ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
だが…しゃあないんや。今回大ボリュームなんや。
9051文字、今回これを二日で書き切ったんや。
…個人的には「つーかこれが限界!」的な心境や。
つーわけで、始まるよ!
ーー立香side
勇者一行が下がり、今この場には立香、マシュ、そして『無能』たるハジメがベヒモスと対峙していた。
「立香くん! キリエライトさん! ある程度時間を稼いで! その間に僕は“錬成”の準備をするから!」
「“錬成”!? まさか“錬成”でこれを止める気か!?」
「時間稼ぎとしては僕の“錬成”がベストだ。地上に戻る時も僕の力は使えないから、ここで使った方がいい。でも、それだけじゃ無理だと思う。精々、動けなくするのが関の山。僕が“錬成”をやめたらすぐに僕が殺される。だから立香くん。アイツを横に倒して欲しい」
「横に…って今、そんなに力無いんだけど!?」
「それは正面から倒そうとするからだ! ベヒモスみたいな造形の敵は側面から攻撃したら倒れやすい! だから僕の準備ができたらすぐにやって欲しい。…できる?」
ハジメはこの迷宮の魔物に関する知識を人一倍頭に入れてある。その中には魔物の弱点も刻まれている。ベヒモスに関しては弱点など書かれていない。しかしハジメはこれより上層にいる魔物の弱点からベヒモスの弱点を割り出していた。
それでもあくまでも正面よりはマシ、なのであって側面でも十分ベヒモスは踏ん張りが効く。本来ならばそんなことを見つけた程度で状況は一転しない。
しかしここには立香がいる。多種多様な力を持ち、きっと勇者以上の力を出せる存在がここにはいる。ハジメにとってはそれは確認するまでもなく立香ならばできると確信していた。
そして事実、立香はその手段を手にしている。ならば親友の信頼に、全力で応えるまで!
「っ!! オッケー、任された! ハジメも頼むぞ!」
「了解! キリエライトさんも、お願いします!」
「はいっ! 信じますよ、南雲さん!」
マシュがベヒモスを再び弾く。大楯による豪快かつ精錬された捌き方は全力でなくともベヒモスの攻撃を受け付けない。その間にハジメは座禅を組み、魔力を精錬していく。
そして立香は右手を前に出し、魔術回路を解放する!
「今我はここに。我が唯一にして無限の宝具は我が絆。来たれ覇道よ、今呼び起こせ。我が道は今我等が覇道となる。
魔力のあまりもの膨大な波に反対側にいるはずの光輝達すらも瞠目する。それも当然、今から起こるのは神性を持つ者の特殊顕現。それが矮小であるはずがない。
詠唱は今、ここに終息する。
「汝、この呼び掛けに応えるならば我が剣と成せ。我が身となれ。今ここに力は呼応する。ーー来い、我が覇道を拓くが為に!!」
光の爆砕。空間の痛哭がその場に響く。風は立香を中心とし、そのまま収束する。
そしてその場に現れたのは、『最速の英雄』アキレウスの力をその身に宿した立香。彼の象徴たる槍と脚を持って、立香は眼にベヒモスを捉える。
立香の肉体は変質している。純粋な黒であったはずの髪は毛先が緑がかっており、またその肉体も神聖を帯びた防御力を誇る。
(問題は…これがどれだけ持つかってことだけどな)
残りの魔力に関して思案しながら、爪先で何度か軽く飛んだ立香は、地面を這うように加速。『最速』を借りた立香は今、風となる。
『グモッ!!?』
あまりもの速度で迫る敵の速度にベヒモスは眼を驚愕で見開く。同時にベヒモスは立香に最大の警戒を露わにする。
立香はそれを確認すると、飛んだ。本来の人間には辿り着けるはずのない天井へと。ベヒモスの目には立香が消えたように見えただろう。そして立香は丸腰の獲物に容赦はしない。
「ふっ!!!」
切り裂くような呼吸とともに立香は天井を蹴り、落ちる。翡翠の流星を幻想させる一撃が今、ベヒモスの腹を直撃した。骨の折れる音が連鎖するように響く。
されど流石は“魔獣”。ベヒモスはすぐに角を灼熱に帯びさせ、空中にある立香にそれを見舞おうとする。神性を纏っていると言えど元々再現度は低い上に知名度補正の無いこの世界では明らかに不完全。立香とてこの一撃は重い。
しかし立香の
「“時に煙る白亜の壁”!!」
ベヒモスの攻撃を防ぐはマシュ固有の防御障壁。他人を守ることに特化したマシュの盾は知名度補正が無くとも、貫くことは出来ない!
