…………やっぱり書き手の意思を離れて暴走しますね。いえ、誰がとは言いませんが。
時系列は…………特に決めてませんが、風神録手前の秋に入り始めた辺りでどうでしょうか。
夏の暑さが過ぎ去り、木々が徐々に色づき始めた今日この頃。突然ではあるが、私こと鍵山雛は、現在猛烈に追い詰められている。
「……………………」
私の目の前には、紅魔館の門番である紅美鈴が立っている。いつになく真剣な表情をした美鈴は私に向けて、ゆっくりと手を伸ばしてくる。
「……………………ッ!」
「…………ッ!」
両者の間に緊張が走り、束の間の硬直――
――そして…………
「~~~ッ!!勝ったああぁぁぁぁ!!!」
「ま、負け……た………………」
美鈴は手元に揃ったスペードとハートの9を見せびらかしながら叫び、私は手元に残ったジョーカーを手に崩れおちた。
ここまでいえば何をしていたか分かるだろうが、私達がしていたのはトランプのババ抜きである。メンバーは此処、紅魔館に住んでいる全員。すなわち、
「全く、ビリ争いだったのに大げさね」
「最下位は失うものがあるのだから当然の反応だと思うけど?それよりも、開始前に自信満々だったわりに、リアクションしにくいど真ん中の順位をとった人は誰だったかしら。ねぇ、レミィ?」
「う、うっさいわよ!パチェ!!だいたい、あなただって私と大差ないじゃない!」
「でも、レミィよりは上よ?私」
「ぐッ!う、うー!!」
「あーあ。あとちょっとで一番だったのになあ……」
「ふふ。残念でしたね、妹様」
「勝ててたらおねーちゃんと1日中遊べたのに」
周りではパチュリーがレミリアを弄り、ニコニコ笑っている小悪魔の横でフランちゃんが微笑ましい願いを口にしている。
何を隠そうこのババ抜き、悪魔の館らしく優勝者が最下位の人に命令できる権利が賭けられていたのである。最下位は私。そして、栄えある優勝者は――
「それで、命令は何にするんですか?咲夜さん」
――そう。たった今美鈴が聞いた通り咲夜である。
「あなた自分が対象じゃなくなったからって随分楽しそうね……。でも、そうね。じゃあ……」
そうして私に与えられた命令は――
――――――――――
「……………………お味はいかがでしょうか、お嬢様」
「うん、悪くないわね。ねぇ雛?今日1日だけじゃなくて、いっそ住み込みで働かない?」
「……慎んで遠慮させていただきます」
30分後、咲夜と同じメイド服を着せられてレミリアに仕える雛の姿があった。命令の内容は大まかに言えば咲夜の手伝いである。メイド服を着用し、掃除、炊事、洗濯などを行うことであった。
ちなみに当初はフランに仕える予定だったのだが……
『わたしもお手伝いする!』
何に感化されたのか、フランはメイド側を選んだのだった。
『これでおねーちゃんとお揃いだねッ』
『(お揃いなのを喜ぶメイド服フランちゃん。……かわいい)』
とにかく現在紅魔館では、メイドが二人増えた状態なのだった。
そんな紅魔館の中では――
「パチュリー様、紅茶が入りました」
「ありがとう咲夜。とりあえずそこに置いておいてもらえる?」
――いつも通りの光景が広がっていたり、
「美鈴~?お茶持って来たよ~!」
「え゛!?ちょ、ちょっと待ってください雛さん!!ドジっ子のあなたがトレーに載せて運んできたら絶対ころびますからぁ!!!」
「あッ」コケッ
「~~ッ!!あっつうぅぅぅ!!!」
――門番がドジっ子の被害に遭っていたり、
「お姉さまはメイド服着ないの?」
「逆になんで私が着ないといけないのよ!?」
「…………そっか。…………せっかくお姉さまともお揃いになれると思ったのに………………」
「~~~~~ッ!!分かったわよ!着ればいいんでしょ!!着れば!!!」
「わ~い!ありがとうお姉さま!!」
――メイドさんがさらに増えたりもした。
――――――――――
少し時間が経ってお昼過ぎ。普段の服装に戻った吸血鬼姉妹に、雛は変わらず仕えていた。現在はちょうどフランへの絵本の読み聞かせが終わったところである。雛とフランはソファに横並びで座り、妹に散々振り回されたレミリアは眠りこそしないものの反対側のソファで気だるげに横になっている。
読み終えた数冊の絵本を雛が揃えていると、フランが遠慮がちに話しかけてきた。
「おねーちゃん、お願いがあるんだけど……いい?」
「フランちゃん、どうしたの?」
「えっとね、おねーちゃんが作った料理を食べてみたいな……って」
それは日頃、宴会などを除けばほとんど咲夜の料理しか食べることのない少女の、小さく可愛らしいお願いだった。
「(まあ、他でもないフランちゃんのお願いだし)……うん、いいよ。でも咲夜には一応確認して「では、今晩の夕食は雛に作ってもらいましょうか」咲夜!?」
「足りない食材もあることだし、人里まで買い出しに行くわよ、雛」
「え?ちょ、咲夜!?待って、引っ張らないで!?」
