とある科学のレベル5.5   作:璃春
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(´・ω・`)勝てる?


一方通行を5.5にしたら手が付けられない

 ビルの屋上。その銃口が狙っているのは白の少年。そしてその狙撃銃を構えているのは、まだ幼さの残る少女だった。

「これより第一〇〇三〇次実験を開始します、とミサカはひっそりと呟きます」

 少女――ミサカ10030号は風向きや距離を計算し、ゆっくりと引き金を引く。引き金から伝えられた運動エネルギーはメタルイーターの撃鉄を引き起こし、その撃鉄は銃弾の雷管を叩き、そして必殺の槍を放つ。

 ――はずだった。

「……む? こんなときに弾詰まりですか? とミサカは眉を顰めながら驚きます」

「違ェよ。俺が引き金の運動エネルギーを別のところに逃がしたンだよ」

 掌にあった違和感を眺めていたミサカ10030号は、聞き覚えのある声に後ろを振り返る。しかし、そこには誰もいない。

 急いでスコープを覗き込む。そこにはしっかりと白の少年の後頭部が映っていた。

「どういうことですか? とミサカは首をひねります」

「単に光エネルギーをそこに移してるだけだ」

 再びの声。途端、何百メートルも先の白の少年が掻き消える。

 ミサカ10030号が驚きに目を見張りながら振り返ると、そこには赤い瞳の白。学園都市最強の超能力者、一方通行がいた。

 それを判断するや否や、ミサカ10030号は懐から音波振動ナイフを取り出し、一方通行へと躍り掛かる。

「先手必勝! とミサカ、は……あれ?」

「ンなもン無理だって、いい加減にわかってンだろ?」

 逆手に持ったナイフで一方通行の細い喉を切り裂こうとしたミサカ10030号は、しかし、その不自然な格好のまま空中で静止していた。

 体を動かそうにも、全身をセメントで固められたかのように全く動かない。ミサカ10030号の顔には大量の疑問符があった。

「ンで、今回の実験はこれで終わりか?」

「かかったな、バカめ! とミサカは嘲るように吠えます! ……あれれ?」

 ポケットに両手を突っ込んだままの一方通行が呆れたように肩を落とす。そして辺りを見回しながら顎をしゃくる。

 すると周りの陰という陰から、不自然であり、不格好な体勢で静止した大量の少女が漂って現れた。彼女らの顔はすべて同じだ。

「せ、千人同時に固定できるとか聞いてないアルヨ! とミサカは驚きのあまり口調を変えてみます」

「……こンなンで、俺はレベル6になれンのか?」

 一方通行の溜息で、第一〇〇三〇次実験は終了した。

 

 

 バタン、と一方通行の後ろで扉が閉まった。

「あ、おかえりー」

「……ただいま」

 廊下の先から聞こえてきた声に、一方通行は複雑そうな表情で応える。ついこの間まで一人暮らしであった彼には、そういう習慣がなかったのだ。

 手も触れずに脱げ落ちた靴が綺麗に並ぶ。一方通行はそれを確認することもなくリビングへと歩く。

 そこにいたのは彼の保護者兼観察者の芳川 桔梗だ。彼女は革張りの高級ソファに体を預けながら、手でテレビのリモコンをもてあそんでいた。

 一方通行が顔を向ければ、最新型の60v大型テレビにはバラエティーの司会者がアップで映っている。いわゆる8kテレビであるそれは、司会者の顔の毛孔まで鮮明に見て取れた。

「これ、あんまりおもしろくないのよね」

「……じゃあ、なンで見てンだよ」

 つまらなさそうな視線を向けてくる桔梗に対し、一方通行は終始無表情だ。彼としては単に、うっとおしい保護者の相手が面倒なだけかもしれない。

 柔らかなソファに再び身を沈める桔梗。彼女は手を挙げてひらひらと振る。

「お風呂沸いてるから、さっさと入っちゃいなさい」

 無言だが歩き出すことで了承の意を示した一方通行は先ほどの廊下へ戻る。とあるマンションの一室であるここは、廊下沿いにだいたいの部屋が設置されているのだ。

 そして、リビングから少し戻った浴室に繋がる更衣室の扉を開けた一方通行は、半眼となってその場で固まった。変態がいたからだ。

「んおー、んおー、んおー」

 その変態は発育の良い縫い痕だらけの裸身を亀甲縛りにし、顔は目隠しに猿轡。更には手製と思われる三角木馬の上に乗っていた。呼吸音すら変態くさい。

 ちょっと変なにおいを嗅ぎ取った一方通行は気流を操作してとりあえずカット。ついでに動けない変態の周りだけを不自然な白い光で満たしておいた。

「ん、んお!? お、おん、ぐおー! お、んぉ――」

 変な声も聞こえてきたのでとりあえず遮断。これで一方通行の入浴を邪魔する者はいなくなった。

 彼はゆっくりと入浴を楽しんだのだった。

 

 