ベヒモスの角は弾かれ、再び立香に隙を晒した。そして『最速』は獰猛にその隙を逃すことはしない。空中で錐揉み、立香は槍をベヒモスの首に見舞った。
攻撃力の再現力が低かったのか、ベヒモスの装甲を貫くことまでは無かった。それでもベヒモスの敵意は完全に立香とマシュに向いた。
「そうだ…来いよ。準備が整うまでお前さんには指一本触れさせるわけには…いかねぇのさ」
今、その身に宿した英雄の言葉で立香は好戦的に笑った。
「…先輩は英霊を憑依するたびに…なんというか。…性格が変わってしまいますね」
対してマシュは少し呆れつつも、最高の
そして橋の上で今、異界の英雄と迷宮の怪物の戦いは白熱の一途を辿った。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーハジメside
「ーートレース、オン」
ハジメは両手の魔法陣を合わせ、魔力を練り集中する。師の言葉を真似、今意識を深くへと引き込んだ。
体の所々が燃えるような痛みがハジメに襲いかかる。ハジメは魔術回路自体こそは未だに手に入れていない。されど“錬成”の魔法の特殊派生として、この行動を途中まで、材質の解明の魔法を自力で獲得していた。
物質の材料を理解する魔術、そして物を加工するだけの魔法。それだけの力しか持ち得ないはずのハジメの背中はあまりにも堂々としていた。
魔力を高まらせ、ハジメは今その手を床へと置く。
「ーー構成材質、解明」
一瞬床に魔力の光が迸った。ハジメの脳には今、あまりにも多大な情報が鯨波の如く過ぎていく。だがこのプロセスを幾度となく踏んだハジメはその中から必要な情報を摘まみ取っていく。
より己の“錬成”の無駄を省くために。己の唯一の武器をより強固にするために。ハジメは情報の波を泳いでいく。そして集められた情報はハジメの“錬成”を組み立てていく。
瞑っていた瞳を今、ハジメは開いた。そして今もなおベヒモスの注意を削いでいる立香に合図の言葉を放つ。
「立香くん! 準備が出来た! ベヒモスを倒してくれ!」
「了解! ーー今我はここに。我が唯一にして無限の宝具は我が絆。来たれ覇道よ、今呼び起こせ。我が道は今我等が覇道となる。
『最速の英雄』の脚で超速な助走をしながら詠唱を唱える。詠唱の途中、立香の肉体は元に戻っていく。英雄を身体に降ろした痛みが体を苛むが立香はその体を鞭打ち、宝具を放つ!
「“
そう! とある聖女の鉄拳制裁が今、ベヒモスの横っ腹を陥没し吹き飛ばす! なお竜はいない。この宝具の場合、再現されるのは拳の威力が優先だったりする。
そしてベヒモスはその衝撃のまま空で四、五回ほど回ると地面に崩れ落ちた。これがハジメが理想としていた形だ。…もっともやり方がハジメの予想以上に強烈だったが。
立香とマシュは一気に後方へと走る。活動の限界、それを悟ったが故の撤退だ。
「ハジメ! すまんが俺もう無理! あとは頼んだ!」
「南雲さん! お願いします!」
「了解! ーーー“錬成”」
酷く冷静な声がその場に響いた。決して大きくは無いが、透き通るように広がるハジメの超短文詠唱。不思議とその言葉は光輝とともにトラウムソルジャーを退けている香織の耳にも聞こえた。
「ーーっ。…ハジメくん」
その声は風に乗ってハジメの耳に届けられた。ハジメは片手でマフラーに触れ、もう片手に魔力を滾らさせる。それは鮮やかな、紅をしていた。
そして『最弱』の牙は今、『魔獣』の首へと襲いかかる!
