亀裂の向こうにドクターは   作:TUTUの奇妙な冒険

12 / 12
エピローグ

亀裂の収束から半年後。世界はいまだ混乱に包まれ、復興が進んでいない地域も多々存在する。アムステルダムでは排水作業が進んだが、まだ住居の復旧などには全く手がついていない状況である。日本では東京に夜行性のテロケファルス類が大量に出現し、その経済的損失からいまだ脱却し終えていない状況である。まだ捕獲・駆除されていない亀裂生物も地球全土に数多くいると思われる。

 

しかし、UNITやトーチウッドの協力により、亀裂の収束に関する事件は当初の想定よりも遥かに早く解決を迎えることが見込まれている。最大の功労者の一人である亀裂調査センター長官ジェームズ・レスターは、今回の騒動の解決に貢献したことで爵位を手にした。亀裂調査センターの秘密主義ゆえ彼の出世が民間に告知されることは無かったが、それでも彼は満足そうにしていた。

 

 

その亀裂調査センターのメインフロアでは、十一代目ドクターとコナーが発明についてにこやかに議論を交わしていた。シルル紀に利用した遠隔操作ロボットなり、様々な機械や装置が話題に上がっていた。

「そういえば、ヘレンが持っていた亀裂を開く装置。あれはどうなったんだ?」

紅茶を片手に、ダニーが割って入った。ドクターも茶をすすりながら返事を返す。カップからは湯気が立ち上っている。

「あれは氷河期で既に紛失していたようだ。ヘレンは雪に飲まれながら斜面を滑り降りたんだ、その時の衝撃か寒さかは分からないが、その時に既に故障したらしい。あとで僕が、氷河期に放置されていたデバイスを回収しておいたよ」

「しかしあれは大変だった……ドクター。亀裂調査センターに加わらないか?このようなことがまたないとも限らん。その時に君がいてくれると非常にありがたい」

「ジェームズ。誘いは嬉しいが、私はUNITにも所属しているし、有事の際の大統領でもあるんだ。多忙さ」十二代目ドクターが微笑みながら答えた。

「……大統領?」

「……おっと。ネタバレだったか」

「名誉会員とかでもいいのよ、ドクター」

ジェスも会話に混ざる。二〇一一年の世界からやってきたジェス・パーカーだが、二〇〇九年の世界に同一人物は存在しないことがドクターの調べで判明した。ヘレンの歴史改変で消滅したのか、それとも違うのか。そうなのであれば他にも変化があるのか、誰にも分からない。分かっているのは、ジェス・パーカーは亀裂調査センターの職員として正式に採用・保護されたということだ。

「はは、それはいい。それなら考えておこう」

「ドクターは二人とも在籍するのか?管理が大変だな」

「君はやはり手を動かさなければ喋れないようだな、過去の私よ」

はは、と十一代目ドクターが笑うが、ふと真顔に戻る。彼の人生に関わる重要なことを、彼はまだ聞いていなかった。

「そうだ。是非聞きたいと思ってたんだ。どうせここでの記憶はじきに消えるんだ、教えてくれ」

「何をだ?」

「僕が未来でどこに行くかさ。どこで、どうやって君になったんだ?」

「ああ、そういうことか……」

十二代目ドクターはしばらく思考にふけり、十一代目ドクターへ耳打ちした。彼の目が大きくなるのが、皆に分かった。同時に、その内容は聞かないでおこう、と皆思っていた。彼の未来に関することなのだから。

「さて、私は失礼しよう。亀裂生物を元の時代に戻す作業も終わったことだしな。それではごきげんよう」

「達者でな、ドクター」

レスターの言葉にウインクを返し、十二代目ドクターはターディスのドアを閉めた。すっかり定着したエンジン音とともに、ターディスはその姿を消す。十一代目ドクターはその様子を眺めた後、席から立ち上がった。

「さて、僕も行くとしよう。コナーまた今度」

「ああ、その時はよろしく」

拳を軽くぶつけ合い、彼もターディスに乗り込む。エンジン音が止むと、メインフロアには静けさが戻った。

「さてと。我々もそろそろ通常業務に戻らなくては。亀裂はいつでも開くし、ヘレン・カッターの埋葬も済ませたことだしな」

「そのヘレンのことだけど……本当にあの職員用墓地で良かったの?」

サラが紅茶のセットを片付けながら聞く。調査チームの誰もが一度は感じた疑問である。何度も亀裂調査センターや人類社会に破壊を仕掛けた女を、ニック・カッターやスティーブン・ハートと同じ墓地に埋めてよいものか。当初はセンター内でも反発が強かった。

「良いんだ。あの女も寂しかったのだろう。カッターを白亜紀の海で誘い、ペルム紀の砂漠で誘い、ともに拒絶された。現代に戻ってからもスティーブンが同行を拒否。愛する人間二人から拒絶されねじ曲がっていった。……のかもしれんな」

「少なくとも教授は、そこまでヘレンのことを嫌っていなかったと思います。“物体”を手に入れる目的があったとはいえ、彼女を助けるために彼は燃え盛る亀裂調査センターへ足を踏み入れたんですから」

「スティーブンもそう。リークの施設でヘレンを差し出してもよかったのに、自分を犠牲にした。あの二人は、同じ墓地に居ても認めるんじゃないかな……と思います」

コナーとアビーが胸の内を語る。レスターはそれを聞き入っていたが、ふと我に返って首を振った。

「まあ、死人に口なしとも言う。我々がどうこう言ってもあの三人がどう考えていたかは分からんさ」

その時、亀裂探知装置の警告ランプが赤い光を振り撒き、サイレンが鳴り響いた。その場にいた全員がモニターを確認する。レスターは口元を緩めてため息をついた。

「……やれやれ」

 

 

十一代目ドクターのターディスはタイムヴォルテックスの中を彷徨っていた。ヘレンを追いかけていた頃とは違い、ゆったりと風に流されるようにヴォルテックスを動いていた。制御盤の下にある空間で、ドクターは椅子にぶらぶらと腰かけて仰向けになっていた。頭の中で、未来の自分が耳元でささやいた言葉が反芻される。

『ガリフレイで待っている』

タイム・ウォーで滅びた自分の故郷が、見つかるのかもしれない。期待に胸を膨らませながら、彼は次に向かう時代と惑星を考えていた。

 

 

 

Fin


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。