ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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再誕

 ーーハジメside

 

 天井から破砕音が響いた。元々気づいてはいたので俺は慌てることもなく、女を脇に挟んで“縮地”することで危なげなくその場から遠ざかる。

 

 俺を狙っていたのだろう。俺が先ほどまでいたその場所にその魔物は落下してきた。

 

 その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。

 

 一番分かりやすいたとえをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。

 

 感じる、のだが俺は本来感じるはずの恐怖は一切無く、むしろ目を輝かせてしまった。サソリも俺の感情を感じ取ったのか少しばかり後退する。

 

 俺はとりあえず女を背後に座らせておく。女は魔力が尽きている状態らしい。回復薬を飲ませれば戦えるようになるだろうが…俺一人でも十分だ。

 

 女が心配したように見上げてくる。女の目は凪いでいた。そう見えるほどに澄んでいて、俺に全ての信頼を預けたが故だろう。

 

「ああ。心配せずに大人しくしておけ。直ぐに終わらせてやる」

 

 俺は足裏に仕込んである魔法陣を起点として、“錬成”を始める。俺と女との間に壁を発生させる。ついでに耐久面での“強化魔術”も施す。女が気になって戦闘に集中できないとなれば本末転倒だ。

 

 生きるために戦う。たとえこの場でも俺のその信条は必ず変わらない。

 

 サソリもどきが気持ちの悪い予備動作を始めた。距離的には恐らくは飛び道具だろう。ただサソリもどきは残念だ。飛び道具ならば、俺の方が早い。懐から拳銃を取り出し、すぐさま引き金を引いた。

 

 電磁加速により紅い軌跡を描き飛ぶ弾丸。先ほどの巨人すらも葬った一撃だ。

 

 ただサソリもどきの殻は硬い。それこそ俺の弾丸ではその装甲を貫かれないほどに。それは当然で、俺の“解析”でもしっかり理解していた。奴が纏っている硬質な金属の正体を。

 

 だからこそ、これはあくまでも牽制。ある程度まで俺がサソリもどきまで接近すると俺が生来持っていたらしい魔法を使用する。

 

「“錬成”」

 

 地面が隆起し始める。サソリもどきが慌て始めたがもう遅い。どこに逃れようと俺の射程範囲内だ。

 

 サソリもどきの四方が壁となって逃げ場をなくす。サソリもどきの周りの地面が波打とうとするが無駄だ。俺の“錬成”がそれ如きの固有魔法で抗える道理はない。

 

 尾を俺に向け、何かしらの攻撃も加えようとするが俺の領域、半径3メートル内にいる時点で無意味。瞬間壁から新たに土の縄を生成して尾を強引に上に向けた。

 

 すると尾からは散弾銃のように針が飛ぶ。勢いよく射出された針は重力に従い、雨のように俺とサソリもどきへと襲いかかる。俺は“錬成”により、天井を作ることで無効化したがサソリもどきがそんなことはできるはずはない。

 

 結果、サソリもどきの殻にいくつもの針が突き刺さる。それでも殻は全く突破される気配はない。

 

「シュタル鉱石…流石だな。タウル鉱石以上の強度だ。ただ突破するには厄介だから、少し反則技を使わせて貰おうか?」

 

 そう言って俺はサソリもどきの足を捕縛し、同時に手を殻へと触れて詠唱する。

 

「“錬成”」

 

 紅い魔力の咆哮。それだけであっという間に装甲がインゴットとなり剥がれていく。金属ならば俺に成す術などない。

 

「キシャアアアアアアアアアアーーーーーー!!!!」

 

 甲高い怪物の唸り声が場を満たした。外骨格を無理矢理剥がされているのだ。内部の肉とそれはもちろん繋がっていただろうし、それはもちろん発狂するほどに痛いだろう。

 

 余程痛かったのか拘束もヒビ割れている。それほど必死にもがいた結果だろう。

 

 ただそれでも同情する気は一切無い。

 

 殻が既になくなってしまい、肉が剥き出しになった箇所に俺は銃口を向けた。

 

「ーー死ね」

 

 死刑宣告の元、サソリもどきは体を跳ね上がらせて血を吹き出す。間違いなく死んだ。

 

 あっさりと終わった戦闘に拍子が抜けた俺はシュタル鉱石を全て剥ぎ取る前に、女の前にそびえさせていた壁を地面に戻す。壁の向こう側にいた女の顔は…驚愕一色といった様子だった。

 

「……信じられない」

 

