堕姫は俺の言葉に完全に頭にきて、その美しい顔を歪ませながらも次々と帯を放ってくる。
鞭と刃が組み合わさったかのようなそんな攻撃だったが、俺はその攻撃を次々と回避していく。
そうして回避しながら、炭治郎に視線を向ける。
だが……今の炭治郎は、とてもではないが戦える状態ではない。
地面に座り込み、荒い息を吐いていた。
あれは……日の呼吸の使いすぎか?
堕姫と正面からでもある程度渡り合えていたのは、炭治郎が使っていたのが日の呼吸だったからだ。
しかし、その日の呼吸も炭治郎は完全に使いこなせている訳ではない。
エヴァ、杏寿郎、杏寿郎の父親……そんな相手と模擬戦を重ねてきた炭治郎だったが、それでもやはり単独で十二鬼月を、それも下弦ではなく上弦の鬼を相手にするのは難しかったのだろう。
とはいえ、上弦の陸という上弦の鬼の中でも最も位の低い鬼との戦いだ。
そうである以上、そんな相手との実戦経験を積ませることが出来るのは悪くない話だ。
出来れば早いうちに復活して欲しいんだが。
「どこを見ているの!」
俺が炭治郎のいる方を向いていたのが気にくわなかったのか、堕姫は苛立ち混じりに帯を振るう。
その帯は俺に向けて……だけではなく、周辺にある建物や地面に向かっても放たれていた。
堕姫の攻撃力は高いし、その効果範囲も広い。
だが、その一撃の精度という点では明らかに劣っている。
いやまぁ、上弦の陸の堕姫を上弦の参の猗窩座と比べるのがそもそも間違っているのだろうが。
「俺に自分だけを見て欲しいって? まぁ……そうだな。お前がそう言うだけの美貌を持ってるのは認めるよ」
「あら、分かってるじゃない。だからって手加減はしてあげないけどね!」
遊郭にいただけあって、自分の美貌については自信があるのだろう。
堕姫はそんな風に言い、笑みを浮かべつつも帯を振るう速度が落ちる事はない。
それどころか、今まで以上の速度でこちらに向かってくるが……その結果として、俺だけではなく周囲に与える被害も大きくなっていく。
堕姫を自由にさせるのは、色々と不味いか?
そう思うも、炭治郎が回復するまでの時間は稼ぐ必要があった。
「お前が自分の美貌を自慢に思ってるのは分かるが……それでも、俺の恋人達には及ばないな。いや、及ばないどころか数段落ちる」
ピキリ、と。
堕姫は俺の言葉を聞いた瞬間、額に血管を浮かび上がらせる。
堕姫にしてみれば、自分の美貌が他人に劣るというのは決して許容出来ない事だったのだろう。
とはいえ、これは別に俺が堕姫を挑発する為に言った訳ではない。
純粋に、俺の感想としてそう言ったのだ。
堕姫は俺の恋人達の誰よりも劣る美貌を持つ。
それは俺の絶対的な価値観ではある。
「怒ったのか? 悪いな、俺は真実しか口に出来ないんだよ。……お前は外見はそれなりだが、その内部が腐っている。それが外見にも影響していて、とてもではないが抱きたいとは思えないな」
「アタシだって、あんたみたいな男はごめんよ!」
その叫びと共に、再び振るわれる帯。
当然のように周辺にある建物も巻き込んではいるものの、その狙いが俺だけであることは悪い話ではない。
そうして帯による攻撃は更に凶悪なものとなる。
だが……そんな攻撃は、俺の振るう日輪刀によってあっさりと斬り裂かれていく。
「どうした? その程度か? お前にとって、怒りはその程度か? そんなのだと、外見だけじゃなくて戦闘能力という点でも俺の恋人達には及ばないな。お前みたいな女が上弦の陸なんだから、鬼舞辻無惨も人材に恵まれてないよな。……まぁ、それだけ無能なんだろうが」
「このっ!」
堕姫は鬼舞辻無惨に心酔してるのか、鬼舞辻無惨を馬鹿にされると怒髪天を衝くといったような感じで、帯を振るってくる。
しかし、頭に血が上っている……いわゆるヒステリー状態なだけに、堕姫の攻撃は隙が大きくなる。
これは……もしかしたら、それなりに情報収集出来るか?
というか、今更……本当に今更の話だが、十二鬼月か、あるいは上弦の鬼同士で情報の共有はしていないのか?
いやまぁ、猗窩座の性格を考えればそれは当然なのか?
