とりあえず今回はリハビリがてら異変でも幕間募集ネタでもないお話を一話分書いてみました。リハビリなので後から納得がいかなかったりしたら修正するかもです。
また、いないとは思いますが
『今までなにしとったんじゃワレェ!!』
という私の動向が気になる方は活動報告にある『生存報告』にでも飛んでください。
(といってもそこまで詳しくは書いてないし、理由もありふれたものですが)
人里に妖夢を案内した翌日、私は霧の湖を訪れていた。特に理由があるわけではなく、強いていえば『なんとなく』だ。
ただまあ、霧の湖に来れば当然、エンカウントする相手が居るわけで――
「あっ、雛だ!」
「こんにちは、雛さん」
――むしろエンカウントしに来ているわけで。
というわけで、お相手は氷精のチルノと大ちゃんこと大妖精。現在は湖の畔に倒れていた木に座ってピクニック気分でおしゃべり中。
――ところで、一定時間ごとに交互に私の膝に乗ってくるのはなんで?
ちなみにお茶請けは昨日人里で
「~~~ッ!この桜餅おいしいです!!」
一口食べた瞬間から大ちゃんが物凄い幸せそうな顔をしてくれた。逆にチルノは一言も喋らずひたすら桜餅を口に詰め込んでいる。
「そういえば雛さん、リリーちゃん見てないですか?」
「リリーを?」
話題がお菓子から他の妖精達に移ったところで大ちゃんが心配そうな表情をした。
「せっかく春が戻ってきたのに、まだリリーちゃんを見かけてないんです。ちょっと……心配で」
「んー、あたいはあいつのことだからその辺飛んでると思うけどなー」
一方のチルノは心配とは無縁らしくあっさりとしている。もしかしたらリリーへの信頼からくる言動なのかもしれないが、それはチルノ本人にしかわからない。とはいえ大ちゃんをこのままにできないと思ったのか、ふと思い付いたようにこちらを向き――
「じゃあ雛!あいつ呼んできてよ!!」
――無邪気にチルノが提案した。
「いや、ちょっ――」
「大ちゃん!!雛ならあっという間に呼んできてくれるって!」
「本当ですか!?」
制止する間もなくチルノはハードルを上げ、大ちゃんは目をキラキラさせてこちらを見つめてくる。
――ああ、信頼と期待の視線が刺さる。
ただ、ちょっと待ってほしい。リリーことリリーホワイトは、妖精なだけあって確かに危険度はそこまでではないし、実際私とも友好的に接してくれる人妖の一人だ。
しかし、問題は現在が春であるという一点に尽きる。
種族が春告精なだけあって毎年この時期は春を告げながら幻想郷中を飛び回っているのだが、春であることが嬉しさのあまり興奮して一度冷静さを失うと無意識に弾幕を周りにバラまく癖がある。
そんな相手に対して
――いや、私でもこの時期のはしゃいでるリリーを捕まえるのはちょっとしんどいんだけど……。
私は微かな抵抗とばかりに言い訳じみた説得を試みたものの、状況が分かっているのかいないのか、チルノは何の問題もないと笑顔で私を送り出した。
「だいじょーぶ!雛から頼めばいっぱつよ!!」
――――――――――
そんなこんなでとりあえず私はリリーが住処としている巨木の前までやって来た。住処と言っても周りからはただの巨木に見えているのだが、私にはしっかりと巨木の中を切り抜いて作られた家が見える。妖精達が自然の事象の体現であるからか、妖精達の住処は確かにそこに存在するにも関わらず、認識するのが難しい。どんな理屈かはわからないが、普通に存在する自然の一部――例えば木や土など――に見えてしまう。
しかし、何事にも例外はあるもので、その自然の中の家を住処としている妖精に案内されその住処を認識した者は、以後その住処を普通に見ることができるようになるらしい。
かくいう私もその内の一人というわけだ。
――まあ、私が此処を知ったのは去年の春にハシャギすぎて紅白の巫女さんに弾幕ごっこでボロボロにされたリリーを送り届けることがあったからなのだが。
とりあえず家の中にリリーが居ることを願って呼びかけてみることにする。
「リリー?いるー?」
少しして、木製のドアがゆっっっくりと時間をかけて開いていく。ドアをほんの少し開いた先にはなぜか目を固く閉じている白いパジャマ姿のリリーがいた。
「リリー?」
なぜ目を閉じているのか問いかけようとしたところで、リリーは突然目を開けるとポツリと呟いた。
「あった、かい?」
ドアの隙間から顔を出したリリーは、ゆっくり首を動かして周囲を確認している。リリーの顔は、絶望の中で一筋の光を見つけたような表情をしていた。
