転生とらぶる   作:青竹(移住)

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0931話

 俺の口から出た、イタリカを守る最善の一手。それはシャドウミラーが協力するというものだった。

 その言葉を聞いたピニャ、そして年齢が低いせいで会談が始まってから一切発言していなかったミュイ・フォルマルまでもがその幼い顔に驚愕の表情を浮かべる。

 

「帝国と敵対しているシャドウミラーが協力してくれる、と? それは一体どのようなおつもりか」

「無能な皇帝の判断のせいで、何も知らない一般市民が被害に遭うというのはさすがに気分が悪いしな。それにこの地での武器取引は暫く続けるつもりだから、イタリカがなくなっては困るというのもある」

 

 他にも、ここは交易都市という関係上多くの人が集まり、それだけ情報操作や帝国に対する工作がしやすいという理由もあるが……さすがにそれを口にするつもりはない。

 そしてこの地で取引をするからなくなっては困るというのは、十分に納得出来る理由だったのだろう。こちらを見る視線から疑いの色が薄くなる。

 

「だが、その……どうやって盗賊共を倒すと? 帝都に来た時に使われた空飛ぶ剣は持っていないようだが」

 

 空飛ぶ剣? ……ああ、まぁ、確かにファイター状態のサラマンダーはそう見えなくもない、か? ガウォークの状態を何と言うのか、多少気になるが。

 だが……

 

「盗賊如きを倒すのに、サラマンダーは必要ない。俺達が生身で戦えばそれで十分だ」

「そんな、幾ら何でもっ!」

 

 とてもではないが信じられない。そんな風に言ってくるピニャに、小さく肩を竦めてから紅茶を飲んでいるロゥリィの方へと視線を向ける。

 

「亜神のロゥリィ。帝国の皇女なら、当然知っているな?」

「あ、ああ。それは勿論。だが、幾ら何でも聖下1人だけで盗賊全てを……」

「1人じゃない。ここにいる俺達の殆どはロゥリィ以上の戦闘力を持っている」

 

 テュカは精霊魔法を使えるから後方からの援護に徹して貰って、ムウは総合的な戦闘力ではムラタに劣るが、魔法を使えるし銃の腕も相当なものだ。ムラタとロゥリィ、高畑、そして俺に関しては言うまでもない。

 最悪、それこそ空間倉庫に入っているサラマンダーなりニーズヘッグなりを出せば、一蹴出来るしな。

 

「そんな……聖下以上の戦闘力など……」

 

 俺の言葉だけでは信じられないのか、視線をロゥリィの方へと向けるピニャ。

 出来れば嘘であって欲しい。帝国の皇女としてはそのような気持ちでの行動だったのだろうが……

 

「本当よぅ。ムラタとは互角だしぃ、アクセルには勝てないわねぇ。そっちの高畑とかいう人とは戦ってないけどぉ、見ただけでどのくらいの力があるかは分かるわぁ」

 

 本人はいともあっさりそう告げるのだった。

 

「そんな……まさか……」

 

 信じられない。否、信じたくないと呟くピニャに視線を向け、返事を促す。

 

「それでどうする? 俺達に協力を仰ぐかどうか。そっちがどうしても嫌だっていうのなら、こっちとしても無理にとは言わないが?」

「ピニャ様、ここは協力して貰った方が……」

「いや、だが帝国の敵だぞ? それも何度も帝国を虚仮にしているような相手の手を借りるというのは……」

「……ピニャ様」

 

 護衛の騎士達が話している中で、そう言葉を挟んできたのはミュイ。本来であればこの地の領主である人物だ。

 

「どうかしたのか?」

「私は、皆が死ぬのを見たくありません。もしも本当にこの方達に盗賊を倒せるだけの力があるとしたら、頼りたいと思うのですけど……駄目でしょうか?」

「いや……だが……」

 

 言葉に詰まりつつ、それでも結局はこの場で俺達の力を借りない状態で切り抜けるのは不可能だと判断したのだろう。やがて仲間の騎士達と目と目で会話しながら結論を出す。

 

「分かった、アクセル殿達の力を貸して貰おう」

 

 ピニャの言葉に微かに安堵の息を吐いたのは、こちら側に座っている高畑。

 俺もまた、ピニャには分からないように内心で安堵の息を吐く。

 実はこの会談、色々とこちらにとっても難しいものがあった。

 まずイタリカを見捨てるという選択。これは選べない。

 街道が交わったこの地は帝国に対する情報操作や工作の類をするのに便利な場所にあるし、何よりも基本的にはお人好しの高畑が、盗賊に襲われている者達を見捨てるという選択肢を認められる筈がない。

 もしも俺がここでイタリカに対する救援の手を差し伸べないまま見捨てるという選択をした場合、恐らくは一人で残って盗賊と戦っていただろう。

 そして救援するにしても、サラマンダーを出して敵の本拠地にミサイル辺りを撃ち込むという作戦は却下だった。

 勿論その方法を使えば手っ取り早いというのは事実だが、折角イタリカを助けるのだから、この地にいる住人に俺達の力を見せつけて、以後の行動を行いやすくするという目的もある。

