ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
筆が乗ったので割と長めかと。
つーか次回がもっと長めになるな、こりゃ。
一部原作からのトレースもありますが、ご容赦あれ。
ーー立香side
『それにしても…迷宮って思ってたよりも魔物弱いな。てっきりもう少し骨のある奴らかと思ってたんだけど』
『…ねえ、それは戦闘能力皆無の僕に対する当てつけかな? 立香くん? 僕はそこら一帯の魔物全部が怪物に見えるのですが…』
『でもハジメくん、上手く対処できてると思うよ!』
『はい! 南雲さんの知識は今ここで役立っていると断言します!』
『そうだぞハジメ。第一お前の錬成士としての力自体はもう十分チートだろ。…どうやらエミヤの秘密訓練してるみたいだし』
『えぇ? いつからバレてたの!?』
『それもこれも全部地上に帰ってから説明しまーす!』
『そんなぁ…』
立香達はなんとか二十層までたどり着いた。途中まで魔物は全くと言っていいほど出てこなかったのだが、般若(すごく頼光さんぽい)さんが引っ込むとここぞ!とばかりに出てきたのだ。ちなみにこの間、立香とマシュは見ていただけだ。二人には実力も十分にあり、別に魔物を倒したところでレベルが上がるわけでもない。つまりはメリットが無かった。
あとはサーヴァントの知名度補正が無い、という点を考慮していることもある。マシュも立香も知名度補正は小さくないほどにかかっている。今この世界でどれほどまでが限界か知らない立香は出来るだけ無駄に魔術回路を使いたくはないのだ。
だがそれを含めてもここの辺りでは一切の問題はない。ここらの相手ならば強いと言っても立香達からすれば一捻りレベル。正直、知名度補正が無くとも勝てる相手だ。何なら“ガンド”だけでも勝てる自信がある。
周りの魔物の質を見て、状況判断をしっかりと行う立香。このような点が立香が『最高の』マスターの名を欲しいままにする理由の一つだろう。
また冗談ばかりを話す立香の口だがその内心、花火の日の夜の香織の言葉を考えていた。
(ハジメが消えていく夢…根拠自体はないけど用心しなきゃならないな。夢って割と現実になるからな…正直ハジメに俺かマシュか最悪香織を近くにいさせないとな)
立香はカルデアのマスターということもあり、特殊な夢を多く見る。だがそれらはなんだかんだで役に立つものがあったり、現実に反映してたり…兎に角立香には一蹴することのできない要素だ。
そのためマシュにはハジメが孤立するような場面になった時、すぐにハジメの元に駆けつけてくれと頼んである。今の立香ならば余程の相手(サーヴァント並み)でなければ速攻で負けることはない。延長戦なり、防衛戦に徹底すれば生存の化け物たる立香は相手に回したくない相手でもあるのだから。
すると立香の目に大きな鉱石の輝きが目に入った。横にいるハジメ達もどうやら気がついたようで、その輝きを眺めていた。
「あ、ハジメくん! あの鉱石、綺麗だね!」
「あれは…グランツ鉱石だね。…本で読んだ限りじゃあんな大きくて純度が高いのなんて中々出てくるようなものじゃないと思うんだけど…」
流石はハジメ。サラリとその鉱石の正体を看破する。ハジメの知識量からすれば当然のことなのだが、立香はやはりそう思わずにはいられなかった。
「…綺麗」
香織がその鉱石の輝きに目を奪われる。だが香織も気づかないわけがない。目に付きやすいような場所に、あんな目立つ鉱石がある理由。それは十中八九、罠だろう。“直感”を発動させるまでもない、あまりにも単純さが過ぎるお粗末なものではあるが。
立香の目には見える。魔法陣の幾何学模様が。そしてその中にある転移の力を。
(ま、そんな罠にかかるような奴はそう簡単にいないだろうな。最悪、
基本『対応策が無ければ宝具に頼ればいいじゃない』思考の立香もここでは謙虚に行く。もしもの時に合わせ、少しでも力を残しておきたいというのが彼の思いだ。
すると突然ハジメの肩に誰かの手が巻きついた。その男の顔はなんとも不快にも唇の端を釣り上げていた。目からどす黒い瘴気のようなものを出しているように立香は幻視した。
(あれが…檜山って奴か。見ただけで鳥肌立つなぁ。エミヤから聞いてたけど…ハジメと白崎さんに対する執着が凄い。あながちハジメには嫉妬、白崎さんには独占欲って言ったところかな?)
