転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0381話

 ナギ・スプリングフィールド杯の受付を済ませてから2日後。俺やあやか達は街の近くにある森へとやって来ていた。

 交易都市であるキズクモとは言っても、ここは魔法世界だ。当然ファンタジーな世界観な訳で、キズクモの近くには魔獣が多数生息しているという森があると宿屋の女将に教えて貰った。

 そろそろ召喚魔法の契約を結びたいというのもあったし、同時にそれはナギ・スプリングフィールド杯での戦力増強という意味もある。その為に今日は全員でこの森へとやって来たのだ。

 

「着替え、終わったわよ」

 

 円の声を聞き、そちらへと振り向く。

 そこにいたのは元の姿に戻った5人の姿。当然これから戦いになるというのが予想されるので、子供のままでは危険という理由で元の姿に戻ったのだ。

 ちなみに俺は大人バージョンのままだったりする。何しろ俺の場合はこの姿のままで大会に出るので、少しでもこの姿に慣れておかないといけない。

 いや。この身長が元々の俺の身長であって、子供の方が仮の姿なんだけどな。

 ……そうして考えると、今の俺の姿は仮の姿である子供の姿が年齢詐称薬を飲んで元の姿に近い偽りの姿になっているという意味不明な状態な訳だ。

 

「アクセル君?」

「いや、何でも無い。ちょっと考え事をしてただけだ。それよりも魔獣と言ってもどんな魔獣が出て来るのかは分からないから慎重にな」

「大丈夫大丈夫。何か出て来たらすぐに私が歌って上げるからさ」

 

 美砂の言葉に毒気を抜かれたのか、緊張していた他の者達もいい具合に力が抜けたらしい。

 

「隊列は俺とあやかが前衛、千鶴と美砂が中衛、円と茶々丸が後衛だ。役目は以前と同じ。じゃ、行くぞ」

 

 俺の言葉に頷き、それぞれがアーティファクトや内蔵されている武器を用意して森の中へと入っていく。

 リッチの迷宮から出た直後のジャングル程では無いとは言え、この森もそれなりに木が密集していて歩きにくい。そんな中を空間倉庫から出したスケルトンの剣でばっさばっさと道を開きながら進んでいく。

 ちなみにここでスライムを使わないのは、この森は闘技場に参加する選手達が訓練や修行といった理由で足を運ぶ事がそれなりにあるらしいからだ。故に未知の選手という理由で手の内が知られていない俺の奥の手でもあるスライムを万が一にも知られないよう注意しておくに越した事はない。

 もっとも、どうしようも無くなれば遠慮無く使わせて貰うけどな。

 

「アクセルさん、右前方の川に魔獣の生体反応が1つ」

 

 そして早速茶々丸から魔獣発見の知らせが入る。

 茶々丸に小さく頷き、魔獣の反応があるという右前方へと歩を進める。

 茂みを切り払い、見えたのは向こう岸まで5m程度の小さい川だ。周囲を見回すが、どこにも魔獣らしき存在はいない。

 

「茶々丸?」

「川の中ですっ!」

 

 茶々丸がそう叫ぶと同時に、川から水を割るようにしてタコともカニともクラゲとも言いようのない魔獣が姿を現す。

 

「うわっ、エグっ!」

 

 思わずそう声に出したのは美砂だ。何とも言えないような表情でその魔獣へと視線を向けている。そしてその声が魔獣の注意を引いたのだろう。触手のようなものを美砂へと向かって伸ばしてくる。

 

「きゃあっ!」

 

 その触手を間一髪で回避する美砂。そして俺は美砂と魔獣の間に割り込んでその触手を掴み取る。

 ヌルッとした感触が気味悪いが、美砂に触手を伸ばした所を見ると友好的な魔獣では無いらしい。

 ……いや、友好的な魔獣というのがいるのかどうかは知らないが。

 

「はぁっ!」

 

 異形化している漆黒の角の力を使い、影を手に纏ってヌルヌルとした粘液で滑らないようにしてそのまま触手を力尽くで引っ張って魔獣を地上へと引きずり出す!

