亀裂の向こうにドクターは   作:Tutu-sh

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破滅へのプレリュード

ドクターたちが亀裂調査センターで対応に追われる中、ロンドンから二四〇キロメートル離れたウェールズ地方カーディフでも時空の亀裂の被害が生じていた。

「イアント!裂け目に異常はあるか!?」

「重力値・気温・放射線量……全て平常時と同じ数値です!以上はありません。やはりこれは、亀裂調査センターが管轄とする亀裂だけに影響が出ています」

「だとしても、いつこの裂け目が共鳴を起こさないとも限らない……!気は抜けないぞ」

大柄な男が二人、ウェールズ・ミレニアム・センターの地下でコンピュータの画面と向かい合っていた。一人はキャプテン・ジャック・ハークネス。五十一世紀からやってきた未来人で、かつてはドクターとともに旅をしていたが現在はここトーチウッド3のリーダーとして人類の防衛に当たっている。もう一人はイアント・ジョーンズ。かつてトーチウッド1を職場としていたが、ダーレクとサイバーマンの間で勃発したカナリー・ワーフの戦いに巻き込まれた末にジャックと出会い、トーチウッド3に勤務している。そして女性が一人駆け寄ってきた。彼女はグウェン・クーパー。かつて警察官だったが、トーチウッドと偶然出会ったのち、正式にトーチウッド3のメンバーとなった。

「リースには家から出ないように伝えたわ。一体何なの?裂け目と関係がある?」

「今問題を起こしているのは違う。タイプIIの時空間の裂け目……つまり時空の亀裂だ」ジャックが説明する。「時空間の裂け目にも複数の種類があるんだ。俺たちが相手にしている裂け目はタイプIだが、一番多いのはタイプIIだ。タイプIIの裂け目は俺たちやUNITではなく、ロンドンにある亀裂調査センターという組織に危機対応を一任してある。少なくとも国内ではな」

「じゃあその亀裂調査センターってのは何をしてるのよ?」

「通信が込み合っていて、連絡が取れません」イアントがキーボードをタイプしながらジャックの代わりに返事をする。「何が起きているのか……」

「種類が違うとはいえ、同じ時空間に存在する異常現象だ。いつこいつと連動して大災害を起こすか分かったもんじゃない。クソッ!」

「UNITは?世界規模の現象ならUNITの管轄にも入るんじゃないの?」

「幸いにもUNIT本部とは別回線を使ってるから通信できた。マーサ・ジョーンズと話ができたよ」

「あら久しぶりね!」グウェンの顔に笑みが灯る。「彼女何て?」

「それが、向こうも亀裂の対応に追われてる。アメリカ国内の亀裂を相手するだけで手いっぱいだ」

「ああ……期待薄ね」すぐにグウェンは口を曲げた。「ロンドンのUNITはどうなの?トーチウッド1がない以上、信用できるのはロンドンのUNITだけよ」

「それが、さっきから繋がりません。通信の混雑ではありません。もっと別の要因です」

「別の要因って?」

「詳細は何も。ただこれだけは分かります。まるで、通信先が存在しないかのように、繋がらないんです」

「……何ですって?」

その時、三人はふと視界が下から何かに照らされていることに気が付いた。トーチウッドの基地の最下部で、煌々と輝く球体──すなわち時空の亀裂が生じていた。

「バカな……こんなところにまで」

ジャックは戦慄した。──まずい、という思考が彼の脳を貫いた。ジャックは走り出し、亀裂が発生したフロアまで一気に駆け降りる。

「ここで亀裂が発生するのはまずい!すぐに封鎖するぞ!」

「ですがジャック!どうやって!種類が違う裂け目を相手に、トシコの方程式が通用するか──」

「やるしかない!すぐに封鎖の準備だ!」ジャックは自分を追いかけて走るグウェンとイアントへ指示を出した。

「あなたはどうするのよジャック!」グウェンが走りながら叫ぶ。

「亀裂調査センターとウチは提携を結んでいる。もちろん、亀裂の情報は向こうの機密だからこっちには教えられていないし、トーチウッドの情報も機密だからあっちには伝えてない……だがほんのちょっと、俺はこの亀裂のことを知っている!」ジャックはポケットから拳銃を取り出し、亀裂に向かって構えた。その目は亀裂から姿を現すもの全てを撃ち抜かんと燃えていた。「俺たちが普段やっていることと同じだ。時空間の裂け目!裂け目からは何かが、何かがやってくる!」

