ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
ーーハジメside
そうして俺は順調に階層を進んでいった。その間に多くの魔物が現れたが、もはや餌にしか見えない。弾丸で風穴を開けるとすぐに喰らった。
最初のように回復薬を使う、なんということは無い。“身体変形”の恩恵かは知らないが、俺は喰らった魔物の力をそのまま体へと変質出来るようになっていた。痛み自体はあるのだが、慣れれば問題ない。
その間、俺は“強化魔術”などの魔術の訓練も自主的に行っていった。武器は一つでも多くあるべきだと思ったからだ。“強化魔術”に関しては一階層を出るとすぐに使えるようになった。“解析”で鉱石の性質をよく理解できたため、“強化魔術”へのプロセスが割と簡単に進んだためだ。
一方で“投影魔術”に関してはあまり兆しはない。しかし自身の“投影魔術”をよく解釈していくと、本来の“投影魔術”ではないことが分かった。
俺の“投影魔術”は過去からの武器を呼び寄せるものではない。むしろ一から物質を生成する魔術となっている。もちろん情報量は恐ろしく多い上に、魔力量のコストは悪い。だが虚像でもなく、本当に物質を生み出すのだ。もはや“投影”と言うのも怪しい感覚がする。
だがこの特性を理解するとすぐに鍛錬を重ねた。上層で見つけたフラム鉱石。これを好きに産み出せるようになれば、魔物でもひとたまりも無いだろうと考えたためだ。
そこから鍛練を幾度となく重ね始めたが…中々上手くはいかない。恐らくは本来の“投影魔術”よりも自由度が大きい分、コントロールが難しくなっているのだろうが。
使えるようになったのは俺が最初にいた洞窟から数えて41層の時。俺が持つ他の攻撃手段と違い、範囲殲滅も可能なため“投影”したフラム鉱石による炎上をメイン攻撃とした。これを始めてやった時には魔力が足りなくなり、回復薬を飲まざるを得なかったがそれから以降はより効率的に“投影”できるようになったのでそんなこともなくなった。
そうやって順調に階層を重ね…途中で怪物どもと会ったのは全く僥倖とは言えないが。
正直、雷を纏いながら攻めてくる剣士もとんでもない速さで突撃してくる槍兵も盾を持った女もパラメーターが高く、知能も高い。上から俺を助けに来た、などと言っていたがあんな奴らと一緒に居ては落ち着かない。本気で戦っていたらと思うと今でもゾッとする。
そしてなによりもあの黒衣の男だ。アレだけは絶対に可笑しい。存在自体が桁違いだ。装備していたものといい、あまりにも危険すぎる。
てっきり自分に錬成士として勝てる人間はそういないと思っていたが…最初にあった錬成士に鼻柱を折られるとは思っていなかった。というか装備に俺が知らない鉱石が大量に使われていた。
「まだ…俺も弱いってことか」
俺はステータスプレートを眺め、そう呟いた。
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■■■■■ ■■歳 ■ レベル:67
天職:錬成師
筋力:1100
体力:1050
耐性:960
敏捷:1200
魔力:1450
魔耐:950
技能:錬成[+鉱物系鑑定][+解析][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成]、言語理解、集中[+瞑想][+心眼(真)]、身体変形[+胃酸強化][+進化促進][+部位強化][+耐性強化]、纒雷、魔術回路[+魔力操作][+強化魔術][+投影魔術]、天歩[+空力][+縮地][+豪脚]、風爪、夜目、遠見、気配察知、魔力感知、気配遮断、毒耐性、麻痺耐性、石化耐性
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現在五十層。ここのボス格らしき魔物はすでに蹴散らした。下に降りる階段も見つけたため、本来ならばすぐに下に降りるところだ。
それでも俺がわざわざ装備を整えているのは目の前の扉が理由となる。
脇道の突き当りにある空けた場所には高さ三メートルの装飾された荘厳な両開きの扉が有り、その扉の脇には二対の一つ目巨人の彫刻が半分壁に埋め込まれるように鎮座していたのだ。
急に現れた変化だ。避けるつもりは毛頭ない。壁の向こうには脅威はそれほど感じはしないが、先日のようなハプニングに備えて鍛錬を一日まるごと費やした。充分に睡眠も取っている。
「さて…鬼が出るか蛇が出るか」
と扉の前に進む前に俺の“解析”に異質な反応が出た。まず罠の存在。“錬成”などによる無理矢理の侵入を防ぐ魔法だ。扉は“錬成”で突破しようとしていたが…痛手だな。
