ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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はいはい。一章本格スタートです。
立香視点、お楽しみに〜。


迷宮攻略開始

 ーー立香side

 

「なぁ、マスター。なんつーか、名前が大層な割に弱くね? ここの奴ら?」

 

 香織達と別れてから二時間ほどの時間が経った。なおオルクス大迷宮に来るまでに一時間を費やしており、更に一時間経って今の階層まで辿り着いている。

 

 なおもし彼らの走る速度を見たならば人々は唖然とするだろう。この中で一番遅い立香でさえも風が通り過ぎたかのような速さなのだ。最速のクラスたるランサーのスカサハなど、考えるまでも無いだろう。

 

「うん。俺もあの日、苦戦したけど知名度補正無しの状態だったからなぁ。今戦ったら『宝具』一発で倒せそうなんだよなぁ」

「逆に『宝具』を使わねば勝てぬのか? 貴様、鍛錬を怠っておったか?」

「むしろ素手で魔物殴り飛ばせる方々たる英霊が凄いんだけどね…。最近は周りに英霊しかいなかったからそこの辺り麻痺してたんだよね〜」

 

 なお立香は元一般人である。感覚が麻痺していたり、時折人外ぶりを見せるがキチンと霊長類のヒト科である。

 

 たとえステータスプレートを持ってなくて、本来ならばオルクス大迷宮に入る前に門前払いされる所を門番に対し口一つで説き伏せて迷宮に入ったとしても人間である。『宝具』も発動できるが人間である。『ただの』などとはつけられないが人間である。

 

 するとマシュが何かに気が付き、立香に向かって叫んだ。

 

「先輩! そろそろです!」

「そっか…もう六十五階層か」

 

 立香が下の階層に降りる階段を下る度に目に宿す光を鋭利に研磨していく。何と言ってもこの先にいるのは立香にとっての悲劇を作り出した魔物に他ならないのだから。

 

「…マシュ、モードレッド、スカサハ。ごめんだけど…」

「わかってますよ、先輩。手出し無用ということですよね」

「…何で分かったんでせう?」

 

 断りを入れ、あの憎たらしい魔物を殴り飛ばそうとしたがそれを言い切る前にマシュに内心を暴かれた。立香は解せぬといった風に語調が崩れた。

 

 すると立香の後ろにいたモードレッドとスカサハがその理由を告げた。

 

「いや、マスター。お前結構分かり易いぞ。その辺りは最初の頃から変わらず安心してるぞ」

「っ!?」

「なお貴様のフィグルスな本の隠し場所はカルデア全員が知っているぞ?」

「っ!?」

 

 なおフィグルスな本と言ったらカルデアで言えば…一般高校生がベッドの裏に隠すような本のことである。言わずもがななことであるが一応である。

 

 兎に角あっさりと自分の心のパーソナルスペースの少なさに戦慄する立香。まさかケルトな事情すらもモロバレとは…。立香の顔からシリアスが僅かな間、退散する。ついでにカルデアに帰った際には机に火薬を仕込んだ二重底に隠すことを決意した。

 

 するとマシュは立香の背中をそっと指で押した。

 

「先輩、行ってきてください。これはきっと先輩のために必要なことですから」

「マシュ…」

 

 他の二人もマシュに賛同であると頷き、立香に視線でとっととやってこいと応援(エール)を送る。

 

 立香は魔術回路を解放し、そして頼りになるみんなに背中を向けて歩いた。

 

「みんな待ってて。1分以内に済ませてくるから」

 

 立香の大胆不敵な宣言。勿論返ってきたのは信頼の頷きであった。

 

 そして立香はただ一人で橋の中央へと渡る。なお邪魔されないようにトラウムソルジャーの現れるはずである魔法陣は先に崩してある。この戦いに水を差されたくないのが立香の本心であるからだ。

 

 あの日、地獄を見せられた光景が再現される。立香の前に現れ、スパークを放つ巨大な魔法陣。立香はそこから現れるであろう魔物を幻視し、やがてその姿を実際に己の瞳に再び写してみせた。

 

「…ベヒモス」

 

 この怒りが筋違いであろうことは分かっている。

 

 事実を言うならば侵入者は自分達の方。あくまでも自分達は死と冒険、それを天秤に乗せた上でここに立っていることも。

 

 だがハジメはあくまでも巻き込まれた男だ。あの時見せつけた力も必要に駆られたが故に身につけた力。

 

