転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0305話

 ふと気が付く。俺の目に入ってきたのは、地面と周囲に何もない真っ白な空間だった。

 延々と何処までも続くその地平線を見ながら、気を失う前の事を思い出す。

 そうだ、俺はエヴァの固有魔法である闇の魔法を覚える為にスクロールを開いたんだったな。そうしたら黒い塊、それこそ闇としか表現出来ないようなものが現れて俺を呑み込んだ。

 

『ふん、ようやく気が付いたか』

 

 唐突に背後から声を掛けられ、咄嗟にその場から飛び退いて声のした方へと振り向く。そこにいたのは……いや、存在したのは闇の塊とも言える存在だった。1m程度の大きさを持つその塊は不定形にグニャグニャと蠢いている。

 

「誰だ?」

『私か? 私は……そうだな。人造精霊とでも表現しておこうか』

「人造精霊?」

『うむ。マスター・エヴァの手によりスクロールの使用者に闇の魔法を習得させる為に造られた存在だ。もっとも私はプロトタイプで1回しかその身を現す事は出来無いがな』

 

 妙に甲高い声で話す度に闇の塊がグニュグニュと蠢いているのは仕様か何かだろうか。

 

『さて、お前が私の世界に来たという事は、闇の魔法の習得を希望するという事で間違い無いな?』

「ああ。その通りだ」

『良かろう。……ならば、構えろ』

「何?」

『構えなければ……死ぬぞ。肉体的な死では無く、精神の死だがな』

「おい、一体何を……っ!?」

 

 最後まで言葉を紡ぐ事無く、咄嗟に地面を蹴ってその場を離れる。

 

 轟っ!

 

 次の瞬間には、つい数瞬前まで俺がいた場所に闇の炎とでも表現出来そうな黒い炎が燃え上がっていた。

 

「ちぃっ、問答無用か!? スライムっ!」

 

 殆ど反射的と言ってもいい反応でスライムを展開する……否、しようとした。

 だが、俺の周囲にはいつものようにスライムの触手が出て来る事も、空間倉庫の穴が展開されるような事も無く、ただ俺の声が周囲へと響いただけだった。

 

「何、だと?」

 

 今まで20年以上を生きてきたが、空間倉庫やスライムのような俺の転生特典が発動しないという事態は1度もなかった。

 闇の塊へと視線を送り、ステータスを表示しようとしてみるがそれもまた発動しない。

 

『貴様が何をしようとしているのかは知らないが、一応忠告しておこう。この世界で使う事が出来るのは魔力と気を使った技のみだ。イレギュラー的なスキルは発動しない』

「なるほど、そういう事か」

 

 転生特典という規格外なスキルまで発動を不可能にする空間を作りあげるとは、さすが600年を生き延びた吸血鬼というべきか。

 

「だが、それならそれでやりようはいくらでもある!」

 

 この闇の塊の言動から見て、恐らくこいつに戦いで勝てば闇の魔法を習得出来るのだろう。なら、やる事は簡単だ。

 

『マスター・エヴァに造られた身で言うのもなんだが、まさか自ら望んで闇の力を得ようという愚か者がいるとはな』

 

 その言葉と同時に、黒く染まった氷の矢が10数本連続して飛ばされる。恐らく魔法の射手のようなものだろう。

 その攻撃を瞬動を使いながら回避し、闇との距離を縮めていく。

 

『アリアンロッド 目醒め現れよ燃え出づる火蜥蜴、火を以ってして敵を覆わん……紫炎の捕らえ手!』

 

 闇を中心にして円筒状の火柱が生み出され、その身を炎の中へと捕らえる。あの円筒状の中では炎の熱によって下手なサウナ以上の高熱が生みだされている筈だが、闇なんていう曖昧な存在相手にそう効果があるとは思えない。

 

『闇とは何だと思う? 光に対する影、昼に対する夜、正と邪、善と悪、秩序と混沌、条理と不条理』

 

 案の定、闇は紫炎の捕らえ手に捕らえられながらも特に苦痛を感じさせずにそう告げてくる。

 

『アリアンロッド ものみな焼き尽くす浄化の炎、破壊の主にして再生の徴よ、我が手に宿りて敵を喰らえ……紅き焔!』

 

