転生とらぶる   作:青竹(移住)

425 / 4302
0396話

 レイジング魔法店で時の指輪を起動させてから5日。俺達は現在オスティアへと向かう飛行魚の中にあった。結局あの後はキズクモを朝一番で出発する飛行魚に乗れるようにリュボースが手配しておいてくれたのだ。

 リュボースにしてみれば、俺の件で色々と騒がしくなっているキズクモは早く出立したかったらしく街から出立した時にはその無表情な顔には珍しく笑みが浮かんでいた。

 本当に早朝の出発だった為に、キズクモで俺の居場所を探ってる者達に察知される事無く上手い具合に出発できたのはまさにリュボースの手柄だろう。

 

「アクセル君、はい」

 

 久しぶりに部屋でゆったりとしている俺へと千鶴が手渡してきたのは何かの果物を潰して作られたシャーベットだ。さすがに魔法世界と言うべきか、氷の魔法を使えばアイスやシャーベットといった類の物も現実世界よりも手軽に作れるらしい。

 ……まぁ、冷蔵庫や冷凍庫が必要無いままにアイスを作れるのも凄いよな。

 

「ああ、悪い」

 

 千鶴に礼を言い、そのままスプーンで1口。

 濃厚な果物の甘みと、シャリシャリとした冷たさが口一杯に広がり……

 

「痛っ!」

 

 キーンとした痛みがコメカミに走る。

 

「もう、あまり急いで食べるからよ?」

 

 苦笑しつつチョコンと俺の膝の上へと腰を下ろす千鶴。

 元の姿であれば、中学生どころか大学生、あるいは社会人と言ってもいい程のボリュームのある身体付きの千鶴だ。こんな事を自分からするような性格ではないのだが、何せ今は年齢詐称薬で幼児化しているのでその辺はこちらも殆ど気にしないで済む。

 幼児化してからの千鶴はやけにハッチャケてると言うか、妙にテンションが高いのだ。

 

「ちょっと、千鶴さんばかりずるいですわよ。私にも代わって下さいまし!」

 

 少し遅れて部屋に入ってきたあやかが千鶴を見てそう言うが、千鶴はプイッと顔を背けて口を開く。

 

「えー、ちづる子供だから何を言われてるかわかんなーい」

「ちょっ、千鶴さん!?」

「あー、こりゃまた随分とハッチャケてるわね……」

 

 あやかの後ろから入って来た円と美砂が千鶴を見ながら苦笑を浮かべる。そんな2人の横では茶々丸がどこかウズウズとした様子でこっちを見てるのだが……茶々丸、もしかしてお前も俺の膝の上に乗りたいとか言い出すんじゃないだろうな。

 そんないつも通りのじゃれ合いをしている時、リュボースがその手には何か紙のようなものを持って部屋へと入ってくる。

 

「アクセルさん。それに他の皆さんも。ちょっとよろしいですか?」

「リュボースさん? あら、失礼しました。変な所を見せてしまいましたわね」

 

 千鶴とワイワイ、キャーキャーやり合っていたあやかが我に返ってリュボースを出迎える。

 

「いえ、お気になさらず。これからの進路を説明しようとしただけですので、もし都合が悪いようなら後に回しても構いませんがどうしますか?」

「大丈夫ですわ、その持ってるのが地図ですの?」

「ええ。ただ、一応皆さんは旧世界出身との事ですので魔法世界全体の地図もお持ちしました」

「助かりますわ。以前にも地図を購入した時があったのですが、その時買うことが出来たのはその街の周辺の地図のみで魔法世界全体の地図というのはありませんでしたので」

 

 強制転移で飛ばされたリッチの住処を出てから到着した街での事だ。あの時は千鶴に地図を買ってくるように頼んだ所、あの街周辺の地図しか売ってなかったのでしょうがなくそれを買ったのだが……何しろ、すぐにあの街を出てキズクモに移動したから実質無駄な買い物になってしまった。尚、現在その地図は俺の空間倉庫に死蔵されている。

 

「確かに魔法世界全体の地図というのはある程度大きな街でないと売ってませんしね」

 

 そう言いつつ、テーブルの上に2枚の地図を広げるリュボース。

 1枚がこの飛行魚の進路を示す為の周辺の地図で、もう1枚が魔法世界の地図なのだろう。

 

「このまま何事も無ければ、後数日でオスティアへと到着する予定となっています。このまま進路を南にとり……」

「あら?」

 

