転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編016話 その頃のSEED世界

 普段は静寂な森の中にある筈の研究所。そんな研究所だが、今はそれどころではなかった。

 

「くそっ、どこの馬鹿共がこの研究所に襲撃をしかけて来たんだ。出撃出来る機体は全機出撃しろ! 何としてもここのデータは守りきるんだ! 増援はどうした!」

 

 司令室にいる男、この研究所の所長の焦燥したような声にオペレーターが顔を青くしながら返事をする。

 

「駄目です。ジブリール氏には連絡が取れません。恐らく何らかの手段で通信を妨害しているものと思われます」

「馬鹿がっ! このロドニアのラボはジブリール氏、いやブルーコスモスにとっても最重要機密といってもいい存在なんだぞ。ええいっ、敵はどこの奴等だ。日和見の東アジアか? それともあの忌々しい宇宙の化け物共か!」

 

 その男の言葉に司令室にいる面々は冷たい汗を掻く。何しろ敵に攻撃されているというのに、ハッキングを食らっているせいで敵の正体が未だ掴めていないのだ。そんな事が出来る存在、それを自分達は知ってはいなかったか。

 

「機能回復! 迎撃に出たストライクダガーからの映像、来ます!」

 

 タイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか。何とかハッキングから機能を一部回復させ、迎撃に出ているストライクダガーからの映像を受信する。これで敵に対処出来る、そう思った司令室の者達は画面に表示された敵影を見て絶句した。

 その映像に映し出されていたのは一言で言えば虫。機械で造られた甲虫のような機体だったのだ。

 ある意味世界で最も有名なその機体名を、当然ながらその司令室に勤めている者達も知っていた。

 

「バグス……」

 

 そう、つい数ヶ月前に収束したばかりの大戦。本来は地球連合と忌まわしい宇宙の化け物との聖戦であった筈のその戦いで横からしゃしゃり出てきて地球連合、プラントの2つを相手に戦勝国となったオーブ。そのオーブに協力していると思われる異質なる集団シャドウミラー。その2つの勢力の主力兵器である無人戦闘機が現在モニタに映し出されているバグスなのだ。それはつまり。

 

「馬鹿なっ! この襲撃はオーブとシャドウミラーだというのか!」

 

 司令室に研究所の所長である男の声が響き渡る。その顔はつい数分前までの苛立ちが綺麗さっぱりと消え失せて絶望のみがあった。

 

「くそっ、何故だ! この研究所の存在は連合はおろかブルーコスモスでも極一部しか存在を知らない筈だというのに」

 

 ガンッ、とコンソールを殴りつける所長。この研究所で行われている研究はそれ程重要性が高い物なのだ。そして同時に非人道的であり、とても一般に公開出来るものではない。

 

「それは当然でしょう。戦勝国である私達の力を見くびって貰っては困るわね」

 

 突然聞こえてきた声。反射的に所長が声のした方へと視線を向けると、そこでは1つの通信用モニタが起動していた。もちろんこの司令室にいる者がやったのではない。恐らく先程からハッキングを仕掛けてきている者の仕業だろうと見当はついた。

 

「……貴様は、誰だ」

 

 半ば呆然としながら呟く所長。だが、そう尋ねながらも半ば映像に映し出されている女に心を奪われている。

 桃色の髪に大胆に肌を露出している改造軍服。そして目を引きつけて止まない程の美貌。

 ただし、その美貌の中で目だけが異彩を放っていた。極寒とも言える視線でこちらを見据えているのだ。

 

「貴方が先程自分で言ったでしょう? シャドウミラー、よ。ここはブルーコスモスの研究所で間違い無いわね」

「……」

 

 映像に映る女の声に無言で返す所長。既にハッキングを受けてデータを荒らされているのだから、今の問いにしても一応の確認という以上の意味は無いのだろう。

 それでも最後のあがき、とばかりに男は何とか口を開く。

 

「ここは確かにブルーコスモスの研究所だが、シャドウミラーに襲われる謂われは無い! さっさと引き取ってくれ!」

「ふふっ、馬鹿ね。ブルーコスモスの施設というだけで問題はあるのよ。現在ブルーコスモスは、数日前に行われたシャドウミラーに対するテロ容疑が掛かっているわ。当然この施設もブルーコスモスの研究所である以上は捜索対象の1つよ」

 

 笑みを浮かべながらそう告げてくる女だが、その目は決して笑っていない。その眼光を見ただけでモニタに映っている女が内心どれ程に怒り狂っているのかという事を感じ取れてしまうのだ。

 この研究所の所長にとって不幸だったのは、彼はあくまでも研究員であって軍人ではなかったという事だろう。その目で改めて見据えられただけで腰を抜かしてしまったのだ。

 

「ひっ、ひぃっ!」

「……これからそちらの研究所の捜査に向かうけれど、これ以上の反抗は己の命を縮めるものと考えなさい。キラ、もういいわ」

 

 冷酷とも言える宣言と共に、映像はプツリと切れる。残されたのは映像に映し出された女――レモン――の殺気染みた雰囲気に飲み込まれて身動き一つ出来ない司令室の面々だけだった。

 こうしてロドニアのラボはシャドウミラーによって接収される。本来の歴史上ではファントムペインとして活動する筈だったスティング、アウル、ステラといった3人や、クーデターを起こして皆殺しにされる筈だった被験体達もオーブやシャドウミラーに接収され治療を受ける事になる。

 また、他にもブルーコスモス関係の組織や研究所といったものは根こそぎシャドウミラーの強襲に遭いSEED世界でのブルーコスモスはその勢力を著しく弱めていく事になる。

 尚、その強襲の指揮を取っていたのはアクセルの恋人であるレモン、コーネリア、マリューの3人であったのは言うまでもないだろう。


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