エニル・エル。
その女は俺と多少なりとも関わりがある。
ゲートを設置した基地の一件で集められたフリーのMS乗りの中に俺とエニルの姿はあった。
他よりも安い金額で依頼を受ける俺はサン・アンジェロ市において他のフリーのMS乗りから嫌われていたものの、エニルは俺に対して最初から友好的だった。
もっとも、結局エニルはその基地の一件は引き受けなかったのだが。
そんな訳でそれ以来エニルとは暫く会っておらず……その後でエニルについて話を聞いたのは、ガロードの件でフリーデンがザコットに襲われた一件。
俺は知らなかったのだが、ガロードがGXを競売に掛けた時にそれを落札したのはエニルだったのだが、その後諸々とあってエニルはGXを購入出来ず、それを恨みに思ったのかフリーデンを襲ったらしい。
俺がアシュタロンと戦っていた時、ガロードのGXと戦っていたのがエニルだったと、そうガロードから聞かされた。
その戦いも最終的にはザコットが降伏したものの、エニルはそのまま姿を消して……それで今日ここで再会した訳だ。
「久しぶりだな、エニル」
「そうね。……アクセルは一体何故フォートセバーンにいるの?」
「いや、それは俺が聞きたい事だな。お前がフリーデンを襲った件でザコットが降伏した時、もうお前はいなかった。そんな風に行方を眩ましていたお前が、一体何を思ってフォートセバーンに?」
「それは……」
言い淀むエニル。
この様子を見ると、俺がヴァサーゴに乗っている件やテンザン級を手に入れて本格的にバルチャーとして活動している件も知っていておかしくはないか。
別に俺がテンザン級を確保した件は、隠している訳ではない。
サン・アンジェロ市とかでは普通に活動しているし、精霊の卵がロッキー級に乗ってバルチャーとして行動しているのも事実。
そうである以上、エニルが俺の情報を入手するのはそう難しくはない。
「フリーデンを……いや、ガロードを狙ってきたのか?」
「っ!? ……ぐ、偶然よ。一体何の話? 私はただ父の知人に会いに来ただけで……」
そう誤魔化すエニルだったが、一瞬動揺したのは間違いない。
「なるほど。やっぱりガロードを狙ってきたのか。けど、今のお前はあくまでもフリーのMS乗りだ。それなりに腕利きのMS乗りなのは間違いないが、だからといってフリーデンを相手にどうにか出来るとは思えない」
「だから、勝手に決めつけないでちょうだい!」
「動揺してるわね」
俺とエニルの会話を聞いていたクスコが、笑みと共にそう告げる。
エニルの様子からそう判断したのか、あるいはニュータイプや女の勘からか。
その辺の事情は俺にも分からなかったが、それでもクスコがそう言い切ったという事は、エニルに何かあるのは間違いないだろう。
ただ……ぶっちゃけた話、今のエニルならガロードと接触する事が出来れば、容易に殺す事が出来るのは間違いない。
何しろ今のガロードはカリスとの戦いでズタボロにされたから、かなり落ち込んでるしな。
ティファに運命を変えるといったような事を言ったらしいが、ガロードの技量ではそれは無理だったらしい。
そんなガロードだけに、エニルを近づける訳にいかないのも事実。
だからといって、顔見知りのエニルを殺そうとまでは思わない。
……あるいは、これで襲われたのがフリーデンではなくテンザン級であったら、俺も殺すという選択をしたかもしれない。
とはいえ、テンザン級を襲った場合はシーマを始めとした腕利きのMSパイロット達が迎え撃つので、それこそ負ける可能性の方が高いが。
「フリーデンに……ガロードに復讐に来たのに、戦力は少ない。ましてや、俺達もテンザン級で協力している以上、エニルだけで勝ち目はない。そうなると……戦力をどうにかする算段があるな?」
「っ!?」
その言葉に動揺するエニル。
どうやらこっちも当たりらしい。
問題なのは、どうやってその戦力を用意するかだが……先程の、エニルの父親の知り合いというのが怪しい。