見れば隣のマシュも腕で己の体を抱きしめ、姿勢を後ろにしていた。つまりは物凄く引いていた。
立香は檜山の中にある香織に対する意識の大きさに少し驚愕していた。ただ…英霊のそれとは質も量も違うのだが。むしろ英霊と比べるのは失礼だな、と立香は考えるのをやめた。
「南雲ぉ〜? アレってんな珍しいもんなのかぁ?」
「檜山くん!? …グランツ鉱石自体はそんなに珍しいものじゃないよ。鉱石自体に何の力もないただの宝石。あくまで綺麗だから貴族の階層の人達に人気なだけ。…でもあれだけの大きさのものは中々珍しいと思うよ」
ハジメは苦手な対象の一人である檜山に少し顔を青くしながらも淡々と事もなさげに説明する。単純でかつ目の前のグランツ鉱石の希少さが伺える説明、思わず光輝や檜山、メルドは目を点にしていた。ちなみにこの間香織、立香、ついでにマシュは胸を張っている。ちなみにマシュは少し遠慮がちだ。
「おぉ、小僧。よく知っているな。その通りだ。図書館に行っていたっていうが鉱石の勉強もしていたのか」
「ええ。まあ付け焼き刃ですけど…」
「いや、むしろよくこの短時間でそれだけの知識を身につけたものだ。お前さんには戦闘力は無いがその分、知識を貸してもらう形になるかもな。よろしく頼むぞ」
「はい。頑張らせていただきます、メルドさん」
メルドは誤算だったとばかりに豪快に笑い、ハジメの背中を叩く。威力が思いのほか強く、ハジメは途中むせていたが認めてくれる人が増えたことを喜んでいるようだった。立香の顔は穏やかに笑っていた。
だが次の瞬間には立香の表情は急変することになる。
「だったら俺たちで回収しようぜ!!」
(……はっ?)
それは檜山の声だった。目には狂気的なまでの何かを宿らせ、鉱石に向かって歩き始める。メルドが諌めようと注意するが、檜山は軽い調子で受け流し、鉱石に手を伸ばした。
(まずっ!!?)
立香はここで迷ってしまった。なんならばここで檜山を気絶させるなり、宝具を使って魔法陣を破壊するなりしていればこの状況は免れた。
しかし立香にとっては欲に目が眩んだ人間の奇行に脳が一時止まっていた。立香が今までいたのは戦場。故に仲間も油断のスキもないような人ばかりで局長でさえも、いざという時には感が良かった。
だからこそここで立香はミスした。他ならない自分以外の誰かの過ちという要因によって。
「ほら取れた、っと」
檜山が鉱石を掴んだその刹那、空間が揺れ動いた。
「トラップだ! 全員防御態勢を取れぇえええ!!!!」
メルドの司令は迅速であった。しかしここにいるのは多くが実践慣れをしていない者たちばかり。突然のことに困惑をし始める。
しかしそんな中、立香の“念話”は冴え渡った。
『マシュ!』
『はい! “誉れ堅き雪花の壁”、発動します!』
『白崎さんも周りの人達にバフをお願い! 出来るだけ周りに無詠唱で白崎さんが使ってることをバレないようにするから!』
『わかったよ! “身体強化”、“耐久
立香の指示に従い、マシュと香織がクラスメイト全体に防御の強化を付ける。クラスメイト達の認識の外で魔力の光が降り注いだ。
『三人とも、防御態勢準備!』
『はい!』『うん!』『わかった!』
すると立香は詠唱を唱え始める。
「仮初めの王の権能は今ここに。手に取るは我らの王の覇権。答えよ、者達。我が意に背く事なかれ」
立香の詠唱はいつも以上に、やけに澄み渡った。突然の事態に怯えていた少年少女の震えを鎮め、その声に意思を委ねる。そして彼らの背後に立つ立香の姿を目にとめる。
裂帛の呼吸、それに続き立香は叫んだ。
「“全員構えろ! 死ぬな!”」
王の血筋を継ぐ者達に、戦場を我先にと駆け抜けた戦士に許されたスキル、“カリスマ”。立香の詠唱はそれを一時的に我が身に降ろすがためのもの。
結果、臆病な少年少女はそこから消えた。全員が瞳に決意を宿した『使徒』となる。
「お前さんは…?」
「リッカ・フジマルと言います。ワケがあって貴方方を死守させて頂きます。…ご迷惑だったでしょうか?」
「いいや、素晴らしいまでの指揮だった。今から行き着く先は分からん。正直に言って助太刀は助かるさ」
「それは何よりで」
戦闘準備は完了した。意思を固めた『使徒』達は光へと呑み込まれていく。他ならないハジメも立香も、だ。
そして光は弾け、目の前には見慣れぬ景色が映し取られる。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーハジメside
それは巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルはありそうだ。天井も高く二十メートルはあるだろう。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。
橋の横幅は十メートルくらいありそうだが、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまだ。ハジメ達はその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。
「ッ!!?」
