(なぜか)人里の守り神になりました   作:sukei

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鍵山教の第一人者である黒糖パン様に『ひな祭りがスルーされた』というありがたいご指摘を頂いたので、季節がちょうどいいタイミングであることもあり、紅霧と春雪の間の幕間として急遽執筆させていただきました。ちょっと早いですが投稿します。

誰が悪いかといえば雛が主人公の小説でひな祭りなどという超重要な季節ネタを素で忘れていた私です。
思い出させてもらえたことに感謝するとともに、罰として黒糖パン様からネタをふられた場合は可能な限り書いていこうと思います。
また、これに伴い幕間のネタ募集を解禁します。詳しくは活動報告まで。



3月3日の雛の受難

「…………んぅ?」

 

その日、雛はいつもとさほど変わらない時刻に目を覚ました。未だ半分は夢の世界にいる雛は、寝ぼけながらも着替えを済ませ、朝食を作るためにキッチンに移動した。

 

「…………あたまいたい」

 

キッチンには空になったお酒のビンが置いてある。雛が昨日、人里近くで店を出していたミスティアから貰ったものだ。月を見ながらの熱燗が美味しくて、止められずにビンを空にしてしまったことを思い出した。水を一杯飲むことで眠気と頭痛を抑えた雛は、今日は何をするか考えながら朝食を作り始めたのだった。

 

 

――――――――――

 

 

時刻はそろそろお昼を何にするか考え始める時間帯。私、鍵山雛は現在人里に来ています。私が来るとすぐに里人が集まってくる…………のは、いつものことなんだけど……………………

 

 

 

 

…………なんか歓迎にいつもより熱入ってない?

 

縁日のように屋台が出ていたり、みんなが晴れ着を着ていたりするわけではないが、どこか浮わついた空気を醸し出している。

 

 

加えて――

 

 

「「「雛様!私たちがんばって作ったよ!」」」

 

 

――子どもたちが。

 

 

「「雛ちゃんきっと驚くから!」」

 

 

――買い物途中の主婦たちが。

 

 

「おう、雛ちゃん!今年はちゃんと里の全員で流しといたからな!」

 

 

――里の入り口に立っている門番さんが。

 

 

里の誰もが『頑張って作った』『きっと驚く』『流しといた』と口にする。

 

流しといたってもしかして流し雛のこと?確かに私は原作の雛同様、流れてくるひな人形の回収をしているし、人里でも周知の事実だけれど。でも驚くっていったいどういうこと?

 

挙げ句、みんなが声を揃えて言うのだ。

 

「「「なんたって今日は雛様の日だからな!」」」

 

……………………私の日?どゆこと?別に今日誕生日ってわけじゃ…………いや、ちょっとまて。そもそも『(わたし)』の誕生日っていつだ?妖怪や神に明確に誕生日ってあるものなのか?

 

人々の言葉を疑問に思いつつ、お昼を食べてから川まで来てみると――

 

 

 

 

 

 

――()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 

 

「……………………………………えぇ?」

 

川のどこを見渡してもひな人形、ひな人形、ひな人形。

 

――え、ナニこの状況。コレ全部回収しなきゃいけないの?イヤ私のためにここまでしてくれるのは嬉しいんだけどさ。私のためってのは十分伝わったから、だからもう少し限度ってものを覚えよう?コレこのままだと外の世界まで流れてくかもしれないんだよ?いきなりひな人形がこんな大量に流れてくきたら事件だよ?誰が回収するの?…………私?

 

私がコレ全部回収するの?こんな寒いなか?

 

 

 

………………泣きそう。

 

 

 

私が半泣きで延々と流れてくるひな人形を回収していると、誰かに唐突に呼び止められた。

 

「あら?雛じゃない。貴女は何でこんなところに……というか、貴女はここで何をしてるの?」

 

咲夜だった。そういえば私の呼び方が呼び捨てになっている。いつから変わったのか明確には覚えていないが、割とすぐに変わっていた気がする。少なくとも秋には変わっていた。

 

おっと。そんなことより、さっきからジト目でこっちを見つめてくる咲夜に状況を説明するほうが先かな。こんな寒い日に濡れ鼠になりながら川に浮かぶ大量のひな人形を回収している姿を見ればそんな目になるのも分かるが、断じて好きでやっているわけではないし、不可抗力なのでその目はやめてほしい。

 

咲夜に事情を話した数秒後、私の隣には大量のひな人形の山が出来上がっていた。横を見ると、そこそこ大きな網を持った咲夜が一仕事終えた顔で佇んでいた。どうやら私に代わって人形を全て川から引き上げてくれたらしい。呆然としている私に対し、会話の続きだというかのように咲夜が口を開く。

 

「雛、そのままだと風邪ひくわ。お風呂貸してあげるから、うちにいらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

……………………ところで濡れた手紙のようなものがひな人形の背中にくっついた形でいくつか流れてきてたけど、あれはなんだったのだろうか…………

 

 

 

 

――――――――――

 

 

大量のひな人形を一旦その場に残し、私は咲夜とともに最近すっかり馴染みになった紅の洋館に来ていた。異変直後に招かれて以来、私は最低でも週に一回は紅魔館を訪れている。

 

「おねーちゃ~ん!」

 

「う、わ」

 

此処での出来事を回想しながら脱衣場から出ると、私が此処に招かれる最大の原因がタックルしてきた。

 

――あの、フランちゃん?今までなんとか衝撃を抑えてるけど、吸血鬼の力でタックルされると私潰れてもおかしくないからね?そろそろタックルじゃなくて別の愛情表現にしない?

