転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編029話 その頃のホワイトスター

「ん……アクセル……?」

 

 その日、いつものように……否、いつも以上に気怠げな様子で目を覚ましたレモンは、恋人の名前を口に出しながら温もりを求めて手を伸ばす。

 だが、その伸ばした手が触れたのは部屋の半分程を締めるベッドのシーツであり、目的でもあるアクセルの身体はどこにも存在していなかった。

 

「もう、起きたの? ……アクセル?」

「レモン、どうしたの?」

 

 アクセルの姿が無い事に気が付いたレモンの声に、近くで眠っていたマリューもまた目を覚ます。

 その2人の動きで、同じくベッドの上で眠っていたコーネリアとスレイも同様に目を覚ました。

 

「ん? あれ? アクセルはどうしたんだ?」

 

 プロジェクトTDのNo.1としての訓練で引き締まった見事な裸体を隠しもせず、スレイはベッドの上を見渡す。

 そこにいるのは自分と同じく裸でベッドの上に存在している3人だけであり、この場にいる4人の恋人であるアクセルの姿はどこにも無かった。

 

「確か昨日は……」

 

 呟き、夜に起きた出来事を思い出して頬を真っ赤に染めるスレイ。

 アクセルに対して酒を飲ませ、その結果自分の身に……そして他の3人に何が起きたのかは、起きたばかりだというのにまだ体力が回復しきっていない今の状況を考えれば明らかだった為だ。

 

「……そう言えば、スレイはアルコールを飲んだアクセルの相手は初めてだったわね」

 

 苦笑を浮かべたマリューの言葉に、頬を赤く染めながらスレイは頷く。

 

「ああ、その、何と言うか……凄かった」

「そうね。アクセルにアルコールを飲ませるとこういう風になるから、次からは気を付けてね。こっちが4人掛かりでも押されっぱなしだったし」

「……ああ」

 

 マリューの言葉に頷いたスレイだったが、そこで改めてこの場にいない自分の恋人の姿を探す。

 

「それで、アクセルはどこに行ったんだ?」

 

 そんなスレイの言葉に答えたのは、ナイトガウンを身に纏ってリビングの様子を見てきたコーネリアだった。

 さすがに自分達の家の中でも、一糸纏わぬ姿で寝室から出る事は出来無かったらしい。

 

「リビングにもいないぞ」

「え? じゃあ身体を動かしに外にでも出たのかしら?」

 

 レモンが首を傾げつつ、寝室に備え付けられている通信装置を使ってアクセルへと連絡を取ろうとするが……その顔が数秒程で厳しく引き締まる。

 

「レモン? どうした?」

「アクセルと連絡が取れないわ」

 

 レモンの言葉に、問い掛けたスレイの目が見開かれる。

 ゲートシステムを使っている通信装置だけに、相手がホワイトスターにいようが、あるいはOGs世界、ギアス世界、SEED世界、ネギま世界といった並行世界にいたとしても、連絡が取れないということは絶対に無いのだ。もしそんな事態になっているとしたら……

 

「通信機の電源を切っている? あるいは壊れた?」

「けど、通信機の方はそう簡単に壊れるような作りじゃない筈よ?」

 

 レモンと共に通信機を開発したマリューの言葉に、レモンもまた頷く。

 そして、お互いが目と目で連絡の取れない理由を予想して厳しい表情を浮かべる

 

「つまり、どういう事だ?」

 

 話の流れに不穏なものを感じたのだろう。結論を促すようにスレイが口にし、コーネリアもまたレモンとマリューへと説明を求めるように視線を向けていた。

 

「ちょっと待って。まだ確証は無いわ。リュケイオス周辺にはカメラが仕掛けてあるから……来たわ」

 

 寝室に備え付けられているコンソールを素早く操作し、次の瞬間には画面にリュケイオスの様子が映し出される。

 

「時間は……取りあえず昨日の夜からでいいわね」

 

 呟くや否や、画面に映し出されている映像が早送りされていき……

 

「ストップだ!」

 

 コーネリアの声でレモンは画面を素早く操作して録画されている内容が映し出される。

 そこに現れていたのは、ゲートのすぐ近くにある影から一糸纏わぬ姿のアクセルが姿を現すところであり、そのアクセルに近づいて来た量産型Wへと何らかの指示を出しているところだった。

 

「これは……」

 