 どうやら壁の向こうにいたのに状況を把握していたらしい。流石は吸血鬼族の女王だった、というべきか。

 

 それならば俺の天職が錬成士であることもよく分かっただろう。

 

「…とりあえず外に出るか?」

 

 長年閉じ込められていた部屋だ。あまり見たくもないだろう。

 

 とりあえず女を封じていた鉱石、封印石とシュタル鉱石。二つを引きずって女を脇に挟みながら俺は部屋を出た。

 

 女が途中「……何か、違う……」と言っていたような気がしたがスルーしておく。効率優先だ。その上何故かマフラーが元気にブンブン回っていたが…風も吹いていないのに。

 

 ふと自身の将来に関して怖気を感じたが…俺はとりあえずここを出ることにした。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 

 俺は魔物三体の死体に女、そして見つけた新たな鉱石の数々を外へと輸送した。

 

 割と骨が折れたが、その分魔物達からは“金剛”と呼ばれる防御強化の固有魔法や“魔力放射”、“魔力圧縮”といった魔力自体の操作に対する技能を手に入れた。

 

 それに鉱石に関しても今後のことを考えると有用に使えそうだ。最悪これだけの量を持ち運べずとも“投影”で好きなだけ作れる。本当に“投影”は便利な魔術だとつくづく思わされる。

 

 特にシュタル鉱石に関しては新たな武器、対物ライフルの生成に勤しむ。今回の戦闘では苦戦は一切しなかったが…人型の化け物どものことを考えると一つでも武器は多くしておきたい。特にあの黒衣の野郎に対しては、だ。

 

 あの黒衣の男に関しては一切勝機が見えない。できるならば敵にも回したくはない。

 

 あの男は錬成士だ。ならば戦闘手段も俺と少なからず寄る筈だ。違うところは多々とあるかもしれないが、武器をメインとした戦いになるだろう。俺は銃を、あの男は得体の知れないアーティーファクトの数々で。

 

 そのため今は一つでも多く武器を揃えておく。それが俺のやるべきことだ。

 

 すると俺の服の裾が引っ張られていた。もちろん俺が助けた女だ。先ほどまではボロボロで真っ裸だったが、回復薬を飲ませ風呂敷がわりに使っていた服で何とか間に合わせた。

 

 いつのまにかあの男に対する感情が顔に出ていたのだろう。女は

 

「……ハジメ。……大丈夫?」

「あ? …問題ねぇよ。それよりテメェはこれからどうするつもりだ? まさかだが…俺についてくるなんて…」

「行く……絶対」

「そ、そうか」

 

 寡黙な奴だと思っていたので食い気味に反応され、少したじろいだ。まあ、こいつには行く当てもないだろう。道連れ感覚で連れて行くのは手かもしれない。

 

 それに話を聞いていれば相当の魔法の手練れだ。あの黒衣の男に対する切り札にもなるかもしれない。正直、気は進まないが残念なことに断る理由もなかった。

 

 なお名前をしつこく聞かれたのでこの前会った人間から聞いた名前を言ってある。割としっくりきているのはもしかしたら本名なのかもしれない。

 

 それにしても、だ。

 

(俺も…丸くなったもんだな)

 

 そう思わずにはいられなかった。

 

 俺は今まで何故かは分からないが一人で戦い抜き、生きることを決意していた。本当に何故かは分からない。もしかすればそれだけがただ唯一の前世の心残り(・・・・・・)なのかもしれない。

 

 だからこそそれを今までは忠実に守ってきた。内心、なにかを恐れながら。

 

 するといつのまにか震えていた俺の掌に他人の手が重なった。あまりにも小さな手だ。

 

「……大丈夫」

「…なに? お前は何を言って…」

 

 混じり合う女の慈愛に満ちた目に俺は無意識に目を背けた。何とも形容し難い何かが俺の中で湧き出てきたためだ。

 

 ーーいや、だ

 

「ーーッ!!?」

 

 まただ。

 

 また俺では無くなる。

 

 不可思議な、奇妙な感情が湧いては溢れる。それが言葉に出来ないほどに恐ろしい。

 

 脂汗が一瞬にして流れた俺の頰に女は指先を触れる。俺を安堵させようとしているかのようだった。

 

「……ハジメのことは、……私が守る」

 

 ーーだからね、私が守るよ。■■■くんを守るよ

 

 不意に火花を背後にした黒髪の女が、目の前の奈落の少女に重なって見えた。

 

 そしてそれをキッカケに俺の、僕の頭の中は氾濫する。

 

 ーー俺は『人理継続保証機関 カルデア』の幹部、■■■■。どうぞよろしく、『召喚者』。いや、使徒様って言うべきかな?

