「まだこれだけ残っていたのか」
「はい。それでこの死体はどうしましょう」
ブリッジクルーが、7人の死体を見てそう言ってくる。
この7人は、俺の演説を聞いた後、このまま俺と一緒に行動しても未来はないと思ったらしい。
……いや、それだけなら別に構わない。
最初に離脱した連中のように、俺についていけないと思うのならブルワーズ……いや、もうシャドウミラーオルフェンズ支部か。とにかくシャドウミラーから抜ければいいだけなのだから。
それは俺も仕方がないと思うし、もし抜けたいという奴がいれば大人しく認めただろう。
だが、この7人は何をとち狂ったか、俺を襲撃しようとした。
あるいは、本当の目的は俺ではなくマーベルやシーラの2人だったのかもしれないが。
とにかく俺を殺して組織を乗っ取ろうとしたのか、それとも単純に女が目当てだったのかは分からなかったが、それをやろうとした者達は他の者達によって止められ、乱闘……いや、戦いになり、その結果としてこういう結果になったらしい。
不幸中の幸いだったのは、この死体になった連中を止めようとした者達に怪我人は出たが、死人は出なかった事か。
これは止める方が20人以上と3倍近い戦力差があったというのもあるし、少し前からこの7人が何か相談をしていた怪しいと思っていた物がいたり、そして何よりこの7人がブルワーズの中でも小悪党として知られていたというのが大きい。
そんな小悪党が、ブルワーズが俺に乗っ取られてこれからもう海賊はやらないと言ってるのに、組織から出ないで残っていた事に疑問を覚えた者も多かったらしい。
だからこそ、この結果。
……とはいえ、まさか海賊をしていた者達がこれから海賊はしないと断言した俺の為にこうして動いてくれるとは、少し意外だった。
あるいはブルワーズに所属していた者の中にも、好き好んで海賊をしていた者ばかりではなかったのかもしれないな。
俺にとっては少しだけ意外で、良い意味で予想外な出来事だった。
「海賊をしていた時は、死体はどうしたんだ?」
「そのまま宇宙に捨ててましたね」
「……じゃあ、そうだな。俺の力を見せる為にも一肌脱ぐか。俺が魔法を使うといったことを、本気にしていない奴もいるだろうし」
「それは……やはり実際に自分の目で見ないと、何とも言えないんでしょうね」
この男は、俺がブルックを一瞬にして白炎で焼いた攻撃を目にしているので、俺が魔法を使えるという言葉を素直に信じられる。
だが、俺の演説でその辺について知った者の中には、半信半疑……どころか、完全に信じていない者すらいるだろう。
それでもこの7人のように俺に逆らおうとしないのは、そういう事を言っていても俺の行動については認めているからだろう。
海賊をやってはいたが、全員が全員、本当に海賊をやりたいと思っていた訳ではなく、海賊以外の仕事をしたいと思っていた者も多いらしいし。
あるいは、海賊をやるにしてもブルワーズのような武闘派では他の海賊であったり、テイワズであったり、最悪の場合はギャラルホルンに目を付けられかねない。
このオルフェンズ世界において、ギャラルホルンに目を付けられるというのは最悪の出来事だ。
海賊をやるにしても、自分達の存在を可能な限り知られないようにして……というのを希望するのも、安全を考えればそうおかしな話ではない。
「じゃあ、そういう事で。俺がこれから宇宙の外に出てこの死体を燃やすから、それを他の連中に見るように言え」
正直なところ、ギャラルホルンに知られると不味いのは、俺の存在もだろう。
魔法とかが存在しないこの世界で、魔法を使うのだから。
ただ、今は新たな部下となった者達を纏めるのに、普通ではないのを見せつけるというのは決して悪い話ではなかった。
それにしても、この男は海賊として考えると言葉遣いが丁寧だな。
UC世界でルナ・ジオンの中でも特別な扱いを受けている海兵隊の連中、特にルナ・ジオン建国後に海兵隊に入った者達ではなく、シーマがジオン軍にいた時から部下だった連中は、腕利きだが言葉遣いはかなり乱暴だ。
海兵隊と海賊……似てるようで違うな。
ともあれ、この男の言葉遣いがかなり丁寧で、以前には相応の家に仕えていたような感じがする。
……そんな奴が、何がどうなってブルワーズに所属するような事になったんだろうな。
まぁ、その辺は別にいいか。
有能なら、仕事を任せられるし。
後は裏切らないかどうかだが……コバッタや量産型Wがいない以上、裏切るなら裏切る相手として認識しておけばいい。
そして実際に裏切ったら、相応の対応をすればいいだけなのだから。
「分かりました。シャドウミラーに所属する全員にそう伝えておきます」
