転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0324話

「ふぅ……」

 

 夜桜を眺めながら冷たいお茶を口へと運ぶと風呂上がりの火照った身体に染みていくような気がする。

 風呂での一件の後、円や美砂のジト目に耐えきれなくなった俺はネギをその場の生け贄として残して庭へと避難したのだ。途中で巫女さんから冷たいお茶を貰って。

 さすが関西呪術協会本部の庭と言うべきか、月の光が桜へと降り注いでいる事もありどこか幻想的な雰囲気を醸し出している。

 本来なら強硬派の襲撃を警戒しないといけないのだが、詠春曰くこの関西呪術協会の本拠地には強力な結界が張られているらしく敵襲の心配はまず無いと言っていた。

 

「……言っていたんだが、な」

 

 どこが妙だとは判断出来ないが、確実に違和感がある。そして俺の中にある念動力も危険が迫っているのを教えていた。そしてこの空気。俺の慣れ親しんだ銃煙と血潮のソレとは違うが、確実にこの空気は戦場のソレだ。

 この時期、この時間帯の敵襲。そしてここにいる人員。それを考えると誰が襲ってきたのかは一目瞭然だろう。

 最後に残っていたお茶を一息で飲み干し、意識を戦闘用へと切り替える。それと殆ど同時にパクティオーカードの機能の1つである念話であやかから連絡が入る。

 

『アクセル君、聞こえていますか!?』

『ああ、何かあったか?』

『はい、現在フェイトとかいう相手に襲撃を受けています。幸い、千鶴さんのアーティファクトのおかげで私達は無事ですが、他の方達は石化の魔法で石に……』

 

 額にカードを当てながら舌打ち一つ。同時に床を蹴ってあやか達が泊まる事になっていた部屋へと向かう。

 

『無事なのは?』

『私、釘宮さん、柿崎さんの3人は千鶴さんの側にいたので何とか。それと離れた場所にいた綾瀬さんも朝倉さんが外に逃がしました。ただ、それ以外は……』

 

 この場合は円と美砂の2人を巻き込んでしまった事を悔やめばいいのか、あるいは無事だった事を安堵すればいいのか。

 そんな事を考えている間にも廊下を駆けに駆け、問題の部屋が見えてくる。その入り口には既に見慣れた感のある無表情な人物が。

 

「直撃」

 

 精神コマンドの直撃を使用し、そのままの勢いを付けてフェイトへと近付く。また、向こうの注意をこちらへと引き寄せる為にも意図的に叫ぶ。

 

「フェイトォォォッッッッッ!」

 

 その声で気が付いたのだろう。視線をこちらへと向けてくるフェイト。

 

「また君か。残念ながら今回は君の相手をしていられる程に暇じゃないんだ。悪いけ……」

 

 その言葉を最後まで言わせずに、十分に力と速度の乗った拳をフェイトの顔面目掛けて叩き付け……一瞬だけ魔法障壁が展開したが、精神コマンドの直撃の効果によってそれを無効化してフェイトの無表情な顔面へと拳が叩き付けられる。

 ドゴッ! と、決して人を殴ったものではない音が周囲に響き渡り、フェイトが10m近く吹き飛び、他の部屋の襖を破壊しながらその姿が見えなくなる。

 

「無事かっ!」

「アクセル君!」

 

 千鶴のアーティファクトである虹色領域の腕輪。それで作られた赤いドーム状の領域の中であやかが安堵の息を吐きながら俺の名前を叫び、同時に千鶴もまた微笑んでこちらをみる。そして円と美砂は……

 

「アクセル君、これって……」

「……やっぱり、シネマ村での事は」

 

 混乱している円に、どこか納得したといった様子の美砂。そんな2人の無事を確認しながら周囲の様子を確認する。

 石化しているのは夏美、早乙女、朝倉、宮崎の4人。確かに一緒にいた筈の綾瀬の姿はどこにもない。虹色領域の腕輪は展開出来る領域の広さが決まっている。その領域の中にいたのが近くにいたという円と美砂であり、領域外にいたのが石化された4人なのだろう。

 

「詳しい事情を説明したい所なんだが……もう少し待っててくれ」

 

 視線の先には埃を払いながらこちらへと近付いてきているフェイトの姿がある。いつものように無表情ながら、その瞳にどこか興味深そうな色があるように思えるのは俺の気のせいだろうか。

 

「アクセル・アルマー。今のはどうやったのかな? 素手で僕の魔法障壁を抜けるなんて普通は有り得ないんだけど」

「さて、どうだろうな。それよりも俺としては強力な結界があるここに奇襲を仕掛けてきた事に驚きを感じるがな」

「君のようなイレギュラーな存在のせいで、こちらも色々と追い詰められているんでね。でも、幸い最大のイレギュラーである君がここに現れてくれた。ならここでそのイレギュラーを処理しておけば後はこちらの予定通りに運ぶだろう。……さぁ、行くよ」

 

 そう告げた瞬間、瞬動で俺の懐の中へと入り込み、いつの間にか現れていた石の矢を俺の顔面目掛けて叩き付けてくる。

 