 

「キュキュッ」

 

 妙な鳴き声を放ちつつも、地上に姿を現したまま口から生えている触手を1本に纏めて叩き付けてくる。

 大ぶりなその1撃を回避し、掴んでいた細い触手を離して1本に纏められた触手へと手を伸ばし……強引に引き寄せてさらに地上へ、森の中へと引っ張っていく。

 そのタコやらクラゲやらカニやらに似た姿から考えて、コイツは水中での戦闘が得意なのだろう。なら、地上に上げてから勝負を掛けるのがベストの筈。

 

「キュキュ!?」

 

 魔獣も自分が水中から引き出されようとしているのが分かったのだろう。驚いたように周囲を見回しつつ、俺に掴まれていなかった触手を横から再度振り回してくる。

 

「千鶴!」

「アクセル君を中心に半径1mに領域を指定。赤の石よ、その力を示せ」

 

 俺の指示が来ると分かっていたのだろう。即座に千鶴が赤の領域を展開。ドーム型の防御障壁が展開されて横薙ぎにされた触手をその障壁で防ぐ……というよりも、ニュルンッとでも表現出来そうな感じで障壁の上を滑っていった。尚、俺が捕まえている触手に関しては千鶴がきちんと認識して障壁を発動したらしく特に弾かれたり千切れたりはしなかった。

 

「うわっ、あれってどう見てもエロゲーの触手系モンスターでしょ」

「円なんかアレに捕まえられたらたっぷりねっとり、じっくりとあの触手で人には言えないような事をされちゃうんでしょうね」

「ちょっと、何で私限定なのよ!?」

「円さん、美砂さん。ふざけるのはそれくらいにして、アクセル君のフォローを!」

 

 そう言いつつ、あやかは手に持っていた鮮血の鞭を振りかぶり……

 

「キュキュ!」

「……何?」

 

 自分に危害を加えられようとしていると理解した魔獣が、なんと動かせる触手全てを上へと上げたのだ。

 

「……まさか、ホールドアップのつもり?」

 

 唖然として呟く円。

 

「キュキュ」

「情報検索……ヒット。この魔獣はケルベラス・クロス・イーターという魔獣です。旅人の衣服を溶かしてそれを食べる習性があるようです」

「あ、なんだ。お腹減ってただけなんだ」

「ちょっと美砂。服を食べられるって事は全裸になるって事だよ!?」

「そうですね。そして服を食べた後には身体中をねっぷり、たっぷりと舐めしゃぶられて全裸で森の中に放り出されるそうです」

「本当にどこのエロゲー生物よ!?」

 

 円の絶叫が森の中に響き渡るのだった。

 

「……アクセル君、これと契約する?」

 

 美砂の言葉にチラリと他の面々へ視線を向けると、あやかはジトっとした目で、千鶴はオホホホといった様子でプレシャーを発しながら俺の方へと視線を向けていた。

 

「さすがにこの状態で契約する程無謀じゃない」

「でしょうね。私としてはこの子と契約してもちょっと面白そうだと思うんだけどねぇ。特に円にけしかける的な意味で」

「ちょっと、美砂。あんた私に何か恨みでもあるの!?」

「さて、どうかしら」

 

 そんな風にやり取りをしている間に、俺も掴んでいた触手を離してやる。するとケルベラス以下略がペコリと頭を下げてそのまま川へと沈んでいくのだった。

 

「あいつ、もしかして人の言葉を理解してるのか?」

「生態が詳しく判明していないので何とも言えませんが、その可能性は……」

 

 そこまで呟き、急に右の方へと視線を向ける茶々丸。その手は刀と銃へと変形していつでも戦える態勢に入っている。

 その様子に、俺もまたそちらへと構えながら茶々丸へと声を掛ける。

 

「茶々丸?」

「アクセルさん。魔物の、それもかなりの大物がこちらへと一直線に向かって来ます。皆さんも気をつけて下さい」

 

 茶々丸がそう言った時には、俺もまたこちらへと近付いてくる存在の気配に気が付いていた。これは……

 

「千鶴っ、守護領域だ! 俺と茶々丸以外の全員を守れ、すぐにだ!」

「私を中心に半径2mに領域を指定。赤の石よ、その力を示せ」

 

 先程俺に張られたのと同様の守護領域が展開され、あやか、千鶴、円、美砂の4人を包み込む。

 

「はぁぁぁっっ!」

 

 無詠唱……というよりは、異形化の漆黒の角の力を使い30本もの影槍をこちらへと向かって来る存在へと射出。同様に茶々丸も腕が変化した銃口からサブマシンガンのように大量の弾丸を吐き出している。

 だが、近付いてくる気配はそれをものともしないままに森の木々をへし折りながらこちらへと迫り、その姿を現す。

 

「グリフォン……か?」

 

