亀裂の向こうにドクターは   作:Tutu-sh

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彼の名はドクター

立ち並ぶビル群。遠くにはビッグ・ベンが見える。目の前の車道を艶のある自動車が何台も通過していく。コナーに軽く肩をぶつけながら、髪を染めたガラの悪そうな少年たちが背後から通り過ぎる。下品な笑い声を上げる彼らに対し、侮蔑や恐怖の感情はなかった。もっと大きな、圧倒的な現実に三人は叩きのめされていた。この時代に亀裂が繋がったということは、ヘレン・カッターがこの時代を選んで侵入したということだ。

「……間違いない、僕らの街だ」

周囲を見回し、文明の姿を認めながらコナーが言う。いつもは安心と安全を与えてくれるこの時代が、今は異常なものに映ってしまう。既に涼しい顔で幾人もの人を殺してきた女が、住み慣れた街のどこかに潜んでいる。もうロンドンをこれまでと同じ目では見られなくなっていた。

「どう見ても現代だ。いや……数年はズレているのかもしれないが」

「じゃあヘレンは……現代に逃げ込んだの?本当に?」

「だろうね。ヘレンが残した最新の履歴を辿ったんだ、彼女はこの時代に居る。間違いないよ。」

「とりあえず、センターに連絡だ」

ダニーが携帯端末をポケットから手早く取り出し、顔の横に当てた。

その表情に笑みはなく、山脈のような皺が眉間に表れていた。

「……もしもし、ボス」

 

「何?」

電話に出たのはARCのトップに位置するジェームズ・レスターである。高級なスーツとネクタイに身を包んだ悪人面の男であるが、実際にはジョークを嗜む温厚な性格であり、善人と呼びづらい善人である。そのレスターが、ダニーの報告を受けて顔をしかめていた。

「ヘレン・カッターがこの時代に逃げ込んだだと?」

『そうだ、ボス。』

机の上に置かれたスピーカーから、現状を説明するダニーの声が流れる。

『ヤツは機械を使って時空の亀裂を開いた。その履歴を辿って俺たちも同じ時代への亀裂を開いたんだ』

『間違いないよ。ヤツはこの時代にいる。今すぐ人員を導入してヘレンを捜索してくれ!』

ダニーに続いてコナーも向こう側で声を上げた。冷静なままでいようとしているが、隠しきれない焦りを感じられる口調である。

「分かった、特殊部隊をロンドン全域に派遣しよう。君たちは一度センターへ帰還しろ」

レスターは冷静な口調で返答する。しかし、焦燥を抱いているのはレスターも同様である。その背後には彼のこれまでのキャリアを吹き飛ばしかねないほどの驚嘆があった。――あの女、何を考えている?――通話の最中、レスターの脳内を縦横無尽に疑問が駆け巡る。

『いや、俺たちもヘレンを捜す。時間が惜しいんだ』

「人口数百万の都市で一人の女を三人で捜すのか?現実的じゃない、よく考えろ」

真っ当な指摘だが、ダニーはすぐに反論する。

『あいつの目的は人類抹殺なんだぞ!こうしている間にもヤツは――』

衝撃の発言に、レスターの体は数舜の間硬直した。ダニーの声が流れる中、レスターは思考を整理する。――あの女、一体どうやって――その頭の中で、ヘレンの不可解な行動とその目的を結びつけようとする。それと同時に、ある案が彼の脳裏をよぎった。これまで人類は幾度も危機を迎えてきた。そのうちのいくつかは亀裂調査センターが解決したものだったが、大多数はそうではない。その大多数をこれまで解決に導いてきた人物の存在が、レスターの頭に浮かんでいた。

「なるほどな。あの女はかつてリークを利用し、クリスティンさえ人質にとった。連中を凌駕する陰謀を企てているのは自明だったな」

『じゃあ……!』

「それならプロを呼ぶ。君たちが戻ってくるまでに呼び寄せておく」

携帯電話の向こうで、三人が顔を見合わせる。

「……プロ?」

「……って何の?」

彼らは状況を呑み込めていなかった。プロとは何者なのか。この状況の解決に長けた人物を、彼らは知らなかった。

「おいボス、プロってのは一体……」

『とにかく戻ってこい、私に任せろ』

レスターがそう言い終わると、通話の切れる音がした。

「お……」

ダニーの携帯電話からは不通の音が流れるだけになっていた。

「……誰なんだろう、一体」

三人は疲れた頭で思考を巡らせてみたが、全く見当もつかなかった。

 