「ちぃっ!」

 

 身体を半回転してその一撃を回避。同時に魔法の射手を無詠唱で発動させ、10本程の炎の矢をお返しとばかりにフェイト目掛けて叩き込む。

 だが、それを再度展開した魔法障壁で防ぎながら俺との距離を取るフェイト。

 

「今のは魔法障壁で防げた。……そうなると、さっきの一撃は素手の攻撃でないと出来ないのかな?」

「どうかな、気になるなら試してみたらどうだ?」

 

 こちらへと近付いてくる足音を聞きながら、挑発の意味も込めてフェイトへと告げる。

 だが、フェイトは口元だけを微かに歪めて笑うと小さく首を振る。

 

「そうするのも興味深いけど、残念ながらこちらも色々とやる事があってね。それに君の時間稼ぎに付き合うというのも面白くない。ここは一旦退かせて……っと」

 

 フェイトを挟んで通路の反対側から飛んできた光の矢。それをなんなく回避しながらもフェイトはこちらから視線を外さない。

 

「まぁ、何もかもが君のせいでおかしくなっているんだ。ここらで一矢報いさせてもらおうかな」

 

 そう話すフェイトの足下には、いつの間にか水たまりが存在していた。そしてそのまま水たまりへとその身を沈めていく。

 

「水のゲート、か」

 

 エヴァが使うという、影のゲート。それの水バージョンなのだろう。俺にはまだ使えない転移魔法。それを使えると言うだけで魔法の技量に関してはフェイトの方が俺より数段上なのが分かる。

 だが、何だ? 一矢報いるという割には何もせずに退いたが。あやか達をどうにかするにしても、千鶴のアーティファクトがある以上はそう簡単には手出し出来ないだろう。実際、俺がここに到着するまでは持ち堪えていたんだし。そうなると……

 俺がその可能性に気が付きネギの方へと声を掛けようとした瞬間、こちらへと走ってきているネギのすぐ横に水たまりが出来上がりそこから拳が……

 

「ネギ、避けろぉっ!」

「え? ぐっ!」

 

 だが、俺の声は一瞬遅かった。水のゲートから突き出された拳がネギの鳩尾へと振るわれたのだ。呻き声を上げながら倒れ込み、走ってきた勢いそのままに廊下を転がる。そして……

 

「これで一矢は報いたよ。……ん? 君もまた随分と膨大な魔力を持っているね。さすがサウザンドマスターの子供だけはある。ふむ、なるほど。予備としては使えるかもしれない……かな」

 

 そう言いながら床へと倒れ込んでいるネギへと手を伸ばすフェイト。ネギとついでにカモは先程の衝撃で完全に気を失っておりどうにも出来ない。ちぃっ、間に合うか!?

 

「加速!」

 

 精神コマンドの加速を使用し、瞬動と併用してフェイト目掛けて拳を叩き込もうとするが……

 

「残念。この子は貰っていくよ」

 

 一瞬遅く、フェイトとネギは水のゲートによりどこかへと転移してしまったのだった。

 振り切った拳が、既にフェイトのいない空間を通り過ぎて止まる。そのまま数秒。

 

「くそっ、まさかネギを持っていかれるとはな。失態だ」

 

 みすみす出し抜かれた己の不甲斐なさに、腹の中ではドロドロとした怒りが渦巻いている。だが、今はそれを解放すべき時ではないのだ。それをやるのは次にフェイト達と向き合った時になるだろう。

 気持ちを切り替える為に大きく溜息を吐き、カモを拾ってあやか達のいる部屋へと戻る。

 

「アクセル君、どうでしたの?」

 

 あやかの言葉に小さく首を振る。

 

「敵の方が一枚上手だった。フェイトは追い払ったものの、ネギを連れ去られた」

「ネギ先生を!? でも、どうしてですの? 相手の狙いは近衛さんだったのではないのですか?」

「俺も西の長からそう聞いていた。だが、予備がどうこう言ってたから恐らく奴等は近衛を魔力タンクか何かとして使うつもりなんだろう。そうなると、ネギの潜在魔力を考えれば当然同じ予備タンクとして使われる可能性も高い。取りあえずはこれ以上相手にアドバンテージを取られないように近衛をこっちで確保したいんだが……おい、起きろ」

 

 カモを握っていた手に力を込めると、幸い数秒で気絶から目を覚ましてくれた。

 

「うぎゃああああ! あ、あれ? 俺っちは確か……」

「……イタチが喋ってる」

「あれって確かネギ君のペットだよね?」

 

 円と美砂のそんな声が聞こえて来る。そうだったな、この2人にも事情を説明しないといけないんだが今は時間が無い。

 

「円、美砂」

 

 俺の呼びかけに揃ってこちらを見る2人。

 

「色々と分からない事、聞きたい事があると思うが今は詳しく説明している時間が無い。だから単刀直入に言わせて貰う。俺は魔法使いだ」

「え?」

「……やっぱりね。じゃあ、昼間の劇も」

 

