながら、鬼の身体には傷をつけていない辺り、コントロールが上手くいったといった感じか。
「な……てめえっ! 鬼か!? いや、違う。だがこの血鬼術は……」
へぇ、どうやらこの鬼は血鬼術の存在は知ってるらしい。
血鬼術を使えない鬼もいるという話だったし、それを思えばこの鬼はそこそこ優秀といった感じなのか?
だとすれば、赫刀で殺すのは勿体ないかもしれないな。
それに技術班から鬼のサンプルが欲しいという話も聞いていたし。
そう考えると……いや、でもどのみち赫刀の手掛かりは欲しいしな。
「血鬼術、血刃!」
俺が鬼をどうするか考えている間に、鬼は自分が危機だと判断したのか、血鬼術を使う。
しかし、その血鬼術は手から血の刃を作るという、それなりに便利そうではあるが、結局その程度でしかないものだった。
俺が戦った十二鬼月の血鬼術は、糸を操るものだった。
それもただの糸ではなく、いわゆる鋼糸に近い存在。
それに比べると、この鬼の血鬼術は……
「な……馬鹿な!?」
血の刃で影槍を切断しようとしたものの、結果的にその攻撃は意味を成さない。
文字通りの意味で刃が立たないのだ。
俺の魔力で生み出された影槍だけに、かなり頑丈なのは間違いない。
ムラタとかが神鳴流を使って攻撃すれば槍も切断出来るだろうが。
「ムラタ、頼む」
「任せろ」
鬼が身動き出来ない状態になったのを確認したムラタは、日輪刀を抜く。
ムラタが日輪刀を抜いたのを見た鬼が、引き攣った表情を浮かべる。
現在鬼はろくに動けない状態だ。
そんな中で、鬼にとって自分を殺す武器である日輪刀を手にしたムラタが近付いてきたのだから、それも当然だろう。
動かせる部分の手を動かし、必死になって影槍を切断しようとするも、どうにも出来ない。
「は……はは……日輪刀を持ってるからって、俺をどうにか出来ると思うなよ!」
強がりであるのは明らかだったが、それでも鬼は血の刃を使い、必死になってムラタを牽制する。
だが、ムラタはそんな相手の様子を全く気にした様子もなく、気による身体強化を行い、日輪刀の柄を強く握り締めた。
それにより日輪刀の刀身が赤くなり、周囲に熱気を放つようになる。
「な、何だそれは!」
鬼は初めて見る赫刀を前に、怯えの色を強くして叫ぶ。
日輪刀は、刀身こそ色が変わるものの熱を放つといったような事はない。
それだけを見ても、赫刀の特殊さが理解出来る。
当然ながら、赫刀はシャドウミラーの者しか発動出来ない以上、鬼も赫刀を見るのは初めてだろう。
人間は未知の存在を怖れると言われているが、未知の存在に恐怖するのは鬼もまた同じだったらしい。
ムラタは赫刀を手に鬼との間合いを詰め、一気に振るう。
そのタイミングに合わせて影槍を解除すると、鬼はこれ幸いと逃げようとするものの……次の瞬間、鬼の右足が太股からあっさりと赫刀によって切断される。
「ぎゃああああああああああああああああっ!」
すると鬼の口からそんな悲鳴が上がる。
悲鳴……悲鳴?
いやまぁ、鬼は日輪刀で首を斬られない限り刃では死なないが、それでも痛みは感じるらしい。
それを思えば、赫刀で斬られた痛みに悲鳴を上げてもおかしくはないと思う。
しかし、それでもここまで露骨に悲鳴を上げるというのは……どうなんだ?
「獪岳、日輪刀で斬っても鬼はああいう悲鳴を上げるのか?」
「……え? あ、いや。痛がるけど、あそこまで悲鳴は上げないと思う」
赫刀で斬られた鬼の様子に眼を奪われていた獪岳だったが、俺の質問で我に返ったのか、質問に答える。
なるほど。だとすれば、赫刀は日輪刀よりも鬼に有効と考えてもいいのかもしれないな。
その後もムラタは何度か鬼の身体を赫刀で攻撃し、赫刀の使い道を試し……そして数分後、鬼は泣き叫びながら許しを請うのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730