そう言う男に頷き、俺は早速準備を始めるのだった。
宇宙に出る俺は、当然ながらパイロットスーツの類を着ておらず、生身のままだ。
新たにシャドウミラーという組織になった元ブルワーズの者達は、一体俺を見てどう思っているのか。
普通ならこういう目立つ事はしない。
だが、今は組織を纏めるのが急務だ。
そうである以上、俺の圧倒的な力、そして神秘的な……常識では理解出来ない光景を見せつけるのが、一番手っ取り早い。
俺と敵対すれば、どうなるか。
そして俺の味方をすればどのような利益があるのか。
……いやまぁ、利益という事では海賊を止めてジャンク屋や傭兵としての活動をする事になるので、そういう意味では恐らく海賊時代よりも裕福な生活は出来ない。
とはいえ、ギャラルホルンのような治安維持組織に目を付けられるような事がないのは、安心して暮らせるという意味で大きいだろう。
後は、シャドウミラーとしてどういう風に組織を運営していくかだが……その辺は後で考えるとしよう。
宇宙空間に出てそんな風に思っていると、俺が出た場所から7人分の死体が流される。
さて、今は全員が俺の姿を見ている筈だな。
なら、後は実行するのみだ。
演出も大事だし……そうだな、こんな感じか。
生身で宇宙に出ている時点で、演出も何もないとは思う。
とはいえ、海賊をやっているのは決して頭の良くない者達だ。
そうである以上、派手に演出を行ってみせて、それによって俺の存在がどういうものなのか……それを改めて刻みつけていく方がいい。
手を大きく振り、それに合わせて俺から死体に向かって白炎が生み出されていく。
演出を重視し、白炎は7つに分かれてそれぞれの死体に向かい……そして死体は灰も炭も残さずに燃やしつくされる。
MSが爆発するとかならともかく、生身で外に出た俺が宇宙空間に白炎を展開したのは、常識について理解している者なら一体何が起きたのか全く理解出来ないだろう。
多少なりとも……それこそ小学生や中学生くらいの科学、いや理科の知識があれば燃焼という現象は空気がないと不可能だというのは理解出来る筈だ。
そして宇宙空間には空気がない。
なのに、白炎は宇宙でも普通に存在している。
これは科学技術で発展してきた世界だけに、とてもではないが何が起きたのか理解出来なくてもおかしくはない。
……ぶっちゃけ、これは白炎が物理現象ではなく魔力によって生み出された炎だからという理由だったりするんだが。
魔力について科学的に証明出来る筈もない……訳ではないか。
超や葉加瀬とかいたし。
ただ、超や葉加瀬も魔力があると認識してから研究を重ねて魔力を科学で説明出来るようになったと考えれば、魔力なんてものが全く認識されてなかったオルフェンズ世界で魔力を科学的に説明するのは難しいだろう。
今更だけど、ギャラルホルンが俺の事を知ったら、魔力という力を自分達の物にする為に襲ってきてもおかしくはないような。
まぁ、そうなったらそうなったで、こっちも相応に行動すればいいだけだが。
そう判断すると、俺は旗艦に戻る。
ただし、死体が射出されたエアロックのある場所から中に入るのではなく、影のゲートを使って装甲から直接ブリッジに入るといった形でだが。
「おわぁっ!」
宇宙空間から直接ブリッジに入ってきた俺を見て、ブリッジクルーが悲鳴を上げる。
最初に悲鳴を上げた者以外も、それぞれ驚きの声を上げたり驚きの表情を浮かべたりしていた。
「さて、どんな感じだ?」
「……えっと、何がでしょうか……?」
俺の担当というか、半ば副官役に近い感じになっている男が、俺の言葉の意味が理解出来ないといった様子で尋ねてくる。
「アクセルの今の行動を見て、他の面々……特にブルックが直接殺された現場を見ていなかった人達がどう反応してるのかと聞きたいんでしょう」
その男を助けるように、マーベルがそう言う。
そしてマーベルの言葉に、男は自分が何を聞かれているのかを理解し、慌てて口を開く。
「その、何が起きたのか分からない。とてもではないが目の前で起きた事が信じられないと思っている者が多数です」
「ちょっと刺激が強すぎたか?」
「……はい」
数秒の沈黙の後、俺の言葉に頷く男。
多分、ちょっとどころではないとか、そんな風に言いたいんだろうな。
ただ、それでも俺がこのシャドウミラーの象徴となり、組織を纏め上げる為にはこのくらいの事はしておく必要があった。
「そうか。ただ、これで俺が演説の時に言ったように、魔法を使えるというのは全員が納得しただろう」
さすがにここまでやれば、トリックだ何だと言うような者はいないと思う。
……あ、でもトリックではなくてもCGだとかそういう風に思う奴はいるか?