紅い筋が地面を走った、そうかと思うと地盤が震え始める。そしてそれはやがて鉱石の綱を作り上げていった。
「ーー行け」
ハジメの命令とともに土の縄はベヒモスの至るところに巻きつく。しかし決して無策に拘束するのではない。関節や力の入れづらい場所を探し出し、それらを基点として捕縛し、やがて地面へと埋まらせていく。
本来ならばこのような現象、“錬成”にはできない。しかしハジメの深い集中力と“解明”の魔術がハジメの実力を十二分に発揮する。
ベヒモスは訳の分からない拘束に対抗しようとしたものの、全身が力を込めようとしようとも動かない。それほどまでにハジメの“錬成”は的確にベヒモスを拘束した。
そしてやがてベヒモスは抵抗をやめ、逆さの状態で地面へと引きずりこまれていった。
「何とか、出来た! …かな?」
ハジメは魔力の底が尽き、倦怠感を覚えつつも己の役目の達成に少し無邪気に喜んだ。
一方でクラスメイトの方はトラウムソルジャーの群れをついに突破し、制圧しきったようでトラウムソルジャーを出現させていた魔法陣もついには破壊されていた。もう脱出はすぐ目の前まであることを理解し、ハジメは安堵した。
何とか立ち上がろうとするものの、倦怠感は途方もなく激しい。なんといってもただの“錬成”で“土魔法”に近い能力を発揮したのだ。『無能』の魔力量ではこれが限界でも仕方は無かった。
ハジメが視線を前に向けると困惑している者が大概ではあったが、中にはハジメへの風向きを変える者もいたようだ。ハジメに対する視線がいつもよりも暖かいものであった。
見れば親友とその恋人はサムズアップをハジメに向ける。二人ともベヒモスとの戦闘によってボロボロで、活力も薄かったが。だがそれでも二人は嬉しそうにハジメの偉業を讃えた。ハジメもまた限りある体力でサムズアップを何とか決めた。
そして香織もまたハジメの偉業にとびっきりの笑顔で破顔した。香織も回復魔法や補助魔術、更には光魔法などの多用で疲労していたが、ハジメの元に駆けつけようと膝を立て、立ち上がろうとしていた。
誰もが勝利を確信し、同時に全員の無事を安堵していた。
しかし香織も立香もマシュも。三人ともこの時こそを恐れるべきだった。
何故ならば…立香が一番恐れていた状況、『ハジメがただ一人で残されている』が今この場には自然と生み出されていたのだから。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー???side
ーーーふざけるな!ふざけるな!ふざけるなぁあああああああああああああああああ!!!!!
ーーー何でアイツと白崎が一緒に喜んでる!? 何であんなヤツと
ーーーしかもアンナヤツを地面に埋めるだと!? あの南雲のくせに! 南雲のくせにぃいいいいい!!!!!
ーーー認めない! 認めたくない! 認められるはずがない!! 南雲なんかが俺の白崎と笑いあって、喜び合うなんて!! そんなこと有り得るはずがない!!!
ーーー嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だイヤダ嫌だ嫌だイヤダイヤダイヤダ嫌イヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダゼッタイヤダヤダヤダヤダヤダヤダイヤダヤダイヤダヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダイヤダヤダヤダーーー!!!!!?
