ここは未来。人類が滅亡し、廃棄された車や朽ちたビルが雑然と並ぶ世界。人類は数百年前に消え去り、かつての人口数百万の大都市ロンドンは廃墟と化していた。だが、廃墟であってもそこに静寂が訪れてはいなかった。過去に地球を支配していたホモ・サピエンスの代わりに、かつて街だった場所を進化した未来生物が闊歩している。高度に進化した蝙蝠。類人猿に収斂進化したものの、遥かに大型で俊敏、高い知能と残虐性を誇る。祖先同様エコーロケーションで獲物を探知する、音が”視える”生物なのである。そして生態系において彼らの上に君臨すると思われる巨大な昆虫。おそらくはハチ目から進化した存在である。毒針は産卵管に進化し、他の生物を飛行して捕らえ、卵を産み付け無限に増殖する。
人類滅亡の原因は定かではないが、彼らがいる以上、人類が息を吹き返す可能性は限りなくゼロに近い。
そんな絶望の世界で、亀裂調査センターの調査チームはヘレン・カッターを止めるため懸命に戦っていた。突如出現した時空の亀裂の対策に乗り出した亀裂調査センターARC。そのうち調査チームは、現場を調べ、生物を同定し、対策を練る主要メンバーである。そんな中、時空の亀裂を悪用して人類を滅ぼさんとする女ヘレンの陰謀が浮上したのだ。調査チームのうちダニー・クイン、コナー・テンプル、アビー・メイトランドがヘレンを追い、この未来世界へ足を踏み入れていた。ヘレンは既に時空の亀裂を開いて逃亡した。調査チームも彼女を追うべく、履歴を辿って時空の亀裂を開こうとしていた。
「行くよ!」
コナーがデバイスを作動させると、球体が姿を現した。煌めくガラスの破片のような球体がフワフワと宙に浮いている。これが時空の亀裂。異なる時代を結びつける扉である。三人が息を飲む。安堵・歓喜・覚悟などが混ざった数舜が過ぎる。しかし、周囲に集まってきた未来生物の唸り声により、すぐに現実に引き戻される。亀裂の光で、黒い人型の怪物が照らされる。既に部屋には数体の未来生物が侵入しており、残り数メートルの距離にまで迫っていた。三人はすぐさま亀裂を抜け、別の時代へ倒れ込む。光の球から投げ出されると同時に、球体の方に注意を向けた。
「早く閉じて!」
アビーが叫ぶ。コナーがデバイスを再び操作すると、亀裂は回転しながら急速に縮み、その姿を消した。周囲に静寂が戻った。凶悪な生物との空間的な繋がりはひとまず断絶され、安堵の空気が三人を包む。
「……信じてたぞ」
一息ついて、ダニーが口を開く。コナーは笑顔を浮かべてデバイスから目を離したが、すぐにその顔からは笑みが消えた。
「……ここは」
アビーとダニーも遅れて気が付く。体を起こしながら、ダニーが口を開く。
「……戻ってきたのか、俺たちの時代に?」
そこには、活気に満ちた人口数百万の大都市、ロンドンが広がっていた。