「……さて」

レスターがラップトップを起動する。音を立てて画面が明るくなり、ものの数秒で使用可能となった。レスターがキーを指で弾くように軽く叩くと、画面にウインドウが開き、映像コンタクトが開始された。

「亀裂調査センターのジェームズ・レスターだ。話の分かる人間なら誰でもいい、“彼”に連絡の取れる人間を呼べ」

『はい、少々お待ちを……』

スクリーンで女性オペレーターが対応する。タイピングの音が響く。十数秒ほどレスターが無言でいると、担当のオペレーターが顔を上げた。

『お待たせしました、マーサ・ジョーンズ氏にお繋ぎします。』

「ありがとう。仕事が早くて助かるよ、道路工事の連中に比べれば君たちはよっぽど有能だ」

『は、はい……ありがとうございます……?』

女性はどう返事をすれば良いか分からず、困惑した表情で返事を返す。

「……なんつってな!」

何となく気まずくなり、レスターは自分でオチをつけて話を終いにした。オペレーターが申し訳なさそうな顔をして接続を切り替える。切り替わったスクリーンに表示されたのは、アフリカ系の女性だった。

『はい、マーサ・ジョーンズです。“彼”を呼べる人間を出せとのことですが、どういったご用件でしょう』

マーサ・ジョーンズ。かつて“彼”とともに旅をしていた人物であるが、レスターはそのことをを知らない。

「マーサ・ジョーンズか。いい名だな。聖女マーサ」

かつて世界を暗黒時代に陥れた支配者と同じジョーク。マーサは少し苦々しく感じながらも、それを顔に出さないようにして答えた。

『……ありがとうございます。そして、ご用件は』

「単刀直入に言おう。頭のイカれた女が過去の世界で人類の祖先を殺して人類を滅ぼそうとしている」

レスターが事実を端的に述べる。しかし感情がこもっていないわけではなく、度重なるヘレンの悪事への恨みつらみが混じっていた。普通であればあまりに突拍子もない発言である。

『……』

流石のマーサでもすんなりと状況を呑み込むわけにはいかなかった。

「……信じてもらえないかな」

しかし彼女はかつて“彼“と旅をし、そして現在は特殊組織UNITで勤務する女性である。

『……いえ、信じます』

「……ほう。意外だな。非科学的だとかで突っぱねられるかと思っていたぞ」

『私たちも多くの超常現象を目にしてきました。時空を超える案件なんていくらでもありますから』

UNIT。かつては国連の下に設置されていたがやがて独立した巨大な組織である。その仕事は地球や人類に危害を加える危険な地球外存在の討伐。全世界に支部を持ち、有事の際に対応している。亀裂調査センターが対応している時空の亀裂に関しても、本来は彼らの管轄であった。

「それはそれは。心強い。我々亀裂調査センターも摩訶不思議なものを数多く見てきた自信があったんだがな」

普段部外者に亀裂調査センターの機密を見せびらかさずに自慢している分、レスターも負けじとアピールする。しかしそんな自慢に対してマーサは淡々と返事を返す。

『貴方方も優れた組織であることは私たちも認識しています。亀裂調査センターはイギリス一国だけの組織ですが、その活躍は全世界へ貢献しています。現在UNITではワームホールを封鎖する研究を行っていますが、亀裂調査センターの協力があってこそ成り立つものですから』

「そう言ってもらえると非常にありがたい」

レスターは微笑んだが、本心からの笑みではなかった。お前たちの方がもっと規模の大きいことをやっているだろうに、と半ば軽い嫉妬を感じていた。しかし、今はそれどころではない。悠長に会話をしている場合ではなかった。