その男は、既に狂っていた。黒い心を激情で焦がし、炙り続ける。燃え盛るは『嫉妬』という名前の炎。粘ついた視線を『無能』に叩きつけ、歯軋りを起こす。
沸き起こるのは酷く穢れた愛。今、他人に笑っていることを許せないと思うほどに我儘な独占欲。
その何かに『無能』は気がついたようで両腕も上がらない状態で体を震えさせた。
今、『無能』たる南雲ハジメは弱っていた。故に男の脳裏に最悪の決断が下される。
ーーー殺して仕舞えばいい。
ーーー何かきっかけさえあれば。
ーーーこの場でヤツを落とせば。
ーーー俺の白崎は他のヤツに笑わない。
ーーー俺の白崎は俺の元に来るっ!!
そして事態は急変した。
周りが慌てふためいた中、男は舌で唇を舐めて目を血走るまでに見開いた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー???side
『ふむ…つまらぬな』
『主よ。お気に召されませんか?』
『ああ、酷くつまらぬ。犠牲なき冒険譚など山場が無いに等しい。全く…『最弱』ごときが良くやるなぁ』
『それでは、私めがいくらか“分解”を…』
『そういうことではない、ノイントよ。要はあのベヒモスに対する恐怖を、我が玩具には植え付けねばならぬ。でなければ、奴と立ち向かう際に面白みに欠けるであろう?』
『我が主が仰るならば。ではいかにしましょうか』
『我自ら手を加えよう。そうよなぁ…一度倒したと思った怪物でも復活させてやろう』
『ですが一度退けた相手。さらには逃げることも可能な状況では?』
『なあに、実際に殺すのは駒にでもさせておけばいい。…それこそうってつけがいる』
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
(ハジメ! …まさか本当にやってのけたのか!)
今もふらつく親友。しかしハジメの力は今ここで見事に見せつけられた。やっかみをぶつけていた同郷の者達の態度の軟化が立香の目に見て取れた。
それも当然だ。倒した、というわけではないが『無能』と呼ばれていた少年が一人、不敗の魔物を地面に埋めて戦闘不能としたのだ。ベヒモスは未だに脚を使ってもがいているが、逆さに埋まっているため脱出は非常に困難だ。そこから立香もまた警戒を解いていく。
ふと香織が我先に、とハジメの元に寄ろうとする姿が見えた。あまりにも微笑ましい。立香は出歯亀ながら「あとは若い二人に任せておくのじゃ」的にニコニコしていた。割とマシュも同様である。
一部のハジメのクラスメイトが「ああ、感動のシーンですか。チクセウ」的な感じでハジメと香織の行く末を見守っている。特に見れば雫など赤いアーチャーを後ろに顕現させ、二人一緒にハラハラと見守っている。…見るからにどちらもオカンだった。なお物分かりの良くない勇者と脳筋はハテナマークを作りまくっていた。
この戦いはまだ終わっていない。地上に帰るまでには20ほどの階を突破していく必要がある。しかしこれで危機は無くなった。
ーーそう、思っていたのだ。
『ーーーー』
「「ーーっ!!?」」
光のような何かがベヒモスを照らし、そして天使の歌声のような言葉が紡がれた。それに立香とマシュは肌を粟立たせた。
そして悪夢のような奇跡が連続して起こる。
まずベヒモスを捕縛する土が自ら意思を持ったようにほどけていく。丁寧に丁寧に。そして幻想的にその光景は作り出される。
(ーーなんだこれは?)
次に支えが無くなったことで地面へ叩きつけられるはずだったベヒモスが宙に浮く。ベヒモスが未だにもがくように暴れることから任意で発動させている力では無いと理解できた。
(ーーなんなんだ、これは?)
そして宙に浮いているベヒモスに灯る神々しいまでの後光。ベヒモスはその光を受けると、立香が傷つけたいくつもの傷が、ハジメによる土砂の汚れさえも取り除かれていく。まるで元から無かったかのように、全快した。
(ーーなんなんだよ、これは!!?)
