ブレーメンの屠殺場   作:NiOさん

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第3問 ウサギかカメ

 時刻は24時ちょうど。

 場所は中学校の音楽室。

 

 

 携帯の時刻の横が“第21日目”を示すと同時に、4人の携帯電話が一斉に鳴り出します。

 内容は、以下の通りでした。

 

 

『動物村で、タマゴの化石が発見されました。

 動物たちが博物館に見に行くと、化石の説明には【世界のうちでも歩みの速い生き物のタマゴの化石】と書かれていました。

 

 ウサギさんが言います。

『もしもしカメさんよ、これは私たち、ウサギのタマゴの化石だと思うのですが』

 

 カメさんも反論します。

『何をおっしゃるウサギさん、貴方は私に負けたばかりでしょう。

 これは私たち、カメのタマゴの化石です』

 

 2匹はお互い譲りません。

 さて、調べてみるとこの化石、ウサギかカメ、どちらかのタマゴだったのですが。

 いったい、どちらのタマゴだったのでしょうか』

 

 

 そして、毎度のことですが、下にスクロールしていくと例の文字が書いてあります。

 

 

『ただし、間違った答えをすると、死にます』

 

 

 …………カチッ カチッ カチッ カチッ …………

 

 

 突然、静寂だった室内に、メトロノームの音が響き渡ります。

 

 4匹が、驚いて顔を上げると、目の前を指揮棒が横切りました。

 

 

「「「「えっ?」」」」

 

 空中で浮遊する指揮棒が音楽家の肖像画の前で止まりました。

 真剣な顔のショパン(・・・・)や、難しい顔をしたベートーベン(・・・・・・)

 彼らに向かって、ゆっくりと指揮棒が振り下ろされます。

 

 

♪~♪~♪……

 

 

 それと同時に、ピアノが鳴り出しました。

 

 

「・・・・・・え? ……ホントにこのチョイス?」

 

 

 ピアノのイントロを聞いて猫の少女が思わずそんな声を上げました。

 確かにおかしなチョイスですが、ある意味問題にピッタリのチョイスです。

 

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 もっしもっしかっめよー かっめさーんよー……

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 眼光鋭いバッハ(・・・)が。

 笑顔のモーツァルト(・・・・・・)が。

 無表情のシューベルト(・・・・・・)が。

 物憂げなワグナー(・・・・)が。

 

 

 絶対歌ったことがない(・・・・・・・・・・)であろう歌を(・・・・・・)歌い始めました(・・・・・・・)

 

 

 次の瞬間、窓側の巨大な遮音カーテンが、まるで舞台の幕の様に開きます。

 中央には、どう見ても鶏卵にしか見えないタマゴが鎮座しており、右側にはウサギが、左側にはカメが、それぞれ檻の中に入れられています。

 つまり、答えがウサギなら右の檻に(・・・・)、答えがカメならば左の檻に(・・・・)タマゴを入れろということなのでしょう。

 そして、それらの背後、カーテンの裏には……ああ(・・)

 ツェルニー(・・・・・)ロッシーニ(・・・・・)グル―バー(・・・・・)

 良く見ると音楽室の4方向の壁は、世界中の音楽家たちの肖像画でいっぱいです!

 

 そして……彼らがめいめいに、『ウサギとカメ』を輪唱しだしました!

 

 

「うあ、あ、ああああ!!」

 

 驢馬の少女は耐えられずに崩れ落ちて悲鳴を上げます。

 霊感の強い彼女にとって、ここは化け物のお腹の中も同然なのでしょう。

 

「あは、あっはっはっは!!」

 

 猫の少女は爆笑しています。

 あまりのシュールさに彼女の奔放さが堪え切れなくなったのでしょう。

 

「油絵が、動いている!?

 しかも、声帯も無いのに声が出ているなんて……!!

 あ、瞬きもしたぞ! ……目も乾くのか……!?」

 

 鶏の少年は絵画生物の生態を観察して興奮しています。

 馬鹿みたいです。

 

「うっせェな……パチンコ店デスかァ?」

 

 犬の少年は一人だけ冷静に物事を見ています。

 この音楽会が、4匹の思考を妨害するためのものであることは、全員が分かっていました。

 しかし、それでも平静でいられたのは彼だけのようです。

 犬の少年は確かに非常に沸点が低いですが、冷静にならないと倒されてしまう修羅場を何度か経験しているようでした……流石に命まではかかっていなかったようですが。

 

 無限に輪唱され続けるウサギとカメ。

 さらに音楽室の弦楽器が(・・・・)打楽器が(・・・・)木管楽器が(・・・・・)金管楽器が(・・・・・)

 もはや童謡の原型を留めないほどにクラシック化されたウサギとカメ。

 まさに音楽室は、真夜中の音楽会へと姿を変えていました。

 

 犬の少年は静かな気持ちで辺りを見回します。

 3匹は激しく動揺しており、とても問題を解ける精神状態ではありません。

 声をかけようにも、音楽がうるさすぎてそれも難しいように思えます。

 

「俺しか、いないかァ」

 

 幸い2択問題です。

 恐らく、気づけば一発で解る問題なのでしょう。

 

 犬の少年は、なるべく冷静に、携帯の時間を確認します。

 

「……ッチ……本気(マジ)かよ」

 

 

『00時00分00秒 “第21日目”

 残り 03:41』

 

 残り時間は、かなり少なくなっていました。

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