相も変わらず唐突に現れ、思いついたが吉日と言わんばかりに雛を連れて人里へ行く準備をし始める咲夜。この時、普段の態度からは考えられないほどにハシャイでいたのだと、咲夜は後に気づくこととなる。いつも冷静な従者が珍しいと呆気にとられていたレミリアが『まあ、こんな日もあるか』と我に返った時には二人は既に人里へ向けて飛び立っていた。
「ねぇ……お姉さま」
「なにかしら?フラン」
姉と同じく置いてきぼりをくらったフランは、咲夜と雛が見える窓の外に視線を向けたままレミリアに問いかける。
「おねーちゃん…………メイド服のまま行っちゃったけど、よかったのかな?」
「………………………………え?」
――――――――――
その日、人里に降り立つ二人のメイドさんの姿が目撃された。ところで、日頃から雛を敬愛してやまない人里の住人がどういう状況に陥ったかといえば――
「わぁ!わあ!!雛様かわいいー!!!」
「おい!誰かあの新聞記者呼んでこい!!雛様の珍しいメイド服姿だぞ!!!」
「しかも咲夜さんとのツーショットだ!この場に居合わせた俺
「誰かぁ!河童を呼んできてくれねーか!?この前買った『かめら』とやらの使い方が分からねえ!!」
「お二方!お願いですから一枚撮らせてください!!」
「メイド服雛様かわいいヤッター!」
「メイド服の雛ちゃんにお世話されたい!」
「メイドな雛様に膝枕されたい!」
「添い寝したい!」
「欲をいえばその先のことも「「「言わせねーよ!?」」」
「おいおいお前ら、そんなありきたりなことしか出て来ねぇのか?」
「「「親方?」」」
「俺はな…………むしろメイド服の雛ちゃんをお世話したい!!」
「「「ッ!!それだ!!!」」」
――カオスである。
一部どころか過半数の男性陣(と、一部の女性陣)の脳内が桃色空間になっていることはさておいて、老若男女問わず大騒ぎである。里人たちを興奮させるなにかしらがあと一手でもあれば宴会がひらかれていることだろう。そんな里人たちに囲まれた雛と咲夜を、偶然見つけて呼びかけた人影が一つ。
たった今、この瞬間が、彼女にとっての分岐点となった。
「…………雛に咲夜?……なにやってるの?」
「あ、アリス。もしかして人形劇の帰り?」
「私はその通りだけど…………雛はなんでメイド服着てるのよ」
二人に話しかけてきたのはアリスだった。雛はメイド服を着せられた経緯を簡単に説明し、現在の状況についても分かる範囲で答えようとした。
「さっき、此処に入った瞬間から、なんでかいつもより多くの人に囲まれたんだよね」
「そりゃあなたが
呆れ顔を隠そうともせずにアリスは雛にツッコミをいれた。だからだろうか。背後で怪しい笑みを浮かべた咲夜に、アリスは気づくことができなかった。……最も、咲夜の能力からして気づくことができても結果は変わらなかっただろうが。
「一人だけ外野を決め込もうなんてズルいわ。そうは思わないかしら。……ねぇ、アリス?」
「…………ぇ?」
咲夜の問いかけの意味をアリスが察する前に、既に咲夜は行動を終えていた。
すなわち――
「え、え?ええぇぇぇぇぇえええええ!?!?」
――一瞬のうちに、アリスもメイド服となっていた。
「おおおおお!!咲夜さんナイス!!!」
「さすがは瀟洒なメイドさんだ!仕事が早い!!」
「キレイな美人メイドさんの揃い踏みだ!!!」
「お三方!!できれば俺と付き合っ「「「だから言わせねーよ!?」」」
「ひ、雛ちゃんどころか、アリスちゃんのメイド服まで見られるとは…………我が生涯に一片の悔いなしいいいぃぃぃぃぃ!」ガク
「「「お、親方ああああぁぁぁぁぁぁ!?」」」
人形師として人気があるアリスまでもがメイド服姿となったことで、里人たちの興奮度合いがさらに上がり、雛とアリスが人里から抜け出すのに手間取ったのは言うまでもない。なお、咲夜は買い物もちゃっかりと終わらせた上で時間を止めて人里から抜け出しており、一人涼しい表情で帰路についていた。
――(私人里に来る必要あった?)
――(私なんかなんの前触れもなく巻き込まれたわよ?)
その後、紅魔館でアリスを含めた全員に振る舞われた雛の料理は、そのドジっ子属性からは想像できないぐらいには上手く出来ており好評だった。また、この日。人里では至るところで宴会がひらかれたという。
後日、3人のメイドさんが写った新聞が出回ることとなった。なお、この新聞が人里で飛ぶように売れ、歓喜で発狂しそうになった鴉天狗がいたことは完全に余談である。
なおGWは全く執筆できそうにないので次回までは少し空きそうです。
長期間放置してしまった感想の返信は……
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返信あれば嬉しいです!
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びっくりするのでしなくていいです。