立香が感じるものの正体。それは神性。他ならぬ神の真意が『魔獣』を再誕させる。それも神の僕として召喚された『使徒』を神敵とするかのように。
神による寵愛をその一身に受けた『魔獣』は今、再び地に降り立った。
そして憤怒の宿った瞳は真っ先に、ハジメへと向けられた。
ハジメとベヒモスの距離は近い。ベヒモスが駆け出せば、すぐにでもハジメが轢き潰されるまでに。
ようやくハジメも死に物狂いで己が体を引きずり、逃げ彷徨う。されどハジメの状態は文字通りの死に体。確実に逃げ切れる前にベヒモスに捉えられる。
人々は魔法を打とうと詠唱を始めるが…遅い。発動できる頃には必ずハジメはベヒモスの生贄となるだろう。
だからーー
「ハジメくん!!」
「ハジメぇっ!!!」
香織は走った。あの花火の元で誓った約束、それを違えぬためにも。香織は秘密であった『魔術回路』を火種にハジメの元へと。
立香もまた走った。軋む体などその鋼の魂で無視する。ただもう二度と大切なものを失わないためにも走ることだけを肯定する。
ハジメは立香と香織の叫びを聞いた。そしてその顔に喜色を宿す。魔力により脳に血がろくに回っていないが、ハジメは信念だけで歩みを早める。生きるためだけに、大切とまた笑うためにも。
ベヒモスはその間にも角を白熱に帯びさせ、その四肢をたたら踏む。身を屈め、ただ
(ーー間に合わないっ!! …ならばっ!!)
立香は走ると同時に一滴ほどにもない魔力を練り上げて、ベヒモスに指を向けた。
それは超短文詠唱の、立香が得意とする速攻魔術。
「“ガンド”!!」
魔力による塊はベヒモスと立香の間にあった差を一瞬で埋め尽くした。そしてベヒモスが反応できないほどの速度で、ベヒモスの眼球を蹂躙する。
『グォオオオオオオオ!!!!!』
轟く咆哮。されど香織も立香も止まることなく前へ、前へ駆け抜ける。ハジメも臆することなく一歩でも、少しでも前へと体を引きずって行く。
そして香織は、ベヒモスよりも先にハジメの元へとたどり着く。腕をめいいっぱいハジメまで伸ばす。ハジメもまた感覚がないはずの腕を信念で上げ、香織の手を取った。
「ハジメくん! 行こう!」
「…うん。ありがとう、香織さん」
香織はハジメの腕を引いてベヒモスに背を向ける。明確な対象の『逃げ』に片目を鮮血で溢れさせるベヒモスは突撃を開始する。
しかしその瞬間ベヒモスの動きを多種多様の魔法が阻害した。
「野郎ども! 坊主だけにカッコいいところ見せんなぁあ!! 今こそテメェらの勇姿、見せつけろぉおおおお!!!」
「「「はいっ!!」」」
ハジメの横をナイフが、螺旋の焔が、氷が、ハジメを救出するがためにベヒモスへと襲いかかる。ひとたまりもない一斉放射にベヒモスも立つことしかできない。
その間に立香もまたハジメの元へと辿り着く。立香はハジメの空いていた手を掴み、引っ張る。
「ハジメ! 白崎さん、俺がもう一方の手引くから合わせて!」
「立香くん…ありがとう」
「ありがとうじゃないよ! ハジメくん、本当に凄かったんだから!」
「でも…心臓に悪かったよ、ハジメ。次はもうちょい余裕持ってやってくれ」
「本当にだよ、ハジメくん! 結果オーライだけど今回ばかりは許さないよ!」
「あははは…ごめんね」
「「全くだ(だよ)!」」
魔法の嵐の中、立香、香織はハジメを支えながら前へと進んでいく。彼らも既に限界を超えた身。それでもなお大切な者のために体を前へと傾け進む。
「先輩! 今そちらへ行きます!」
「香織! 待ってなさい! 今すぐいくわ!」
一方でマシュと雫もまたこちらへと駆け出して来る。二人とも焦ってこそいて、恐らくあとで無理をしたことに関して軽く怒られるだろうなぁ、と立香も香織も苦笑いした。
魔法の乱射は未だに続く。ベヒモスを退け、ハジメ達から遠ざける。