「エイリアンなの!?」

「いや……可能性はなくもないが、こいつからは──」

その時、亀裂が揺らいだ。何かがトーチウッドの基地へ、この世界へ、侵入してくる。その場の三人がそれを感じ取るか取らないかの間に、「それ」はこの世界へやってきた。トップスピードで。直撃の寸前にジャックが撃った銃弾は「それ」の体をかすめたものの、「それ」の速度を減衰させるには到底至らなかった。突如亀裂を突き抜けた巨大な物体は、高速で走る自動車のように、ジャックを羽虫の如く高く跳ね飛ばした。自らの肋骨が砕けて肺に刺さる激痛を鮮烈に刻み込まれながら、ジャックはコンクリートの壁に叩き付けられ、水の中へ落ちていった。ジャックが落ちた水しぶきに遅れて壁の破片が水音を立てて沈み、彼の頭部からは赤色の水が徐々に流れ出ていた。

「ジャ、ジャック!」

グウェンが叫ぶ。イアントは封鎖のための機材を捨て置き、顔を強張らせて急いで彼のもとへ駆けつけようと走る。その前に「それ」が立ち塞がった。ゴルゴノプス・ロンギフロンス。二億五千万年前のペルム紀末に栄え、当時の生態系の頂点に君臨した最強の捕食動物の一角。数メートルに及ぶ巨体と太く強靭な筋肉から繰り出される一撃は、コンテナを引き裂き、鉄柵を突破し、牛を死に至らしめ空へ放り上げるまでに強力である。

「うッ……」

イアントは足に全力の力を込めて摩擦を加えた。加速のついたイアントの体が止まり切る頃に、ゴルゴノプスがその口を大きく開いた。十センチを軽く超す犬歯に驚愕する二人を襲ったのは、一三〇デシベルに相当する咆哮だった。莫大な音量がトーチウッドの基地に響き渡る。隔離設備に閉じ込められているウィーヴィルがその声を聞き、大半が情けない声を出して委縮し、ごく一部の怖いもの知らずは興奮状態に入って叫び声を上げた。翼竜も突然の轟音に警戒を強め、飛び上がって高い場所へ退避し威嚇の声を出した。このとき地上を通行人が歩いていたなら、封鎖された出入口を通じてその振動と音を感じ取り不安を抱いたに違いない。鼓膜と脳を大きく揺さぶられ、イアントとグウェンはその場に倒れこんだ。唾液を床に垂らしながら、動作が緩慢になった彼にゴルゴノプスの口が迫る。

「く……そ……!来るな……!」

かろうじて動かせる脚と腕で距離を取ろうとするが、そのぎこちない動きでは逃れられない。迫り来る巨大な牙。ゴルゴノプスの吐息が顔にかかり、その湿気と暖かさを生々しく痛感する距離まで接近する。グウェンは床に倒れたまま口を手で覆い、恐怖で震えていた。イアントは死を覚悟し目を瞑る。その瞬間だった。突如ゴルゴノプスの胴体から血が飛び出した。ゴルゴノプスは突然の痛みに後ろを振り返る。涙を流しながらゴルゴノプスを見ていたグウェンも、ゴルゴノプスが見た方向に目をやった。視線の先にはジャックがいた。服を水で濡らしながら、水の中に立膝を突いて拳銃を構えていた。戦車のような一撃をくらいつつも、拳銃を手放さなかったのだ。