「……ところで、本題に戻らないか?」

『“彼”ですね。ですが我々を仲介していては時間がかかります。“彼”への連絡先をそちらへ送信致します』

「ほう、助かるよ」

レスターの口角が上がる。彼にとっては願ってもみなかったことである。“彼“とのパイプが手に入るとは。

『そしてこの事態はイギリス一国のみで解決できる案件ではないと思われます。我々UNITも協力体制を敷きます』

「……」

レスターは一時思考にふけった。UNITは確かに人類のための組織である。とはいえイギリス領土でUNITの独断行動を許すとなると、今後の外交に支障が出る。UNITに権力を握られてしまう可能性があるということだ。亀裂調査センターにとってUNITは仲間であり、商売相手であり、敵でもあった。銃を隠してにこやかに握手をし合う関係、とでもいうべきか。──もっとも、そんなことは想定済みだ。最悪UNITとやり合う覚悟を決めて、我々は職務を果たしているのだからな──レスターの決意は堅くなった。

「……ふむ、しかし条件がある」

『何でしょう』

「時空の亀裂……もといタイプⅡのワームホールに関する事象は全て我々の管轄だ、そうだな?」

『……はい、その通りです』

「つまり今回のヘレン・カッターの件に関して主導権を握るのは我々亀裂調査センターと英国政府だ。我々が“彼”と作戦を立案し、君たちの助力が必要であると判断した場合に協力を要請する。それまでの動きについては、私が英国政府から助言を受けた上で諸君らに通知する」

『……了解しました。では送信致します』

「ああ」

電子音が鳴り、新たな小さなウインドウがスクリーンに表示される。表示されたのは十一桁の数字の羅列だった。

『そちらが“彼”への連絡先となります』

「……携帯電話なのか?もう少し厳重な……機密回線のようなものかと考えていたよ」

レスターは心外そうに口を曲げ、頭をポリポリと人差し指でかいた。肩透かしをくらったような反応。

『“彼”ですから。』マーサが微笑む。『“彼”はUNITに在籍こそしていますが、役所のような仕事は嫌いなタチですので』

「フフ、彼と喧嘩をしない自信がなくなってきたな」レスターは下を向いて笑ったが、すぐにスクリーンに向き直した。「……ありがとう、マーサ」

『ではこれで失礼致します。ジェームズ・レスター様』

マーサが頭を下げ、回線を切った。レスターはウインドウを閉じ、すぐにその電話番号へ発信する。07700900461。十一連の電子音の後に呼び出し音が響く。レスターは長く息をついた。受話器が取られるときには、宇宙で最も偉大な男が電話の向こうにいるのだ。数度目の呼び出し音が不意に切れ、画面には0:01という数字が表示された。レスターの眉が僅かに動く。

『……もしもし、マーサか?久しぶりだな!今までどうしてた!?』

老いた男性の声がする。しわがれた声だが、その声はエネルギーに満ちていた。

「いいや、残念ながら違う。私は亀裂調査センターの所長ジェームズ・レスター。地球が危機に瀕している、手を貸してくれ……」レスターは一呼吸置いた。「“ドクター”」

 

――数十分後。大きな音を立ててドアが開き、ダニーを筆頭に三人が亀裂調査センターへ帰還する。メインフロアで三人を待っていたのはキャプテン・ベッカー大尉とサラ・ペイジ博士だった。メインフロアの扉が開く音でサラは振り返り、三人の帰還に喜びながら駆け寄った。

