寝オチしたらサウザーになっていたが 何か? 作:コトナガレ ガク
翌朝、太陽が昇る頃俺はリンちゃんと共にジープに乗り込んだ。
「二人付いてこい。残りは邑を守れ」
ジープの運転手と護衛のバイク。
「「「はっ」」」
親衛隊も今や減りに減って5人。その内の3人だけを残しておく。腐っても南斗聖拳の拳士、3人いれば十分と信じたいが正直南斗聖拳を習いはしたが超人にはほど遠い。それでもモヒカンよりは強いが他流派の泰山拳あたりの伝承者達よりは弱い。
今は信じるしかない。
「ちょっとリンちゃんを連れて何処にいくつもりなの」
出発しようとした俺をマミヤが呼び止めてくる。この女は今やリンちゃんを巡るライバル、さんなど付けてはいられない。それによく考えたら今でも元の俺でも俺の方が年上だし問題ないだろ。まあ、元の時代だったらポリコレが怖くて呼び捨てなんか出来ないけど。
「帝王は約束は守る。この辺り一帯の盗賊共を一掃してくれるわ」
俺はここに長く止まれないし防衛の為の兵士も十分に置けないとなれば、これしか手はない。モヒカンはゴキブリと同じで退治してもまた湧いてくるが、それでも時間は稼げる。その間にシュウに何とかして貰う。
帝王自らこんな事をと思わないでもないが俺の覇業は始まったばかり、ここで民の信用を失うわけにはいかない。
「ならリンちゃんを置いて行きなさいよ」
「巫山戯るな」
正直ここの防衛は心許ない、だったら俺の目の届く範囲にいた方が安全だ。
それになにより俺の心の安らぎのため。
「これ以上時間を無駄に出来ない。行くぞ」
この時代に明かりといえば太陽しかない、日が沈んだら暗くて動けやしない。
「なら、私も付いていくわ。私なら盗賊のアジトにも心当たりがある。足手纏いとは言わせないわ」
「勝手にしろ」
「決まりね」
マミヤはジープの助手席にさっさと乗り込み、運転手が此方をちらりと見てくる。
「行け」
「はっ」
「あそこのドーム球場が盗賊のアジトよ」
マミヤが指差す先には辛うじて屋根が残るドーム球場が見える。
なるほど確かにアジトには丁度いいな。
そのまま近付いて行くとちょうど仕事に行く準備をしているのかドーム球場前に百人ほどが集まってバイクなどの準備をしている。
「よしこのまま強襲を掛ける。
お前達はここでリンちゃんを守れ」
「「はっ」」
「じゃあリンちゃん、帝王ちょっとお仕事してくるね」
「行ってらっしゃい」
リンちゃんの声援を貰えばケンシロウにだって勝てる。
俺はジープから飛び降りるとそのまま忍者走りで盗賊の集団に突っ込んでいく。
しゅばばばばばあばばあばばば、無言で高速で無表情でサウザー顔が近寄ってくる。
それを目撃しただけで盗賊団に恐怖が走る。
「なんだ!? オールバックのオッサンが向かってくるぞ」
「悪魔みたいな顔いや悪魔だぁ~」
「きっと奴隷商人か何かだ」
「ちくしょう、やってやるやってやるぞ。俺達の自由を守るんだ」
盗賊団は動揺しつつもそれなりに修羅場を潜ってきた男達斧を振り上げ向かってくる。
甘い。
勢いを止めることなく両手を前にクロスさせれば、盗賊達は武器ごとX字にバラバラになっていく。
「やっぱり悪魔だ~」
「にっ逃げろ~」
それは厄介、ここで根絶する。
俺は逃げようとする奴から優先して潰していく。
クロス。
クロス。
クロス。
そしてぐるんぐるんと盗賊達の間を走り回っているといつしか水戸黄門になっていた。
へへーーーーーーーーーーーー。
印籠を見た悪代官の如く生き残った盗賊達は皆平伏していた。
「何のつもりだ?」
流石に平伏している者を斬り殺すのは少々躊躇う。
「こっ降伏します。貴方様に従います。奴隷でもいいので殺さないで下さい~」
好き勝手なことを、こうして降伏した邑人を此奴等は見逃したことはあるのか?
ケンシロウならこのまま全員皆殺しだろうが。
このサウザーは清濁合わせ飲む大人、一度くらいはチャンスをやる。思えば此奴等だってこんな時代でなければ俺同様ブラック企業でサラリーマンをやっていたはず。
「いいだろう。一度だけチャンスをやろう」
「ほっほんとですか」
平伏していた盗賊達が喜び顔で顔を上げる。
「千人だ」
「千人?」
「この聖帝に従う部下を千人集めてこい。そうしたら部下にしてやる」
「奴隷じゃなくて部下」
「南斗帝国軍に入れて貰えるのか」
正規軍じゃなくて臨時雇い。正兵士になりたくば南斗聖拳を習って貰う。
仮雇用中の研修みたいなものだ。
「夕方までに千人集めてこい。出来なければ死だ。何処に逃げようとも切り刻んでやる。
行けっ」
俺ってやはり頭が冴えている。これでわざわざ探し出すことなく盗賊共の方から来てくれる。楽ちん楽ちん。
いきなり千人も兵士が増えて食料をどうするかだって。
心配無用。
千人も集まれば、きっとモヒカンの思考回路なら死ねや聖帝と叫んでお礼参りをするに決まっている。
「はっはい」
生き残った盗賊達は一斉に起き上がり動き出すのであった。