ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
なのでこれで一日か二日は休む!
少なくともエリ様は!エリ様は!!
ーーハジメside
もう進んだ階層の数など数えてはいない。■■■は最早求めているだけだ。
あの時の銀の煌めきを。
目の前には大量の恐竜型の魔物。何故かファンシーな感じで頭の先に花が寄生している。本来ならばあまりものギャップに脱力するだろう。
しかし今の■■■にとってはただの障害物。
故に言い渡されるのはいつも以上の冷気を含んだ淡々とした言葉。
「“錬成”」
それだけで恐竜達は地面に呑まれていく。足から沼に浸かった様に沈んでいき、そのまま束縛されていく。生死は問わない。
目障りだからこそ沈めた。今の■■■にとってはそれが理由になり得た。
襲いかかる恐竜は我武者羅に■■■の方へ突撃してくる。その度に歪な墓標が量産されていく。頭の先端の花はまるで墓に飾られる造花の様だった。
やがて洞窟に入ると面倒臭そうな魔物の気配があった。そんな■■■に対し、その魔物は姿を現した。
所謂所のドリアードのような魔物だ。この魔物は体から緑色の粉末を発散させている。恐竜達が考えもなしに■■■に襲いかかってきていたのはこの魔物が操っていた為だろう。
恐らくは■■■もまた恐竜と同じように操られていると誤解したのだろう。だからこそ愚かにも■■■の前に姿を曝け出してしまったのだ。
そしてそれは致命的な隙であった。
「死ね」
ーードパンッ
死の命令と共に繰り出される■■■の絶対必殺。事実ドリアードは反応すらも許されないまま意識を遥か彼方へと放り出した。
だが■■■は無残な死体を傍目にも見ず、そこにいた存在に話しかけた。
「…おい、出て来い。『セイバー』」
すると洞窟の奥に影が現れた。ぬるりと意識の垣根をすり抜けてかの存在はそこに立っている。
黒い色褪せたマントをたなびかせるその姿はまさしく冥界の使者とも言える風貌だ。手には八本の赤錆のナイフが握られている。
怒気を隠すこともせず、『アサシン』は問いかけた。
「…少年。我のことは『アサシン』と呼ぶようにと申した筈。何故かの忌々しきクラスで呼ぶ」
「俺を救ったのは間違いなくそちらの方だ。間違えても『アサシン』の方のテメェじゃねぇよ」
互いの間で少しの間、常軌を脱する剣呑な雰囲気がおとずれる。弱者であればすぐにでも足元の感覚もおぼつかず気を放り出すであろうそれ。先に折れたのは『アサシン』の方だった。
「…致し方無し。良かろう。でだ少年、汝は何の為ここへ足を運んだ?」
「さっき『セイバー』を呼んだ時点で察しはついてんだろう?」
「明確に汝の口から聞きたい。何故汝は我の忌々しき力を求むのか、答えよ」
■■■は少し眉をひそめたが、すぐに不敵に笑い答えた。
「全部俺の中から消し去るためだ。覚えていても…邪魔になるだけだ」
ただ■■■の笑みはどこか我慢するもののようにも思えた。何かに堪えるかのようだった。
「俺は生きるために戦う。だからこそ過去も感情も、全てを捨てる。…そう、決めたんだ」
「…左様か。過去を清算するか」
「ああ。ここを出れば記憶のない俺を神山にでも連れて行って、神の人形にでもしとけ。それがお前にとっても俺にとっても最優の道だろうよ」
「然り。ならば我が力、ここにて顕現させてくれよう」
すると『アサシン』から色褪せた群青の魔力光が吹き荒れた。それは変化の予兆。『アサシン』が保有する真の力の解放。
だがその変貌はすぐに止まった。■■■も同様に何かに気がついたようで、嘆息する。
「…来るなって言ったはずなんだがなぁ」
「甘い。かの童は屈強なり。必ず心が折れることは有らず。ならば体を砕くが良かろう」
どうやら『アサシン』にとっても上から降りてきた来訪者は厄介らしい。顔など見えはしないが、引きつっているのがよくわかる。
「らしいな。…『アサシン』」
「ああ。力を貸そう。汝は童と決別するが良い。我は英霊二騎を止めてくれよう」
「頼む。アイツら三人なら新しい“投影”ですぐに無効化できる。是が非でも上に戻ってもらうさ」
すでに■■■は臨戦態勢を整えている。『アサシン』もまたナイフを取り出す。赤錆のナイフからは血が滴っており、『アサシン』の不気味さを増させた。
「…然り。これが…正しき道なり」
『アサシン』の呟きが■■■の耳に入るようなことは無かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
地面に埋まっている魔物の群れ。中には窒息死する生命までいる。
地面には血の跡はただ一つもない。それは何一つの戦いが無かったということではない。あくまでも戦いと呼ばないまでに一方的で片手間での対応だったためだろう。
そしてその恐竜たちの窒息をしている数は非常に稀であった。つまりは埋められてから時間がそれほど経っていない、ということである。
「……ハジメ」
恐竜達が埋まることで出来上がっていた不細工な道の先に少女は誰を見たのだろうか。恐らくは立香が見たのと同じ人物だろう。
それにしてもベヒモスとの戦いの時よりも本当に強くなったのかとこの光景を見て改めて立香は感じた。前ならば魔力を空にしてやっと一体を封じられたのが関の山だったというのに。