 突然の告白に円は呆気に取られるが、美砂はどこか納得したという風に頷いている。やはり昼間の件で何かしらの疑惑を持っていたのだろう。

 

「そして、今までのやり取りを見てれば分かると思うが、あやかや千鶴も魔法使いだ。……まぁ、まだ見習いのようなものだがな。千鶴、大雑把でいいから説明を頼めるか?」

「ええ、任せて置いて。アベアット」

 

 自らのアーティファクトである虹色領域の腕輪を消し去り、俺達の話の邪魔にならないように少し離れた所に2人を連れていく。

 それを見送ってから、あやかと共にカモへと向き直る。

 

「さて、カモ。事態は理解出来ているか?」

「敵が侵入してきたんすよね? ここの巫女さん達が石化してるのを見て兄貴と一緒にここへ向かってたんだけど」

「そこでフェイトを見つけて……か」

 

 俺の言葉に小さく頷くカモ。

 こちらを援護するつもりだったのか、あるいは関西呪術協会の術者達を石化したのを見て頭に血が昇ったのかは分からないが、フェイトへと攻撃して返り討ちに遭いさらわれたか。

 

「それで近衛と神楽坂はどうしてるんだ?」

「石化してる人を見た後、すぐにパクティオーカードで姐さんに連絡は取りました。風呂場でネギの兄貴と合流する予定だったんですが……」

「その途中でここを通りかかった、か」

 

 俺の言葉に頷くカモ。何と言うか、不運極まりないな。

 

「なら、取りあえず俺達も風呂場に向かった方がいいな」

「へい、お願いします」

「アクセル君、柿崎さんと釘宮さんはどうするんですの?」

「そうだな……出来ればここにいて貰いたいんだが……いや、俺達と一緒にいた方が安全だろう。いざとなれば千鶴のアーティファクトもあるしな」

「でも、アクセルの兄貴……」

 

 何かを訴えるような目でこちらを見てくるカモ。何を言いたいのかは大体想像がつく。美砂も円も魔法に関しての知識が無い一般人なのだから、戦闘の時に足手纏いになると言いたいのだろう。

 ……そもそもそういう相手を巻き込もうとしたのは自分だと忘れてるような物言いが気になるが、今はそれどころではないので置いておく事にする。

 

「ネギが連れて行かれたようにあの2人を人質として連れて行かれる可能性が捨てきれないんだ。なら近くにいた方が守りやすい」

「そうっすか……まぁ、アクセルの兄貴がそれでいいのなら俺っちは何も言いませんが」

 

 カモも納得したようなので、まだ説明を続けている千鶴達へと声を掛ける。

 

「千鶴、円、美砂。神楽坂達と近衛が風呂場でこっちを待っているらしいから行くぞ」

「え? それって私達も行ってもいいの?」

 

 円の言葉に頷く。

 

「ああ。どうやらこのままここに置いていけばさっきの奴に人質に取られる可能性が出てきたからな」

「でも、朝倉達はどうするの? 石にされたんだから私達みたいに逃げる事は出来無いわよ?」

 

 ……確かに言われてみればそうだな。このままここに置いていけばフェイト達がここに戻ってきて人質にする可能性もある訳だ。石になってる以上は美砂や円のように自分で移動出来……いや、待てよ?

 ふと思い立ち、石と化した早乙女の肩に触りながら呟く。

 

「収納」

「え? 早乙女が消えた!?」

 

 声を上げたのは円だが、他の面々も十分驚いてこちらを見ている。

 その様子を見ながら、脳裏に空間倉庫のリストを展開。きちんと『早乙女ハルナの石像』と表示されていた。どうやら石化している事で空間倉庫には生命体と認識されていないらしく空間倉庫に格納も可能らしい。

 他の石化している面々も同じように空間倉庫に格納しながら説明する。

 

「詳しくは説明している時間がないが、簡単に言えばこいつらが人質にされる心配はないって事だ。よし行くぞ」

 

 全員分の石像を空間倉庫へと収納し、皆を引き連れて風呂場へと向かう。

 その途中……

 

「アクセルの兄貴」

「ああ、分かっている」

 

 廊下を走ってこっちへと近付いてくる音が聞こえてくる。背後の面々を一旦停止させ、廊下の角から距離を取って待ち受ける。

 来る、来る、来る……来たっ!

 

「……って、桜咲か」

「アクセルさん!? それに皆も」

 

 咄嗟に止まって剣を構えているのは桜咲だった。さすがに様になっている。その姿を確認して、発動寸前だった影槍を霧散させる。

 

「近衛と一緒じゃなかったのか?」

「怪しい気配を感じて……それよりも、アクセルさん達は……」

 

 こちらの状況を説明しようとした時、唐突に声を掛けられる。

 

「アクセル君、刹那君……」

 

 そこにあったのは身体の半分以上が石化した詠春だった。




名前:アクセル・アルマー
LV:38
PP:625
格闘:262
射撃:282
技量:272
防御:272
回避:302
命中:322
SP:462
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    ギアス(灰色)
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    ???

撃墜数:376

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