ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
でもこれ以外になかったんよ、許せ。
さて、多分次でラスト! 作者ちゃん頑張っちゃうぞ〜♡
ーー香織side
香織はマシュと話し終わったあと、ひっそりと魔術回路を開いていた。今にも溢れ出そうな感情を抑えるためだ。
(早く…早くハジメくんを助けにっ!!)
あの日約束した言葉を、あのマフラーに誓った約束を香織は絶対に守るため。まだ酷使していい体ではないのは分かっている。だが香織はこうでもしなければ今すぐにでも『オルクス迷宮』へと一人でも行きかねない。
だからこれは香織にとって必要なことだ。体が万全になるまで休むためにも。
香織は信じている。例え周りの人々が失意に沈んでいたとしても、光輝が香織だけの心配のためハジメの死を悲しんでいたとしても。
だがマシュは香織と同じ意思をしていた。雫でも詰まらせた言葉を唯一言ってくれた。香織にとってはそれは兎も角ありがたかった。どこか救われたような気もした。
(だから…待ってて、ハジメくん!!)
そうして己の魔術回路を確認し、魔力をコントロールする途中。ふと香織のベッドの脇の方に置いてあった封筒を見つけた。
いつから置いてあったのか気になったものの自分宛のものだったため香織は封を切り、封筒の中を探った。封筒の中には一通の手紙と一枚の銀盤が入っていた。
手紙の内容は以下のものだった。
ーー今日、白崎さんに話したいことがある。この封筒に挟んである魔道具を使って俺の部屋まで来てくれーー
手紙の送り主は立香だった。伝えてあることは簡素で、まるで告白の文みたくなっている。立香はそんなこと一切考えず書いただろうが、隣にいたマシュは「先輩…下手すれば誤解を招きますよ」と嘆いていたに違いない。
ただ天然を地でいく香織はそんな思考をしない。むしろその内容の真意に気がついた。
(まさか…ハジメくんのこと!?)
そう思うと居ても立っても居られなかった。香織は銀盤型の魔道具を発動させると、扉を開け駆け出した。後にクラスメイトが香織がいなくなったと大騒ぎすることになるのだが、香織には知らない話だった。
銀盤の魔道具は誰にも香織の動きを察させることなく立香の部屋の前まで導いた。銀盤には“認識阻害”が働いており、下手なものでは気がつくことすらない。今の勇者一行では看破することなど無理な話である。
意を決した様子の香織は扉をコツコツと叩いた。すると「入って」とだけ簡素な答えが返ってくる。香織は迷うことなく扉を押し開けた。
「待っていた、白崎さん」
奥にいたのは椅子に座っている立香とマシュ。立香は香織の席を引き、香織の近くに寄せてくれた。立香がモテる理由、少しは分かったような気がした香織であった。
そして香織が席に座ると立香が魔術を部屋にかけた。どうやら防音の魔術らしく、声が外に漏れないようにしたらしい。
立香はそれだけして周りに人がいないことも確認する。そしてようやく話が始まるのかと思った。だがその前に第四者の声が部屋に木霊した。
『ーーハロー! 相当遅れたが天才ダヴィンチちゃん、ここに登場だぜ!』
少し暗かった雰囲気が全て吹き飛ばされるレベルの台無し感、ここに極まれり。立香やマシュも苦笑いしていた。
とりあえず香織は困惑し、言った。
「…誰?」
それはものすごーく、ごもっともな質問であった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
今から話を始めようと立香が思った時、そして立香にとっては素晴らしいタイミングで通信が繋がった。
『お、そこにいる黒髪の子が香織ちゃんかな? ずっとボイスだけだから脳内再生するしか無かったが…創作意欲湧いてきたや』
「ダヴィンチちゃん、自重して。今ものすごーく大切な話始まるところだから!」
「というかダヴィンチちゃん! 今までこちら側の情報は音声で手に入っていたのですか!?」
『おおともさ! 受信だけは音声だけならば可能だったのさ。流石に完全に通信を繋げるまでは大変だったが…何とかなるものだぜ!』
「流石はダヴィンチちゃんです。…ですが、今は香織さんとの話を優先したいと思うのですが…」
どうやらこちらの情報や状況は音声を通して伝わっていたらしい。それだけでどれだけ話がスムーズになるか、ありがたかった。
