転生とらぶる   作:青竹(移住)

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番外編039話 if 真・恋姫無双編 09話

 轟っ!

 そんな音を立てて放たれた炎は、瞬く間に視界の先にいる軍隊……袁術軍の兵士達を炎に包み込む。

 炎の舌に舐められて着ていた鎧が溶け、肉体は炭と化して崩れ落ちた仲間達を見た袁術軍の兵士達は、自分が相手をしているのがどんな存在なのかを本能的に悟ったのだろう。我先にと逃げ出していく。

 普通であれば指揮官がその逃亡を阻止し、あるいは逃亡兵を殺してでも部隊の瓦解を防ぐものなのだが、何しろその指揮官達が真っ先に逃げ出しているのだから、部隊の瓦解を止めるような者は誰もいなかった。

 

「数だけは多いが、ここまで質が低いというのは予想外だったな」

 

 呟くアクセルの隣で、雪蓮が珍しく苦笑いを浮かべながら溜息を吐く。

 

「そうは言っても、アクセルだから簡単に蹴散らしているけど……数が多いというのはそれだけで厄介なのよ」

「だろうな。けど、その辺は質で圧倒すればいい」

「いや、だからそれはアクセルだからこその話でしょ」

 

 BETAとの戦いを思い出しながら告げるアクセルに、雪蓮はどこか呆れた様に言葉を紡ぐ。

 

「それに、元々はもっと時間を掛けて袁術を倒すつもりだったのよ? それを急に攻め込む事になったおかげで、冥琳も策の下準備がぁって嘆いてたじゃない」

 

 左翼後方で弓兵を指揮している軍師の、普段では見られない光景を思い出しながら告げる雪蓮。

 そう。本来であれば、もう少し孫呉としての力を付けてから袁術に対して反旗を翻すはずだったのだ。だが、それを前倒しにした理由は大きく分けて4つ。

 まず1つ目は当然雪蓮の名声だ。黄巾党の指導者でもある大賢良師を孫策が倒したという名声は中華全土に広がっている。

 2つ目は言うまでもなくアクセルという規格外の戦力の存在。特に黄巾党との戦いでは実力を隠していた為に、袁術達にその力を知られてはいなかった。

 3つめは黄巾党の本陣をアクセルが混乱に陥れた時に、ドサクサ紛れに盗んでおいた大量の物資。

 4つめは黄巾党の討伐で知り合った董卓陣営。特に董卓は華雄の件で孫呉に対して深く感謝しており、冥琳がその辺のルートを使って上手く交渉する事に成功する。もっとも、交渉とは言っても董卓軍や官軍から援軍を出して貰うのではなく、今回の行動を黙認して貰うという形でだが。黄巾党の件で大幅に威信が低下した漢としては、行動を起こすに起こせないという事情もあったのだろう。

 特に3つめが非常に大きかった。何しろ、20万人分以上の糧食や武器、あるいは金銀財宝の類まで倉の中から盗んでおいたのだから、孫呉の兵士が行動を起こす分には全く問題がなかったのだ。正確には余りが出る程ですらある。

 黄巾党との戦いでもアクセルの起こした混乱のおかげで被害が殆ど出なかった事もあり、今ならいけると判断した雪蓮の命令で孫呉独立の行動は大きく前倒しされる事になり、こうして今に繋がっていた。

 黄巾党との本陣に雪蓮達を向かわせ、自分達は数の少ない西側を攻めた袁術達。

 しかし、その少ない黄巾党の中には少ないなりに腕の立つ者がいたらしく、孫呉とは違い袁術軍は大きく被害を受けていた。

 それでも数の差で押し込んで何とか勝ったのはいいものの、ようやく自分達の家に戻ってきたらすぐに雪蓮達の反乱が起き、色々な意味で間が悪かった。

 いや、この場合は勘で今が勝負所だと判断した雪蓮を褒めるべきなのだろう。

 

「姉様! 敵が完全に崩れました! ここは追撃を!」

「そうね。ここはお願いしてもいいかしら?」

「はい! 思春、亞莎、行くわよ!」

「は!」

「わ、分かりました!」

 

 兵を率いて袁術軍の追撃を行う蓮華に、思春と亞莎が続く。

 亞莎というのは呂蒙の真名であり、今回の袁術に対する反乱の際に孫呉に合流した軍師だ。

 将来を嘱望されており、正確にはまだ軍師見習いという地位にありながらも、冥琳によって次代の孫呉の柱石となるだろう人物として期待されている。

 言うまでもなく思春は呉の中でもトップクラスの武官であり、そんな2人を率いている蓮華は孫呉の後継者。

 そんな2人を率いて行く蓮華の姿を見送りながら、雪蓮は小さく笑みを浮かべていた。

 

「どうしたんだ?」

「うん、次代の孫呉も安泰だなって思ってね」

「……また、微妙に危険な事を言うな」

「そう? でもこの調子ならあの子を呼び寄せてもいいでしょうね」

「……あの子?」

「そ。私達の末の妹で孫尚香って言うんだけど。まだ幼いから避難させてるのよ。でも、ここで袁術を倒せば孫呉再興もなる。そうしたら……きっとアクセルも気に入るわよ」

 

