とある科学のレベル5.5   作:璃春

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リア充爆発しろ


麦野沈利のレベルを5.5にしたらアイツがリア充になった

 閑静、というほどではないが比較的静かな昼の住宅街。恰幅の良い元気なおばさんたちが街角会議に花咲かせ、配達員の青年や竹屋のおじさんが威勢のいい声で吼えている。隣接する廃墟群が目に付くが、それ以外はおおむね普通の住宅街だ。もっとも、学生主体の学園都市で大人の方が多い住宅街が普通とは言い難いが。

 そんな穏やかな日常は、唐突に現れた雷光に破られた。空気を引き裂く轟音を響かせ、幾筋もの閃光が廃墟群から放出されたのだ。

 しかし、住民たちはいたって平静だった。

「お? あのアンちゃん、またぞろ覗きでもやらかしたか」

「あらあらまあまあ! 仕上ちゃんたらまたやっちゃったのね! このラッキースケベ!」

「ひいぃ!? 先輩から聞いてたけど怖えぇ!」

 彼らにとっては雷光も轟音も日常の一つ。馴染みの少年がしょっちゅうお仕置きを受けているからだ。今日が初めての配達員にとっては恐怖だった。

 

 全力で走る。伏せる。転がる。飛び起きる。開脚跳び。横道に飛び込む。全力で走る。

 次々に飛来する光線を懸命にかわしながら、浜面 仕上は廃墟群の中を全力中の全力で羅刹から逃げる。

「うおおお! 麦野お前ガチで殺す気だろっ!? 謝ってんだから許せよ!?」

「許す訳ねーだろおお!! はまづらああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!」

「うひやはぁおわ!!」

 後ろから無数の光線が迫り、浜面はアクロバティックな体勢でそれをよける。

 振り返れば修羅の形相をした麦野 沈利。彼女は右目に青白い溶接光を宿し、全身からは青い雷光を迸らせている。

 見なければ良かったと後悔しつつ、浜面は走りながら壁の配管をぶん殴る。配管を伝った衝撃はボロボロの天井を揺さぶり、そして崩落させた。

「これで少しは時間があおぉっ!?」

「足止めになるかああああぁぁぁぁ!!」

 通路を塞いだ瓦礫を貫く閃光と絶叫。やはり学園都市の第四位はこれぐらいでは止まらないらしい。

 逆に足を止めてしまっていた浜面は衝撃で前のめりに倒れる。すると瓦礫の隙間から顔を出した麦野と至近で目が合った。

「やばっ!?」

「はまづらああぁぁ!!」

 浜面は急いで体をひねる。同時に麦野の右目がピチューンと光る。寸前まで彼の顔があった場所を熱波が貫き、後ろの通路を更に後方の廃墟ごと消し飛ばした。

 衝撃波が浜面の体を痺れさせるが、彼はすぐ近くにダストシュートがあることに気付く。そして思考よりも先に体が動き、その中へと身を投じた。

「何処行きやがったああぁぁ!!」

 麦野の叫びが遠ざかるのを聞きながら、浜面は真っ暗な配管の中を滑り降りる。体全体で制動を掛け続け、やがて到着した場所に華麗に降り立った。

「よし、十点!」

「残念! 零点な訳よ!」

「うえぇっ!?」

 浜面が驚いて振り返ると、0と書かれた白いボードを掲げた少女、フレンダ=セイヴェルンがいた。その横には無表情な少女、滝壺 理后も立っている。

「お前ら、どうしてここに!?」

「結局、愛の力からは逃げられないのですよ!」

「はまづら、諦めて」

 じわり、と近づいてくる二人に浜面は後ずさる。

 にやり、とフレンダが嗤った。

「さぁ、お仕置きの時間な訳よ!」

 彼女は手に持っていた棒のようなものを地面にたたきつける。そこには白い帯。それは枝分かれしながら浜面の足元付近まで続いていた。

 フレンダの意図を察した浜面は慌ててそこから跳び退る。直後、彼の体を爆風が襲う。

「ぐぅっ!?」

「結局、乙女の肌を見た罰よ!」

「浮気は許さない。罰は受けてもらうよ、はまづら」

 砂煙に消えた浜面に向かってフレンダと滝壺が歩く。しかし、砂煙が晴れたそこに彼はいなかった。

「……結局、逃げられた?」

 フレンダが呟く。そして彼女は、不意に横から発せられた圧力におののく。

「た、滝壺……?」

「絶対に見つけるよ! はまづら!」

 滝壺は懐からシャー芯の容器のような箱を取り出す。そしてそこから白い錠剤を数個口の中に放り込み、ガリッ、と一息に噛み砕いた。

 途端に彼女から溢れる圧力が増大する。一時的に滝壺の能力が強化されたのだ。

「『能力追跡(はまづらストーカー)』発動! SHARPENS ME UP!」

「……結局、その能力名は絶対におかしいよ」

 フレンダは滝壺の持つフリ○クの箱を眺めながら呟いた。

 