 

 ーーまた明日も立香くん達に会いに行こうね、■■くん

 

 知らない記憶が、感情がノイズの向こうの映像から思い出される。

 

「ぁあぁぁ…」

 

 ーーああ、常に敵に勝てるビジョンを持ち給え。勝てない、などと思っていては以ての外だ

 

 ーー坊主…信じるぞ

 

 ーー…ここじゃお前は『無能』なんかじゃない。必要な力なんだ。どうか、前に向いてくれ

 

 あの日勇気を与えられた言葉が、■■■■■という人間の中で復活し始める。覚悟が、芽吹くように宿った。

 

「なんだ!? なんなんだ!!?」

「■■■!? ■■■!?」

 

 ■■ハ■■は揺さぶられた。しかし■■■■■にはそんなことを気に留められる余裕などない。

 

 ーーハ■■くん!!

 

 ーー■ジメぇっ!!!

 

 慟哭の叫びが聞こえた。ノイズが走り、いつか見た橋の情景が浮かぶ。視線の先には必死に叫び、手を伸ばす二人の陰が。

 

 そして南■ハ■メはその結果を知っている。

 

 恨むべき相手も、その後の出来事も全て大瀑布の流れの如く頭の中に入ってくる。否、蘇っているという表現の方が的確だろう。

 

 ーー置いて…行かないで…

 

 ーー嫌だ…待って。待ってよ…

 

 奈落で掠れた声を■雲ハジ■呟いたのも。

 

 ーー助けを求むか、少年よ

 

 南雲ハジメの額に剣が突き刺されたことも。全て。

 

 ようやく、全ての記憶が集った。

 

「ハァハァ…」

 

 悪夢を見た気分だ。いや悪夢よりもシャレにならない過去だ。

 

 今の俺にとって…なによりも辛い、苦しい過去。

 

(なるほど…どうやらアイツ(・・・)は正しかったらしい)

 

 俺は心の中で、少しだけ悪態をついた。そして今もまだ震える脚を必死に御して、立ち上がる。

 

「ーーハジメ!? ハジメ!?」

 

 不意に声が聞こえた。そうだ…そういえばここにもいるのだった。

 

 認めてはならないーー忘れなければならない存在は。

 

 そしてこの前にあった白服の男と紫髪の女。アイツらもまた同様の存在であると。

 

 俺は女の方を振り向かず、無心で数歩前に出た。女が丁度届かない位置だ。そこまで来ると俺は、別れの言葉を告げた。

 

「女。事情が出来た。ここで別れだ」

「嫌! ……私の居場所は、隣! ……ハジメの、」

「黙ってくれ。下手すれば…殺しちまう」

「……何で?」

「そうせざるを得ないからだ」

「……どうしても?」

「ああ。身勝手な理由だが…絶対だ」

「……嫌。行かないで」

 

 本当に身勝手な理由だ。俺だけが満足する理由だ。だが奈落で再び培ったものでもある。だから譲る気は、無い。

 

「後にとんでもないお人好し、立香って奴がきっと来る。そいつらに保護してもらって、久々の地上を見にいけよ。大丈夫だ、信頼はできる」

「……嫌。嫌!!」

 

 きっとあの大馬鹿ならば見捨てはしないだろう。最後に俺が救ったこの女を、アイツならばきっと守り抜いてくれるだろう。

 

「ついでに立香に伝えておいてくれ。『もう俺に構わないでくれ、立香』ってよ。あと…コイツをお前に。香織って奴に返しておいてくれ。…頼んだぞ」

 

 俺は首に巻いていたマフラーを解き、女へと渡した。女は投げ渡されたそれを荒げなげなく取り、立ち上がって俺を追いかけようとする。

 

「…“錬成”」

 

 そびえ立つのは高い、高い壁。何の“強化”も施されていないただの岩の壁だ。女の魔法ならば破壊できるだろう。

 

 しかし女は凍りついた。俺の拒否の意思に。

 

「待って! ……待って! ……ハジメぇ!」

 

 これでいい。これで全て上手くいく。

 

 俺は振り向くこともなく、壁の向こうにいる少女には聞こえないような小さな声で言った。

 

「少しの間だったが…楽しかったぞ」

 

 温もりが無くなった首元は、やけに寒々しく感じられた。




はい! ハジメ視点から次からは立香視点へとチェンジです!
中編、もうじきに山場です!
頑張ります!
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