ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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土日なので早めの投稿です!
割とほっこり回…なのか?


奈落でのお茶会

 ーー立香side

 

 今立香は自分達がいる場所の情報をを思い出していた。

 

 異世界トータス。ファンタジー感溢れた世界。そんな世界でも類を見ないほどの危険地域、『オルクス大迷宮』。そしてここはその大迷宮でも未開拓領域。未だに世界に知られることのない真の迷宮。

 

 もちろんそんな場所に足を踏み込めば、誰もが足を竦ませて緊張感漂う中で迷宮を攻略していくことだろう。

 

 …あくまでそんな話は普通の場合にのみ限られるらしいが。

 

「おー、『キャスター』! この紅茶、うめぇな!」

「ふふ。褒めてもおかわりとその紅茶に合うクッキーしか出てこないよ」

「おかわり!!」

「これ、モードレッド。貴様騎士だろうに謙虚のカケラもないではないか…。あ、もちろんお代わりを所望するぞ、『キャスター』」

「なんだか癒されてしまいますね。本当に美味しいです、『キャスター』さん。すみませんがおかわりを貰えますか?」

「了解したよ。…久しぶりに人に振る舞うとなると感慨深いものがあるなぁ」

 

 めちゃくちゃまったりと、それは物凄くまったりとしていた。

 

 具体的に言えば『キャスター』が作り出したとてもカジュアルな机と椅子でくつろぎ、クッキーと紅茶に舌鼓を打つ。そんな流れになっていた。

 

 もちろんここは奈落の底。全員椅子に武器を置いたり、霊体化させていたりなどの臨戦態勢は取っている。

 

 ただそれでもこれは無いだろうというレベルでだらんとしていた。スルースキル一級品の立香でも戸惑うというもの。更に言えば『キャスター』が出してくるクッキーがネコさんやクマさんなどのファンシーなものであることもシリアス霧散の大きな要因である。

 

「…早くハジメの方に行きたいんだけどなぁ」

 

 これは立香の現在の心境である。ハジメが無事なのは分かったので少し安堵している部分はあるが気掛かりな点が多過ぎる。普段ならスルーできるであろう目の前の光景を柄にも会わずジトッと見ているのはその感情が原因である。

 

 するとハジメの方にもクッキーと紅茶が並べられた。もちろん並べたのは『キャスター』である。『キャスター』はご丁寧に砂糖やクッキーに合うフルーツソースなどを並べると、立香を宥める。

 

「彼のことを気に病むのは大切だよ。でもね、君は焦りすぎている。今もう一度会いに行ったところでさっきのように拒否されるのがオチさ。それに気を張りすぎていては冷静な判断も出来ない。ほら、デメリットだらけだろう?」

「それはまぁ、そうですけど…」

「だったら一度とことん休むべきさ。ほら紅茶が温かいうちにいただくべきだよ?」

 

 意を決し、立香はティーカップを摘まむ。じんわりとした暖かみが立香の手に伝わった。そして紅茶を一口含み、飲み込んだ。

 

『キャスター』が立香に視線を向けた。恐らくは味の感想を聞いているのだろう。立香はもちろん答えることにした。

 

「…女子力高いですね、『キャスター』さん」

「…かつて仲間にもそう言われたような気がするよ」

 

 ただ内心ではエミヤの方が凄いよなとは思いつつも言わない立香。流石にキッチンの大英雄と紳士を比べるのは部が悪過ぎるよなと反省した。

 

 なお赤い外套の弓兵は必ず否定するだろうが…

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

「さて、まず僕と君たちで情報交換をしたいと思っている。いいかな、リッカ・フジマル」

「それより前に…何で俺の名前を知ってるんですか?」

 

 最もな疑問だと『キャスター』は頷いて、説明し始める。

 

「これは特殊なアーティーファクト『聖杯』から授かった知識だよ。君が今の教皇にとんでもないことをやったからね。君とマシュ・キリエライトに関しては既にトータスの人類史に書き連ねられている。神の敵、『異端者』として、ね」

 

 これで『アサシン』が自分達の事を知っていた事情が明確に分かった。『聖杯』の知識だとは推測はしていたが…そこまで大事になっていたとは。立香は地味に遠い目になった。反省も後悔もさらさら無いが、取り敢えず「めんどくさいことになったなー」感は否めないのだ。

 

 だが地上に出てからは最悪『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』を使えば強力な認識阻害が使えるので問題ない。まあ“仮装”でも問題はない。それこそハジメクラスの看破能力が無ければ無理なのだが。…本当に『宝具』の大安売りである。

 

 そんなわけで地上出てからも問題ないな、と再度確認する立香。マシュやサーヴァント勢は立香の「何かあれば『宝具』を使えばいいじゃない」的な考えにこめかみをグリグリとする。いつもランスロットのことを「穀潰し」呼ばわりするマシュやウザがっているモードレッドまで、心の中でランスロットに詫びた。

 

 情報を伝えようかと思った立香。しかしある考えが立香の頭の片隅で現れた。そしてそれは立香にとっては無視できないものであった。故に立香は愚直に尋ねた。

 

「もしかして貴方は、エヒト神の信者でーー」

「まさか。あんな奴に仕えたくもない」

「さいですかー」

 

 即答だった。

 

 この間、立香はルーラークラスから“真名看破”を借りて『オルクスのキャスター』に使用していた。しかし名前も素性も一切が封じられていた。恐らくは『キャスター』の能力か『宝具』だろうが。