猗窩座にしてみれば、俺との戦いは猗窩座にとって出来れば誰にも知られたくないものだろう。
そんな猗窩座が俺の情報を進んで話すかと言えば、少し考えにくいだろう。
勿論、鬼舞辻無惨は猗窩座から俺の話を聞いているので、そちらから上弦の鬼や十二鬼月に話をしている可能性もあるが、堕姫の様子を見る限りでは俺についての情報を何か知ってるようには思えない。
だとすれば、鬼舞辻無惨が話していないのか、もしくは堕姫が覚えていないのか。
……何だかこの堕姫の性格を知ると、後者のような予感がしてくるな。
堕姫は上弦の陸だけあって、鬼としては高い実力を持つ。
しかし、その性格が単純というか、幼いというか……そんな感じだ。
それだけに、興味のない話は最初から覚えていないといったような事になってもおかしくはない。
目の前に迫ってきた帯を回避し、横から日輪刀で切断しつつもそんな風に思う。
また、帯を使った攻撃は十分に強力ではあるが、先程から思っていたように周辺の被害が大きすぎる。
本人の実力がそれだけ強力なら、もっと相手の意表を突くような攻撃をしてきたり。あるいは周囲に与えるダメージを自分に向けて集中させるといったような真似をしてもおかしくはない。
だが、堕姫の攻撃にはそのような様子は全く見えない。
それはつまり、堕姫は今までずっとこんな風に戦ってきたという事だろう。
勿論、堕姫は上弦の陸になるだけの実力の持ち主だけに、戦術とかそういうのを全く考えなくても相手を倒す事が出来た筈だ。
それによって堕姫は上弦の陸になった。
そう予想するのは難しい話ではないが……あるいは、だからこそ上弦の陸で止まっており、より上位の鬼になる事は出来ないといった感じなのかもしれないな。
「どうした? 本当にその程度なのか? お前がその程度の実力しかないなら、やっぱり鬼舞辻無惨は見る目のない無能って事になるが、それをお前が証明するのか?」
その言葉に、堕姫は更に怒りを露わにする。
帯の攻撃は威力こそ増したものの、精密性という点では明らかに劣っていた。
こんな堕姫の様子を見ると、何らかの鬼に対する情報を聞き出せるか?
青い彼岸花の一件を考えると、上手い具合に情報を入手出来る……かもしれない。
だが、鬼舞辻無惨は当然のように堕姫の目を通してこっちの情報を入手している可能性が高い。
そんな中で青い彼岸花について聞くといったような真似をすれば、鬼舞辻無惨を警戒させる事になるだろう。
青い彼岸花についての情報は、出来るだけ秘匿する必要がある。
現在耀哉は青い彼岸花を使って鬼が関係しているだろう貿易商に罠を仕掛けようとしている。
貿易商に鬼が一体どれだけ関わっているのかは分からない。
青い彼岸花も、実は鬼舞辻無惨とは全く関係ない可能性もあるのだが……その辺実際にやってみる必要がある。
「アクセルさん!」
と、不意に炭治郎が鋭く叫ぶ。
「分かってる。どうやら事態が動いたようだが……取りあえず、燃えろ」
空中を飛ぶようにしてこちらに向かって来たのは、帯。
それは堕姫が使っているのと同じ帯だ。
ただし、その帯は堕姫に使われているのではく、帯だけで空中を飛んで堕姫に向かっていた。
その帯が何なのかは分からない。
分からないが、それでも今の状況を思えば堕姫にとってのプラスとなる要素なのは間違いない。
そうである以上、それをそのまま堕姫の方に向かわせるのはどうかと思い、帯の進行方向に白炎を生み出す。
先頭を飛んでいた帯が白炎に触れ、即座に燃えつきる。
それを見た堕姫は殺気の籠もった視線をこちらに向けてくるも、素早く地面を跳躍して建物の屋根に着地し……すると帯は進行方向を変えて、屋根の上にいる堕姫に向かう。
再度白炎を使い、空を飛んでいる帯の最後尾を燃やすが……それでも帯の大半は、堕姫の身体の中に吸収されていった。
すると、堕姫の身体に変化が生まれる。
一番大きな変化は、髪の毛が黒から白に変わった事だろう。
それがプラスの変化なのか、マイナスの変化なのかは、俺にも分からないが。
ただ、この状況で堕姫が自ら望んでこのような姿になったという事は、間違いなくプラスの変化……つまり、パワーアップなのだろう。
「アクセルだったわよね……こうなったら、あんたはもう絶対に許さないから!」
そう叫び……って、おい!?
