「ありがとう、アクセル。君のおかげで杏寿郎を含めて皆が無事に帰って来る事が出来たよ」
猗窩座との一件があってから、数日。
鬼殺隊の方でも忙しさが一段落したらしいので、久しぶりに産屋敷家に顔を出してみたところ、耀哉に会うなりそのように頭を下げられた。
耀哉にしてみれば、心からの感謝の気持ちがあってのものなだろう。
それは分かるが、だからといって組織の長の立場にある者がこうもあっさり頭を下げるのはどうかと思う。
「気にするな、あの一件は俺にとっても色々と利益があったんだ」
「上弦の参と随分と友好的だったらしいね」
顔を上げた耀哉が、穏やかな口調で聞いてくる。
とはいえ、その内面では必ずしも納得はしていないのかもしれないが。
「そうだな。俺の抱いていた鬼というイメージとは、随分と違う鬼だった。あれは……鬼というより、武人といった感じだな」
「それでも鬼であるのは間違いないよ」
「分かってる。だが、それでも猗窩座と話した限りでは……そうだな、これは耀哉には言っておくか。もし猗窩座との交渉、あるいは賭けが上手くいった場合、俺は猗窩座を召喚獣とするつもりだ」
「……召喚獣? それは確か、刈り取る者とかいう……」
耀哉は目が見えないので、実際に刈り取る者を見たことはない。
だが、刈り取る者を見る事は出来なくても、刈り取る者が発する雰囲気を感じる事は耀哉にも十分に出来る。
「そうだな。まぁ、猗窩座と刈り取る者では色々と違うから単純に比較は出来ないだろうけど」
刈り取る者と猗窩座では、契約前の状況が大きく異なる。
猗窩座が俺と契約した場合、どうなるのかは分からない。
刈り取る者とグリの共通点を考えれば、猗窩座の身体が大きく作り替えられる事は間違いないだろうが。
それが具体的にどうなるのかは、予想出来ない。
その辺を予想するにも、前例が少なすぎるので何とも言えないんだよな。
「アクセルがそのつもりなら、私からは反対は出来ない。けど、鬼殺隊の中にはアクセルの行動を許容出来ないという者もいるかもしれないよ」
「だろうな」
鬼殺隊の中には鬼を憎悪している者が多い。
そんな中で、俺が鬼を助けるような真似をすれば、それが気にくわない者もいるだろう。
特に実弥や小芭内といったような鬼に対しての強硬派とも呼ぶべき者達にしてみれば、そんな俺の行動は絶対に許容出来ないという者もいるのは間違いない。
とはいえ、実弥や小芭内の思いは理解出来るが、だからといって俺にはシャドウミラーとして行動する必要があった。
それに鬼の情報を得るという意味でも、猗窩座を確保するのは間違いなく大きな意味を持つ。
「だが、実弥や小芭内には鬼舞辻無惨の方を見て貰えばいいだろう。……猗窩座が転移したと思われる場所には鬼舞辻無惨はいなかったのか?」
多分いないんだろうなと思いつつも、一応尋ねる。
もし鬼舞辻無惨のいる場所が判明したのなら、耀哉もここまでゆっくりと出来てはいないだろう。
それこそ、鬼殺隊全員でその場所に集結して攻撃をしていてもおかしくはなかった。
いやまぁ、実際には鬼には転移の血鬼術を使える奴がいる以上、猗窩座の転移した場所に鬼舞辻無惨がいても、戦わずに逃げられる可能性が高いんだが。
そして案の定、耀哉は俺の言葉に対して首を横に振る。
「隠を派遣したけど、残念ながら鬼舞辻無惨と思しき者は発見出来なかったよ」
「そうか」
本当に鬼舞辻無惨が猗窩座の転移先にいなかったのか、あるいはいても見つけられなかったのか。
正直なところ、その辺は分からない。
もしかしたら以前予想したように、一度に転移出来る距離には制限があって、それで一度出た……という可能性もあるのだから。
「それに、アクセルから預かったあの機械……常に動かしてはいるものの、反応はないんだ」
「となると、鬼がいるのは異世界というか、異次元の可能性が高いな」
ホワイトスターが設置されている、世界と世界の狭間というくらいに大袈裟なものではなく、あくまでもこの鬼滅世界だけに存在する異次元といった感じの場所。
本当にそのような場所があるのかどうかは、正直なところ分からない。
分からないが、猗窩座の反応がないのを見ると恐らく間違ってはいないと思う。
……もしかしたら、本当に猗窩座が発信器を見つけて、それを壊したという可能性もあるんだが。