 思わず息を呑んだスレイの見ている中で、一見すると酔っ払っているようには見えない程に足取りのしっかりとしたアクセルが光の繭のような転移フィールドに包まれ、次の瞬間にはその姿を消す。

 

『……』

 

 一連の行動が何を意味しているのかを知った一同は無言で映像モニタへと視線を向けている。

 だが、そんな中で、最初に我に返った人物がいた。

 

「わ、私が……私がアクセルにアルコールを飲ませたから……」

「落ち着きなさい!」

 

 自らの肩を抱きしめるようにして震えながら呟くスレイに、レモンが一喝する。

 

「だが!」

「いいから、落ち着きなさい。大丈夫、大丈夫だから」

 

 尚も言い募ろうとしたスレイを抱きしめ、背中を撫でるレモン。そのまま5分程が過ぎ、ようやく落ち着いたのだろうスレイがレモンの背中を小さく叩く。

 

「すまん、見苦しいところを見せたな」

「無理も無いわよ。けど、取り乱すのは事実を確認してからにしましょう。その後でなら私も十分に付き合って上げるから」

 

 いつもの気怠げな笑みではなく、包み込むような優しさを感じる笑みを浮かべてレモンはスレイにそう告げる。

 そんな2人の様子を見ていたマリューが手を叩きながら口を開く。

 

「何をするにしても、まずはシャワーを浴びましょ。私達4人とも汗やら何やらで汚れたままよ」

 

 その言葉に、一瞬で夜の出来事を思い出したのだろう。それぞれが赤くなったり、苦笑を浮かべたり、あるいは満足そうな笑みを浮かべたりといった様子で、10人程が入っても問題無い広さを持つ浴室へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで、皆でシャワーを浴びてマリューの作った簡単な朝食を食べながらこれからの事を相談する4人。

 

「まず、最低限やらないといけないのはシャドウミラーの皆にアクセルの不在を知らせる事でしょうね」

「それを言うなら、他の世界に関してもだな」

 

 レモンの言葉にコーネリアが言葉を付け足す。

 

「こうなると、幸運だったのはアクセルが実際にホワイトスターの運営に関与していなかったという事か」

「そうね。その辺はエザリアに一任してたから……エザリア、色々とまた大変になるわね……」

 

 凛とした美人のエザリアが今回の件で負う苦労は並大抵ではないだろう。それを思いつつも、これまでシャドウミラーを支えてきた交渉技術に関しては信頼しているレモンだった。

 

「エヴァとフェイトはどうする?」

 

 スレイの言葉に、レモンは微かに考えるとすぐに結論を出す。

 

「あの2人もシャドウミラーの一員なんだから、きちんとその辺の事情は説明しておきましょう。それに、2人とも何だかんだとアクセルに懐いているしね」

 

 本人達が聞けば絶対に否定するだろう事を口にするレモン。

 だがレモン以外の3人も頷いているのだから、それはこの場では共通した認識だったのだろう。

 

「不幸中の幸いと言うべきか、SEED世界はオーブと私達の戦力で落ち着いているし、ネギま世界はそもそも私達が表に出ていない。最大の問題はギアス世界だけど……星刻に期待するしかないでしょうね。いざとなったらメギロートとシャドウを出せる用意はしておくけど」

「……ネギま世界と言えば、あやか達にはどうする?」

 

 コーネリアの言葉に、アクセルの未来の恋人4人の姿がその場にいた者達の脳裏を過ぎる。

 

「……こちらも教えておきましょう。あの4人はいずれ私達と同じ立場になる子達よ。なら、情報を隠すような真似はしたくないわ。それに……これでアクセルを待っていられなくなるようなら、この指輪を貰う資格はないわ」

 

 自らの左手の薬指に嵌っている時の指輪へと視線を向けるレモン。

 そんなレモンの言葉に残りの3人も小さく頷き、これからの方針を決定する事になるのだった。

 

 

 

 

 

「さて、シャドウミラーの主要な人物はこれで全部ね」

 

 ホワイトスターの住居区画の近くにある、これまでにもよく利用されてきた体育館。現在、そこにはレモンが口にしたようにシャドウミラーの主要メンバーが集まっていた。

 ムウ、イザーク、ムラタ、ギルフォード、オウカ、エキドナ、グラストンナイツといった実働班のメンバー。

 マードック、フィリオ、ロイド、セシル、そして何故かその場に存在している葉加瀨を始めとした技術班のメンバー。

 広義ではシャドウミラーのメンバーだが、自分の担当以外には興味を示さない魔法担当のエヴァ。

 エヴァと同じ立場のフェイトは火星にいるという事で、通信機を通しての参加となっている。

 外交担当のエザリアはこの場にいて当然のアクセルの姿が無いことに、また自分の負担が増えるような出来事があったのではないかと不安な表情を浮かべている。

 そしてまだシャドウミラーのメンバーでは無いが、将来的に自分達は必ずシャドウミラーに参加し、アクセルの恋人になると決めている従者4人や、エザリアに保護されているステラ、アウル、スティングの姿もそこにはあった。