「アビー!コナー!ダニー!待ってたわ!」

「よう、案外すぐに帰ってこれたな」

ベッカーも微笑みを浮かべて擦り寄ってきた。コナーが何かを思い出したような顔をし、ベッカーに向かって手を合わせた。

「そうだね。ごめんベッカー、君の銃のことだけど……」

「何、銃がどうした?」

「コウモリに襲われて、応戦してる間に無くしちゃったっんだ。ホンットゴメン」

「おい何を言ってるんだ。お前たちの命が最優先だ」

さらりと返すベッカーの肩をダニーが軽く叩いた。

「ベッカー、今度いい女紹介してやるよ。ところでサラ、ベッカー」

再会したチームの団欒の雰囲気を損なわないようにしながら、現在直面している問題にダニーが話題を戻す。

「ボスがこう言っていた。『プロを呼ぶ』……ってな。誰なのか、心当たりはないか?」

「実を言うと、あるわ」

サラが答える。

「あるの?」

「ええ、アビー。というか、“彼”へ応援を要請するようにレスターに提案したのは実は私なの」

「何だと?」

ダニーが話に食いつき、ベッカーの肩に手を置いたまま上体をサラの方へぐいと曲げた。ベッカーが説明に加わる。

「俺たちはクリスティンの基地で巨大なハチを三匹倒し、基地をセンターの兵士で制圧した後レース場に戻った」

「でもあなた達が亀裂から出てこなかったのよ。だから私はいいことを思いついたの」

サラは自らの手柄を誇るように笑顔だった。

「いいことって?それが“プロ”と関係あるの?」

アビーが尋ねる。

「そう。」サラが指を差す。「あなた達が戻ってこないのは、ヘレンの捜索に苦戦しているからに他ならない。助っ人を呼ぼうと考えたの」

「その助っ人が“プロ”……ってわけ?」

「一体どんなヤツなんだ、そいつは?」

「私も会ったことはない……でも彼に関する文献は読んだわ」

「ねえどこの組織の人?亀裂調査センターじゃないんだね?」

コナーが急く。

「ええ。それどころか、彼はこの時代の人間ではないのよ」

前提を覆す発言に、三人は固まった。

「何、それってどういう──」

「……きっとタイムトラベラーよ、コナー。時空の亀裂を抜けて現代にやってきた未来人よ」

「待って、そんなこと──」

あり得ない、とアビーの考えを却下しようとするコナーを遮り、ダニーが過去を振り返って言った。かつて調査チームは、時空の亀裂を通って現代へ到来した人間と出会っていた。

「サー・ウイリアムは過去から現代へやってきた。それなら未来から人間が来ることも可能……ってことだなアビー」

「ええ。現にヘレン・カッターは未来の科学技術を手に入れてリーク……かつての離反者に技術を譲渡していた」

「ああ、なるほど……つまりこの未来で時空の亀裂に関する研究をしている人?そうかそれなら──」

「違うわ」

納得しかけていた三人は、正体の予想を裏切られてさらに固まった。

「何!?違うのか!?」

思わずバランスを崩したダニーは、ベッカーの肩を掴んで体制を立て直しながら興奮気味に叫んだ。

「ちょっとサラ、あなた今『この時代の人間ではない』って……」

「ええ言ったわ。確かに彼はこの時代の人間じゃないのよ。でも亀裂を抜けてこの時代にやってきたわけでもないの」

「どういうこと?」

「私は考古学の博士号を持っているのよ?私が読んだ文献も当然その分野のものよ」

「……つまり?」

状況を理解しきれないコナーが質問を重ねる。サラは説明を続ける。

「紀元前一三三四年、当時のエジプトを最大規模の蝗害が襲った。あまりに狂暴化したサバクトビバッタの群れは作物だけでなく家屋家畜、そして人間までもを襲ったの。この非常事態を、当時の王妃ネフェルティティは自らを犠牲にしてまで解決したとされているわ。でも実際にはもう一人いたのよ、重要人物が」