「俺が死んだと思ったか?」吐血しながら、ゴルゴノプスに向かってジャックが語りかける。自信に満ちた態度をあえてとってみせる。巨大なゴルゴノプスを相手に顎を突き出し、首を傾けて見下してみせる。「こんな奴はおたくの時代にもいなかっただろ?」

ジャックの煽りに呼応するかのごとく、ゴルゴノプスが再び大きく咆哮を上げる。加速度がつく。強力な脚でトーチウッドの床を踏みしめ、頸動脈に牙を突き立てんがため、ゴルゴノプスは再びジャックのもとへ突撃していった。

 

ロンドンのウェストミンスター橋。ビッグ・ベンがすぐそばに聳える、テムズ川に架かるこの橋の上でも、巨大な時空の亀裂が輝いていた。ブレーキが間に合わず車両数台が飲み込まれ犠牲となったこの橋は既にUNITの管理下にあり、両側は堅く封鎖されていた。銃を構えた赤い帽子の兵士が多数並び、重厚な装甲車と厳重なバリケードが鎮座していた。その外側をアフリカ系の女性ボスが速足で歩き、トラック最後部の扉を開いて乗り込んだ。

「マルコム、封鎖は可能?」

コンテナの中には複雑な機械や分子モデルが所狭しとならび、壁には彼女の理解の範疇を超えた図表が一面に張られていた。その奥に、白衣を着て椅子に座った小柄な男が、計器に表示されるデジタル数字の変化を見つめていた。

「亀裂調査センターから指示されている方法で実行可能です。」マルコムと呼ばれた、メガネをかけ、白衣を着た、いかにもしがない研究者ですという雰囲気を醸す男が振り向いて答える。「あと数十秒で必要最低量の電力供給が間に合います。マガンボ大尉」

「了解。総員、封鎖用意!」

大尉が大声で命じると、イエスマム、と威勢の良い返事が周囲から返ってきた。亀裂調査センターはワームホールの研究をUNITとある程度共有しており、それを基にした封鎖技術をUNITも確立せんとしていた。

「生物が入り込む前に封鎖できてよかった……」

「全くです。相当大きいワームホールですが、この状況であれば異時代の生物以外に問題となるものは──」

突如、咆哮が響いた。二人はその場で沈黙し、外部の音を伺う。静かに、音を立てないよう、しかし迅速にコンテナを抜け出した。ゆっくりと緩慢な動きで、しかし細心の注意を払いながら、大尉はコンテナの角から亀裂の方を覗いた。そこでは、ワニのような頭をした肉食恐竜が、長い鉤爪の並んだ腕を振りかざしながら暴れていた。大きく開いた口には、細かい、しかし獲物の息の根を優に止められるであろう尖鋭な牙が無数に並んでいた。

「あれがスピノサウルス……!?」

「いえ、背に帆がありません。おそらくはスピノサウルス科の別の恐竜だと思われます」

片手で眼鏡を傾けてピントを合わせようとしながら、マルコムが苦々しい表情で答える。

「何でもいい、催涙弾を早く!」

イエスマム、と大声で周囲の兵士が叫ぶ。その声には驚嘆と怖れが潜んでいた。見慣れぬ哺乳類の群れに興奮したのか、肉食恐竜が大きく咆哮を上げながら迫る。UNITの隊員が次々に砲撃準備に入る。マガンボ大尉の号令が響く。次々に催涙弾が恐竜の足元に撃ち込まれ、恐竜は怒声を上げながらガスに包まれた。

「これだけの催涙弾だ、いくら図体がでかくても――」

油断した隊員がそう言い終わらないうちに、煙を引き裂いて恐竜が低姿勢で飛び出してきた。盾を構えていた隊員たちが軽々と吹き飛ばされる。そのまま恐竜は前腕を振るい、その巨大な鉤爪が隊員の胴に食い込む。防弾チョッキに覆われた部位はかろうじて爪の侵入を食い止めたが、そうでない部分に爪が深々と突き刺さっていく。隊員は悲鳴を上げながら、空高く釣り上げられた。

