ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
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ーーハジメside
「…煩わしいな」
オルクス大迷宮の奈落の底。更にその奥地に存在する『真の迷宮』。そこで男はただ一人で45階層まで辿り着いていた。
そして辺りにいたのは夥しいほどに視界を埋め尽くす蟲型の魔物の群れ。その全てが地上で最強と恐れられる『魔獣』ベヒモスを上回る性能と厄介さを持つ。中にはムカデ型の魔物や樹の形をした魔物までいた。
本来ならば物量で押しつぶされ、この男は死ぬだろう。しかし男は軽く周囲を一瞥すると、己の獲物を抜いた。
「ーー死ね」
それは単純で平凡なありふれた、しかし死刑宣告にも聞こえる男の声。そして次に発せられた声をきっかけとして魔物達は…殲滅される。
「ーーー“
男の頰と右腕の紅が鮮烈な光を放つ。それだけが魔物に許された最後の光景。見えたはずの光景が
その声に続くように響いたのは轟音と断末魔。そして繰り広げられるは地獄の再現。奈落の底で、魔物達は怪物から逃れることすらも不可能だった。
だがここで死ねた魔物は幸せだっただろう。何故ならば激痛を一瞬患うことでこの世から去れたのだから。
あえて残された魔物は爆心地の中心がふと目に入った。そこにあったのは紅き光の筋が入った地面の壁。そしてそこから現れたのは、健在の怪物の姿。
「さて…お前らには俺の糧にでもなってもらうぞ?」
そして殲滅に要された時間は2分とも経たず、終幕する。
残されていたのは炎の残滓と…喰い千切られた魔物の死体の数々。蹂躙という言葉でも足りないほどのワンサイドゲーム。その犯人は魔物の殻ごと噛み砕く。本来ならば魔法でさえも防ぐほどに強固であるはずの殻を煎餅のように喰らう姿は、間違っても人ではない。
もはや体を蝕んでいる痛みすらも気にならないようだ。全てを軽く平らげると何事もなかったかのようにそこを後にする。だが、男にはするべきことがあと一つ。
死臭漂う樹海の成れの果て。その真ん中で聞こえる、ただ一つの契り。『最弱』が階層を降りる度に己に言いつけるように、つぶやく言葉。
そしてその掟はこの場においても例外ではない。
「俺に残っているものは何もない。何も覚えちゃあいない。故に俺が唯一妥協できないのは命のみだ。それ以外は、何も要らない。だからこそ、俺の前にいる者は全て殺す。殺して喰らう。それが俺の唯一のルールだ」
ふと首に巻いてある襟巻へと自然と行く指。何故かは分からないが不意にその温もりを求めた己の体。
自分でも思いすらしなかった行為に男は呆然とする。だから口から不意に出たその言葉も何ら不思議ではない。
「俺は…何者なんだ?」
現在男、ハジメが踏破した階層は、39層。
ーー再会の時は近い
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
『神山のアサシン』と戦い合い、三日の時が経つ。あれ以降は特に苦労することなく到達階層を増やしていっている立香達。
その間色々あった。石化光線を放ってきた魔物を見て全員が「アレ、メデューサ!? メデューサと血縁アリ!?」と少しだけ思っちゃったり、六本の足を持つ猫を見て困惑したり、毒カエルの魔物に対し平然と立ち向かっていた立香が逆に魔物に驚かれたりと色々あった。
また階層の至る所に黒く粘つく泥のような何かがあった階層はモードレッドが静まり込んだ。曰く「オレの“直感”が告げてんだ。オレ、ここで無闇に動くなって」とのこと。そこではスカサハがサメを一突きで仕留めたので良かったのだが…。階層を抜けてから泥を一部拝借し、モードレッドに雷で着火してもらった。結果、凄く熱かった。みんなが“直感”に感謝した瞬間だった。
ある階層では魔物ではない豚のような動物を発見。その瞬間全員が一時的に発狂しながらその動物を乱獲した。久々の新鮮な肉だったので仕方がなかったが、全員がその時のハイテンションぶりを恥じたりしていた。
大体そんな感じで順調に進んでいった立香達。しかし立香を始めとする一行の顔は、途中から階を進むたびに困惑したように硬直していく。否、立香達は進むたびに確かに困惑していた。違和感を感じていっていた。
別に階層を進むたびに魔物達がそれほど強くなったわけではない。むしろ立香達が到達階層が上がる程に攻略速度は確かに
その理由は至極単純。魔物の姿が跡形も無くなっているためだ。
「どうなってるんだ…」
立香の目の前にあったのは焦げた階層と食い破られた魔物の死体。とても人のするようなことではなく、立香は絶句する。
スカサハもまた警戒心を跳ねあげながら、考えられる限りのことをまとめていく。
「『神山のアサシン』が要因ではあるまい。奴が我々の攻略難易度を下げるような真似、わざわざせんだろう。むしろアサシンクラスだ。何かしら裏工作などをして、我々を妨害するのが自然よな」