「重要人物って?誰なんだ」

ダニーが問う。

「“ドクター”と記されていたわ」

「“ドクター”?」

三人が異口同音に聞き返す。

「博士?医者?名前は何だ?ドクター誰?」

「分からないわ。ただのそれだけよ。ただ“ドクター”とだけ記されていた」

「しかしこの男が確認されたのは、この古代エジプトの文書だけではなかった」

ようやくダニーの手を肩から降ろしながら、ベッカーが口を挟む。

「一八八三年のクラカタウ噴火、一九一二年のタイタニック沈没、一九六三年のケネディ暗殺。これらにも“ドクター”が姿を現している」

「例を挙げると本当にキリがないのよ。一九七四年のイギリス、一九八三年のソ連の原子力潜水艦、一八九三年のロンドン。他にも至るところで!」

「ああそういえば!刑事時代に目を通したことがある。警察が保管している随分昔の怪事件の記録にも“ドクター”という名前があった。確か一九五三年の──」

「……待って」

アビーが手を軽く挙げて会話を止めた。

「二〇〇六年のクリスマス……三年前のクリスマスよ。エイリアンの船がロンドン上空に出現したことがあったでしょう?」

「ああ、あったね!あの時はほんとテンション上がって……」

「え?そんなことあったか?記憶にないんだが……」

「ベッカー、もしかして君血液型A型?」

「黙ってコナー。あの時、首相のハリエット・ジョーンズは“ドクター”を求めていた。それと同一人物なの?」

「そうだ」

ベッカーが答えようとする前に、上から声が響いた。全員が存在に気づき首を上に向けると、上階への螺旋通路の上にレスターが立っていた。

「彼……“ドクター”の名前は歴史上いくらでも確認できる。特に我々のような、政府に関与している機関であればな。特に重要なのは一八七九年だ。当時のヴィクトリア女王が暗殺されかけ、ドクターは彼女を救出した。このときにトーチウッドが設立されたわけだ」

レスターが下のメインフロアに向けて歩を進め始めながら語る。革靴の音がメインフロアに響く。

「トーチウッド……刑事時代、よくその名前は聞いたよ。どういう組織かは把握してなかったが」

「トーチウッドは複数存在する。警察の捜査に介入もするが、立場としては我々亀裂調査センターに近いらしい。例のカナリー・ワーフの一件絡みだ」

全員が納得した表情を見せる。螺旋通路で歩を進めていたレスターが、ついにメインフロアの床に降り立った。

「だが彼はトーチウッドや我々以上に人類の歴史に関与し、そして救っている。つまりその道のプロだ。ダニーから聞くところによると、ヘレン・カッターの計画は危険すぎる。正直に言って、リークやクリスティンの危険度を超越している。だからドクターを呼ぶんだ」

アビーとコナーが唾を呑み込む。彼らはこの中のメンバーの中で唯一、オリバー・リークの陰謀を直接経験した生き証人である。オリバー・リークの生物収容計画でさえイギリスをひっくり返し、国際情勢を揺るがしかねないほどのものだったのだ。オリバー・リークの陰謀に遭わなかった三人も、上等なスーツを身に纏ったヴェロキラプトルことクリスティン・ジョンソンの邪悪さと陰湿さは身をもって経験している。全員が改めてこの事態がいかに深刻であるかを認識させられた。

「……先にセンターに帰還した私たちは、あなた達から電話がある前にレスターに進言したのよ」

「なるほど……とりあえず、ドクターが誰なのか、どういういきさつなのかは分かったよ」

コナーの言葉には焦燥がこもっていた。

「でも彼はどこにいるのさ?今は一刻も早くヘレンを止めないと──」

その時、メインフロアに突如風が吹いた。その場にいた全員の髪がはためく。突然の風を受けて眉を寄せるコナーだったが、風上の方へ顔を向けると、すぐに風のことは頭から消えた。青い箱。一九六〇年代ではロンドン中に点在したポリスボックスが、不思議な音とともに少しずつ姿を現していた。この世に類似する音は無いような、心地よいエンジン音。生きとし生けるもの全てに希望を与える音がフロアに響く。やがて音が次第に大きくなるにつれ、ポリスボックスはその姿をはっきりと具現化させていく。そして巨大な太鼓を強く叩いたかのような音とともに、変化は止まった。

「……これは」

ダニーが驚きと興奮を必死に抑えるように呟く。木の音を立てて扉が内側へ開く。中にいた、蝶ネクタイをした黒髪のひょろりとした男性が外へ歩み出てくる。

「やあ。僕がドクターだ」




TUTUです。第1話をお読みいただきありがとうございます。
プライミーバルとドクター・フーはともに昔NHKで放送されていたイギリスのSFドラマで、どちらも非常に面白い作品となっています。

本作をお読みになった方でまだ片方しか見ていない、あるいはどちらも見ていないという方は是非、もう一方の作品にも手を付けていただきたいと思います。

ドクタ・フーはHuluやU-nextで配信されているほか、TSUTAYAやGEOにもDVDが陳列されていることと思います。プライミーバルはdTVとHuluで配信されていますし、GYAOが定期的に第2章までの吹き替え版を無料配信しているようですね。
ぜひ本作が架け橋になると私としては嬉しいです。


Twitterもやっています。よかったら是非。 →@PRIMEVAL_DOCTOR
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