「怯むな!ヤツは銃の通用しない地球外生物ではない!催涙弾を続けて撃ち込め!」

犠牲になろうとしている隊員を無視して、第二波の催涙弾が恐竜を覆った。ロンドン中心部に、化け物のような叫び声と銃声が響き渡った。

 

亀裂の脅威に脅かされているのはそこから遠く離れていないUNITの本拠地も同じだった。トーチウッドにゴルゴノプスが侵入する二分前、ロンドンのUNITではブロンドの髪をしたケイト・スチュワートが対応に追われていた。カツカツと靴音を立て、書類を脇に抱えて小走りでケイトがメインフロアに足を踏み入れる。

「どうなってる?オズグッド」

腰を据えてコンピュータと向き合っているオズグッドと呼ばれた女性が、画面から目を離してケイトの方へ顔を向ける。

「変化ありません。ガス漏れなし。気体は依然として十八のオフィスに充満していますが、閉鎖が効いたようです」

「生物は?」

「二、三メートルほどの巨大なワーム状の生物が多数侵入。個体数は、ケイト、あなたが先ほど緊急事態マニュアルを取りに退室した時よりも遥かに増えています。ですが亀裂は既に閉じています。これ以上の侵入を心配する必要はありません」

「隔壁を突破するだけの力はある?」

「わかりません……全てが未知数です。亀裂調査センターからの情報提供に頼るしかありません」

ロンドン塔の内部に時空の亀裂が生じていた。UNITの中枢や重要機密が保管された倉庫からは外れていたものの、即座に白い濃霧がオフィスを包み込んだ。施設の警備にあたっていた部隊が即座にガスマスクと防護服を纏い調査と封鎖に乗り出したが、生物の出現に数手遅れをとる形となった。突如、部隊の先頭で亀裂を調べていた隊員の視界が闇に包まれた。失明や停電ではない。ガスマスクの表面に塗りたくられた黒い粘液。おそらくは微弱な毒素が含まれているであろうその粘液は、霧の中に潜むワーム状の生物が攻撃のために噴射したものだった。霧の中から次々に乱射される黒い体液は、UNITの部隊を混乱に陥れるのに十分な効果を発揮した。一人、また一人と隊員は霧の中へ引きずり込まれていく。瞬く間に部隊は壊滅。人類が誇る最新の叡智の一角が、二十近くの区画を霧とワームに譲渡することになってしまった。

「気体の検査結果からは、大量の硫化水素が検出された。俗に言う硫黄の臭いってわけね。酸素濃度は0.0%……どういう時代なのかしら」

「おそらくは先カンブリア時代……」オズグッドが頭を抱え、言いづらそうに推論を続けた。「だと思いますが、嫌気環境でこれほどまでに巨大な多細胞生物が進化するとは考えにくいです。もしかすると数億年後の未来、あるいは地球外で独自の進化を遂げた生物なのかも。何とも言えません」

そんな折、亀裂調査センターからの通信が入った。コンピュータの画面にドクターの顔が表示される。

『ああやっと繋がった。UNIT、そちらの本部に時空の亀裂が生じている……』

「知っているわ。どの時代、どの生物が入り込んだか──」

『ケイト!』ドクターはケイトの発言を遮った。彼は数十年来の友に偶然出会ったかのように笑っていた。彼は興奮気味に驚嘆の意を述べる。『ケイト・レスブリッジ・スチュワートじゃないか!それにああ!オズグッドも!この時代では初めてだな!』