「で? エニルの父親の知り合いというのは、一体どういう人物なんだ? フォートセバーンで戦力を用意出来るとなると、相応の地位や権力がある筈だ」
実際、フォートセバーンにどれだけの戦力が残っているのかは分からないが、決して多くはない筈だ。
カリスと一緒に攻めて来たMS部隊は、その全てが撃破されたり一部破壊されて降伏したりといったようなことになっていたのだから。
あの戦いでフォートセバーンの戦力は大分減った筈だ。
勿論、あの戦闘にフォートセバーンの保有戦力の全てを出してきた訳がなく、ある程度のMSは残っているだろう。
しかし、それはあくまでもある程度でしかない。
カリスの操縦するベルティゴですら失われた以上、フォートセバーンにエニルが借りるだけの戦力があるとは思えない。
「っ!?」
「おっと、逃がすと思うか?」
このまま俺の前にいると、自分の企みが暴かれる。
あるいは自分の言葉が曲解される。
そんな風に思ったのか、この場から逃げ出そうとするエニル。
だが、フリーのMS乗りとしては腕利きのエニルであっても、生身での戦闘力はそこまででもない。
勿論普通の女に比べるとしっかり鍛えているのだろうが……それでも混沌精霊の俺から逃げられる筈もない。
ここにいるのがクスコだけなら、あるいは逃げ切れたかもしれないが。
「離して!」
「俺達と敵対する相手かもしれないんだ。逃がす訳がないだろう? 大人しく何を企んでいたのかを話してくれると助かるんだがな」
「アクセル」
不意にクスコがそう声を掛けてくる。
その言葉に視線を向けると、クスコは周囲を見ていた。
何故かと思って周囲の様子を見ると、そこにはフォートセバーンの住人達が興味深そうな視線をこちらに向けていた。
……当然か。ここは別に裏通りではなく、表通りだ。
そうなると当然のように多くの住人が行き来している。
そのような中でこうしたやり取りをしていれば、周囲の人目を集めるのは当然だった。
これはちょっと不味いか?
こうして周囲に人が集まっていると、警察の類が来てもおかしくはない。
フォートセバーンに警察の類がいるのかどうかは分からない。
あるいは軍人が警察も兼任しているかもしれない。
とにかくこうして人が集まっていると、そういう連中が来る可能性があった。
勿論、そういう連中がやって来ても俺なら対処出来る。
出来るのだが、そのような真似をすれば騒動になるのも間違いない。
これからニュータイプについての研究データの類を奪う為に行動しようとしているのに、そんな騒動になるのは不味い。
そう思った瞬間、エニルは自分の手を掴んでいた俺の手から抜け出し、その場から走り去った。
しまったと一瞬思うも、このまま騒動になって警察とかが来るよりはマシか。
「ほら、エニルは貴方と迎えた一夜の件を後悔してるのよ。分かったでしょう? 貴方と付き合えるのは私だけなんだから」
不意にクスコがそんな風に言う。
一体何を?
そう思ったが、周囲の様子を見るとクスコの考えが理解出来た。
さっきまでは何か深刻なトラブルでもあったのかといった視線でこっちを見ていた周囲の面々だったが、今のクスコの言葉で痴話喧嘩の類だと判断したのだろう。
こっちを見る目は不安そうな色から、好奇心に満ちた視線や……爆発しろといった嫉妬の視線を向けてくる者もいる。
多くの者にとって、他人の色恋沙汰というのは興味深いものなのだろう。
平和な世界のニュースでは、芸能人やスポーツ選手とか、そういう有名人が誰とくっついた、誰と不倫した、誰と別れた……そんなニュースが多いし。
ともあれ、殺伐とした雰囲気になりそうだった周囲の様子は、まさに色恋沙汰を期待する視線へと変わった。
「ほら、行きましょう? もうあんな女の事は忘れて、私の事だけを見てちょうだい。夜の相手もしっかりしてあげるから。もっとも私だけで貴方を満足させられるかどうかは分からないけど」
……その一言はサービスしすぎじゃないか?