ハジメはその景色を見た瞬間、肌を泡立たせた。図書館である本を読んでいたハジメは図らずとも今自分達がいる階層を把握する。そして同時にここにいる怪物の名を脳裏に映す。
「まさか…ここはっ!」
「どうしたハジメ!! 何があった!?」
「…げて。逃げて、みんな!!」
現実を理解したが故にパニック状態に陥り、過呼吸になったハジメ。それにいち早く気がついた立香はハジメの背中をさすり、静かに回復魔術を行使する。
それにより平静を取り戻したハジメ。しかしそんなハジメから飛び出してきた言葉は撤退の喚起だった。臆病風でも吹いたのか、と光輝や檜山を筆頭に鼻で笑うが…次のハジメの言葉に凍りついた。
「ここは65階層! 当時最強と言われたパーティーをしても敵わなかった怪物、ベヒモスがいる! まだそいつが現れてない今が逃げる好機だ!」
「でも俺たちならやれるんじゃ…」
「当時の最強のパーティーは光輝くんたちのステータスを越していた! それでも勝てなかったんだよ! だから!」
ハジメがかつて手に伸ばした本、『
結局ほとんど主人公達は勝利を収めていたのだが…物語の最後にある主人公のパーティーはほぼ壊滅状態となり、撤退を余儀なくされた。その正体こそが『魔獣』ベヒモス。その一体に敗れ去ったパーティーは少なくない命を落とした。
なんとか説得を試みようとするハジメ。その意思が生半可なものでないと立香は判断し、改めて“カリスマ”を用いようとした。
しかし、時は既に遅かった。
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。
小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物トラウムソルジャーが溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。
しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方に『使徒』の目線は向いていた。
十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現したからだ。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスだろうか。ただし、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付くが……
ハジメが叫び、逃げを選ばせた『魔獣』ベヒモスは、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。それだけで立香の“カリスマ”を砕くには十分だった。再び少年少女は顔を青く染め、喚き始める。
本来の立香の“カリスマ”ならばそれほどヤワなものではない。なんといっても百騎倒千の英雄達の指揮を務め、己自身も『座』に認められたのだ。そんな人間の“カリスマ”は本来ならばこれほどではない。
しかし立香の“カリスマ”は『座』から真のスキルとして断じられたもの。それが知名度補正によって弱体化、どころか立香の魔術として機能させられない。すなわち立香自身も知名度の弱体化を少なくとも受けていた。
結果困惑と恐怖の中、少年少女達にトラウムソルジャーは襲いかかる。指揮官も中心もいない彼らは、脆く弱かった。今こそステータスの差で倒せているが…すぐに崩壊することは間違いなかった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
一方で冷静を忘れた光輝達もまた反対側から攻めてくるベヒモスに対応せざるを得なかった。
「ーーっ!! いくぞ、香織! 雫! 龍之介!」
「う、うん!」
「これは…。仕方ないわね!!」
「おうよ!!」
「…メルドさん」
「ああ、後ろの奴らを守るぞ!」
「「「「おう!!」」」」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
「ーーーっ!?」
そしてその立香は先ほどの己の判断ミスを悔やんだ。何故自分はあの魔法陣に誰かが触れることを予期しなかったのか!?と。同時に何故あの場面で破壊しなかったのか、と。
羞恥と後悔で歯噛みする立香。そんな立香の背中に暖かい温もりが伝わった。
「先輩、傲らないでください。先輩は万能ではないのですから。それに、そんな時のために
それはマシュの抱擁だった。立香の悔やみはスッと引いていく。同時に立香の瞳に力強さが篭る。
「マシュ…そうだな。やるべきことをしよう。マシュ! とりあえずベヒモスを食い止めてくれ!
「はい! 先輩、マシュ・キリエライト戦闘開始します!」
こうして65階層での死闘は開始した。
そして残された『無能』はーーー
どうだったでしょうか。今回は知識のあるハジメをベヒモスの恐怖を植え付けるための舞台装置にしました。
あと最強たるベヒモスに異名が付いていないのも変だったので『魔獣』なんていう称号が付いています。これが安直かつベストだと思う。(真顔)
次回、序章で唯一の山場です。
うん? 奈落? …知らね(すっとぼけ)