「誰ですか?」

オズグッドがケイトの方へ不安げな視線を送る。ケイトはスクリーンを直視したまま、訝しげな表情を浮かべていた。

「……あなたは?亀裂調査センターに親密な人間はいないわ」

『ああ、私は亀裂調査センターの職員ではないぞ。ドクターだ。もっとも、君と本格的に出会うのはザイゴンの一件だし、私目線での初対面はもっと──』

「そんな話が信じられると思う?」

「本当にドクター?あのドクターですか!?」

クリスマスの父親のようにテンションが上がっているドクターをよそに、ケイトはややうんざりした雰囲気を醸していた。オズグッドは信じていいのか、期待と不安が混ざった反応をしている。温度差を感じ取り、ドクターがやや落ち着く。

『ああ、この際信じてもらわなくてもいい。どうせまた会うのだからな。それよりも、亀裂の情報だ。君たちの本拠地に生じた亀裂からは、おっと……凄いなこれは。どうやってこの時代にこれだけの体を発達させたのか興味深い!』

「脱線しないでもらえる?」

『すまない。先カンブリア時代に生息した巨大なミミズだ。こんな奴がいたとは……巨大な嫌気性生物。カンブリア紀のオットイアに姿は似ているが、全く別の系統だ。そっちにいるミミズは、硫化水素を含んだ還元型大気という嫌気環境でのみ生存を可能とする。つまり、酸素があれば死んでしまう』

「つまり換気すればいい?」

『そういうことだ』

『待てドクター。ちょっと待て』ドクターの背後にいたレスターが口を挟む。『亀裂から来た生物は原則過去へ戻さなくてはならない。二年前の事件では、調査チームが現場に到着したときに既に亀裂は閉じていた。だからエアコンの設定温度を上げて霧を押し出して解決した。だが今回はまだ亀裂が閉じていない』

『ああそうだった。すまない。ではケイト、盾か何かを使って身を守りつつ、大人数でミミズを過去へ送り返すほかない』

「あなたは?」

『私は亀裂調査センター長官ジェームズ・レスター。後に爵位を手に入れる筆頭候補だ。お見知りおきを』

レスターは自慢げにネクタイを両手で撫でながら尊大な態度で名乗った。そんな彼の態度は気にも留めず、ケイトは質問を投げかける。

「なぜ亀裂が閉じていないと?」

『亀裂探知装置だ。君たちのいるロンドン塔に、亀裂の情報が出ている』

「でもこっちの亀裂は閉じているわよ?」

『……何?』

レスターの表情が曇る。オズグッドは念のため、ミミズに制圧された区画の情報をスクリーンに表示して確認する。熱源・電磁波・放射線・化学物質など様々なデータをインプットした見取り図のウインドウが提示される。亀裂の存在を示すデータが何もないことを確認したオズグッドはふうっと息をつき、安堵した表情を見せた。

「霧とミミズは残っていますが、亀裂の痕跡はありません」

『そんなバカな……亀裂探知装置は確かに』

「言いづらいのですが、そちらの装置に不備などは――」

「──オズグッド」

申し訳なさそうに報告するオズグッドの肩を、ケイトがつついた。オズグッドがケイトの顔を見上げると、ケイトは部屋の左側を凝視していた。その視線を辿ると、区画の監視映像で見たものと同じ霧が床を流れていた。

「嘘……」

オズグッドは青ざめた。レスターとドクターは、画面の向こうで異変を感じ取った。ケイトが霧の方へ歩き出す。オズグッドは止めようと立ち上がったが、光り輝く球体がケイトの目に入る方が早かった。

時空の断層。世界が改変される以前にニック・カッターが内務省へ報告していた文書の中に、それは記載されていた。この世界においても亀裂調査センターの報告書として存在している。時空の亀裂は時空の断層に沿って移動する。過去では一点に留まっている亀裂は、移動することがあり得る。この事例は亀裂調査の全歴史を振り返っても多いものではなく、亀裂に疎いUNIT職員はもちろん、亀裂調査センターの人間の頭からも抜け落ちていた。時空の断層は、ロンドン塔を縦に貫いていたのである。

「オズグッド、緊急事態よ!招集をかけて!」

オズグッドがボタンを押すと、緊急のサイレンがロンドン塔に鳴り響いた。オズグッドとケイトは速やかに脱出に動き、入れ替わりに近くにいた兵士が駆け付けた。そして時を同じくして、数メートル離れた亀裂からミミズが勢いよく飛び出してきた。