 シャドウミラーの規模としては驚く程少ない人数を前に、レモンは口を開く。

 

「まずは集まってくれて感謝するわ。色々と忙しい人達もいたでしょうけど、ちょっとした大きな問題が起きたのよ」

「ちょっとした大きな問題、ですか?」

 

 微妙な表現で告げるレモンの声に呟いたのは、オウカ。

 そんなオウカの言葉に頷き、レモンは言葉を続ける。

 

「この場にアクセルがいないのを理解している人が殆どだと思うけど……アクセルが酔っ払ったままリュケイオスを使って、どこかの世界に転移してしまったわ」

 

 その言葉に一瞬ざわめくが、その機先を制するかのようにレモンが言葉を続ける。

 

「けど、安心しても構わないわ。あのアクセルよ? 例えどこに転移したとしても……それこそ、宇宙空間に放り出されたとしても問題無くやっているでしょうね」

「まぁ、確かに。あのアクセルが死ぬような場面なんぞ、想像出来ないな」

 

 ムウが苦笑を浮かべて呟き、その言葉に他の面々も非常識としか言えないアクセルの能力の数々を思い出して落ち着きを取り戻す。

 

(さすがアクセルの親友ね)

 

 敢えて周囲を落ち着かせる為に口にしたムウに苦笑を浮かべ、パチリとウインクで感謝を伝えてからレモンは再び口を開く。

 

「今ムウが言ったように、私達はアクセルの無事を確信しているわ。ただ問題なのは、シャドウミラーの戦力の象徴でもあるアクセルがいないという事よ。OGs世界やネギま世界はともかく、私達の同盟国でもあるオーブや陽光が治めているSEED世界やギアス世界では、これを機に動きが出る可能性がある。もっとも、SEED世界の方はそれ程心配いらないでしょうけど。けど、だからこそ、それに対処する為に準備をしないといけないの。何か異論のある人はいる?」

 

 レモンの声に、誰が何を言うでもなく沈黙を保つ。

 だが、その沈黙は不安に満ちたものではない。寧ろ、静かな自信を感じさせるものだといってもいいだろう。

 アクセルという、シャドウミラーの象徴がいないのなら戻って来るまで自分達でシャドウミラーを持たせようという思いが1つになった瞬間だった。

 

「取りあえず今まで通りに臨時として私がシャドウミラーの指揮を執るわ。エザリア、交流のある世界に連絡を。アクセルが未知の世界に旅立ったというのを強調して頂戴」

 

 レモンの言葉に頷くエザリア。

 

「実働班に関しては、ギアス世界、SEED世界でいつ騒動が起きたとしてもすぐに出撃出来るように準備は整えておいて」

「了解した、任せておけ」

 

 実働班のトップでもあるコーネリアが頷き、スレイを含めた他の者達も黙って頷く。

 

「技術班はマーカーの位置を探知出来るように準備をして頂戴。地球やコロニーのように定まった場所にアクセルが転移したのなら、いずれ探知出来る筈よ」

 

 レモンの言葉にマリューが頷く。

 以前から何度かランダム転移をした経験のあるアクセルだが、今回は全く何の準備も無しで転移したのだ。それだけに、マーカーの位置を捉えるのも時間が掛かりそうなのは事実だった。

 

「じゃあ、何か質問のある人はいる?」

「あー……一応アクセルが消えた時の映像を見せて貰えると嬉しいんだが」

 

 レモンの言葉に再びムウがそう告げ、他の面々もまた頷く。

 一瞬考えたレモンだったが、すぐに頷き、近くの映像モニタへとアクセルが消えた時の映像を映し出す。

 尚、一応アクセルのプライベートも考えて裸の場面はなるべく隠すようにして映像を多少弄ったレモンだったが、それでもオウカには刺激が強すぎたようで顔を真っ赤にしており、また何故かエザリアもまた頬を赤く染めていたのはご愛敬といったところだろう。


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