ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
あとバレンタインのメカエリチャンが神過ぎる件。
…ヤベェって、死ぬって。
人型特攻入ってるって…
ーーハジメside
やはりこの男は来た。
何となく■■■は立香は降りてくるだろうと理解していた。たとえ短い間の付き合いであろうと、立香は諦めることなく手を伸ばしてくるほどに愚者であると良く知っていた。
(本当に、この男はお人好しだ)
それでよく世界を何度も救ってきたものだ、と呆れずにはいられない。いやむしろそれだからこそ掴み取ったのかもしれない。全ての力を借りて、前に進んできたのがこの男なのだろう。
だが今の■■■にとってはどうでもいい。
もはや目の前の男は『過去』として、そしてこれから忘れる存在だ。興味など持たない。たとえ持とうとも放棄せねばならないのだ。意味がない。
■■■のその決意に魔術回路が応えたような気がする。身体はこれ以上にないほどベストコンディション。追い払うのも簡単だろう。
身体から“纒雷”による紅きスパークが轟きあたり一面を照らした。同時に立香に滝のようなプレッシャーを浴びせる。技能や何でもない、奈落の怪物が故の威圧感。
「今なら猶予をやる。あの英霊とやらを連れて、とっとと上に上がれ、立香」
黒光りの銃口は今、立香に向いた。“集中”や“心眼(真)”を持つハジメ、その狙撃から逃れることは困難を極める。
そう立香に向けられているのは絶対必殺。処刑の鎌ならぬ弾丸だ。
「その前に聞かせてくれ、■■■。何でお前は俺たちから別れようとするんだ?」
それでもなお、この男は愚かにもハジメのことを気にかけている。■■■のことを少しでも理解しようとする。
「…こんな時に俺のことか?」
「ああ。俺にとっても、この子にとっても大切なことだ」
「……ん、■■■。……本当のこと、聞かせて」
何故裏切った自分を、真っ直ぐな視線で見られるのか。ハジメには不思議でならない。
あの日、少年に弾丸を放った。差し出された手を払った。
あの日、少女を突き放した。孤独へと再び追いやった。
だというのに、この二人は■■■のことを諦めない。
意味が分からなかった。もはや人を信じたくもない■■■には、理解すらもできない。
だが■■■の口は動いた。何かに、応えたい。無自覚にもそう思いながら。
「単純だ。俺は過去と決別する。そして…俺を殺すためだ」
「……自殺?」
「違う、女。無感情な人間になるだけだ。俺はそうなることを求める。それが…俺がこの奈落で見つけた最優の答えだ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーー立香slde
「無感情な人間になるだけだ。俺はそうなることを求める。それが…俺がこの奈落で見つけた最優の答えだ」
ハジメの目はまるで何かを悟ったかのような、同時に諦めたように光を失っていた。その姿はどこか『アサシン』を彷彿とさせた。
「きっと立香や香織、女にキリエライトに師匠と歩む道もあっただろうな。その道を進んでも俺はきっと幸せになれるだろう」
「だったら!!」
「それでも、ほんの一瞬だ」
連れ戻そうとする立香の言葉を遮るハジメ。彼の話はまだ終わらない。
「俺は地上にいた頃は、恵まれていた。今まで知らなかった感情を沢山知った。城下町で買い食いもしたし、頼れる師匠から魔術について教えて貰いもした。色んな物を与えてもらって…恋だってした。天之河から面倒くさい説教を受けもしたが、それでも悪くないとは思えたよ。きっとあっちで錬成士として大成するって未来やまた迷宮にみんなと挑むなんて未来もあったろうな。…今だって少しは惜しいぐらいには思ってるよ」
懐かしそうに緑光石の埋まっている天井を見上げる。かつてハジメと立香が図書館の屋上で見た夕焼けの色はない。暗く寂しい暗緑色が薄く伸びているだけだ。
「だがその平穏は終わった」
するとハジメは、憤怒を露わにする。奈落で出会ったハジメの中で一番感情的に剥き出される激情は辺りに広がり、恐怖で体を凍らせる。
「今考えても憎い…檜山。アレだけは許さない。俺を落とした。その様を見て嘲笑った。地獄を見せられて、そして…」
ハジメの頰に赤黒い魔物の血管が広がり脈打った。縮小された瞳がここにはいない幻想に向けられる。そして立香は理解する。
「孤独を、アイツは俺に与えた」
その孤独こそが、今のハジメにとって最も恐ろしいものなのだと。
「ああ、怖かったよ。何よりも、何よりもだ! 襲いかかってきた飢餓感よりも、幻肢痛で痛む左腕よりも、身近にあった死よりも! 孤独こそが真の恐怖だと、奈落の底で味わった!!」
ハジメは身を震えさせる。それは武者震いなどでは無く、純粋な恐怖から来るもの。
「そこから感情が恐ろしいほどに芽生えた! 恐怖も寂しさも怒りも絶望も! 負の感情ばかりがフツフツと溢れた!」
立香は何度目かもわからない後悔をする。何であの時、ハジメの手を握れなかったのかと。離してしまったのか、と。