 それらを総合的に考えた結果が、俺の口から出た妥協案だった。

 

「よし、話は決まったな。……まぁ、やるべき事は殆どないが。やれるとしたら城壁の強化くらいか?」

「妾としては、門を賊共に突破させて街に入ってくる人数を限定しつつ殲滅という手段を考えているが」

 

 なるほど。作戦として城門の突破を前提にしているのか。

 だが……

 

「それは必要ないな」

「……何?」

「確かにこっちの戦力が少ないのならその方法も有効だっただろうが、俺達が協力した時点で戦力差は圧倒的に開いている。……ゴブリンが100匹いるからといって、炎龍に敵うか? そういう事だ。ピニャ、イタリカの城門は4つでいいのか?」

「う、うむ。東西南北それぞれに城門はあるが、北にある城門は川に面しているので向こうとしても戦力を殆ど配置する事はないだろう。これまでの敵の行動から考えて、恐らく狙われるのは南門になると思われる」

 

 つまり、北側は戦力が来てもそれ程の人数はこないってことだろう。

 そう判断し、改めて視線を巡らせる。

 ロゥリィはその不死身性とネームバリュー的な意味で目立つ所に出て貰いたい。そして高畑はこの中だと俺に次ぐ戦闘力を持っている以上は当然出て貰う。で、最後の1つは当然俺、と。

 

「ムラタ、ムウ、テュカの3人は北側の城門。この世界では一番顔と名前が売れているロゥリィが敵の主力が来ると思われる南。俺が東で高畑が西。これで十分だろ」

「……むぅ」

 

 不満そうな声を漏らすのは、敵が殆ど来ない北側に配置されたムラタ。

 

「ムラタ、悪いが今回はこの決定に従って貰うぞ。お前程の戦力を遊ばせるのは勿体ないが、北側にもある程度の戦力は配置しておく必要がある」

「ムウがいるが?」

「あー、まぁ、確かに俺もそれなりに自信はあるけどさ。特にこの世界の兵士なんて、魔法という要素はあっても中世程度の戦力しかないんだから」

「待て、待って欲しい。そちらの戦力を侮るわけではないが、本当に1人で盗賊をどうにか出来るのか? 空飛ぶ剣もなしに」

 

 ムウの言葉に被せるようにピニャが言葉を返すが、ぶっちゃけ余裕という認識しかない。

 それこそ、この世界の住人を相手に戦うのならまだBETAと戦っていた方が厳しいのではないかと思うくらいに。

 いや、実際そっちの方が厳しいのは当たり前なんだけどな。

 ピニャの言葉に軽く肩を竦め、ロゥリィとテュカの2人へ尋ねる。

 

「この世界の事をよく知っている2人としてはどう思う? 俺達が盗賊如きを倒せないと思うか?」

「いえ、思いません。高畑さんの方は実力は見た事がないので何とも言えませんが、アクセル様なら1人でも全く問題ないかと」

「そうねぇ。アクセルはその子の言う通りでいいとしてぇ、そっちの高畑って人はムラタよりも強いって話だしぃ、問題ないと思うわぁ」

「との事だが?」

 

 亜神にハイエルフの保証があれば問題ないだろうという俺の考えはそれ程間違ってはいなかったらしく、ピニャが小さく溜息を吐く。

 

「分かった。だが、この街の防衛指揮官としては完全にそちらの言い分を信用は出来ない。いざという時に備え、北以外の城門には兵力を待機させる事になるが構わぬか?」

「……そうだな。それでイタリカの住人やお前達が安心出来るのなら、好きにするといい」

 

 それに、俺達の実力を直接その目で確認して貰えるというのは悪い話じゃない。いや、寧ろこっちにとっては有利だとすら言えるだろう。

 勿論向こうにしても、こちらの戦力を少しでも多く分析したいと思っての事なのだろうが……正直、分析でどうこうなる程度の戦力差じゃないんだよな。

 シャドウミラーを中心とした異世界間連合軍。それらの実力がどの程度のものか……十分に味わって貰うとしよう。

 

 

 

 

 

「……暇だな」

 

 ポツリと呟く。

 俺がいるのは、東の城門の城壁の上。

 周囲には俺以外誰もおらず、城壁の下にはこの街を守る為の守備兵達が忙しく準備をしている。

 どうなってるんだろうな。普通、こういう時は俺に手柄を立てられるのを嫌って絡んできたり、あるいは1人で迎え撃つという実力が信じられずにその実力を確かめる……的な腕自慢がいると思うんだが。

 だが、今俺の周囲には全く誰もいない。

 城壁の上から見えるのは、盗賊が出したと思われる数人の偵察兵と思しき者達のみ。

 盗賊を誘き寄せて一網打尽にするという流れを狙っている以上、あの偵察に手を出すような真似は出来ない。

 そんな風に遠くを見ていると、まさかこっちの視線を感じた訳ではないだろうが、偵察兵達はそのまま来た方向へと戻っていく。

 これでそう遠くないうちに再び攻め込んでくるだろう。

 そう思っていると、微かに声が聞こえてきた。

 普通の人間ならまず聞き取れないだろう小声。だが、生憎と俺は混沌精霊だった。

 