ダヴィンチの声を何とか静止しようとするマシュを片手で止めて、ダヴィンチに立香は聞いた。
「ダヴィンチちゃん。音声で今までの情報が入ってたっていうなら…ハジメの情報も入ってるよね?」
『君たちがよく話してたからね。もちろん入ってきているとも。…彼がどうしたんだい?』
一部声が詰まっていたのはダヴィンチがハジメの奈落への落下を知っているためだろう。少し言いずらそうにしていた。
だがそれならば好都合だと立香は、頭を下げた。
「お願いします…今から俺は。カルデアを、カルデアの意思を、裏切ります」
それは懇願だった。同時に立香の、『人理の救世主』としての立場ではあってはならないことだと理解した上での願い。だから立香は自分を手助けてくれるカルデアに謝罪の言葉を送った。
その言葉に向こう側で反応したのは、ムジーク局長だった。
『藤丸立香…まさか貴様、その南雲ハジメと言ったか? そいつを助ける気なのか?』
「…局長、すみません。俺は、助けたいんです」
『貴様はっ! …ダメだ! それでは幹部としての示しがつかんだろう! 貴様はカルデアの代表として、そこにいるのだぞ!』
ムジークの言うことは、最もだった。『人理を救う』、その意味は非常に大きい。そしてもちろん、カルデアという組織もそれほどまでに意味合いとしても大きい。
だからこそ立香の言葉は裏切りだ。人理の全てに背いてまで、いるかも分からない誰かを救おうとしているのだ。愚者と言われようと仕方がない道なのだ。
だが立香もそれを分かった上での言葉だ。無責任に、何の覚悟もなく言ったわけではない。
「もう…『大切』を失うのは嫌なんだ!!」
『ーーーーー』
「今まで必死に言い訳してきた! 自分が無力だって、ずっと責めてきた! 苦しかった! 泣きたかった! 何でみんな置いていくんだって、喚きたかった!」
それはあまりにも若く、世界を救った者の心の中だった。全ての弱音を今立香は吐露していた。心に鋼の鍵をつけ、今まで漏らさないようにしていた、立香の本心だった。
立香のことを詳しく知らない香織ですら胸が締め付けられた。立香の言葉はそれほどに重く、苦しげだった。
「でも…それでも彼らが死んだことを無意味にしないために戦ってきた! それが自分の責務なんだって、納得してきた!」
そう少年は戦い続けた。自分を無理矢理頷かせ、屍を超えて戦ってきた。何度も心に鎖を巻き、必死に言い聞かせてきた。それが己の罪の償いなのだと。
「だけど今回は…希望がある! まだハジメは死んでない! アイツはまだ、死んでなんかいない!」
立香は見た。ハジメが奈落に落ちた日の出来事を。
誰よりも現実を見て、誰よりも必死に足掻き、誰よりも勇ましく前に立ってみせた。
立香にとってはそれが親友として誇らしく、そしてハジメに英雄の姿を幻視した瞬間だった。
そしてそんな『最弱』の英雄ならば、きっと今でも戦っている。きっと折れることなく、生存を望み戦う。
それが立香には眼に映るように感じられた。
「だから。…どうか俺に、チャンスをくださいっ!!」
立香は心の中を全て吐き出した。あとはムジークが納得するかどうかにかかっていた。
ムジークはなにかを言おうとし、そしてマシュに遮られた。
「私からも、お願いします! 先輩に出来た新たな『大切』を、見捨てたくはありません!」
『……』
ムジークはしばらく黙り込んだ。瞑目し、葛藤していた。
やがてムジークは局長として、判断を下した。
『…却下だ。『使徒』全員を見捨て、一人だけを助けにいくなど許されるわけにはいかん』
「……っ。……はい」
立香は拳を握る。爪が食い込むほどに強く。
マシュは叫ぼうとした。ムジークに向かって。しかし立香が腕を引き、首を振った。
香織もまた顔に陰りを見せた。同時にやはり一人で行くしかないのか、と振り出しの思考に戻る。
ムジークはそんな三人の反応をあえて見ないかなように、この後の立香達の行動について話し始めた。
『…ではまず藤丸立香。お前は『使徒』達の保護とともに帰還方法を探す必要がある。この帰還方法、貴様には何か意見は無いか?』
「…いいえ。知りません」
『よろしい。ではこちらの作戦で行くとしよう』