 そう告げつつも、何か思うところがあるのか、雪蓮の口元には笑みが浮かぶ。

 そんな様子に微妙に嫌なものを感じ、その意図を尋ねようとしたのだが……ちょうどそのタイミングで蓮華の部隊から伝令の兵がやってくる。

 

「孫権様の部隊は袁術軍の排除を完了し、本拠地の寿春へと向かっても構わないかとの事ですが……」

「そう、ね。いえ。ここは私が行かせて貰うわ。あの子には今まで散々煮え湯を飲まされたんですもの。是非お礼をしたいし」

 

 そう告げ、半ば殺気に近いものを吹き出す雪蓮。

 間近でそれを浴びせられた伝令の兵士は、半ば腰を抜かしながらも慌てて蓮華へと雪蓮の伝言を伝えるべくその場を去るのだった。

 

「アクセル、お願いね。今のままだと袁術ちゃんが逃げ出す可能性もあるから、その前に押さえたいわ」

「……了解」

 

 当然とばかりに頼ってくる雪蓮にアクセルは小さな溜息を吐き、そのまま影のゲートを使って敵の本拠地の中にいきなり姿を現すのだった。

 結果として袁術はその命を奪われるような事は無かったものの、着の身着のままで張勲と共に放逐という結果となる。

 

 

 

 

 

「皆、良く今まで袁術の統治に耐えてくれた! この孫策、亡き母に代わり礼を言わせて貰う! これからだ……ここからが新たなる孫呉の第一歩! 我が母の愛した土地の全てを取り戻す! 皆、これまでよりも一層の協力を期待する! だが、今宵は難しい事は言わない。ただ、勝利の美酒に酔いしれるがいい!」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!』

 

 雪蓮の言葉に孫呉の兵達が歓声を上げ、それぞれに配られた酒や料理といったものを楽しむ。

 袁術を倒したとはいってもまだ地方豪族が多く残っており、雪蓮に従わないという態度を取っている者も少数だが存在している。

 数日後には、その討伐部隊も編成される事になるのだろうが、今はただひたすらに勝利の宴を楽しむのみだった。

 

「ふぅ……さ、これで堅苦しいのはおしまい。あとは皆でぱーっとやりましょ」

 

 兵士達に対しての宣言を終えると、雪蓮は身内だけの宴の場へと姿を現してそう告げる。

 そんな雪蓮を、冥琳、祭、穏、蓮華、思春、明命、亞莎といった者達が笑みを浮かべて迎えた。

 

「ほら、雪蓮。今日は無礼講だ。私も何も言わんから、好きなだけ飲むといい」

「あははは。ありがと、冥琳。さぁ、皆。今日は飲んで、飲んで、飲んで、騒ぐわよ! 母様も湿っぽいのは嫌いだったから、陽気に騒いで孫呉の復興を祝いましょう!」

 

 そう告げ。それぞれが笑みを浮かべながら酒の入った杯を掲げる。

 ……この時、アクセルの杯の中に入っていたのがお茶であると知らなかったのは、雪蓮にとって幸運だったのか、あるいは不運だったのか。……その後に起きた事態を考えれば、五分五分といったところだろう。

 ともあれ、宴が始まってから1時間程。それぞれが嬉しさの余り酒が進み、皆が頬を赤く染めて気持ちよく酔っ払っていた。

 

「ふむ、次のツマミじゃ! 以前どこぞの商人から聞いた料理を再現してみた。メンマラーメンじゃ!」

 

 出てきたのは、メンマラーメン。いや、麺よりも圧倒的にメンマの方が多く、ラーメンメンマとでも呼ぶべき代物だった。

 

「ちょっと祭! これなら普通にメンマだけ持ってきてよね!」

「祭殿……これはさすがに……」

 

 そんな風に雪蓮と冥琳から責められるが、既に酔っている祭がそんな文句を聞き入れる筈もない。

 

「ええいっ! 誰も食わんのなら儂が食う!」

 

 そう叫び、メンマ塗れのラーメンへと箸を伸ばすのだが……

 やがて、持っていた箸を上へと放り投げて叫び出す。

 

「ええいっ、メンマメンマメンマで麺が出てこんわ! 誰じゃこんな料理を開発したのは!」

 

 そんな風に叫んでいるのを、少し離れた場所で料理を摘まみながら眺めるアクセル。

 料理は美味いのだが、アルコールの匂いは相変わらず好きになれないらしく、開け放たれている扉の側で料理を食べていた。

 そんなアクセルに近づく人影が1つ。

 

「ちょっとアクセル。今回の件は貴方の手柄が大きいんだから、そんな隅にいないでこっちに来て飲みなさいよ」

 

 手に持った杯をこれ見よがしに見せつける雪蓮だったが、アクセルはそれに首を振る。

 

「いや、俺は酒に弱くてな。悪いが遠慮させて貰うよ」

「むぅ、何よ。私のお酒が飲めないっていうの!? ほら、ほら、ほら!」

 