 風呂上りといえば牛乳……と思いきや、一方通行が飲み干しているのは冷たい無糖缶コーヒーだ。

 普段着とまったくデザインの変わらない白黒の寝巻に着替えた彼の後ろから桔梗が声をかける。

「で? 今日の実験はどうだった?」

「相変わらずだ。簡単すぎてあくびが出る」

 コーヒー片手の一方通行は、桔梗のソファの斜め隣りにあるソファに座る。自分の隣に座ることを期待していた桔梗が少し残念そうな顔をしているが、彼にはあまり関係のないことだ。

「まったく。殺害は簡単すぎるからクリア目標は無力化にしろ、と我儘を言ったのはあなたでしょうに」

「はン。どっちにしろ簡単なンだから問題ねェだろ」

 そういって、一方通行はコーヒーを飲み干す。そして沈むように背もたれに身を預けた。

 不意に、彼の視界が巨大な物体で遮られた。

「……重ェよ」

「わ、わざ、と、のせて、る、とミサ、サカは、答え、ます」

 途切れ途切れの言葉をしゃべる少女。先ほど更衣室にいた変態だった。

 先の実験の被検体である少女たちと同じ顔を持ったその変態は、姉妹たちとは違うその胸を強調するように腕を組む。そしてしな垂れかかるように一方通行の隣に座った。

 その少女に微笑ましい視線を向けながら、桔梗が声をかける。

「いっちゃん、今日もダメそうね」

「あ、あきら、めない、とミサ、サカは、腕に、抱きつ、き、ます……ぅ、お?」

 いっちゃんと呼ばれた少女――ミサカ00001号がふわりと浮きあがると、そのまま桔梗の隣に座らされていた。

「む、ぅ、とミサ、サカは、落ち込、み、ます」

「よしよし」

 桔梗に抱き着き、泣き真似をするミサカ00001号。彼女の頭を桔梗が撫でる。

 その様子に、一方通行はまんざらでもない顔で鼻を鳴らした。

 

 

 思い出されるのは過去のことだ。

 人生に飽いていた彼のもとに訪れた男はこう言った。

「神になってみる気はないか?」

 なにやら熱心に話すので、彼は男に付いて行くことにした。

 そこで行われた第一次実験。彼の目の前にいたのは幼さの残る少女だった。

「実験開始、目標を駆逐します、とミサカは言」

 その言葉は最後まで続かない。ぼぅっと突っ立つ彼の前で、何の脈絡もなく、本当に唐突に、少女は全身を破裂させたのだ。

 コヒューコヒューと喘鳴が聞こえる。その中を、彼はゆっくりと歩き出す。流れ出る血はすべて彼をよける。

「……簡単すぎンな」

 仰向けに倒れる少女を見下ろせば、その惨状がよくわかる。

 全身の皮膚はすべて剥がれ、筋繊維もその一本一本が骨から剥離している。口や鼻、耳からは血が流れおち、眼球は表面すべてから出血して血の涙を流す。四肢に至ってはもはや原形を留めていない。しかし丸見えの内臓や大動脈だけが無事に動いている。もはや生きているのが不思議なレベルだ。

 全身のベクトルを逆流させられたのだ。生きているのも、彼の気まぐれによるものだ。

 その圧倒的な暴虐に、観察者たちすら動けない。その中で、彼は最近読んだコミックを思い出した。

 曰く、相手を殺すよりも殺さずに捕える方が大変だ、である。

 だから彼は要請した。殺さないで実験を進められないか。いわゆる縛りプレイをやってみたくなったのだ。

 そうして発動されたのが、第二次絶対能力進化実験である。それは二万人のクローンと二万通りの戦いをし、一度も相手を殺すことなく無力化できれば、前人未到のレベル6に到達できるだろう、という実験だった。

 第一次実験で使用されたミサカ00001号は回収、治療されたが、重大な欠陥を抱えることになった。ミサカネットワークに接続できないうえに、苦痛に対して極度の快感を得る変態と化してしまっていたのだ。おまけに一方通行に惚れてしまったらしい。

 故に、実験の責任者である桔梗のところで彼ともども生活することになった。

 だから、

 

「俺は神になる。このつまらねェ世界を変えるために」

 

 彼は誓う。それが支離滅裂な理由であっても、彼の心の闇は家族程度では埋まらないのだから。




 名称:一方通行
 強度:5(5.5)
 能力:遠隔ベクトル操作能力
 ・知覚範囲のあらゆるベクトルを任意に操作する
 ・左右及び後方は数十メートルの範囲だが、前方に関しては理論上無限大
 ・知覚範囲内のベクトルはすべて認識しているため、ステルス系能力等も見破れる
 ・『中和』:対象のあらゆるベクトルを半分だけ逆転させて打ち消す。そのため、対象は場所に関係なくその場で静止してしまう。生物ならば無傷で無力化できる。実験中に獲得した応用技の一つ。
 ・基本、誰も勝てない


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