そんな俺の予想を裏付けるように、俺とクスコに向けられる視線の圧は増した。
特にクスコのような美人とそういう行為をするというのが羨ましいという男からの嫉妬や対抗心に満ちた視線が多い。
それ以外にも、女からどんなに夜が凄いのだろうという好奇心に満ちた視線。
そしてほんとうに少しだが、欲望の視線が向けられていた。
多分、夜の生活に満足出来ていないような相手からなのだろう。
クスコも、一応俺に気を遣ってはいるのか『貴方』とだけ呼んで『アクセル』と名前で呼ぶ事はない。
とはいえ、これだけ好奇心やら嫉妬やら欲情やらの視線を向けられるのは……
「ほら、行きましょう? エニル・エルがこれからどうするのかは分からないけど、そのうち戻ってくるかもしれないし。それまでの間、どこか適当に見て回りましょう?」
そう言いつつ、腕を組んでくるクスコ。
冬服やコートを着てはいるのだが、それでも双丘が腕に潰される感触を感じる事が出来る。
そして俺に向けられる視線の中でも嫉妬の視線がより一層強くなる。
うわぁ……と思わないでもないが、今のこの状況を思えば迂闊に何かしたら、それはそれでまた目立つ要因になってしまう。
そうである以上、ここはクスコが作り上げた話に乗ってこの場から立ち去る方がいいだろう。
問題なのは、今のやり取りを見てもっと俺達の事を知りたいと考えて尾行してくる奴がいないかという事だが。
もしそうなったら、それはそれで対処すればいいか。
「で、どこに行く?」
「ふふっ、あの話の流れから考えて、私はホテルでもいいんだけど。ただ、アクセルとゆっくり楽しんでいられる時間はないでしょうから……どこかの喫茶店にでも入りましょうか」
クスコの言葉に頷く。
多分、俺がホテルに行きたいと言えば、クスコはすぐに受け入れるだろう。
それは分かっているが、今はまだ俺とクスコは仮の恋人なのだ。
さすがにそのような状況で直接手を出すといった真似はしたくない。
「そうだな。喫茶店に行けばフォートセバーンの食糧事情とかも分かるだろうし」
雪国のフォートセバーンにおいて、完全な自給自足というのは不可能だろう。
特に野菜の類は長時間摂取しないと、いわゆる航海病や壊血病という奴になったりする。
これがサン・アンジェロ市のような温暖な地域なら、野菜……もしくは野草や山菜、果実といった諸々でどうにかなるんだが。
そうなると、恐らくフォートセバーンでも食料の類はバルチャーが運んできている可能性が高い。
だとすればやっぱりカリスもバルチャーを手当たり次第に襲っているという訳ではないのだろう。
「あそこのお店がいいんじゃない?」
先程の騒動のあった場所からそれなりに離れた場所。
そこに喫茶店を見つけ、クスコがそう尋ねてくる。
クスコの言葉に喫茶店の方を見ると、そこそこの客が入っている感じだ。
混雑しているという程でもなければ、ガラガラという訳でもない。
「そうだな。あのくらいの店がいいか」
そんな訳で俺とクスコは喫茶店に向かったのだが……
「うわ……」
喫茶店に入るよりも前に、コーヒーの匂いがしてきたのに気が付き、そんな声が出る。
これが少しなら、俺も問題はないと思っただろう。
だが、あの喫茶店から漂ってくるのは多種多様なコーヒーの香りだ。
一体このX世界に……しかも雪国のフォートセバーンでどうやってこれだけの香りがするくらいのコーヒー豆を入手したのか、普通に疑問だ。
あるいは戦前から残っていたコーヒー豆を使ってるのかもしれないが。
コーヒー豆ってどのくらい保存出来るのか、生憎と俺は知らない。
しかし、このフォートセバーンでコーヒーを育てる事は出来ないだろうし。
「どうしたの?」
「いや、あの喫茶店……多分コーヒーが売りの店だ。俺には合わないと思う」
「ああ」
クスコも俺と一緒に行動するようになってある程度の時間は経つ。
それを抜きにしても、UC世界でそれなりに接する機会はあったのだ。
俺がコーヒー派ではなく紅茶派であるというのは十分に理解しているだろう。
勿論、俺はコーヒーを飲めない訳ではないので、そういう意味ではあの喫茶店に入ってもいいのだろうが、どうせなら店でも美味いと言ってくれる人に自慢のコーヒーは飲んで欲しいだろう。
「別にコーヒー専門店って訳でもないんだし、紅茶もあるんじゃない? なかったら……そうね。水でも飲めばいいと思うし」
「いや、それはどうなんだ?」
思わずそう突っ込んだものの、確かにコーヒー専門店といったように書かれている訳でもないので、クスコと一緒に店の中に入る。
すると当然だが、店の外よりもコーヒーの匂いが強い。
客も大半がコーヒーを飲んでいる。
……そう。大半が、だ。
中にはコーヒー以外の飲み物……紅茶やジュースの類を飲んでる者もいる。
コーヒー豆もそうだが、ジュースとかもどうやって入手したんだろうな。
あ、でもジュースなら缶とかだし、長期間保存出来たりするのか?
そんな風に思いながら、俺は店員に案内された席に座るのだった。
アクセル・アルマー
LV:44
PP:1915
格闘:309
射撃:329
技量:319
防御:319
回避:349
命中:369
SP:1995
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
努力 消費SP8
集中 消費SP16
直撃 消費SP30
覚醒 消費SP32
愛 消費SP48
スキル:EXPアップ
SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
念動力 LV.11
アタッカー
ガンファイト LV.9
インファイト LV.9
気力限界突破
魔法(炎)
魔法(影)
魔法(召喚)
闇の魔法
混沌精霊
鬼眼
気配遮断A+
撃墜数:1751