 通常時に発動する紅き焔よりも2倍程度のSPを消費した炎は、小型の太陽とも言える熱を作り出して円筒状の炎の中へとその身を出現させる。しかし……

 

『だが、ここで貴様に必要なのはよりシンプルな力だ』

 

 ゾクリ。その感覚が冷たい悪寒となって背筋を走った瞬間、殆ど反射的に口を開いていた。

 

「加速!」

 

 精神コマンドの加速を発動。瞬時にその場から離れると、次の瞬間には俺のいた場所へと黒い雷が降り注いでいた。

 ちぃっ、炎、氷、雷。最低3種類の属性を……待て。今俺が使ったのは精神コマンドの加速であってこの世界の魔法では無い。なのに何故発動した? この空間ではこちらの世界のスキルしか発動しないというのは嘘だったのか? いや、精神コマンドはSPを消費して発動する。それがこの世界の魔法と認識された……のか? まぁ、理由はどうでもいい。とにかくこの空間の中で精神コマンドを使えるというのは確かなのだから。

 

『其は全てを飲み込む暗き穴にして始まりの闇。すなわち始原の混沌』

「……何?」

 

 何だ? 今、何かが……そう、闇の言葉には何かの意味がある。それが何なのかはまだ分からないが、俺の中の念動力が闇の声を聞き逃すなと告げている。だが。

 

「少しは考えさせる暇を与えろよ!」

 

 闇が蠢いたかと思うと、まるで俺のスライムのように数本の触手と化してこちらへと叩き付けてくる。

 

『魔法の射手! ……炎の10矢!』

 

 始動キーを省略して放つ魔法の射手。だが、通常時の魔法の射手よりも多くのSPを込めたおかげで、その威力や速度は始動キーを使った時のそれよりも上だった。……まぁ、エヴァ曰く馬鹿魔力のごり押しなんだがな。

 俺から放たれた炎の矢が全て違う軌道を取りながら闇へと向かっていく。普通なら難しい遠隔操作だが、俺は今まで幾度となくファントムを使ってきている。その応用で可能になった技術だ。

 炎の矢が闇へと着弾し、爆炎を吹き上げる。その様子をみながら、闇から距離を取る俺。

 

「よし。これで少しは考える時間が出来たな」

 

 一息吐き、先程の闇の言っていた言葉を脳裏に浮かべる。

 全てを飲み込む。始まりの闇。始原の混沌。これらのフレーズが頭の中を過ぎっていく。

 始まりの闇。つまり闇が全ての始まりであると言いたいのか? 始原の混沌というのもそれを表しているのだろう。待て、混沌=闇という認識でなら……足りない、最後の1ピースの無いパズルを目の前にしているような感覚。あるいは目の前に答が書かれた本が置いてあるのが分かりきっているというのに、本に書かれてある文字を読めないようなもどかしさ。

 

『ほれ、考え事をしていていいのか?』

「っ!? 加速!」

 

 再び精神コマンドの加速を使いその場から離れる。同時にそこに付き立つ闇の触手。

 だが、その闇の触手は今までの物とは違っていた。触手の先端が地面へと突き立ったかと思うと、まるでゴムボールの如く跳ね返って俺の方へと迫ってきたのだ。

 加速による跳躍でまだ空中にいるこの状態では俺に使える手段は虚空瞬動しか……いや、まだある!

 意識を集中して口を開く。

 

「一の影槍!」

 

 まだ空中にある俺の影から槍が作り出され、スライムの闇の触手とぶつかり合う。そして。

 

「絡め取れ!」

 

 こちらの意志通りに影の影槍は動き、闇の触手を絡め取ってその場へと押さえつける。

 

『ほう、操影術の基本的な魔法でこちらの攻撃を完封するとはな。その魔力は確かに闇の魔法を使うに相応しい物があるかもしれん。もっとも、今のままではそれもまた無意味であろうが』

 

 ……無意味? それは俺があの闇に勝てないからか? いや、違うな。あの口調はそんな感じではない。となると、あの闇に勝っても闇の魔法は習得出来ない? 俺は何か思い違いをしていたのか?