 杯をアクセルの口へと突きつけてくる雪蓮。

 普段であれば、それを防ぐのはそう難しくはなかっただろう。

 だが、今回は杯の中に酒が入っており、その杯をアクセルに突きつけていたのだ。

 結果的に、その杯から零れた酒は色々な意味で不運な事にアクセルの顔面へとぶちまけられ……そうなれば、当然口の中にも大量の酒が入る。

 瞬間、まるでコンピュータの電源をシャットダウンするかのようにアクセルの意識は途切れたのだった。

 ……傍から見れば、そんな状態は全く分からずに動いていたのだが。

 そして何よりも不幸で幸運だったのは、アクセルの近くに雪蓮が……そして、アクセルに酒を無理に進めようとしていた雪蓮を止めるべく冥琳がいたことだろう。

 酒を飲んで、更に袁術を追放した事によりこれでもかとばかりにストレスが発散され、その結果普段よりも薄着になっている雪蓮と冥琳の2人が。

 

 

 

 

 

「……んあ?」

 

 ふと、目を覚ます。

 記憶が繋がっておらず、気が付けば何故かベッドの上にいた。

 そして裸。

 これはいい。だが……と。両腕に重みを感じたアクセルは横を見回す。

 そこには自分の両腕を枕にして眠っている雪蓮と冥琳の姿。

 しかも、2人共が一糸纏わぬ姿であり、その身体や周囲の様子、あるいは部屋の臭いを嗅げば、昨夜何があったのかというのは明白だった。

 

「んんー……なぁにぃ……もうちょっと眠らせてよぉ。昨夜はあんなに疲れたんだから……」

 

 そんな風に、どこか気怠さと甘さを感じさせる声で呟く雪蓮の声に、アクセルはやっちまった……と頭を抱える。

 尚、冥琳は少し動いただけでも全く目を覚ます様子もみせずにぐっすりと眠り続けており、結局この日は3人共が昼まで眠りこけ、業を煮やした蓮華が起こしに来るまで眠り続けるのだった。

 

「ね、ね、ね、ね、姉様ぁっ!」

 

 そんな声が響き渡り、そうなれば当然様子を見に来る者も出て、何だかんだで3人の関係は半ば公認のものとなる。

 

 

 

 

 

「ねぇ、アクセル。私と冥琳を傷物にしたんだから、きちんと責任はとって貰うわよ?」

「……そもそも、俺は酒が苦手だって言ってたのに無理して飲ませるからだろうが」

「ほう? ではなんだ? お前が私と雪蓮を抱いたのは嫌々だったと?」

「あー……分かった分かった。勿論そんな事はない。お前達は十分に魅力的だし、そんなお前達を抱けて嬉しいと思ってるよ」

「でしょ? だ・か・ら、これからもしっかりと私達に協力して頂戴ね。その代わり呉の件が一段落して蓮華に任せたら、2人……いえ、3人でゆっくりと過ごせるようにするから」

 

 そう告げ、アクセルに擦り寄る雪蓮。

 雪蓮にしてみれば元々アクセルとは気が合う相手であり、同時に気になる相手でもあった。自分とくっつけば、アクセルを自分のものにし、同時に孫呉のためにアクセルにも協力してもらうという、一挙両得、一石二鳥の出来事だった。

 

「それにほら、冥琳も」

「む? 私もか……いや、だがな」

「ほらほら、あまり恥ずかしがらないの」

 

 そう告げ、冥琳の腕を引っ張ってアクセルと共に密着する。

 そんな雪蓮の様子に小さく溜息を吐いたアクセルは、雪蓮と冥琳を抱き寄せながら口を開く。

 

「孫呉を率いる者が、俺みたいな氏素性の知らない相手とそういう関係になってもいいのか? 普通国家の安寧の為に政略結婚とかをするんだろ?」

 

 雪蓮と冥琳。2人からはそれぞれ甘酸っぱいような香りがしてくる。

 似ているようで違う、違うようで似ている。そんな香り。

 

「いいのよ。孫呉は蓮華に託すから。……孫呉の復興なら私の方が適任でしょうけど、新たな孫呉の統治という意味では、私よりも蓮華の方が器は上よ」

 

 雪蓮の口から出た言葉に、アクセルは思わずなるほどと頷く。

 事実、アクセルが知っている拙い三國志の知識では、呉を率いているのは孫権なのだから。

 

「……俺は故郷に恋人がいる。それでもいいのか?」

「ふふっ、確かにアクセルには恋人がいるかもしれないけど、私に惚れさせてしまえば問題ないわよ。それに、冥琳みたいに一緒にいることになるかもしれないでしょ?」

「……そこで私を出されてもな」

「何よ、冥琳だってアクセルに興味津々の癖に」

「そうだな、私としてもそこは否定出来ない事実だから困る」

 

 こうして、3人は夜の闇に身を沈め、この日から甘い時間を過ごすことになる。

 

 

 

 

 

 20日程後、袁紹からの董卓討つべしの檄文が届くまでは。


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