 現れた魔獣の姿を見て、思わず呟く。鷲の上半身を持ち、獅子の下半身を持つ。そしてその背からは巨大な翼が生えている。これだけなら間違いなくグリフォンと呼んでもいいだろう。だが、その鷲の頭からは後方へと伸びるように長い角が2本生えており、同時にその尾は獅子のそれでは無く爬虫類のものに酷似している。また、体長も10m程とかなりの巨体だ。

 

「グリフォンの亜種とかか?」

 

 影精を四肢へと纏い、目の前に現れたその魔獣から視線を外さずに呟く。その声に反応したのは同じく両手を銃と剣に変形させた茶々丸だった。

 

「情報検索……ヒット。これはグリフィンドラゴンと呼ばれる魔獣で、その名前の通りに下位ではありますが歴とした竜種です。常に風の障壁を身に纏っており、並大抵の攻撃は通りません」

 

 ……なるほど。俺の影槍や茶々丸の銃弾を遮断したのはその風の障壁か。

 

「他にも、カマイタチブレスというブレスを使用しての広範囲攻撃を得意としていますのでご注意下さい」

「ちょっと、アクセル君。ここは一度退いた方がいいんじゃないの? あんな化け物相手に……」

「いや、大丈夫だ。美砂達は防御障壁の中にいてくれ。茶々丸、お前もだ。こいつくらいの魔獣なら俺の召喚魔法の契約相手には丁度いいだろう」

「ちょっ、アクセル君!?」

 

 美砂の声を遮り、俺が1人でグリフィンドラゴンの相手をすると告げると円が何かを言おうとする。だが、それよりも前に。

 

「グルオオォォゥッ!」

 

 グリフィンドラゴンが雄叫びを上げながら、その鷲の爪で俺を薙ぎ払いに来る。

 

「馬鹿が! その程度を今の俺が受け止められないとでも思ったのか!」

 

 異形化と四肢に纏った影精。その効果をフルに発揮して横薙ぎにされたその鷲の鉤爪をガッシリと掴み取る。

 

「茶々丸!」

「……分かりました。お気を付けて」

 

 俺が前脚を押さえている間に、茶々丸はそう言って守護障壁の中へと下がっていった。

 それを確認してから、グリフィンドラゴンの前脚を掴み……

 

「はぁっ!」

 

 一本背負いの要領で地面へと叩き付ける!

 

「グルァッ」

 

 鬼神と上級悪魔による異形化。そして俺の四肢に纏っている影精の力を込めたその腕力にドラゴンとは言っても所詮は下位の竜種。ドゥンッという派手な音を立ててその背を地面へと思い切り叩き付けられたグリフィンドラゴンは悲鳴を上げた。

 同時に操影術で影精を操り、影で倒れたままのグリフィンドラゴンの四肢を地面へと押さえつける。

 

「グロォ?」

 

 身体が動かせない事に気が付いたのか、戸惑ったような声を上げるグリフィンドラゴン。だが、次の瞬間にはその鷲の顔を俺の方へと向けて大きく息を吸い込む。

 

「アクセルさん、カマイタチブレスです!」

 

 茶々丸の声と同時に、無数のカマイタチを伴ったブレスが吐き出される。だが……

 

「甘い」

 

 異形化した俺は、既に意志の力だけで影精を操る事が出来るのだ。その力を使い、影で俺の周囲を覆ってカマイタチブレスをやり過ごす。

 

「どうやら上下関係をもう少し教えてやる必要がありそうだな」

 

 カマイタチブレスを使ったというのに全く無傷だった俺に向かって、再度息を吸い込むグリフィンドラゴン。もう一度カマイタチブレスを使うつもりなのだろう。

 だが、それが吐き出される前に俺は瞬動を使いグリフィンドラゴンの眼前へと移動してその喉を鷲掴みにし……

 

「グルァ!?」

 

 そのまま空気を吸い込んだ首を掴みつつ、その顔を地面へと叩き付けた。

 

「グギャァッ」

 

 同時に喉を掴んでいた手を離して、その首を四肢と同様に影精で地に留める。

 

「……まだやるか?」

 

 徐々に殺気を発しながらグリフィンドラゴンの目を覗き込む。

 

「グ……グルァ……」

 

 俺の目に何を見たのか、今までの戦意が消え去ったかのように小さな声で鳴く。それはまさに上位者に対して全面降伏をしているような鳴き声だった。

 パチンッと指を鳴らしてグリフィンドラゴンの四肢や首を地に留めていた影を解除する。

 さて、どう出る?