いかにも恐る恐るといった様子でリリーが問いかけてくる。
「はる、です……か?」
「う、うん。今は春だよ……?」
――そんなことは
とりあえずといった形で私が答えた直後、リリーの変化は劇的だった。
――じわっと大粒の涙が浮かび、
――恐怖から解放されたかのように安堵した表情をし、
――最後に泣き笑いの表情で息をおもいっきり吸って……
「はる゛です゛よ゛ーーー!!!!!」
「」
あまりの大音量に一瞬完全に意識が飛んだ。
「うっ、あぅ、ぐずっ、よ、よがっだよ~!」
いきなり大声を間近で受けて意識がハッキリせず、ボーッとした頭で私ができることは、泣きながら抱きついてくるリリーの頭を撫でて落ち着かせることだけだった。
――――――――――
春告精、リリーホワイトが「さすがにおかしい」と確信したのは4月上旬のことだった。例年では如何に春の訪れが遅くともそろそろ桜が咲き始めていてもおかしくはないのだが、今年は未だに雪がたんまりと積もっている状況だった。
それからリリーは春を探して幻想郷中を飛び回った。普段から遊びに行く場所も普段は足を伸ばさない場所も、時には冷たい雪をひたすらに掻き分けてまで探し回った。
「はる……どこ…………です、かぁ」
しかして春は一向に見つからず、心なしか降り積もる雪は増えているような気がしていた。
春を求めて幻想郷中をさまよって、1ヶ月。挙げ句の果てに
リリーホワイトは春告精である。妖精は自然の概念から発生するものであり、春告精である以上、リリーは春から生まれているも同然だった。
逆にいえば…………
自然の概念がなくなるということは、当然その概念を元にした妖精の消滅も意味している。そして、春がなくなるということはつまり……
「――ッ!!」
リリーはそこまで考え、そこから先を考えることをやめた。
住処に戻ったリリーは真っ白な外の景色が視界に入らないようドアも窓もカーテンも締め切り、ベッドの中でひたすら逃避した。それだけが、今のリリーにできる唯一の抵抗だった。
そんなリリーの元に来客があったのは、リリーが閉じ籠って一週間がたった頃だった。
「リリー?いるー?」
外から聞こえてくるのは『人里の守り神』こと鍵山雛の声。居留守を使うことも考えたが、雛に会えるのが
「リリー?」
雛の声と共に感じられる空気に暖かさを感じて、リリーは思わず目を開けた。
「あった、かい?」
春の陽気がじんわりとリリーに染み込んでいく。辺りを見回しても雪は何処にも残っておらず、綺麗に咲いている花たちが季節は春だと主張していた。
「はる、です……か?」
「う、うん。今は春だよ……?」
思わず雛に問いかけてみれば、戸惑いながらも記憶と変わらない穏やかな声音が答えをくれる。
ここにきてようやく季節が春を迎えたと実感できたリリーは……
「はる゛です゛よ゛ーーー!!!!!」
ようやく、ようやく、春告精としての本懐を遂げることができたのだった。
――――――――――
なぜか号泣しているリリーをなんとか落ち着かせてからチルノに遊ばないかと誘われていると伝えれば、即座にYESの回答が返ってきた。
そして現在、いつもの服装に着替えたリリーに腕や背中に抱きつかれながらの移動になっている。
「あの、リリー?……リリーさん?動きづらいから離れてくれません?」
「~♪」
結局、何を言ってもリリーの態度は変わらず、終始リリーに抱きつかれながら霧の湖を目指すことになった。
「春ですよ~♪」
――まあ、リリーが楽しそうにしているし、いっか。
余談ではあるが…………
リリーと共にチルノ達と合流したところ、抱っこされているリリーを見たチルノが開口一番『ズルい!!』と叫び、大ちゃんがもの凄く期待を込めた瞳で見つめてきた。
この後妖精達をメチャクチャ抱っこすることになった。
Q.異変中に春告精を見かけましたか?
A.妖夢「春告精ですか?いえ、見かけませんでしたよ?」
久しぶりついでに長期間放置してしまった感想欄についてのアンケートを設置してみました。よければ回答していってください。他にも意見等あれば活動報告の生存報告にでも投げていって貰えればありがたいです。
2週間~1ヵ月ほど様子をみて総合的に判断したいと思います。
長期間放置してしまった感想の返信は……
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返信あれば嬉しいです!
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びっくりするのでしなくていいです。