「なぁ、本当にいいのか? あんな奴等を信用して。ピニャ殿下も、なんであんな怪しげな奴等を……」

「お前一体何を……ああ、そうか。お前は確かあの時治療の手伝いで走り回っていたからな」

「んあ? 何がだよ」

「あのアクセルって奴……ちょっと洒落にならないぞ。何しろ、ロゥリィ聖下でさえ自分よりも実力は上だって言い切ってるらしいから」

「おいおい、ロゥリィって……あの死神ロゥリィ? かよ?」

「そうだ。実際あいつが何をしたのかは分からないが、こっちは身動き一つ出来なくなったからな。ピニャ殿下に至っては……いや、何でもない」

「おい、そこまで言ったんなら、最後まで言えよ」

 

 そんな声が聞こえてくるが……なるほど。ピニャの失禁事件の時には結構な兵士がいたからな。それを思えばあの時の件が広がっていたとしてもおかしくはない。寧ろ当然と言えるだろう。

 もっとも、それはつまりピニャの失禁シーンも大勢に見られたという事になるんだが。

 意図していなかったが、もしかしてピニャに対して致命的な大ダメージを与えていないか、俺?

 俺の視線が向けられているのに気が付いたのだろう。小声で話していた兵士2人は、そそくさとどこかへと去って行く。

 その後ろ姿を見送り、盗賊が来るのを待っている間にも時間が進み、イタリカに来た時には真上にあった太陽が夕日となって沈みつつあった。

 結局日中は来なかったか。

 まぁ、盗賊である以上は夜に動くのがらしいんだろうが。

 そんな風に考えていると、完全に日が暮れた頃にこちらへと近づいてくる気配を感じ取る。

 視線を向けると、猫耳を付けてメイド服を着ている女がそこにはいた。眼鏡を掛けているところも見ると、一瞬誰かの趣味かとも思ったが、すぐにこの世界にはエルフやドワーフといった他に獣人がいるというのを思い出す。

 

「その、お食事をお持ちしたのですが、よろしいでしょうかニャ?」

 

 そう告げ、差し出されたのは木の皿に入ったスープとパン。

 野菜や肉といった具材も多く入っている。

 

「籠城戦だってのに、随分と豪華な食事だな」

 

 籠城である以上は食料は大事な筈。そう思って尋ねたのだが、獣人のメイドは首を横に振る。

 

「確かに普通に考えればそうですが、今回はアクセル様達が守ってくれると聞いておりますニャ。だから食料を節約する必要はないので、寧ろ豪勢な食事にして皆の士気を上げた方がいいとピニャ殿下が仰り、こうなりましたニャ」

「へぇ」

 

 受け取りスープを口に運びながら感心する。何だかんだ言っても、やっぱりそれなりに有能ではあるんだよな。

 スープ自体にも肉や野菜の味が染みており、身体にしみじみと染み渡るような味だ。

 決して晩餐会で出るような豪華な料理ではないが、籠城戦をやっている中での料理としては極上と言ってもいいだろう。

 そのスープとパンを味わいつつ、離れたところに控えている獣人へと尋ねる。

 

「獣人というのはこの世界では初めて見たけど、珍しいのか?」

 

 ネギま世界のヘラス帝国辺りには大量にいそうだけど、この門世界では殆ど見た覚えがない。そう思って尋ねたのだが、メイドは小さく笑みを浮かべて頷く。

 

「そうですね、先代の領主であるコルト伯爵様の趣味……というのが強いですニャ。帝国内では亜人はあまり好まれませんので」

 

 そうか。と頷こうとした、その時。

 思わず動きを止める。

 

「へぇ、こっちに来たか」

「なんですかニャ?」

 

 その言葉に返事をせず、そのままスープとパンを胃袋に収めて食器をメイドへと返す。

 

「もう戻れ。……望んでいない客が来た」

「っ!?」

 

 それだけで俺が何を言いたいのかが分かったのだろう。大きく目を見開くと、そのまま俺から受け取った皿とスプーンを持ったまま走り去って行く。

 その後ろ姿を見送り、暗闇に紛れて近づいてきている盗賊に向かい……笑みを浮かべて待ち構えるのだった。




アクセル・アルマー
LV:42
PP:175
格闘:301
射撃:321
技量:311
防御:311
回避:341
命中:361
SP:1402
エースボーナス:SPブースト(SPを消費してスライムの性能をアップする)
成長タイプ:万能・特殊
空:S
陸:S
海:S
宇:S
精神:加速 消費SP4
   努力 消費SP8
   集中 消費SP16
   直撃 消費SP30
   覚醒 消費SP32
   愛  消費SP48

スキル:EXPアップ
    SPブースト(SPアップLv.9&SP回復&集中力)
    念動力 LV.10
    アタッカー
    ガンファイト LV.9
    インファイト LV.9
    気力限界突破
    魔法(炎)
    魔法(影)
    魔法(召喚)
    闇の魔法
    混沌精霊
    ???
    ???

撃墜数:1144

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