ブレーメンの屠殺場   作:NiOさん

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第35ー42日目 1階校舎奥階段:幽霊階段
1人目


 時刻は2時10分前。

 場所は中学校の美術室。

 

 夥しい血液の海に体を横たえながら。

 鶏の少年は満足していました。

 自分の出来る限りのことが出来たと。

 自分以外の誰も殺すことなく、この問題を乗り切ったと。

 

 そして、飛び出してくれた犬の少年に、感謝をしていました。

 その特攻は、全くの無意味だったけれども、少なくとも鶏の少年の心は少しだけ救われたのでした。

 

 薄れゆく意識の中、思い出が走馬灯のように駆け巡ります。

 その思い出は、途中までは色あせたものだったけれど、この学校での……『ブレーメンの屠殺場』と呼ばれる異空間での記憶は、笑えるくらい鮮明な物でした。

 

 ふと、鶏の少年は、思い返します。

 

 

 

(……え? あ、あ、あ、あ、あああああああああ!!!!!!)

 

 

 

 最期の最期で気づいた事実(・・)

 自分の考えが正しければ。

 もしかしたらこのままだと。

 誰も助からない(・・・・・・・)!!

 

 動かない唇で、何とか声を上げます。

 

 そこに誰がいるかもわかりません。

 もう目も見えないし(・・・・・・・・・)耳も聞こえないから(・・・・・・・・・)です。

 

 でも、不思議と安心感がありました。

 

 きっと、多分、猫の少女がいてくれる(・・・・・・・・・・)、と。

 

 最期の言葉を繰り返した後、鶏の少年は、満足して、向こうの世界へ(・・・・・・・)旅立ったのでした。

 

 

「うわあああああああああああああん、ガリベン君、ガリベン君!!

 起きてよ、返事してよぉぉぉ!

 うわあああああああああああああん!!」

 

 鶏の少年のもとにいち早く駆け寄ったのは、犬の少年ではなく猫の少女でした。

 

 犬の少年は尻込みしてしまったのです。

 だって、鶏の少年のお腹には、もう、何も無かった(・・・・・・)のですから。

 犬の少年が知っている限りの臓器……大腸も、小腸も、肝臓も無く。

 お腹の真ん中に走っている血管から壊れた蛇口の様に血液が地面にビュービュー吹き出しているだけの状態……。

 そんなグロテスクな半死体でも、猫の少女は構うことなく抱きついていました。

 

「……え、なに、なに、ガリベン君、なにか言いたいの?」

 

 そして、本当にたまたま。

 もしも犬の少年がモナリザに戦いを挑まなかったら。

 もしも猫の少女が躊躇して鶏の少年に近付かなかったら。

 永遠に解ることがなかったであろう彼の最期の言葉を聞くことが出来たのでした。

 

「……としょ……なぞな……ノート……」

 

「と、図書館の、なぞなぞノートだね!

 それがどうしたの、ガリベン君!!」

 

 鶏の少年はその返答に満足したかのように、目を閉じて、動かなくなりました。

 

「あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

 犬の少年は天を仰ぎます。

 思えば、完全に不運に見舞われたミッションでした。

 そんな、全員が諦める中でも、鶏の少年は1人だけ気を吐き続けていたのです。

 

「死んで、どォすんだよ、小鳥遊“センセイ”……」

 

 驢馬の少女も嗚咽を上げて泣いています。

 

「だ、だ、だ、だがなじぐんんん……!!」

 

 3者3様に悲しむ中。

 

 

 ……空気を読まないように、放送が流れました。

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

『全校生徒のみなさん。

 夜中の2時です。

 校舎の中に残っている人たちは。

 1階校舎奥の階段へ集合してください。

 繰り返します……』

 

♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪~♪

 

 

 気持ちの整理がつかない中。

 驢馬の少女が立ち上がり、宣言します。

 

「……ごれがら私が、頭脳担当を引ぎ受げまず」

 

 それは驢馬の少女に似合わない台詞でした。

 少女は鼻水をズズーッと啜ると、話を続けます。 

 

「まずは皆さん、図書館の、なぞなぞノートをチェックしましょう」

 

「うあああああああああああああああああああああん」

 

 驢馬の少女は泣き続ける猫の少女のもとへ向かうと、その頬をピシャリと張りました。

 

「……えっ」

 

しっかりしなさい(・・・・・・・・)猫屋敷(・・・) 西()!!

 私たちのために死んで(・・・・・・・・・・)私たちのためにヒント(・・・・・・・・・・)を残した彼に報いる(・・・・・・・・・)ためにも(・・・・)!!

 今やることは(・・・・・・)ここで泣き続ける事(・・・・・・・・・)じゃあないでしょう(・・・・・・・・・)!!」

 

「……!!」

 

「行こうぜ、“クソ猫”。

 俺たちは、絶対死んじゃいけない(・・・・・・・・・・)んだ」

 

 猫の少女は、しゃくりあげながら、フラフラと立ち上がります。

 まだ、悲しい。 まだ、苦しい。

 でも、彼はきっとそれを望んでいない。

 だから。

 

「……ぐぐぐううぅぅ……うん、行ごう、図書館え゛!」

 

 猫の少女も立ち上がります。

 立ち止まることではなく、動き出すことだけが、彼が喜ぶ唯一の道だから。

 

 大黒柱(リーダー)が折れた瞬間、チームが瓦解するということはよくあることですが。

 この3匹に関しては、驢馬の少女の頑張りで、何とか立て直したようです。

 おそらく、ここに来る前であったら驢馬の少女が前に出ることはなかったでしょう……。

 鶏の少年の、誰も死なせないという強い気持ちが驢馬の少女にも乗り移り……今まで持っていなかった積極性となって、現れた瞬間でした。

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