「とにかく、だ。これで杏寿郎に任せていた仕事は解決した。そう思っていいんだな?」
「解決……どうだろうね。鬼の被害がこれ以上出なくなったのは間違いないけど、大規模な汽車の事故ということで、かなり噂になってるのは間違いないんだ。現在はその噂を何とかして消してるところだよ。他にもあの事故で損害を受けた相手に対する補償もある」
「そこまでやるのか」
「そうだね。私達の戦いに巻き込まれた人達なんだ。その人達を相手に補償するのは当然だろう?」
律儀、と表現するのがいいんだろうな。
本来なら鬼の騒動で出た被害を補償する必要はないんだろうに。
とはいえ、汽車の件で支払うのは結構な金額になると思う。
それを支払う事が出来るのが、産屋敷家の力を示していた。
「補償するのは当然かもしれないが、それについては耀哉がいなくても問題はないんだろう? なら、治療と解呪はそろそろやった方がいいんじゃないか?」
「そうだね。元々その予定になっていたから、それについては否定しないよ」
「なら、具体的にいつになる?」
「それはすぐに答える事は出来ないね。色々とやっておく必要もあるだろうし」
耀哉のその言葉に、俺はそうかと頷く。
実際に出来るだけ早く耀哉の治療と解呪をする必要があるのは間違いないが、同時に鬼殺隊としての行動を考えると耀哉を今この場ですぐに連れていく訳にもいかない。
……柱の面々に聞けば、それこそ今すぐにでも耀哉を連れていって欲しいと言うかもしれないが。
「分かった。けど、出来るだけ早くしろよ。鬼殺隊の面々……特に柱も、耀哉には早く健康になって欲しいと思っているんだから」
これは間違いない事実だ。
何しろ何人かの柱は時間を見ては蝶屋敷にやってきているのだから。
正確には蝶屋敷ではなく、蝶屋敷の側にあるゲートにだ。
そうして量産型Wに耀哉の治療や解呪についての話を聞いているらしい。
この辺に関しては報告を受けていた。
それだけ柱達も耀哉には出来るだけ早く健康な状態に戻って欲しいのだろう。
「そうだね。皆に心配を掛けるのもどうかと思うし、あまねも私の治療と解呪には期待している。そうである以上、出来るだけ早くこちらの用事を終わらせてホワイトスターに向かうよ」
そう耀哉は告げる。
なるほど。柱だけではなく妻のあまねもか。
夫の耀哉を心配するのは、妻として当然だろうが。
そして当然のように妻だけではなく、輝利哉を始めとした子供達もまた父親の事を心配している筈だった。
「そうしろ。こっちの方はいつでも準備は出来ている。それこそ耀哉がその気なら今からすぐにでもな」
「いや、だから今すぐは無理なんだよ」
「それは分かってる。ただ、それでも問題はないというのを言いたかっただけだ」
この辺は組織の大きさの差があるだろう。
シャドウミラーは影響力という点では幾つもの世界に対して大きな影響力を持っているが、純粋な組織の規模となると……うん。国ですらない鬼殺隊と比べてもかなり小さい。
実際には量産型Wとかコバッタとかがいるし、1時間で2日間の休憩が出来る魔法球といった諸々があるのでどうにかなってはいるのだが。
とはいえ、組織が小さいことは悪い事ばかりではない。
今の例えのように、人数が少ないからこそフットワークの軽い者が多い。
耀哉に言ったように、もし本当に今から耀哉がホワイトスターに来るとなった場合、本当にすぐにでも治療と解呪は可能だ。
何しろレモンと木乃香の2人がいればいいのだから。
「そうだね。3日……いや、5日後にしよう。それだけの時間があれば、こちらの仕事も一段落するだろうしね」
「絶対だな? その時になって実はまだ行けないとか言い出したら、こっちも強引に連れていくぞ」
「分かった。そうならないように頑張るよ」
そう言い笑みを浮かべる耀哉。
少しでも仕事を進める必要があるというので、俺はその場を後にする事にする……前に、空間倉庫から幾つかお菓子を取り出す。
「これ、どら焼きだ。ただし普通のどら焼きじゃなくて、いわゆる生ドラって奴だな」
「……生ドラ? 何だい、それは?」
当然だが、耀哉は生ドラについて知らなかった。
「生クリームって知ってるか?」
「いや、知らないな」
あっさりと耀哉に言われてしまい、説明にちょっと困る。
生クリームって、具体的にいつくらいに日本に入ってきたんだ?