ハジメが何故これまでの進化を遂げたのかも、過去を拒否しているのかも一切分からない。
ただ立香はそれを直接聞くまでは勝手に終わらせるつもりはない。
恐竜達が作り出す道をなぞり、立香達はハジメがいるであろう場所へと進んでいく。“錬成”によって埋められたというのに地面自体はまっさらで陥没の一つもない。どれほどまでに“錬成”を進化させればここまでたどり着くのか、立香には分からなかった。
やがて洞窟が進路上に見えてきて、その洞窟の少し前で恐竜の道は途絶えている。つまりはそこにハジメがいる、と示唆していた。
全員の顔に喜色が現れると同時に瞳に光を宿らせる。立香はもう一度ハジメと話し合うために、ここにいる。その意思を再度自身に装填した。
「待て、異端者供」
全員が突撃しようとした瞬間、立香の耳にそんな声が聞こえて来た。
「っ!? 『神山のアサシン』!!?」
背後からまるで耳を噛むような距離まで接近を許していたことに歯噛みつつ立香は前に飛んで距離を取る。
だが『アサシン』は立香に攻撃を仕掛ける気配はない。代わりに『アサシンは瞳をモードレッドとスカサハへと移す。それ以外は眼中に入っていない、そんな様子である。
「…へっ! お呼ばりが掛かったみてぇだなぁ!! マスター、先行ってろ!」
「私も後で行こう。何、すぐに終わらせてくれる」
二人はすでに闘志を燃やす。己の獲物を携え、立香達を守るような形で立つ。きっとハジメの元に行くまでの間、必ず邪魔はさせないという意思表示だろう。
だから立香はすぐに洞窟の方へと走る。振り向きはしない。代わりに三人なりのエールを信頼できる仲間へと送る。
「ありがとう、二人とも! また後でね!」
「負けないでください、モードレッドさん! スカサハさん!」
「……ファイト」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーモードレッドside
マスター達が残していった置き土産にモードレッドは思った。ああ、必ず勝ってみせようと。恐らくは隣にいるスカサハもまたそう思っているだろう。少し口の端が上がっている。
一方で『アサシン』もまた歪んだ笑みを浮かべる。まるで裂けたかのような不気味な笑い方だ。爪先で何度か己の体を宙に浮かせる。
「汝らは通さぬ」
そして『アサシン』は這うかのような低姿勢で飛ぶ。赤錆の軌道を描かせ、二騎のサーヴァントへと五月雨の如く襲いかかる。
だが二騎のサーヴァントにはもう効かない。
「ハッ! 同じ手口にゃあのらねぇよ!!」
「ふっ!」
強引に吹き飛ばされる赤錆の時雨。まるでカーテンのように目の前を埋め尽くされていた景色が晴れると、『アサシン』の姿が見えた。
『アサシン』は愉快そうに嗤っていた。
「良き哉、良き哉。一度合間見えた時よりもなお輝いている。流石は異界の勇士よな」
それに返したのはモードレッド。剣を片手で担ぎ、もう片手で中指を立てた。
「上等ぉ! ヤキ入れてやらあ!!」
スカサハもまた寡黙に身を半身にして、槍で弧を描いて下段に構える。
奈落で英雄三騎の、あまりにも前哨戦と言うには過激すぎる戦いが始まった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香side
洞窟の入り口は薄暗くて、狭かった。立香達は身を屈めて進んでいく。なお少女に関しては身を屈める必要すら無いようだが。
段々と進んでいくと広いスペースに出た。地面には緑色のカスが散らばっている。それから腹を抉られたドリアードのような存在も。勿論既に死に至っている。
この変死体があると言うことは、勿論探し求めている男もいるはずだ。しかも死体の傷は未だに出血している。必ずこの付近にいることは間違い無かった。
立香達がドリアードに近づこうとしたその瞬間、マシュだけは咄嗟に気がついた。
「先輩!」
だがその声は既に遅い。
「“
その声と怪物は上から現れた。紅い光ととともに。
マシュはこの間に立香と少女を吹き飛ばした。だが、肝心のマシュ自身は次の瞬間体を覆われ、囚われる。
「マシュ!!?」
黒い鉱石に身を包まれたマシュ。立香はそれがフラム鉱石かと誤解し、着火させないようにハジメの次の動きを潰そうとした。
だがその前に少女か立香を止める。
「待って……下手に行けば……捕縛される」
「ご名答だ、女。なるほど、自分が長年封じられていた檻となれば見ただけで分かるか」
封印石。長年少女を封印し続けた魔力の作用を妨げる鉱石の一種。
サーヴァントの多くは魔力により体を、力を手に入れる。だからこそこの鉱石は天敵のようなもの。それはデミサーヴァントであるマシュでも変わりない。
だからこそ本来ならばすぐに破壊できるような黒の拘束からマシュは逃れられない。
「……でもどうやって」
「…“投影”か」
「
意外にもハジメは饒舌にも立香の推測を肯定した。どこかご機嫌そうでもある。
「それで? 何でテメェらはここに来た? 来るなとは、言った筈だが?」
「それはこっちのセリフだ。何でお前は俺のこと覚えてるのに遠ざけようとするんだよ?」
南雲ハジメ。藤丸立香。
二人の主人公は
奈落の物語はついに佳境へと迫る。
次回はハジメと立香、どちらもの視点です。
ここ最近シリアス回が過多だけどここ終わったらホンワカ回がくるから!
束の間だけど!!