ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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今回相当短め。特に前と比べたら三分の1近く少ない。
その辺り悪しからず♡


信じる強さ、立ち上がる強さ

 立香の人生は沢山の人々を救い出してきた。人理を二度救ったことはもちろん、見ず知らずの死の運命にある人達の手を取っていった。まさしく立香の進んでいった軌跡は英雄のそれと言っても遜色ない。

 

 しかし立香はそれでも満足することは無かった。立香は常に己を責め、嘆く。

 

 ーー何故、見捨てたんだ!

 

 悲痛を嘆き消えていく少女の死を見た。

 立香を助け、散っていく英霊達を見た。

 罪もなく蹂躙された一般人を見た。

 狂気により殺された己の親を見た。

 己が壊した世界の果てを見た。

 自分を庇い、心臓を貫かれた天才を見た。

 愛しい人の死を一度見せられた。

 そしてーーこの世界から存在を抹消した英雄の姿を見た。

 

 だから立香は己を許すことは、ない。何度も悔やんでは弱音を吐いて、それでも死んでいった人々が正しかったと自分に思わせるために歩いていた。次こそは誰も取りこぼさないために、同じ失敗を繰り返さないためにも。

 

 だが今回も立香は嘆くこととなった。

 

「……ハジメ」

 

 迷宮での決死行から一週間の時が経った。寝台に横になり、立香は己の半開きになった掌を延々と眺めていた。

 

 その手は世界で唯一の親友をその手から溢したのだ。手放したのだ。

 

「…畜生っ! 何で、何でだよ…」

 

 泣き言を呟きながら、立香は布団の中でくるまった。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーー立香side

 

「おはようございます。立香さん」

「あの時はありがとうございました、藤丸さん」

「藤丸さん。…私たち帰れるんですか?」

「立香さん」「藤丸さん」「藤丸さん」「藤丸さん」……

 

 そこはハイヒリ王国、王城の廊下。立香が歩いている『使徒』と呼ばれる男女はいずれも立香に挨拶をする。誰もが輝いた瞳でこちらを見る。そこには嘆願も含まれていた。

 

 立香は迷宮での死闘を終えると治療という名目で立香を城へと運び込んだ。実際には立香ほどの戦力を見過ごせなかった、という打算もあっただろうがメルドは少なからず恩義を感じた上で立香を連れて帰ってきた。

 

 その経緯で立香の正体はある程度、『使徒』達にはバラしてある。彼らに隠すようなことでも無ければ、そちらの方が協力してもらえると思ったからだ。結果、『使徒』達の大半はすっかり立香に甘えるようになってしまったのだが…

 

 また一週間ほども休むと『英霊憑依』の魔術による負担完全と言ってもいいほどに無くなり、後遺症もほぼありはしない。

 

 しかし立香の体は思いの外、重かった。

 

 きっとそれはまだ心の中で大切(ハジメ)との記憶が、あの時の楽しかった感情が込み上げてくるからだ。きっといつものように時間が経てば、忘れられる記憶だ。

 

(そうだ…ハジメのことは、忘れろ。俺の使命はより多くでも『使徒』を助けることだ。…だから忘れろ!)

 

 立香は必死に言い聞かせた。自分に。いつものようにハジメを悔やむべき『過去』とするために。

 

「…先輩」

 

 だから隣にいるマシュの、立香を心配する顔には気がつかないふりをした。

 

 そして立香は自らの心を殺して、今にも恐怖に呑まれそうな『使徒』達に言った。

 

「大丈夫、俺がなんとかしてみせるから」

 

 立香のその時の顔は普通に笑っているようではあったが、隣のマシュだけは立香の顔にどこか悲しげにしていた。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーマシュside

 

「香織さん…大丈夫ですか?」

 

 マシュがいるのは香織の寝室だ。もっとも今、その部屋は香織の病室となっていると言ってもいい。一週間の無理がたたった結果だ。魔術回路は死んではいないが、それでも酷使されたことで身体中が蝕まれていた。

 

 立香が宝具を使ってまで治療したことでもうすぐすれば元どおりになれるだろう。事実、香織の顔の血色は元どおりになっており、魔法も魔術も元どおりに使えるらしい。

 