大正時代ならあってもおかしくはないと思うんだが。
「そうだな。西洋の……何て説明すればいいんだ? まぁ、西洋の甘味の1つだ。それを餡子と一緒にどら焼きに入れた奴だな」
初めて聞いた時は、生クリームと餡子が合うのか? と疑問に思ったが、実際に一口食べてみれば生クリームと餡子の相性は決して悪くない。
いや、それどころかお互いにいい場所を高め合うといった感じで、非常に美味かった覚えがある。
バター餡子トーストとかいうのもあるらしいし、意外と和洋折衷というのはいいらしい。
ただし、ウナギとゼリーを組み合わせたり、ゴーヤとクレープを組み合わせるのは禁止だが。
「取りあえず……実際に食べてみれば分かるだろ。ほら、これだ」
包装紙を外し、耀哉に渡す。
例によって例の如く、この生ドラもペルソナ世界のスーパーのデザートコーナーで購入した物だ。
日本人が料理に向ける情熱というのは、本当にもの凄いものがあるよなとしみじみ思う。
「ありがとう。では……ほう、これは……」
一口食べて、生クリームと餡子のハーモニーを味わったのだろう、耀哉は嬉しい驚きに笑みを浮かべる。
「美味いだろう?」
「ああ、私もあまねから色々と珍しいものを食べさせて貰うことがあるけど、これは凄いね」
あまねが耀哉に色々ものを食べさせるのは、耀哉に少しでも食事をして欲しいからだろう。
耀哉は呪いのせいでどうしても食事量が減ってしまう。
そうして食欲が減れば、当然のように身体の健康にも悪影響が出てくる。
あまねとしては夫に呪いに抵抗して、少しでも長生きして欲しいと思うのは当然だろう。
だからこそ、あまねは珍しい料理、耀哉が興味深いと思える料理を用意したのだ。
当然だがそのような真似をするには、相応の金額が必要になるが……あまねの実家や、産屋敷家は結構な財産があるのだろう。
というか、そうでもなければ鬼殺隊を運営は出来ないだろうし。
これで政府公認の組織なら鬼殺隊にも補助金が出たりするのかもしれないが、政府非公認だしな。
とはいえ、鬼の件やその後始末の事を考えれば政府と全く繋がりがないという訳でもないのだろうが。
「じゃあ、生ドラは他にも幾つか置いていくぞ。あまねや子供達にも食べさせてやるといい。……ただし、生クリームは傷むのが早いから、出来るだけ早く食べてしまった方がいいぞ」
これが普通のどら焼きなら常温で保存してもそこまで問題がないのだが、生クリーム入りとなると、どうしても保存が厳しくなる。
冷蔵庫の類があればいいんだが、この時代にはまだそういうのはないしな。
あれ? ないよな?
確かTVか何かで昭和の三種の神器は洗濯機、TV、冷蔵庫とかやっていたのを見た記憶があるし。
まぁ、冷蔵庫がなくても氷室とかそういうのがあればどうにか出来るかもしれないけど。
「ああ、分かったよ。アクセル、私の家族にもありがとう」
「別にそこまで気にするような事じゃないけどな。それに……うん、耀哉だけが新しい甘味を食べたとなると、色々と不味いだろうし」
「不味い? 何がだい? 生ドラだったか。これは美味しいけど」
「いや、違う。いいか、結婚している耀哉に言うような事でもないかもしれないが、女というのは甘味に貪欲だ」
特にこの鬼滅世界においては、その傾向が強い。
これは単純にこの世界においてはあまり甘味が発展していなからというのが大きいのだろう。
これがホワイトスター……もしくはネギま世界やペルソナ世界、それ以外であっても一定以上の文明が発展している世界なら、生ドラを始めとしたケーキの類は食べたいと思えばスーパーやコンビニで普通に購入出来る。
しかし、この鬼滅世界では俺達が普通に食べている甘味の類は売っていない……以前にそもそも存在していない。
そうである以上、あまねやその娘達が甘味を入手するのはシャドウミラーのメンバーから貰う必要がある。
自由にホワイトスターに行き来出来るのなら、向こうで普通に買えるのだが。
「そういうものかい? なら、アクセルの言葉に従っておこう。あまね達も喜ぶだろうしね。……ああ、そうだ。刀鍛冶達がアクセルに来て欲しいと言っていたよ」
「刀鍛冶達が? 分かった、今は急ぐことはないし、行ってみるよ」
そう言い、俺は耀哉の部屋から出るのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730