 進路の説明をしていたリュボース。その声を遮ったのは千鶴だった。

 どこか不思議そうな顔をしてテーブルの上に広げられている地図、それも魔法世界全体の地図へと視線を向けている。

 

「千鶴?」

「アクセル君、ちょっと待ってて」

 

 俺の膝の上から飛び降り、テーブルの上に乗った地図を真剣な顔をして覗き込んでいる。

 

「ヘラス帝国、名前だけは聞いていたけど気が付かなかったわね。けど、この地図は……それに、こっちのマリネリス渓谷にしても……こっちにはアルテシア山にルナ平原。ここまでくると偶然の一致なんて可能性は……」

「千鶴さん? どうしましたの?」

 

 あやかが訝しむように声を掛けても、まるでその声が聞こえていないように熱心に地図を見つめブツブツと呟き……ふと、顔を上げる。

 その横顔には先程まで浮かんでいた無邪気な表情は消え失せ、いつもにこやかに笑っている千鶴が浮かべるのは不似合いな程に厳しい表情だった。

 

「リュボースさん、申し訳ないのですがちょっと席を外して頂けませんか? 大事な事……そう、非常に大事な事を話さないといけませんので」

 

 いつも無表情に近いリュボースと言えども、今の千鶴の迫力には勝てなかったらしく、まるで押し切られるようにして頷く。

 

「え、ええ。私が来たのはこの飛行魚の進路を説明しようとしただけですので。では、私は失礼しますね。あ、この地図はアクセルさん達に差し上げますのでどうぞ使って下さい」

 

 ペコリと礼をして去っていくリュボース。

 まぁ、マネージャーとして雇った時に活動費として1万ドラクマを渡してあるので地図の1枚や2枚くらいは気にする程でも無いのだろう。

 そしてリュボースが去った後、さらに1分程魔法世界の地図を見ていた千鶴はやがて不意にその顔を上げる。

 

「……ねぇ、千鶴、そんなに地図を熱心に見てどうしたの?」

「え? そうね、ありがとう美砂。実はちょっと気が付いた事があったのだけれど、それがちょっと自分でも信じられないような事だったからつい」

「気が付いた事?」

「そう。ねぇ、皆。この魔法世界の地図を良く見てくれる? ヘラス帝国、オリンポス山、イカリア平原、マレア平原、オーストレール平原……何か気が付いた事はない?」

 

 そんな千鶴の言葉に、首を傾げる円と美砂。

 だが、ヘラスやオリンポス山といった単語に聞き覚えのある俺はその他の単語に関しても連鎖的に脳裏を過ぎって頬を引き攣らせる。

 チラリと周囲を確認すると、俺と同じくそれ等の単語が何を意味しているのかに気が付いたあやかが唖然とした表情をしている。

 

「……火星」

 

 ポツリとその単語を呟く。

 そう、ヘラス、オリンポス、イカリア、マレア、オーストレール。これらの名前は現実世界で火星に付けられている地名や山の名前だ。

 まぁ、ヘラス盆地がヘラス帝国と多少の差異はあるがそれは誤差の範囲内と見てもいいだろう。

 

「火星? つまりどういう事?」

「さぁ?」

 

 円と美砂がお互いに何を言ってるのか分からないというような表情をしている。

 まぁ、普通の――いや、魔法に関わってる以上は普通とは言えないが――女子中学生が一々火星の地名の名前を知ってる筈がないのだからしょうがないんだが。

 千鶴は天文部という事で、そしてあやかは恐らく雪広財閥令嬢としての教養か何かで知っていたのだろう。

 そんなあやかは円と美砂の方へと顔を向け、決定的な一言を口に出す。

 

「千鶴さんが今仰った地名は、全て現実世界の火星に付けられている地名なのです」

「それがどうかしたの?」

 

 不思議そうに尋ねてくる美砂のその問いに、あやかに代わって俺が口を開く。

 

「火星で使われている地名がこの魔法世界でも普通に使われている。1つや2つならまだしも、千鶴が口にした数が偶然同じ名称だとは考えにくい。そして、エヴァの別荘にある書庫で異界について書かれていた物にはこうある。『異界というのは重なりあうような場所にある』とな。つまり、この魔法世界という場所を異界とするのなら、魔法世界全域と同じ面積の場所が必要になる訳だ」

 

 その言葉で大体俺の言いたい内容を理解したのだろう。2人ともバッとテーブルの上へと置かれてある地図へと目を向ける。

 