もっとも、あそこまで完璧なCGを作るのは、そう簡単な事ではないのだが。
あるいはオルフェンズ世界ではそういうのが普通に出来るかもしれないけど。
「さすがに先程の光景を見れば、それは否定出来ないかと」
「だろうな。そんな訳でこの世界で唯一魔法を使える俺に従うお前達は特別な存在だ。ヒューマンデブリ云々というような事は関係なく、これからは一致団結して組織の為に働くように言っておけ」
ブルックが死に、クダルが精神疾患になった。
ブルワーズにおいて、ヒューマンデブリを使い捨ての消耗品として考えていた2人が消えた。
勿論、その2人は特別酷かっただけで、他の面々がヒューマンデブリを差別していなかったと言えば、それは否だ。
もっとも、幸いなことに俺が昌弘達を厚遇してるという情報を知った者達は、最初に組織を離れる時に大半がいなくなったが。
ただ、それでも全員がいなくなった訳ではない。
なので、そういう連中にヒューマンデブリを差別する事なく、これから仲間として一緒に活動していけというのが、今回のデモンストレーションの目的の1つでもあった。
とはいえ、今までずっと差別をしてきた相手だ。
それにヒューマンデブリは最年長でも昌弘達くらいの年齢なので、そんな子供を相手に……という風に思う奴もいるだろう。
だからこそ、そういうのを考えないように俺の力を見せつける必要があった。
……純粋に組織を運営するカリスマとしては、ナの国の女王だったシーラに任せた方がいいのかもしれないが。
とはいえ、シーラはカリスマ性はあれどもバイストン・ウェルで生まれ育っただけに、言ってみれば中世の感覚に近い。
組織を運営する上でのオルフェンズ世界でのやり方は、正直なところちょっとどうだろうな。
勿論、シーラの有能さを思えば、将来的にはその辺も問題なくなるのだろうが。
ただ、必要なのは今この時なのだ。
「ともあれ、これで色々と問題はなくなったな。……実際にはまだ表に出ていない問題とかはありそうだが」
「そうですね。ですが、1つの組織……それも海賊として中堅だったブルワーズを乗っ取ったと考えれば、十分な成果だと思いますが」
「だといいんだけどな。とにかく、問題があっても表に出てこないのならそこまで気にする必要はない。シャドウミラーという組織を運営していく上で、問題が表に出て来たら潰せばいいだけだし」
その言葉に、男は微妙な表情を浮かべる。
そうなればなったで、また問題が大きくなるとでも考えていたのだろう。
「ともあれ、まずはこの高密度デブリ帯にあるエイハブ・リアクターを5基入手するから、その準備を始めてくれ。その途中で襲ってきた海賊とかがいたら、反撃してMSや母艦、ヒューマンデブリを確保する」
「分かりました。ですが、本当に5基でよろしいのですか? 貴方の力なら、襲ってきてもどうにでもなるのでは?」
「それは否定しないが、そもそもエイハブ・リアクターを確保しても売れるかどうか分からないしな。いや、間違いなく売れるんだろうが、問題はその売り先としてテイワズに繋ぎを作れるかどうかだ」
火星でゲートを設置出来れば、技術班にエイハブ・リアクターを渡して、キブツで食料やら宝石やらを生み出してそれで支払うという方法もあるから、最悪は何とかなるとは思うが。