立香は再び心を鎖で繋ぎとめようとした。自分は『人理の救世主』であらねばならないのだ、と認識を改める。そしてハジメを『過去』とし、己の罪の一つとカウントした。
マシュが今にも泣きそうな顔となり、香織が険しい顔となっていた。ムジークは作戦を簡潔に伝えた。
『オルクス大迷宮を、攻略せよ』
「…え?」
それはつい先ほど救うのを却下された少年が落ちた場所。先ほど行くことを否定されたはずの場所。それなのに何故、と立香は心の鎖の締めを緩めた。
『よく聞け。そちらの世界にはどういうわけか…聖杯に近い存在が7つある』
「っ!!?」
聖杯ーーそれは立香達が戦ってきた『特異点』、『異聞帯』を作り上げた聖遺物。これにより本来あるはずのない歴史を作り出し、人類史は滅亡へと追いやられていた。
だが聖杯など地球にしかないはずのものであり、異世界とはいえそんなものが存在するはずがない。だが願望機があるということはすなわち…
『すなわちその聖杯もどきを7つも集めれば、『使徒』の帰還に使えるやも知れん。本当にどういうわけか知らんがな。そんなわけだ藤丸立香。まずは一番聖杯が近くにあるオルクス大迷宮を攻略してこい』
「え? は、はい」
『あと…その…なんだ…。もし余裕があるのであれば…南雲ハジメも助け出して構わん。あくまでもメインのミッションはオルクス大迷宮の攻略だぞ! その辺りを考えてから行け!』
要はムジークはこう言いたいのだ。
ーー御託はいい。いつもの如く手を伸ばし、助け出してこい!、と。
見ればムジークの目の下には隈が有り得ないほど濃く、くっきりと出ていた。いったいどれだけ寝なかったのだろうか。
きっと探し出していたのだろう。立香が正統的に迷宮へと行き、ハジメを助け出せるための方法を。
心の中の鎖が音を立てて崩れていったような気がした。心に住み着いていた何かが消えていったような気がした。誰かが背中を押してくれたような、そんな気がした。
憑き物が晴れたような顔で、立香は笑う。そして言い切った。
「了解です、局長! ミッションを果たして来ます!」
その言葉に立香の周りにいる少女達も、画面の向こうにいるカルデアのみんなも、そして最愛の恋人も、みんなが破顔した。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーカルデアside
「それにしても、まー局長殿は形式を大切にするね〜」
「う、うるさい。技術顧問! それよりもきちんとあちらでの『知名度補正の弱体化』、それに対する対策は出来たんだろうな!」
「ああ、バッチリだ! 立香くんが今から呼ぶ英霊達は全員、こちらで活動するぐらいのレベルで戦えるぜ!」
「…流石は天才だな。仕事が早い」
「それよりも君、きちんと寝たらどうだい? ここ最近、ずっと建前探して寝てなかったじゃないか」
ダヴィンチの言ったことは事実である。送られてくる情報を全て飽くことなく分析し続け、ついに見つけ出したのが今回立香に言ったことだ。正直、もうムジークの活動は限界と言えた。
「建前などではない! それも目的の一つだ!」
「でも…立香くんが助けに行って欲しいと願ったのも、また事実だろう?」
ダヴィンチは見透かしたようにムジークに言った。ムジークは「うぐっ!」と呻くと一拍、溜息を吐いて言った。
「…無理があるだろう。私だってあの時、助けられたのだ。奴の優しさにな。奴の言葉を、覚悟を無視するわけにはいかんだろう」
「ふふっ。そうだったね。君は…いや、世界の人々は彼の優しさと勇気で助けられたんだからね」
「そうだとも。…それにな」
「? なんだい。まだ何かあるのかい?」
ムジークはどこか染み染みと、少し嬉しそうに言った。
「奴が泣き言を言ってまで助けを乞うたのだ。…答えないわけには、いかんだろうよ。大人としては、な」
ダヴィンチもまた、その言葉に深く頷く。
「ああ。彼はずっと…自分を殺し続けていたからね。ようやく彼を解放できた、そんな気分だね」
ムジークとダヴィンチ。二人の幹部が言った言葉は立香を深く、優しく思っての言葉だった。
そんな二人の幹部の言葉に、カルデアの全員もまた思いを馳せた。
…局長ってさ、いいヒロインしてるよね。
というかやはりムジークさんは時にはやる男だと思ってる、信じてる。
ちょこちょこポンコツだけど…そこがいい!
これからもちょくちょく…出てくるかなぁ(?)