「それが、火星……」

「つまり、私達が現在いるこの場所は実は火星だっていう事?」

「俺の予想が正しければそうなるな」

 

 ……まさか、火星に魔法世界があるというのはかなり予想外の出来事だった。

 いや、可能性としては無くもない……のか? だが、地球にあるゲートから一瞬で火星に転移が可能とか、これは下手をしたらシャドウミラーが持つ技術を越えてるような気がする。まぁ、ゲートはこっちの世界でもいわゆるオーパーツに近い存在らしいから新たに作るというのは無理だろうが。

 

「でも、アクセル君の場合は宇宙に普通に出てたんだから火星ぐらいで……」

「待て」

 

 何かを言おうとした美砂の言葉を止める。

 

「え? 何?」

「いや、今何かが……」

 

 そう、俺の中に眠る念動力が何らかの危機を知らせるような、そんな感覚。それも下手をしたらフェイト達と戦った時のようなソレ。

 

「アクセル君?」

 

 俺の様子に違和感を持ったのだろう。あやかがそう口を開いたその時。

 

「アクセルさん、大変です!」

 

 先程出て行ったばかりのリュボースが、まるで突っ込むとでも表現すべき勢いで部屋の中へと入ってきたのだ。

 

「……何があった?」

 

 いつもは無表情が標準になっている筈のリュボースだが、今その顔に浮かんでいるのは紛れも無く焦燥。あるいは恐怖か。それだけで何かがあったというのは理解出来た。

 

「せ、精霊の群れが暴走を……この飛行魚に向かって!」

「精霊の群れ?」

「はい、本来であれば殆ど自我等を持たない筈なのですが、何故か狂乱状態に陥ってこの飛行魚目掛けて突っ込んで来ているのです。それもとんでもない数が」

 

 ……何が起こっている? まさかフェイト達の仕業か? いや、俺達がこの飛行魚に乗ってるのを突き止められる可能性は極めて小さい。となると完全に偶然の産物なのか?

 とにかく今はそんな事を考えていられる暇は無い。

 

「回避は出来ないのか?」

「無理です。船長もそれを試したのですが、まるでこの船に引きつけられるようにして追って来ています」

「この船に? 何かその精霊とかを引きつけるような荷物が積み込まれているのか?」

 

 当然と言えば当然のその質問だったが、リュボースは小さく首を振る。

 

「船長に尋ねてみましたが、貨物室にあるのは極普通の積荷のみだそうです」

 

 精霊の群れとやらが何を追って来ているのかが分からないのなら、その荷物を捨てて精霊達をそっちに引き寄せるという真似も出来ないな。……そうなると迎え撃つしかないか。

 チラリ、とあやか達へと視線を向ける。そこには既に俺の考えを先読みしたかのように戦意に満ちた顔をしている5人の姿。

 本当なら、出来ればこいつらには余り危険な目に遭って欲しくはなかったんだが……な。

 深く深く溜息を吐き、半ば無理やりに意識を戦闘状態へと切り替える。

 

「あやか、千鶴、円、美砂、茶々丸。年齢詐称薬の効果を消して元の姿に戻れ」

「……よろしいのですね? 私達の事が知られれば、まず間違い無く賞金稼ぎがやってくると思いますが」

「構わん。お前達がその状態のまま戦闘に突入した時の危険度の方が大きい」

「分かりました。皆さん、聞いてましたわね。各自部屋に戻って元の姿に戻って着替えを。戦闘になりますので、動きやすい格好を……いえ、アーティファクトを使うのですからそちらの方がよろしいでしょう」

 

 パンパンと皆の注意を引き、そのまま部屋を出て行く。

 

「その、ここに来てしまった私が言うのもなんですが、よろしいのですか?」

 

 リュボースの言葉に小さく頷く。

 

「どのみちここで抵抗をしなければその精霊の群れとやらにやられるだけだ。なら少しでも生き残る可能性を高くした方がいいだろう」

「……ありがとうございます。私も出来る事を精一杯やらせて貰います」

 

 ペコリ、と頭を下げるリュボース。その口元には覚悟を決めた事を示すかのような微かな笑みが浮かんでいた。




名前:アクセル・アルマー
LV:39
PP:715
格闘:266
射撃:286
技量:276
防御:276
回避:306
命中:326
SP:470
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    ギアス(灰色)
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    異形化

撃墜数:392

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。