 故に立香の中では今にも腹わたが煮え繰り返るかのような怒りが奮起する。神の我儘、飛んできた火球、それを助けられなかった己自身、ハジメを蔑んだ二人の男、そして目の前に現れた『魔獣』。

 

 ベヒモスの身体は立香が見た最後の傷ついていた魔物の姿ではない。全てが巻き戻ったかのように傷一つ無い怪物の姿。

 

 それを見ているとあの日の神の悪戯を思い出し、余計に立香の中の炎に薪が放り込まれる。

 

 目の前の怪物は吠えた。どうやらあの日の光景など一切知らないようで、立香を侵入者としてしか見ていないようだった。それも当然で、あの時ハジメを追いやった怪物はハジメと同じく、奈落へ落ちていたのだから。

 

 もっとも今の立香にはそんなこと、どうでもいいのだが。

 

「忘れたって言うなら…味わってもらうぞ?」

 

 そう言って立香は魔術回路を全開にする。そして口ずさむは超短詠唱の魔術。立香がある意味、もっとも得意としている魔術だ。

 

「ーー“ガンド”×15」

 

 ふざけた詠唱だった。しかし立香にはそれで十分。指からいくつもの魔弾が連射される。

 

 その魔弾はあの日のものよりも巨大で速かった。ベヒモスの身体に直撃すると、前脚を浮き上がらせて立香に隙を晒した。

 

 そして立香は次に魔力を己の力に変える。発動されるのは燃費自体が悪く、邪道と言える技。しかし立香にはどうしようもなく相性の良い魔術の一つ。

 

「ーー筋系。神経系。血管系。リンパ系。擬似魔術回路変換、完了」

 

 魔術回路が全身にまで渡る。とある魔法少女が誇る宝具を真似たものなのだが、どこぞのエミヤを連想させるほどに己を傷つける技でもある。故に身体に致命的な欠陥が出ないようにするにはこの技は一瞬にする必要がある。

 

 だが立香にとってはその一瞬で十分だ。

 

 足を踏みしめ、発動するのは…“身体強化”。

 

 暗き迷宮は純白に染まり上がる。もちろん立香の魔力のあまりの多大さ故の過剰な魔力光によるもの。

 

 目の前で光を帯びる立香にようやくベヒモスは察する。立香が尾を踏んではならぬ虎であったと。そして自分がどういうわけかその尾を踏んでいたのだと。

 

 本来、衝突という攻撃手段しか持たぬはずのベヒモスがこの時始めて後退を選んだ。それは迷宮の魔物にあるはずのない『逃げ』。しかし前足が地面についていない状態では空に浮く脚をかくぐらいしかできる術はない。

 

 逃れることのできない目の前の光景に『魔獣』は生来得ることのないはずだった恐怖を知った。

 

 しかし立香はさながら死神のように告げた。

 

「ーー奈落に堕ちてろ」

 

 純白が爆ぜた。

 

 揺れるは橋。波打つは空気。

 

 そして吹き飛ぶのは『魔獣』が視界。見ていた世界が一転。ことごとくをシェイクされる。

 

 立香が放ったアッパーカット。単純が故に対処の困難なそれはベヒモスを吹き飛ばし、奈落へと追いやる。

 

 ベヒモスが重力に従い落ちる様を確認すると立香は魔術回路を一斉に解除した。倦怠感が体を支配するが、立香には関係のないことだった。

 

「みんな〜、終わったよ! 早く次の階層行こう」

 

 すると階段から降りてきた英霊達が立香の言葉に唖然とする。

 

「え? 先輩ならてっきり奈落で大胆なショートカットをするのかと?」

「だな。ステラ野郎の心臓に悪いアレにすらも躊躇なく飛び込めるんだ。てっきり落ちるんだなってばかり…」

「急に人間らしい感情を思い出したか?」

「逆に俺、何か重病者扱いされてない? ねぇ、ねぇ」

 

 なお立香は最近、ビビるという体験はほぼしていない。某周回王さんの紐なし逆バンジーや某黒王のライディングにも普通のように対処している様は最近の『カルデア七不思議』の一つに認定されていたりする。曰く、「え、あのマスターの鋼の精神一体なんぞ?」的な感じで。

 

 確かにそうなってくると立香が本当に可笑しいのだが、立香にその自覚は皆無。故に三人は立香の疑問には答えず、奈落から落ちない立香を不思議そうに言及した。

 

 自分に対するイメージを問いただしたかった立香だが、溜息を吐き理由を言う。

 