ハジメもまた自身の決意を新たに宣言する。
「あの時は『アサシン』の奴が俺を一時的に殺してくれたから何とかなったが…感情って奴があれば俺はいつか壊れる」
だから、とハジメは続ける。
「俺はアイツに記憶も感情も、全て消し去るように頼んでいる。そして永遠に全てに無感情でいられるよう、神の駒にでもなるさ」
ハジメは力を抜いていた銃の照準を改めて立香に向ける。魔力が咆哮のように大気を揺らした。
紅が世界を染め上げた。
その世界の中、ハジメはさながら空間の支配者であるというかのように堂々と君臨する。先程までのような感傷は既に無い。
有無を言わさないプレッシャーの中、ハジメは問う。
「もしそれでもお前が敵だっていうなら…お前の脚を砕いてでも俺の邪魔はさせない。覚悟しろ」
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
ーーハジメside
■■■は自身がこうなった経緯も決めた覚悟も全て立香に告白した。
今の■■■■■はそういう者だ。孤独を、感情を何よりも恐れる。だからこそ全てと決別し、全てと無関係であろうとする。
我儘なのは分かっている。自分勝手も承知の上だ。だがもう■■■■■という人間はそうでしか生きられない。
このまま立香達と再び行動を共にしたとしても、また立香達が目の前から消えてしまった時に■■■が理性を抑えられるかすらも分からない。今度こそ心を壊し、全てを敵とみなすだろう。
それほどまでにトータスに来てからの友好関係は■■■にとっては重たかった。もし立香とも会わずに、香織とも仲良くなれていない以前のままであれば楽だっただろう。
だからこそ■■■■■という人間は今、立香と面を向かいあわせる。奈落で鍛え上げられた殺意と共に。
「もしそれでもお前が敵だっていうなら…お前の脚を砕いてでも俺の邪魔はさせない。覚悟しろ」
千万の思いを乗せて、■■■は告げた。
例え『過去』といえど傷付けたくはなかった。綺麗な記憶のまま、■■■は立香とは繋がりを断ちたい。
だからどうか引いてくれ、■■■は率直にそう願った。
「なあ、■■■」
やがて立香の言葉が聞こえた。
■■■は立香の顔を見ない。見たくも無い。あんな真っ直ぐな目を、在り方を。眩しすぎる生き方を。
「お前は、■■■■■は本当に…その結果でいいと、そう思ってるのか?」
尋ねられたのは■■■■■にとっては今更な言葉だった。
だからこそ■■■■■は立香の言葉を鼻で笑って、答える。
「ああ。その通りだ。お前らのことなんざ…本当に散り屑ほどにも思ってないさ」
それが、■■■■■としての答えだ。これから先、永劫に変わることのないこの世の真理だ。
感情も無く、誰かに理解されることもなく、ただ世界のシステムに則って生きること。それが今の■■■が答えだ。言われるまでも、ましてや言うまでも無い。
「…そんな寂しそうに、してるのにか?」
「………は?」
想定外の言葉に■■■は呆気に取られた。立香の顔は何かを訴えるようなものだった。
その立香の表情を見て、少しだけ気になった。今の自分の顔は、一体どんな顔をしているのか、と。
そしてふと気がついた。■■■の頬に伝った冷たい感覚に。
「お前が今流してるものは、一体なんだ?」
「…知るか。理想のために感情すらも捨てると決めたんだ。今更気にしていられるか」
「…そうか」
すると立香は純白の魔力を咲き誇らせる。清流のように緩やかで、人々の心を救うような聖なる力の顕現。まさしく世界を救った英雄に相応しき風貌である。
「だったら俺も、お前を否定しなきゃならないな」
「………なんだと?」
「否定するって、そう言ったんだよ」
立香は怒りを宿した瞳を■■■へと向けた。理不尽な怒りでは無い。それは■■■を思うが故の感情だった。
■■■が唖然とする中、立香は告げる。
「お前が自分の感情にすら気づかないって言うなら…俺はお前を本気で殴ってでも目を覚まさせてやらなきゃならない」
これこそが立香の決意。■■■が感情を捨てることを選ぶならば、立香はその感情を肯定する。
立香のその様が■■■にもよく分かった。分かったからこそ、瞳の光を鋭くする。
「…そうか。もう、言葉は要らないな」
■■■の周囲の空気が凍る。紅の魔力とは正反対に絶対零度の空間を作り上げる。
「ああ。もう要らない…下がっておいてください。巻き込んじゃいますから」
一方で立香は陽だまりのように辺りを照らした。そして少女を端の方へと追いやる。その時、無念そうに少女は言った。
「……ハジメのこと、頼んだ」
「はい、任されました」
そして少女がマシュの元へと行き、二人が岩の影に隠れる。その瞬間、火花は散った。
「お前を砕いてでも俺は俺を殺す。それが俺の覚悟だ」
「俺を傷つけてでもお前を救う。それが俺の決意だ」
奈落での一人の少年の運命を掛けた戦いは今、始まるーー
それでは今からエリちゃんとカーミラさんのボイス聞いてきまーす!