 全力で逃げ続けた浜面は廃墟ビルの屋上にいた。

「こ、ここまで来れば暫く平気だろ……ふぅ、少し休もう」

 錆びた鉄柵に背中を預け、ずるずると腰を下ろす。かなりの時間を走り通しだったので、足はガクガクだった。

 “いつもの”経験からすると大体あと一時間も逃げ回れば彼女らも落ち着くだろう。その時間まで逃げるには今、できるだけ回復しなければならない。

「それにしても、俺は覗いた訳じゃないっての。勝手に裸だったのはそっちだろ……」

 浜面が思い出すのは一時間ほど前の出来事だ。

 色々あって馴染みとなってしまった黄泉川 愛穂による愛の指導を受け、当時の浜面はボロボロだったのだ。だから彼は近道をして自宅の庭に降り立った。頑張って自分の金で買った一軒家なのだから、庭から帰ってもいいはずだ、そう思ったのだ。

 そして、庭に面した特殊なマジックミラーになっているリビングの窓を開けた。そこには濡れた肌色の天国が広がっていた。

 その先は何故かよく覚えていないが、とりあえず全力で逃げた、と思う。フレンダの妹が風呂から上がったあとに着替えずに暴走したらしい、ということはなんとなく察しがついていた。

「もっとしっかり思い出して……は! いかんいかん!」

 思わず鼻の下を伸ばしていた浜面。大慌てで頭を振って不埒な記憶を振り払う。

「……ん?」

 そこで浜面は、何棟か離れたビルの屋上に人影があることに気付いた。しかもその人影はバチバチと青白い火花を散らしており、まだ日中であるというのにやたらと目立つ。

 目を凝らしてよく見ようとした浜面は、人影が先ほど思い出していた人物の一人であると判って口元を引き攣らせた。

 彼女の口がゆっくり動く。

 ――ミ・ツ・ケ・タ・ゾ

 途端、麦野の姿が揺らぐ。同時に浜面の目前の空間も揺らぎ始めた。

 青白い光が空を裂き、その揺らぎは段々と人の形を成す。やろうと思えば一瞬で行えるそれをゆっくりと行うのは、浜面の恐怖を誘うため。現に彼は腰を抜かして動けない。

 やがて揺らぎは完全に像を結ぶ。それは先ほどまで離れた場所にいた麦野だった。

 右腕に青い雷光を纏わせた麦野が嗤う。

「よーやく見つけたぞ、はまづらぁ」

「あは、あはは。おお元気そうで何よりで」

 浜面は引き攣った笑みを浮かべながら計算する。どうすればここから逃げられる?

 そこで唐突にビル内部に通じる扉が内側から吹き飛んだ。そこから現れたのは滝壺とフレンダだ。鍵が開かなかったのでフレンダが吹き飛ばしたのだろう。

「見つけたよ、はまづら」

「結局、追いつかれるんだよね。諦めたら?」

 二人は麦野の両横に並びながら言った。しかし、浜面には諦められない理由がある。誰だって死にたくは無いのだ。

「安心しなよ、はまづらぁ? 命まではとらないからさぁ」

「いやいやいやいや! これまでのは明らかに殺気がこもってましたよね!?」

「そう?」

 可愛らしく(?)首を傾げる麦野。彼女はおもむろに右手を上げると、丁度よく右側に立っていたフレンダの額に指を当てた。

「……へ? 結局、麦野は何おぎょぼっ!?」

 凄まじい轟音とともにフレンダの首から上が消し飛ぶ。同時に彼女の後方の廃墟群が更地になった。

 そして崩れ落ちたフレンダは、赤くなった額を押さえて声も無く悶絶していた。頭が消し飛んだように見えたのは錯覚だったようだ。

「ね? ちゃんと手加減してるってば♪」

「て、手加減の問題じゃないと……思うなぁっ!」

 滝壺がフレンダに走り寄り、麦野がエネルギーを再充填し始めた一瞬。浜面は鉄柵を飛び越えて空へと身を躍らせた。

「なっ!? 浜面ぁっ!!」

 いきなりの飛び降り自殺に逆に麦野が慌てだす。彼女は走って鉄柵の遥か下を覗き込んだ。しかし、そこに何某かの死体は無かった。

「はまづら!」

 麦野の横に出遅れた滝壺が駆けつけた。彼女も青い顔で下を覗き込むが、すぐに疑問の表情を浮かべる。

「は、ははは! これはやられた!」

「……むぎの?」

 力なく座り込みながら笑い声を上げる麦野に対し、滝壺は怪訝な視線を向ける。すると麦野は鉄柵に括り付けてあった革ベルト指差した。それは丁度真下の部屋近くまで伸びていた。