 

 そんなわけで「もしやこの人もあのクソ野郎の信者では!?」と思い、尋ねたわけだったのだが、結果はこの通り。素晴らしく危ういぐらいの速度だった。顔で全力で神に対する嫌悪感を示している。凄まじいまでに首を振った。もはや立香ですら神様ドンマイと思えるほどにエヒト神を否定した。

 

 流石にそこまでオーバーに嫌っている分かると信者ではないだろうと立香は自分が知る限りの情報を明け渡した。カルデアのことや人理修復のこと、そして最終的には神殺しも辞さない意思を伝えた。

 

『キャスター』はそうか、と顔を綻ばせながらも、情報を引き出してくれた。

 

「まずエヒト神に関しては君の言う通り、クソでカスでゴミで信仰されるまでもない見事なほどまでのエセ神なわけだけどーー」

「言ってません。俺、そこまで言ってません」

「あのエヒトはこの世界を盤上として捉えている」

「聞く耳持たずですね。ええ、分かります」

 

『キャスター』にスルーされたが立香は問題ない。何故ならば『キャスター』以上に話を聞かない面子はカルデアには山程いるのだ。こんなの序の口、問題ない。

 

 そして『キャスター』の話を聞けば聞くほどに立香の顔は険しいものとなっていった。

 

 神代の少し後の時代、世界は争いで満たされていた。人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた。争う理由は様々だ。領土拡大、種族的価値観、支配欲、他にも色々あるが、その一番は“神敵”だから。今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っていた。その神からの神託で人々は争い続けていたのだ。

 

 そしてその神こそが人類の味方であるはずの『エヒト神』だった。

 

 エヒト神は己の眷属に種族ごとに神託を送らせ、種族間での戦争を引き起こした。そしてエヒト神はその様を嘲笑い、また次の駒で遊ぶことをしていた。

 

 中には神の真の姿に気づき、反乱を目論んだ者もいたそうだ。しかしその反乱はエヒト神による信者達への言葉、「その反乱者こそが我が敵である」というものによって守る人々に殺されていったそうだ。

 

「もしかして…貴方も神に抗った人間だったんですか?」

「…そうとも言えるね。でも僕は最終的には撃つことができず、こうして『反英霊』としてここに顕現している。僕らでは果たせなかったんだよ」

 

 この世界ではエヒト神こそが正義だ。故にそれに逆らう者こそが『神敵』、大悪人である。

 

 だからこそ立香には許し難かった。誇り高き『英雄』が、意思も持たない『愚者』により貶められたという事実。この瞬間、立香は決意を新たにした。

 

「必ず…討ち滅ぼします」

「…エヒト神を殺すというのかい? ただの同情しーー」

「これは俺の生き方ってものです。たとえ一人でも、俺はアレを地に堕とします」

 

 それは立香が掲げる絶対。ハジメのことで怒ったことと同様に、立香の逆鱗に触れた。だからこそ戦うのだ。

 

『キャスター』はそんな立香を見て痛快そうに苦笑した。

 

「君…そんな簡単に人を信じて、騙されないかい?」

 

 立香はそんな問いにあっけからんとして答えてみせる。

 

「騙されたことなんて数しれませんけど…そうじゃないと俺も納得できませんし、こんな俺だからみんな信じてくれるんです。だから、進み続けますよ」

 

 立香はこれまで何度かも呆れるほどに手を差し出してきた。それが一般人だろうと英雄だろうと悪人だろうと、構うことなくその手を取ってきた。

 

 それは破滅の道だろう。いつか破綻するに決まっている道だ。

 

 しかし英霊達はそんな立香だからこそ認めている。守るもののために、飽くなきほどに我武者羅に人を救い出す立香を信じられる。それ故に彼らは立香に剣を、魔術を、呪いを、手を、知恵を全て注ぎ、立香と共に戦ってくれる。

 

 だからこそ、異世界でも立香は変わらない。

 

 マシュは変わらない立香に満足したように頰を綻ばせ、モードレッドは「それでこそ俺のマスターだ!」とやんややんやと笑う。スカサハは呆れつつも「神殺しか…腕が鳴るな」と既に戦う気満々である。本当に立香は仲間に救われていると実感した。

 

『キャスター』はそんな立香の道に何を見たのだろうか。どこか感慨深そうに目を閉じて、密かに微笑んだ。

 

 そして『キャスター』は立ち上がり、ティーカップなどの食器を地面に“錬成”して還元していく。

 

「僕はこれで行くよ。君の覚悟を知れて良かったよ。次会うときは、またよろしく頼むよ」

「ええ。そのときは是非とも力を貸してください」

「ああ。勿論だよ、リッカ・フジマル」

 

 そして『キャスター』が虚空に消えていくその時、『キャスター』は不意に思い出したように助言という置き土産を残した。

 

「もしこれでもまだハジメという少年を追いかけるならば…まずは『アサシン』を探し出すといい。よくわからないけれど、あのサーヴァントが少年に何かをしている」

 

 ーー真に気をつけるべきなのは『アサシン』だ。

 

 そう言って次こそ『キャスター』は消えていった。

 

 そして『キャスター』が作り出した机に残るクッキーの最後の一枚を手に取って、立香は呟いた。

 

「…ハジメ」

 

 奈落の底には再び冷たい風が吹いた。




さてこれで一章前編、終了です。
次からは中編ですね。
一気に展開していきますから…頑張りやす!!
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