そして扉の近くよ壁の一部に異物が二体、控えていることだ。“気配感知”から察するに扉の前に立った瞬間に侵入を阻むために現れる守護者だろう。残念なのは隠密していたつもりが普通に看破されている点だろう。
「先に分かってればいくらでも対処は可能だなっと」
そうとだけ言うと壁に潜む魔物に悟られない距離で銃を抜いた。そして呟くのは魔術の詠唱。
「“強化”」
詠唱が終わると拳銃に紅い光が灯る。そして“纒雷”による電磁加速により強化された弾丸は放たれた。
容易く二発の弾丸は壁に埋っていた魔物二体を貫いた。しばらくすると壁と同色であった灰色の肌が暗緑色に変わる。恐らくはバレないつもりの保護色だったのだろうが、あまりにもチンケな隠密だったと思う。なお魔物の姿は一つ目の巨人だった。
“強化”によって鍛えた性質は『射出威力』。肌が分厚そうだったので拳銃自体の射出を“強化”したが、結果はこの通り。すぐに終わった。
「もしかしたら“強化”もいらなかったかもな」
魔力量を無駄にしてしまったな。俺はしっかり反省しながら魔物の体内に埋まっていた魔石を“風爪”で抉り抜く。これが扉を開けるための鍵らしい。
魔石を扉の窪みに埋めると扉から赤黒い魔力光が迸り、魔法陣に魔力が込められた。周囲の壁が強烈な光を放つ。久々の光だった。そしてギミックが音を鳴らしながら扉が開いた。
部屋の中には一切の光がない。とりあえず“暗視”を用いて部屋中を見渡す。
中は、聖教教会の大神殿で見た大理石のように艶やかな石造りで出来ており、幾本もの太い柱が規則正しく奥へ向かって二列に並んでいた。そして部屋の中央付近に巨大な立方体の石が置かれており、部屋に差し込んだ光に反射して、つるりとした光沢を放っている。
その立方体を注視していると何か光るものが立方体の前面の中央辺りから生えているのに気がついた。
近くで確認しようと扉を“錬成”によって開きぱなしで固定しようとする。もし部屋の存在自体が罠で、部屋に閉じ込められればたまったもんじゃなからな。
そんなわけで“錬成”をしようとする前に、俺に声が掛かった。
「……だれ?」
あの怪物ども以来の人の声だった。思わず俺は目を見開いた。掠れていて今にも消えそうな淡い声。立方体から生えているもの。それから聞こえてきた声だった。
俺はようやく“暗視”と“気配感知”でその正体を理解した。
「人…なのか?」
上半身から下と両手を立方体の中に埋めたまま顔だけが出ており、長い金髪が某ホラー映画の女幽霊のように垂れ下がっていた。そして、その髪の隙間から低高度の月を思わせる紅眼の瞳が覗のぞいている。年の頃は十二、三歳くらいだろう。随分やつれているし垂れ下がった髪でわかりづらいが、それでも美しい容姿をしていることがよくわかる。
流石に封印部屋で厳重に封印されているのならば出口なのでは!?と期待していたのでこれは予想外の遭遇であり、少し驚いた。
やがて俺は深呼吸して、生えている女を…無視した。
「さて。この部屋に帰るためのギミックはねぇかなぁ」
とりあえず部屋一帯を“解析”で罠や隠し扉を探っていく。だが無かった。精々壁の向こうにアーティーファクトが一つあるぐらいだった。柱の一つ一つも探っていくが、やはり無い。天井に何かしら怪しい気配があったが、下手にこの部屋に干渉しなければそれが出てくることもないらしい。
と、なれば手段は一つだ。
「勝手にお邪魔しました。失礼いたします」
何故、敬語を覚えているのかは謎であったが仕方ない。本当に俺の記憶は断片的に残っているのだなぁと改めて知らされた気分だ。ともかく俺はこの部屋から出ようとする。
しかしもちろん女もそれは許さないらしい。
「……待って! ……お願い、助けて。……なんでもするから」
呟くような小さな声。きっと長い間使われていなかった喉を使ったのが理由だろう。それでも必死さが伝わってきた。
しかし俺は無視する。話すまでもない。こんな部屋で封印されているのだ。危険な人間でないはずがない。
俺は生存のみを求める。そのためには一切の妥協もしないとも決めてある。だからこそこの女の言葉も全て無視する。それが俺の中での唯一のルールだかーー
「……裏切られただけ」
掠れた声の中でその声だけがやけに俺の耳に入った。
ノイズが掛かった映像が俺の脳裏に流れ始める。目の前に炎が迫っている映像だ。僅かに画面の両端には手があって、
その後にはすぐに衝撃が来て…画面の向こう側で笑う■■の顔がふと目に入った。視界が濡れてボヤける。
心が黒く塗り潰されて、そこから溢れる漆黒の感情。
ーー許さない
ここで映像は途絶えた。