「別に奈落から落ちてもいいんだけど、代わりにそうなってくるとハジメと途中ですれ違う可能性があるでしよ? だから俺は階層一つ一つを踏破した上でいこうと思ってる」

 

 つまりは安全第一(ハジメの)で行こうぜ!ということらしい。

 

 訳を聞くと三人は安堵した。ただ安堵の対象が立香的には非常に解せなかったが。

 

「なるほど。先輩にはそんなお考えがあったのですね!」

「良かったぜ。マスターの脳みそに何かあったら親父殿にキレられるところだったぞ」

「貴様、どれだけ我々が心配したと思っておるのだ?」

「え? 責められるの俺なの? ねぇ、ねぇ?」

 

 解せないなぁと言いつつも立香は結局進むしかなく、この後も続くであろう迷宮踏破に挑むのであった。

 

 

 

 そして今立香は地上から考えて百階といえる地点まで降りていた。なおここに辿り着くまでに費やした時間は入り口から二時間と経っていない。軽く考えて世界新記録である。

 

 だが立香の顔は晴れない。その理由はもちろん一つ。

 

「ハジメ…」

「見つかりませんね。ハジメさんならば無事なのでしょうが…」

 

 一つ目はハジメが見つからないと言う点。すれ違いの可能性は四人の索敵能力から見て無いと考えていい。

 

 ならばハジメは死んだと考えるのが通常だ。地上では事実、百階こそがこの迷宮の最下層であるはずなのだから。

 

 しかし立香の目の前にあるのは『門』だ。さらに言うならばその『門』こそが更なる下の階層へと続く扉(・・・・・・・・・・・・)なのだ。

 

 そして立香が見るからにハジメが生きているとするならばこの先にいる可能性が恐ろしく高い。それは奈落の底がこの階層になってもまだ先があったからだ。

 

(そんな高い場所から落ちて…ハジメは無事なのか?)

 

 最悪なにかがクッションになっていれば…と立香は考える。ここまで少しずつ芽生えていた不安が一気に心の中を支配していく。

 

 ーーあの時のように、手遅れではないのか?

 ーー今までのように、無駄な足掻きだろう?

 

 思い出される己の罪の数々。その中にハジメの血に沈んだ姿が幻であるはずなのに鮮明に映し出される。

 

 そう思うと立香は恐怖した。『大事』を守りきれないという可能性を。あの苦渋の記憶の再現を。心の奥から恐怖した。

 

 だが立香は一人ではない。

 

 立香の拳に暖かい温もりが訪れた。いつのまにか音を鳴らすほどに握りしめていた掌が自然と解ける。笛のような音を鳴らしていた喉が正常に戻る。

 

 そして立香は己の手を握る最愛の笑顔を見た。

 

「…マシュ?」

 

「はい。私はここにいますよ、先輩」

 

 その言葉だけで恐怖に怯えた体から震えがスッと消えた。立香の心を風が凪いだような、そんな気がした。

 

 ーーきっと大丈夫だ。

 

 そんな確信が立香の中に現れる。

 

 そして立香の言葉を待つ三人の仲間に立香は告げる。

 

「ここからは地上で存在すらされていないとされる完全未知の領域だ! 俺だけじゃきっとここを潜り抜けるのは無理! だから…力を貸してくれ」

 

 もちろん三人の答えは決まっていた。

 

「ハッ! 上等だ! 俺はテメェの騎士! どこまでもついて行ってやるよ」

「ふん。今更なものよ。ここで怖気付くような者、英霊とは名乗れまい」

 

 二人の信頼できる仲間は立香にそう答える。

 

 そして最愛もまた答える。

 

「先輩の横だけが私の居場所ですから。どこまでもお付き合いいたしますよ」

「…マシュ。みんな。ありがとう」

 

 そして立香は目の前の『門』を見つめ、やがて叫ぶ。

 

「行くぞみんな! 真の迷宮、攻略開始だ!」

「はい!」「おう!」「わかった」

 

 立香はそして扉に手をかけて、押す。キィイと金属の擦れる音が鳴り、重厚的な重みが立香の掌に伝わった。

 

 立香が目指すのは迷宮の最下層。そして親友の元。それらに思いを馳せ、立香は攻略を決意する。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ。異端者一行様方」

 

 そして狂気の神の眷属は色の落ちた漆黒のマントを纏い現れる。




最後のキャラはなお前のお話のあの方ではございません。
完全なこの作品のオリキャラです。
そこの辺りご注意を。
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