「撃って!」

連続した炸裂音を立てて、兵士の持つ機銃から銃弾が飛び出る。柔らかいミミズの袋はいとも簡単に穴が開いて千切れ飛んだが、銃弾とすれ違うように黒い体液が兵士の目をめがけて飛ばされた。目に激痛が走り呻く兵士。その間に次々とミミズが霧とともに流れ込んできた。

 

亀裂調査センターでは、赤色に染まった探知装置の画面の中に、漆黒に染まったウインドウが一つ浮かんでいた。

「……切れた」

レスターが残念そうに、そして画面を睨みながら言う。サラも事態を深刻に受け止めていた。ドクターはうつむき、手を震わせ、歯を食いしばって小刻みに揺れていた。

「UNITの中枢が陥落、人類側の戦力も急激に力を失った……まずいぞ」

「助けに行く」

ドクターは、レスターの発言を無視して立ち上がった。

「何?少し待て、どこへ行くんだ」

「決まっている、UNITだ。ターディスがあれば二人を救える」

パキン、とドクターはフィンガースナップを鳴らした。ターディスのドアが開き、コンソールが赤色の光を放つ。数千年を共にした相方を迎え入れる準備が整った。

「待って、ここはどうするの?」サラが静止に動く「もう間に合わないわ。それにここで作戦の指揮をあなたが──」

「何、心強い味方を連れてくるさ」

ドクターは安心させるよう笑顔を作ってみせると、ドアを閉めた。ターディスは馴染みのあるエンジン音を立て、その姿を消した。

 

ヘレンが開いた亀裂は既に閉じていた。第三紀に残された調査チームは、みすみすヘレンを逃した未熟さを痛感していた。しかし、こんな場所で落胆している場合ではない。一刻も早くヘレンを追わなくては、この世界に一体どのような変化がもたらされるか分かったものではない。いや、一つだけ分かっていることがある。少なくとも、人類という種が今のまま存続できないであろうことだけは自明であった。

「現代が大変なら、戻って加勢する必要は?」

分かりきっていることだが、コナーがチームリーダーに確認をとる。

「いや、後手に回るのは駄目だ。今のままヘレンを放っておけば、事態は永遠に好転しない」

「だよね。だと思った……」コナーが鼻をすすり、デバイスを取り出す。「また亀裂を開いて追いかけるか。何とか先回りしたいけど――」

「いや、君らはターディスに乗るべきだ」ドクターが提案を投げかける。「ターディスには医療キットもあるし、時空間の全てを見渡せる。まず君らの傷を治して、それからヘレンを探す」

パキン、とドクターはフィンガースナップを鳴らした。ターディスのドアが開き、明るい光が漏れる。数百年を共にした相方とその仲間を迎え入れる準備が整った。

「Geronimo」




TUTUです。
ドクター・フーの世界ということで、エイリアン対策組織であるUNITとトーチウッドに出演していただきました。実はトーチウッドのシリーズは比較的最近見たのですが、やはりドクター・フーのスピンオフなだけあって大変面白いですね。ミラクル・デイの後はオーディオが出てるんでしたかね。ドラマ本編が見てみたいなあ。

さて、今回は僕が好きなプライミーバルの生物であるゴルゴノプスとミミズに登場してもらいました。ゴルゴノプスはもう化け物ですね。ミミズは第2章で1回登場しただけですが、いやもったいない。第5章でも言及されてたんだから活躍すればよかったのに……というわけで活躍させてみました。
スピノサウルス科の恐竜については本編未登場ですね。ぜひプライミーバルに出ていない実在古代生物を1つ登場させたいなということで。

ちなみに2005年のキングコングの映画にもミミズに似たワーム型生物が出ています。虫とか得意な人はぜひ見ることをお勧めします。
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