フラッシュバックが終わると俺はその場でへたり込んだ。妙な気分だ。吐き気がする。見たくもない前世を見せられた。
俺なのに俺じゃない記憶。それにより俺の境界線が、ルールがめちゃくちゃに潰れていく。
「ハァ、ハァ…」
柄にもなく脂汗が止まらない。こんな恐怖、黒衣の怪物にも覚えなかった。
自分が自分でいられなくなる瞬間。訳がわからないほどに俺の手の震えは止まらない。
「…裏切られた、か」
どうやら俺も同じだったらしい。裏切った奴の顔も名前も忘れた。ただどす黒い感情がどうしようもなく湧き出る。
同時に同情してしまった。部屋の奥にいる女に。
上にいる何かは必ず、あの女を解放すれば俺の前に出現する。つまり危険を余計に一つ増やすこととなる。本来ならば俺の中では許されないような思いだ。
ただそれと同様に。否、それ以上に俺は奥にいる女に、せめて事情だけでも聞かねば前に進めないらしい。
俺は扉にかけていた手をそっと離し、振り返って立方体の墓の前、つまりは女の目の前まで進んだ。
女は驚いたように俺を見ている。どんな気持ちなのかは一切わからない。随分と俺は人の感情に希薄になったらしい。
ただ、前に進むためにも俺は女を直視した。
「テメェの事情を聴かせろ。俺が助けるかトンズラするかはそこからだ」
女はきっと気づいただろう。俺にも同じような思いがあることに。
だからこそ女は一切偽らず話してくれた。少なくとも俺の目からは嘯くようなそぶりは一切無かった。
話を聞けばどうやら女は『先祖返り』と呼ばれるとんでもないほどの魔法の才能に恵まれており、吸血鬼族の女王らしい。
というのも魔力がある限り永遠の命が保証されており、陣や詠唱を一切必要としない上に全魔法への適性があるらしい。そしてそれを認められた結果、吸血鬼族の王女として小さな頃から祭り上げられたらしい。
なるほど勇者の実力を軽く凌駕している。だからこそ利用されたのだろう、この女は。
全ては上手くいく。女はそう思い、民のために力を振るっていたようだ。
しかしそれでもーー裏切られた。
「……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」
この時俺はどんな顔をしていたのだろうか。心に住み着く複雑な感情といい、よくわからない。ただ面倒なことに、同情してしまったのだ。
「……お願い、助けて」
「……」
俺と女はしばらく互いを見つめ合い続けた。それが何分だったのか、それとも何秒間だったのかは分からない。
だが俺の覚悟は決まった。
「構造物質…“解明”」
女を閉じ込めている箱の材質を確認する。どうやら魔力を霧散させられる代物であるらしく、そのため“錬成”での加工も困難であるらしい。まともにやれば俺の魔力の7割は持っていかれるだろう。
あくまでもまともにやれば、の話だが。
「“錬成”」
“解析”により見つけ出した裏道。それに沿って俺は“錬成”を始める。
部屋を満たすのは他ならない『紅』の魔力光。女がその光をぼうっと眺めていたが、俺には関係のない話だ。
“錬成”によりどんどんと目の前の立方体がインゴットとして再び固められて、地面にどんどん落ちていく。これは後々使えそうなので回収しておく。
やがて女の体が鉱石の檻から露出し始めた。ここまでくると俺もこの石の“錬成”に慣れてきつつあり、そこから女を救い出すのにはもう数分もかからなかった。
それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込みそうになった。
「危ねぇな。頭打って事故死するつもりか」
とりあえず女の肩を支え、倒れないように処置する。折角助けたのだ。その命を簡単に失ってもらうわけにはいかない。
結局この鉱石の檻を破るのには3割ほどの魔力で済んだ。力技でやるよりもコスパが断然良くて安心した。お陰で女に無様な姿を見せることなく、こうして立てている。
女を支えるため俺はある程度屈んでおり、それこそ女と俺の顔は間近で、という状態で静止していた。
ここからどうしたものか、と思っていると女は首にかけてあるマフラーに手を触れて、笑顔を俺にも向けた。先ほどまでの無表情からの変動が凄まじく、少し動揺してしまった。
「……ありがとう」
こう言われると助けた甲斐もあったものだと安堵する。こんな柄では無かったはずなのだが、不思議な心境だ。
とはいえ自分のルールに反してしまったのは間違いない。後でどうするべきか、と思案していたその時。
天井が軋み、やがて大量の罅を量産していった。
あと一話でハジメ視点、一旦終了です!
頑張りまーす。(え? 中途半端なところで切りやがったな? 知らなーい)