堕姫の様子から何をするのかを大体理解すると、瞬動を使って一気に堕姫との間合いを詰めて空中に向かって蹴り上げる。
「きゃあっ! 何をするのよ!」
空中で身を翻し、堕姫はこちらに向かって帯を投げてくるが……それは俺の持っている日輪刀によって切断される。
空中で身動きが取れない堕姫に向かい、俺は空を飛びながら、そして虚空瞬動を使いながら何度も蹴りを放ち、上へ上へと吹き飛ばしていく。
いっそこのまま成層圏を脱出して太陽まで連れていくか? といったような事を考えたが、そんな真似をするのはかなり大変だろうとすぐに却下した。
代わりに、そのまま堕姫の顔を掴み……
「何するのよ、この……離せぇっ!」
顔面を掴まれた堕姫が騒ぐのを無視し、地上にいる炭治郎に叫ぶ。
「このまま遊郭で戦っていれば、被害が大きい! 人気のない場所まで移動するから、追ってこい!」
そう叫び、こちらに向かって放たれる帯の一撃を白炎で燃やしながら、遊郭の上空から離れる。
幸い……という言い方はどうかと思うが、ここは大正時代の鬼滅世界だ。
平成世界の東京のように開発されていない場所も多い。
つまり、自然のままの場所も多いのだ。
先程、帯を吸収した堕姫は周囲の様子を関係なく、今まで以上に無差別に攻撃しようとした。
まぁ……考えてみれば、鬼の堕姫にとって人間というのは餌だ。
自分が人間の上位種だと思っている堕姫にしてみれば、遊郭にいる者達を幾ら殺しても全く問題ないと判断しているのだろう。
見ず知らずの相手とはいえ、兵士でも何でもない普通の人間が俺の戦いに巻き込まれて死ぬというのは、面白い話ではない。
そうである以上、堕姫が暴れても問題ない場所……周囲に家とかが建っていないような場所に連れていくのが一番だった。
「離しなさい! 離しなさいよ、この!」
再度帯を飛ばしてくる堕姫だったが、既に遅い。
俺の飛行速度により、遊郭から脱出して浅草からも離れ……周囲には家が一軒も建っていない林に到着していた。
ここでなら、堕姫が幾ら暴れても問題はないだろう。
……まぁ、こんな林であっても動物や鳥といった生き物はいるので、ここで暴れれば、それらは命を失うような事になるかもしれないが。
若干申し訳ないとは思うが、さすがにそこまで構ってはいられない。
そもそも、命という事であれば植物だって生きているのだから。
「ほら、離したぞ。これで満足したか?」
「っ!? ……一体アタシをどこに連れて来たのよ!」
周囲の様子を見た堕姫は、苛立ち混じりにそう叫びながら帯を放ってくる。
先程遊郭で戦っていた……髪が黒い時と比べても、間違いなくこっちに飛んでくる帯の速度は速いし鋭い。
だが、それでも……
「これだけか?」
こちらに飛んでくる帯を、一瞬にして全て切断する。
槍ならゲイ・ボルクでそれなりに使い慣れているが、刀の類はあまり使い慣れていない。
一応物干し竿があるが、あれは基本的に綾子が使っているしな。
そういう訳で、俺の振るう日輪刀は太刀筋という点では決して鋭くはない。
だが、それでも今まで培ってきた戦いの経験からすると、ある程度は何とかなる。
それだけではなく、混沌精霊となって得た身体能力とかも、この場合は有効だった。
「きぃっ! 人間の癖に生意気ね!」
「へぇ」
堕姫の言葉に、俺はそんな声を出す。
どうやら堕姫の目から見ても、今の俺は普通の人間に見えるらしい。
いやまぁ、それはそれで別に構わないのだが。
これは堕姫に相手を見抜く力がないのか、そもそも鬼から見て混沌精霊の俺は人に見えるようになっているのか。
正直なところその辺の事情は俺には分からないが、それはそれで別にいい。
今の俺がやるべきは、それこそ堕姫との戦いで時間を使わせる事だけなのだから。
目的としては、恐らく現在ここに向かっているだろう炭治郎に上弦の陸との戦闘経験を積ませる事。
炭治郎がこの世界の主人公だとすれば、少しでも炭治郎に強くなって貰う必要があるのだから。
実戦経験を積ませるという意味では、遊郭での戦いは色々と不味い。
この林なら、自由に暴れても問題はないので……つまり、今の俺がやるべきことは、炭治郎が到着するまで戦いを長引かせる事だ。
「さて、堕姫。お前が今日ここで死ぬのは間違いない。上弦の陸……上弦の鬼が減ると、鬼舞辻無惨は一体どんな風に思うんだろうな」
「ふざけたこと言うんじゃないわよ!」
俺の挑発に堕姫は苛立ち混じりに叫び……帯をこちらに放ってくるのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1810
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1730