 だがマシュが聞いているのはそんなことではない。ハジメのことについてだ。

 

 香織は数日前、目覚めた時にハジメが奈落に落ち、行方不明になったと聞かされている。その時、香織の精神は一気に溢れ出た。ハジメの死を認めないように叫び、泣いて、自分を責めて、心を壊しかけた。立香の“白き聖杯よ、謳え(ソング・オブ・グレイル)”が無ければ本当に、そうなっていただろう。

 

 今の香織はその現実を認めている。だが認めたからと言って平静でいられているわけではない。香織は静かにしている今も唇から血が滴るまでに怒り狂っている。

 

 マシュは思った。立香にとっても香織にとっても、この死は平静でいられるものではなかったのだと。

 

 マシュにとってはハジメは友人(香織)の想い人という認識。仲良く、ハジメが死んだ時もショックではあった。しかしあの時落ちかけていた立香を思えば「それよりはマシだ」とどうしても思えてしまった。

 

 しかし立香と香織は違う。二人にとっては完全な『大切』。失った時の心の傷は決して浅くなど無い。特に香織など比較にならないほどにそれは深いだろう。ハジメは香織にとっての揺るぎない『特別』だったのだから。

 

 勇者は「強くなって南雲が良かったと思えるぐらい人々を救おう!」などと香織に言っていたが…。マシュはあの時は全力で勇者にドン引きし、部屋から全力で追い出し、ついでに小盛りの塩を扉の前に置いた。地味に勇者は傷ついていたりもする。

 

 マシュは出来ることならば香織の力になりたいと、そう思っている。つい最近まで香織はただの一般人。今回の一件は耐えられるような半端なものでは無い。実際にクラスメイトは全員が死の危険を案じ、中には戦場から離れる者まで出てきた。エミヤに魅入られるほどの精神力はあったとしても立香ほどでは無い。

 

 だからマシュはきっと香織も他の『使徒』と同じように苦しんでいるのだろう、とそう思い尋ねた。

 

 だが帰ってきた答えは、マシュの予想を見事に覆すものだった。

 

「ーー死んで無いよ」

「…え?」

 

 マシュは思わず香織の答えに驚いていた。マシュが考えていた言葉と違ったというのもあっただろう。しかしマシュは香織の言葉のあまりもの意思の強さに驚きを隠せなかった。

 

「ハジメくんは…絶対に死んで無いよ。だって、誰よりもハジメくんは強いんだから」

 

 そうだ。香織がハジメを意識したのは誰よりも強靭な鋼の精神があったからだ。折れず、それでも美しいハジメの優しさがあったからだ。

 

 奈落に落ちたから死んだ? ふざけるな。きっとハジメは生きている。その強靭な心で運命さえもねじ伏せている。香織の目にはそんな確信があった。

 

 マシュは香織の強さに驚くと、香織の強さを見くびっていた自分を恥じた。香織もまた先輩と同じく『強い人』であるのだと。

 

 だからマシュは香織の手に己の手を重ね、笑ってみせた。

 

「そうですね。南雲さんなら…ええ、きっとそうかと」

 

 マシュもまた信じる。ハジメの強さを。あの時誰よりも前に立ってみせた『最弱の英雄』たるその背中を。

 

 そして二人の女子は確信する。きっとハジメは大丈夫なのだと。

 

 部屋の向こう側にいる誰かも、二人の言葉に少し笑って。そして新たな決意をここに立ててみせた。

 

「…待ってろよ、ハジメ!」

 

この時少年は初めて、失敗を『過去』から奪い返すために動き始めた。




次かその次かあたりで序章ラストです。

思ったよりも序章長くて私びっくり…ホンマはこんな長くなる記憶なこうたんよ…
何故、これほど伸びたのか…
それは神のみぞ、知る。

それはともかく立香はこちらでは相当までに自分を押し殺す性格でした。ロマ二やオルガマリーを過去の人とし、それらを後悔してまた戦う。相当なクレージー野郎ですな。

でも立香はここで変わります。この話がある意味立香にとってのターニングポイントなのかもしれません。
次回もお楽しみに〜♡
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