 瞬間、俺の頭に先程の闇の言葉のうち、『全てを飲み込む暗き穴』という一文が思い浮かぶ。全てを飲み込む……飲み込む!? 即ち、自分のものにするという事。

 こういうのをあるいは天啓、とでも呼ぶのかも知れない。足りない最後の1ピース、目の前にある本を読む為の文字の知識。それが埋まった!

 

『ほれ、次はどうする?』

 

 闇から放たれた炎。それはまさに闇を凝縮したような純粋な黒さを持つ炎だった。

 今までなら回避するなり、迎撃するなりしていたその攻撃。だが、俺の考えが正しいのなら……

 

「……」

 

 無言で右手を伸ばし、まるで迎え入れるかのようにその黒い炎を受け止める。その炎は俺の手を燃やし尽くすかのように燃え上がり、強烈な痛みを感じる。だが、それも一瞬。その炎を握り潰した次の瞬間には痛みは綺麗に消え去っていた。

 

「ぐうぅっ!」

 

 だが、代わりに襲い掛かってきたのは己の中にナニカが入ってくるような強烈な違和感だった。普通の人間、いやある程度以上の強さを持つ人間でも耐えられるかどうかは微妙な所だろう。しかし俺は呻くだけで身体に入ってくる違和感に耐える。

 まさかこんな所で吸収を使った経験が生きるとは、な。

 そう、俺の中にナニカが入ってくる感覚。それは俺がスライムで念動力やギアス、魔法といったPPを消費して覚えられない特殊なスキルを吸収し終えた時に感じるソレと酷似していた。いや、吸収の時に感じるソレよりは大分マシと言ってもいいだろう。

 

『ほう、初めて感じるであろうその感覚を迎えて尚、余裕があるか。これは確かに闇の魔法を使うに相応しい才能を持っていたようだな』

 

 どこか含み笑いを浮かべているような闇の声を聞きながら、自然と闇の魔法について理解する。……いや、黒い炎からその知識が流れてくるといった方が正しいか。

 その知識のままに、闇の魔法完成の為の最後のキーワードを口に出す。

 

『掌・握』

 

 次の瞬間、闇の炎が俺を覆うように展開されていた。それはまるで、俺が炎の衣を身に纏ったかのような感じだ。

 

『闇の魔法を会得したか。……見事、と言っておこうか』

「闇の魔法。それは全てを受け入れ、飲み込み、消化し、吸収して己の力とする技術……違うか」

『間違ってはいないな。もっとも、吸収というプロセスはこちらとしても想定外ではあるが。ではその闇の魔法で私を殴ってみろ。今更だが、私のこの身体は闇の魔法を利用した攻撃でないとダメージを与える事が出来無いようになっている。すなわち、お前の攻撃で私が消滅したその時が真に闇の魔法を習得したという証拠となる』

 

 闇の言葉を聞き、己の霊体と一体化した闇の炎をその身に纏う。そしてその状態のまま瞬動を使い、黒い炎の欠片を地面に残しながら闇へと急速に接近。そのまま黒い炎を吹き出している拳で闇へと……殴りつける!

 

「うおっ!」

 

 だが、特に何かを殴ったという感触もなく、まるで煙を殴った時のように俺の拳は闇の塊を通り抜けた。

 

「何? 失敗か?」

『いや、そうではない。お前の攻撃は十分私にダメージを与えたさ。殴った感触がないのは、私が元々そういう風にマスター・エヴァに構成されているからだ』

 

 徐々にその闇を小さくしていきながらも、闇からの声は話を続ける。

 

『これでお前は闇の魔法を無事習得した。私の役目も無事終了した訳だ。良くやった、と言っておこうか』

「……ああ」

 

 闇の言葉に小さく頷く。

 

『では、役目を終えた私は消えるとしよう。さらばだ。お前の歩む道に闇の導きのあらん事を』

 

 その言葉を最後に闇が消え、この真っ白い世界も端から崩れるように消えていく。その様子を見ながら、俺の意識もまた消えていった。  




名前:アクセル・アルマー
LV:38
PP:625
格闘:262
射撃:282
技量:272
防御:272
回避:302
命中:322
SP:462
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    ギアス(灰色)
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    ???

撃墜数:376

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