「確かに…なら犯人は誰が?」
「『神山のアサシン』が言っていた限りではこの真の迷宮では我々以外にも二人、『何か』がいる」
「…『奴』と『キャスター』のこと?」
「それ以外には考えづらい。もっとも貴様の話を聞く限り、その二人の候補どちらにも南雲ハジメとやらはおらんだろうが…」
「っ…」
ハジメの手がかりは未だに一つも見つかっていない。どの階層にも残っているのは些か派手すぎる『何か』の痕跡のみ。威力も酷く大きく、魔物を食い荒らすという人ならざる技。もちろんただの錬成士の範囲に留まるハジメにもできるわけはない。
そんなわけで今のところハジメは見つかる様子が一切無い。立香は静かに追い込まれ、それでもまだ下にいるかもしれないと望みをかけて降り続けている。
「先輩…」
マシュも寄り添うことしか出来なかった。無闇に「大丈夫」などと軽く言えるようなことではない。それをマシュは長年におよぶ立香との付き合いでしっかりと理解していた。
モードレッドやスカサハもまた静まりこむ。場に不自然なまでの静寂が訪れた。苦々しい間であった。
それを食い破ったのは、不意に下の階層から訪れた凄まじいまでの熱気。地面から燃えるような高温が立香を炙った。
「これは!?」
間違いなくアサシンの言うところの『奴』か『キャスター』だ。下からの熱は迷宮を尋常ならざる方法で踏破している者が生み出した地獄の余波。
瞬時に状況を理解する立香。そして走り始めると三人に指示を出す。
「急いで下に降りよう! もしかしたら…ハジメの情報を持っているかもしれない!」
立香は『神山のアサシン』以外の人から情報を手に入れようとしているらしい。非常にハジメに辿り着くには無謀にも思える。だが立香はそんな無謀を乗り越えてきた男。故に三人の答えは、勿論肯定。
「はい!」
「しゃあねぇ! 行くぞ、スカサハ!」
「命令するで無い、男女」
「よぉし! 後でテメェ墓送りにしてやんよ!」
「お二人とも早く!」
割と余裕感が抜けないが、それでも立香が走る元へと三人もまた駆けていく。向かうのは45階層。恐らく獄炎のような光景が広がるであろう場所へ。
一方で立香は三人のことを忘れたかのように無我夢中で走る。それこそ魔術回路による“身体強化”を全力で行使してまでだ。それほどまでに立香を突き立てるのはハジメが見つからない故の焦りによる衝動。そして一縷の望みにかけたが故の必死さが立香の足を前へと突き動かした。
やがて階段を下り終わり、立香は目の前の光景を見る。
炎に彩られる世界。そこらの魔物に炎は移り、見栄えの悪い円舞曲を踊っている。本来ならば湖があったはずの階層は今、完全にその輪郭を確実に失っていく。これが上層のような光景を生み出した過程であるのだろう。
立香の視界は赤色ばかりで染め上げられる。炎を鎮火させるために何かしらの『宝具』を使おうとした立香。
しかしその手は不意に目に映ったものにより静止せざるを得なくなる。
血のような赤の炎が揺れ、渦巻く荒廃の地の中で確かにそれは存在を示していた。
『紅』の光が。
「ーーーッ!!?」
見覚えのある『紅』の魔力光。それは立香が他にいない親友といた時、練習風景としてよく見た光の色。
『魔獣』を前にした絶望の中、一人だけ前に立って『最弱』の魔法を行使し、誰一人をも救ってみせた親友の力の色。
そしてそんな親友が形見のように持っていた襟巻の色。
マシュもまた立香の視線の先を探り、そして見つけたようだ。他に染まることない強固な光を。
光を放つのは異常に突起した地面。いくつもの『紅』の回路が走り、『盾』としての力を“強化”している。他ならない親友の師が得意とした魔術の一つ、“強化魔術”だ。
これを見て立香の中の直感は、確実な現実へと昇華される。
「…ハジメ。ハジメなのか?」
それ以外には考えられなかった。この世界でエミヤの技を知るのはここにいるメンバーと香織、そして行方不明だったハジメのみだ。そして本当に使うとなれば、エミヤが「才能がある」と言った親友のみだろう。
何故、親友が魔術を使えるようになったかは分からない。それでも喜びを胸に、未だに燃え上がる炎を立香はおもむろに歩く。目指すのは勿論、『盾』を担う土の壁へと一歩ずつ進んでいく。
これから起きるであろう再開に、三人は微笑んだ。立香の様子で悟ったのだ。あの中にいるのが恐らくは立香が探して求め続けた『大切』なのだと。
やがて回路が壁からスッと引き、土の壁が地面へと還元されていく。壁の先にある男もきっと立香の気配に気がついたのだろう。動揺の気配が微かに、されど確かに感じ取れた。
そして壁がついに一人の人間を隠すほどまでの大きさとなり、顔が現れるであろうという時。
一気にその場は動き出す。
きっかけはただ一つ。壁の奥から聞こえた
「ーーー死ね」
立香が硬直する中、壁の先にいた男が持つ黒い銃。その殺意の先が恐ろしい光沢を宿らせていた。
結構気になるところで終わったかもですが…ついにハジメと立香合流!
さて、次回以降どうなるのか!?
続く!