「どうやら、鬼ごっこはまだ終わらないみたいだなぁ!」

 麦野は思わず楽しそうに笑っていた。

 

 廃墟群の遥か上空。見えないナニカに座る少女がいた。彼女は胡坐座りをしながら腕と足で幼い少女を抱えている。

「おお! 浜面は大体どのくらい逃げられるのかな! にゃあ」

「超暴れないでくださいよ。ここから落ちたら超大変なことになりますよ」

 双眼鏡を覗きながら興奮するフレメア=セイヴェルンをあやしながら、絹旗 最愛は嘆息する。

 浜面のラッキースケベはいつものことだが、最近では段々と諦めが先につく。しかしもう少しどうにかならないのだろうか。

 そこで絹旗は下から大きな瞳に見上げられているのに気付く。フレメアが小首を傾げながら言う。

「そういえば絹旗のお姉ちゃんは大体参加しないの? にゃあ」

「私は超最初に超強いのを一発入れましたからね。流石にこれ以上は超可哀想ですよ」

 これでも学園都市の暗部で超ブイブイ言わせていたのだ。記憶を奪うぐらいで勘弁してあげるのが大人の対応である。

「そういえばツー! 晩御飯て大体何になる!? にゃあ」

「本当にフレメアは超お子様ですね」

「お子様じゃないもん! にゃあにゃあ!」

 反応自体がお子様なフレメアに、絹旗はくすり、と笑みをこぼす。

 絹旗はフレメアを抱えて立ち上がる。そして固めた窒素のベルトで彼女をしっかりと固定した。

「さて、晩御飯の担当は浜面なので、超そろそろやめてもらうように超言いにいきますか」

「お? お? お? 大体、これから何がおきるにゃあああああああああ!!」

 自由落下。フレメアの絶叫が響き渡る。

 そして、絹旗は窒素の翼を広げて空を舞う。

 太陽は、紅へと変わり始めていた。




名前:麦野 沈利
能力名:『原始崩し(メルトダウナー)』
強度:5(5.5)
能力:物質の二重性操作
・物質が持つ「粒子」と「波動」の状態を操作できる。ちなみに「粒子」「波動」「どちらでもない中間」の三つの状態が存在する
・色々と応用範囲は広いが、もっぱら「粒機波形高速砲」を使っている。本人の頭がよくないので慣れた計算以外は面倒らしい
・光子も「粒機波形高速砲」で撃ちだせたりする。威力は電子を使ったのと同程度。ただし弾着までがやや短い
・自らを「波動」とすることで空間内を瞬間移動できる。テレポートとは違って瞬間移動中に行き先を調節でき、壁にめり込んだりはしない。ただし発動から完了まではテレポートより遅い
・ちなみに「粒子」「波動」「どちらでもない中間」自体を自在に操れる訳ではない
・ぶっちゃけ原作の麦のんが能力完全制御の上にテレポートを使えるようになった感じ

名前:滝壺 理后
能力名『能力追跡(はまづらストーカー)』
強度:4(浜面限定で5)
能力:AIM拡散力場への干渉
・AIM拡散力場を記憶して追跡できる。ちなみに浜面相手だと兆光年単位で離れようが追跡できる
・フリ○クを食べることで能力が一時的に強化される。一種の自己暗示

名前:絹旗 最愛
能力名:『窒素装甲(ヴァリアブルアーマー)』
強度:4(4.5)
能力:大気中の窒素を自在に操作する
・窒素を固めることで非常に硬い装甲を展開できる。APFSDS弾だろうと貫通不可。おまけに完全自動
・装甲の応用範囲がとてつもなく広く、翼だの爪だの剣だのたいてい作れる。ただし固定化した窒素は必ずどこかしらが体に接していないと維持できない
・窒素のベルトで動きを止めたり、呼吸器を覆うことで窒息させたり、制圧能力は一方通行の中和並み
・密度を調節して光を屈折させて簡易的な光学迷彩も、やろうと思えばやれる
・実は単独で大気圏外離脱でき、しかも窒素の宇宙服を作ることで宇宙空間でも生存可能

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