その時、立香はある魔法の軌道がふと目に入った。白い炎の弾丸だ。それだけ何かが違うように思えて。
(あれ? これだけベヒモスに対してじゃないような…)
立香は気づかなかった。本来の立香ならば気がついたはずの違和感。しかし死力の限りを尽くした立香には、無理な話だった。
そして悲劇は起こる。
炎の弾丸は香織と立香の間、すなわちハジメを穿って吹き飛ばした。
この時、立香の時間は停止した。先ほどまであった手の温もりが幻の如く消える。香織も同様だった。間抜けた顔でハジメが後ろに吹き飛んでいく姿を見ることしかできなかった。
そしてベヒモスは獲物が吹き飛んで来たことを目視した。灼熱の角が轟っと燃え上がる。ベヒモスは鯨波のような魔法をその時だけは無視した。ハジメを狩るためだけに四肢を突き動かす。
ハジメがなけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲う。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。
そして遂に…橋が崩壊を始めた。
度重なる強大な攻撃にさらされ続け、更にはハジメによる“錬成”が橋に耐久度が極端に弱い箇所を作り上げていた。
結果、石造りの橋は遂に耐久限度を超えたのだ。
「グウァアアア!?」
悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。
そしてハジメにはもはや力は残ってはいなかった。なされるがままに、重力にしたがって落下して行く。
「ハジメぇえーーーー!!!」
「先輩! 落ち着いてください! このままでは先輩さえも!」
千切れんほどの絶叫と共に立香は落ちて行くハジメに手をかざす。小さくなって行くハジメを追いかけようとするが、マシュに止められる。
マシュ自身もハジメの落下に顔をしかめたが、それ以上に立香の命を優先してくれている。立香は少し冷静になるものの、崩れた橋の方を眺め、己を責めることをやめられなかった。IFなど考えても仕方がないのは分かっているが、それでもやめられなかった。
「ハジメくん!! 離して! 離して、雫ちゃん! ハジメくんが!」
「離さないわよ! もし離したら…香織が死んじゃうでしょ!」
同時に香織もまた雫により捕らえられていた。香織はもがく。涙を流しながら必死にハジメを助けようと。
「約束したの! 絶対に守るって! 私がハジメくんを守るって言ったの! だから…」
「すまんが、少し眠っていてもらうぞ」
未だに奈落へと落ちようと、ハジメを助けに向かおうとする香織。だが辿り着いたメルドの手刀により、気を失った。元々気絶していない時点で香織はおかしかったのだ。手刀に耐えられる道理はない。
メルドは肩に香織を担ぐと申し訳無さそうに立香を見る。それにどれだけの思いが込められていたのか、立香には推量れなかった。
「…帰るぞ、お前ら。坊主のことは、ここにいる全員で帰ってから考えるぞ」
「「「……」」」
一度自分たちを救ってくれた『無能』の落ちた先、奈落。それを眺める『使徒』達はそれぞれの思いを抱きながら、それでもメルドについて行く。
「…ハジメ」
立香もまた奈落を呆然と眺めると、メルドについていった。立香の目的はあくまでも『転成者』を地球へと返し、人理の乱れを直すこと。
だから今回も立香は…悔やみながら前に進むことしかできなかった。
んなわけでエヒトさんちょこっと登場です。
いや〜、最初は出てくるはずじゃなかったんだけどなー。
人生って本当に斜め上ね!
それはともかく『ありふれゼロ小説二巻』、めちゃくちゃ遅いですが買いました!
…なぜ遅れたかって?
もちろん財布が寒いからに決まってるじゃないかwwww
いやー、明日学校で読むの楽しみね♡