 

「えへへ~」

 

遠回しに伝えているのだが、フランちゃんはへにゃりと笑うだけで止めるとは一言も言ってくれない。

 

――あークソッ!かわいいなぁ!!でも誤魔化されないんだからね!!いつかきっと止めさせてやる!!

 

そんなことを考えつつも、フランちゃんを肩車して紅魔館の廊下を歩く。向かうはいつも使っている応接室。応接室の扉を開けると中には紅茶とお茶請けを用意している咲夜とソファでくつろいでいるレミリアがいた。ここまではいつも通り。しかし、いつも通りではない箇所がひとつあった。人の出入りに邪魔にならない壁沿いに――

 

 

 

 

――10段ほどもある立派なひな壇が飾られていた。

 

 

ここで、私はようやく今日の日付の意味を思い出した。

 

「…………あ、そっか。今日ってひな祭りだったっけ」

 

「『だったっけ』って、貴女ねえ」

 

「まあ、おねーちゃんは気にしなさそうだよね」

 

咲夜に呆れられ、フランちゃんには苦笑いされた。自分には縁がないと思っていたからかすっかり忘れていた。

 

――そうか。()()祭りだから私の日ということか。

 

そういえば3月3日にドンピシャで人里を訪れたのは今日が初めてな気がする。思い返してみれば、今までも今日ほどではないにしろ流し雛の数が多い日はあった。確かに季節は決まって春に入りかけた頃だったから、その日がひな祭りだったのだろう。

 

――それにしても立派なひな壇だ。ただ、これ程のものが紅魔館にあるとは思わなかった。もしかして前々からあったのだろうか?

 

「ええ、そうよ。やっぱりフランのためにも用意しておかなきゃって思って前々から――」

 

「いえ、これは今回急遽用意したものよ。お嬢様はなんでも形から入ろうとするところがあるから」

 

「ちょ、ちょっと咲夜!それは言わないでって言ったじゃない!!」

 

ふと疑問に思ったことを聞いてみると、レミリアが見栄を張ろうとして咲夜に内情を暴露された。いつも通りの光景で安心する自分がいる。一方、フランちゃんは上機嫌でお菓子を頬張っている。上機嫌な理由はお菓子がおいしいのもあるだろうが、姉が『フランのため』と公言したのが大きいのだろう。

 

その後、いつもと同じように紅茶を飲みながら歓談し、いつもと同じように夕飯をご馳走になった私は、名残惜しくも紅魔館をあとに自宅に向けて飛び立った。

 

 

 

 

 

 

………………………………あ、そうだ。川のほとりに放置してあるひな人形回収しないと………………。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

長い1日を終えて、やっと妖怪の山の麓にある我が家に帰ってきた。楽しかったけど…………さすがに疲れた。

 

自分以外に住人のいない和風建築の家はさすがに寒い。ちなみに外見こそ和風ではあるが普通に洋間がありベッドもあるし、なんなら暖炉だって付いている。とりあえず暖炉に薪をくべて火を……………………あれ?

 

そこで私はようやく気づいた。

 

……………………薪が、ない。

 

その他、燃料になりそうなものがほとんど枯渇している。

 

あー、思い出してみれば、確かに昨日は寒かったし、酒に酔っていたのもあって、残り少ない燃料をほとんど投入した記憶がある。尤も、燃料の残りから考えて、遅かれ早かれ陥っていた事態ではあるのだが…………

 

 

あ、あはは………………やらかした。

 

 

……………………どうしよ。

 

…………どうしよ、どうしよ、どうしよう!!!

 

え?さすがにこの状況はマズくない!?

 

妖怪だしさすがに死なないよね!?

 

と、とにかく家中から毛布を引っ張りだして……

 

 

 

 

そのとき、冷たい隙間風が私の頬を撫でた。同時に思い浮かんだのは『人里の守り神、自宅で暖を取れず凍死する!?』というなんとも不名誉な題名で書かれた新聞だった。私は自分がかなり追い込まれた状況であることを今さらながらに理解した。

 

 

 

 

と、とりあえず誰かに頼るか。

 

といってもこの状況で頼れる相手となると――

 

 

 

 

 

 

「はーい、こんな夜更けにどちらさま……って雛!?どうしたのよ急に!?そんなこの世の終わりみたいな顔して!!」

 

「あ、アリス………………

 

 

 

………………だ、」

 

 

「…………だ?」

 

 

 

 

 

 

「暖をとらせてください……」

 

 

 

 

 

 

「…………………………はい?」

 

 

 




大量の流し雛をした里人たちの言い分

「雛様に手を煩わせてしまった夏の異変は俺たちの厄が原因だと思った」

「雛様に日頃の恩返しがしたかった」

「雛様に想いを伝えるのにちょうどよかった」(ラブレター的な意味で)




『ラブレター付き流し雛』
人里の一部の男たちが雛様に自身の想いを届けようと流し雛の背中にこっそりラブレターを貼ったもの。ただし、雛は大量の流し雛の対処で手一杯だったため手紙にまで気を使う余裕がなかった。最も、水に濡れて文字がにじんでいるであろう手紙で想いが伝わるかは甚だ疑問である。

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