 そんな思いを抱きつつもグリフィンドラゴンの行動を見守っていると、地に伏せ、頭を下げてその鷲の頭を俺の方へと差し出してくる。

 

「グルオォ」

 

 既に四肢を自由にしたというのに、俺に敵対する様子は無い。それどころか大人しく俺に従うという態度を示している。

 これで俺が上位者であると認識した訳か。

 そう思いつつ、エヴァに教えて貰った召喚の契約の為の呪文を口に出す。

 

『アリアンロッド 我は汝と召喚の契約を結ばん。汝、契約に従うのならばその意を示せ』

『グルォ』

 

 グリフィンドラゴンもまた、魔力の籠もった声で答える。

 その様子を確認し、指を少しだけ傷つけて血を数滴グリフィンドラゴンの口へと持っていく。

 

『汝がこの血をその身に宿した時、召喚の契約は結ばれる』

 

 その言葉を聞き、大人しくクチバシを開くグリフィンドラゴン。その口の中へと指に浮かんでいた数滴の血を流し込んでやる。

 それを嚥下した瞬間、俺とグリフィンドラゴンとの間に魔力のパスが通じたのが分かった。俺にとってはそれだけだったのだが、向こうは違ったらしい。

 

「グルルルラアァァッッ!」

 

 森中へと響き渡るかのような雄叫びを上げたのだ。その身体はドクン、ドクンと脈動を打ち、鷲の頭部から背後へと向かっている角の下からさらに2本の青い角が俺と同様に前方へと伸びる。同時にその体毛が黒く染まり本来獅子である筈の下半身が鱗を生やした竜のソレへと姿を変えていく。

 

「……何が起こっているんだ?」

「ガアアアアアアアアアアア!」

 

 恐らく身体が変わっていくのに激痛が走っているのだろう。グリフィンドラゴンが先程上げた雄叫びではなく、まるで悲鳴のような声を上げている。

 その間もどんどんその姿は変わっていき、本来なら鷲の上半身と翼に獅子の下半身、爬虫類の尾といった姿だったグリフィンドラゴンは、角が2本増えた鷲の上半身に竜の下半身。そしてその背には鷲の翼と竜の羽がそれぞれ1対ずつ存在していた。

 

「これは……恐らくアクセルさんの血に含まれている魔力が召喚の契約と過剰反応を起こし、グリフィンドラゴンを一種の突然変異……いえ、この場合は進化と呼ぶべきですね。とにかく進化させたのだと思います。竜の特徴がより顕著に発現して下半身が獅子から竜に。同様に竜の羽が生えたのだと思います。新たに生えた角は良く分かりませんが……」

 

 茶々丸の推測を聞きつつ、ありそうな展開だと思わず納得してしまう。何しろ俺の血はエヴァによると異常な量の魔力が溶け込んでいるらしいからな。それが召喚の契約と干渉してああいう風になったというのは十分考えられる。だが……

 

「そうなると、これからは迂闊に召喚の契約を結べないという事か?」

 

 自分でも分かる程に憮然とした口調で尋ねると、茶々丸は申し訳なさそうに頷く。

 

「はい。今回無事に召喚の契約を結ぶ事が出来たのは、グリフィンドラゴンの方にアクセルさんの魔力を受け止めるだけの器があったからです。恐らく、潜在能力がかなり高い個体だったのでしょう。なので他の魔獣と契約を結ぼうとすると、アクセルさんの魔力に耐えられなくてそのまま亡くなる可能性が高いかと」

「……そうか。まぁ、それが分かっただけでも良しとするしか無いか。俺の言葉が分かるな?」

 

 進化を終えて、その場でこちらへと頭を垂れているグリフィンドラゴンへと声を掛ける。

 

「ガルル」

 

 ……何か鳴き声が微妙に変わってないか? そう思いつつも、魔力のパスが繋がっているのは確認できるので召喚の契約は無事成功したと見ていいのだろう。

 

「よし。俺が召喚魔法を使う時以外は好きに過ごしていてもいい。だが、なるべく人は傷つけるなよ。お前は目立つから、もし人を傷つけたりしたら賞金が掛けられて狙われる可能性もある。餌にするのなら同じ魔獣にしておけ」

「ガルル」

「良し、行け」

「ガアアアアア!」

 

 短く雄叫びを上げ、鷲の翼とドラゴンの羽を使いその場を去っていくグリフィンドラゴン。こうして、俺は無事召喚魔法の契約を完了する事が出来たのだった。




名前:アクセル・アルマー
LV:39
PP:715
格闘:266
射撃:286
技量:276
防御:276
回避:306
命中:326
SP:470
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    ギアス(灰色)
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    異形化

撃墜数:392

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