ありふれた錬成士は最期のマスターと共に   作:見た目は子供、素顔は厨二

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書き終わりました。
最近二日に一話ペースになっており、申し訳ない…
一話ごとの文字数、ただえさえ少ないのに…
ただ次回は嫌でも長くなりそうだなぁ…

…エグイなぁ


敗北の味、そしてもう一つの戦いへ

 ーーハジメside

 

「…俺の勝利だ。■■■」

 

 ■■■の必殺である対物ライフルは立香の一突きで砕かれた。もはや使い物になどならない。また相手の獲物はボロボロと言えど健在。今、■■■の喉元に突き出されていた。

 

 別にここからどうとでもなる。問答無用で蹴り飛ばすのもあり。“金剛”で槍を逆に壊すのもあり。“纒雷”で焼くのもあり。相手は瀕死の身で、■■■は未だに傷一つない。立香の言葉はそこから考えると支離滅裂だ。

 

 しかし■■■は何処かで、自身の敗北を悟った。その上でまだ結果を認めず、立香を倒しにかけるのは…他でもない■■■が許さなかった。

 

 すなわちこの時を持って■■■は敗北せざるを得なかった。だからこそ、■■■は口惜しくも降参する。

 

「…ああ。俺の敗北だ。立香」

 

 そう■■■が告げると喉元に添えられていた槍は光の粒となり、淡く消失した。続いて立香の体から力という力が抜けると、まるでシャットダウンしたように前へと倒れ込む。

 

 仕方がないので■■■が両腕で立香の落下をやんわりと止める。負けを認めたというのにその相手が地面に頭をぶつけて死んだなどとはあまりにも居た堪れない、そう思えた為でもある。

 

 そうして受け止められた立香の顔は、血の気が引いていた。当然だ。立香は何度も限界を超えた身。そもそも血が体にどれだけあるかも怪しい。死人のそれにも近い風貌である。

 

「……………■■■、もう俺は疲れたよ」

「…俺はパトラッシュじゃねぇんだよ。…たくっ」

 

 だというのにネタに走る立香。案外余裕があるのではないだろうか。思わず■■■も反射的に突っ込んでいた。

 

 とはいえ立香がこうなっているのも大体■■■のせいだ。それで見殺して天使が降りてくるという展開も流石に酷い話だ。なので懐から回復薬(試験管入り)を取り出し、乱暴に立香の口に差し込んだ。飲ませ方が大層乱暴なのは少し負けた腹いせも含んでだ。

 

 無理矢理異物を口に挿入された立香。なんだか吐き出しそうになっていたが、何とか堪えたようだ。そして喉仏が何度か動くとみるみるとその身体が癒えていった。流石は凄い回復薬。なお■■■はその本来の名前自体は知らない。

 

 焦げていた脚も裂かれていた腹も殆ど原形を取り戻した立香。流石の精神チートも唖然とする。

 

 何度か奇妙にも口をパクパクし、■■■が持つ試験管を指差し、またもやパクパク。どうやら動揺して声を発するのを忘れたらしい。流石は凄い回復薬。立香をも今までにない程驚かせた。

 

 やがてようやく声を発するという人間の機能を取り戻した立香が叫んだ。

 

「何そのナイチンゲール並みの回復宝具!!?」

「…宝具? じゃねぇよ。回復薬だ、回復薬」

「それほどの性能で!!?」

「ああ。道端で拾った」

「嘘つけ!!」

 

 一応嘘ではない。“錬成”で作られた洞穴にたまたまあったから。

 

 やがて『キャスター』によって封印石の枷を解かれた少女二人がこちらに駆け出して来た。もちろん立香と■■■、一人ずつにだ。

 

「先輩!」

「■■■!!」

 

 マシュは立香にすぐに駆け寄り、魔術による回復を行う。白銀の魔力が立香の体力を少しでも沸きあがらせる。立香は「い〜や〜さ〜れ〜る〜」と呑気にほわんほわんしている。さっきまでのシリアス、仕事しろと言えるレベルだ。少し■■■の口の中がザラザラし始めたのも幻覚ではないだろう。

 

 ただ■■■も全く人の事は言えない。なんたって少女が腕に抱きついてきたのだから。彼女の脇に挟んであるマフラーも風が何かで■■■に絡まった。…風など吹いていないのだが。本格的にマフラーに何かが取り憑いている可能性が心中に湧き上がり、ブルっとした。

 

 少女とマフラーが痛いほどに■■■の体を締め付けてくる。ギリギリと音を鳴らす二人(?)に■■■は顔を歪めるが、その暖かさは悪くは無かった。

 

 上目遣いで瞳を濡らす少女が、■■■に微笑んだ。そしてマフラーを掴むと■■■の首に巻いていくれた。首から全身に一気に熱が灯ったような気がした。それほど長くは別れていない思い出の品の筈だったのだが、久々に感じられた。一度捨てたというのに、どうやら何処かで未練が■■■にはあったらしい。

 

 ■■■がその温もりに少し視界がボヤけた。それが何か分からず、思わず目をこするが、それでもなお瞳からは情けなく、水が溢れ出てくる。

 

 そしてそんな■■■に三人が笑顔を差し出した。

 

「さて…ハジメ。戻って来たか?」

「南雲さん。ようやくですね」

「……ん。……お帰り、ハジメ」

 

 どれだけ三人を傷つけ、どれだけ三人を無下にしてきたのか。それでも三人はハジメに居場所を作り出してくれた。受け入れてくれた。

 

 だから、ハジメもまた応えた。

 

「ああ。…ただいま!」

「おう!」「はい!」「……ん!」「(ブンブンブンブン!!)」

 

 ようやく■■■はハジメへと戻ったのだ。

 

 そして外では爆音が響いた。

 

 もう一つの戦いの決着。それを暗示した音だ。

 

「…行こう、ハジメ」

「ああ。…そうだな」

 

 四人は駆け出す。目的地は洞窟の外、モードレッド、スカサハが『アサシン』と対峙しているその場所だ。

 

 もう一つの戦いの終着を見るために。

 

 

 

『キャスター』は出て行った背中をそっと眺め、微笑んだ。やがて口を開き、出口とは反対方向に進んでいく。

 

「またいずれ会おう。南雲ハジメ(・・・・・)

 

 そして『キャスター』は魔力の残滓を残し、洞窟の中から姿を消した。

 

 彼が何処へ行ったのか、それはまだ誰も知らない。

 

 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

 ーーアサシンside

 

 時は遡る。

 

 戦いが始まり、たったの数分。しかしその僅かな間で状況は劇的な変化を見せていた。そう…

 

「…馬鹿な」

「はっ! あん時の威勢はどうしたぁああああ!!?」

 

『アサシン』の劣勢という形で。

 

 知名度補正は未だに『アサシン』が格段に上。また『アサシン』自身になんらかの負荷(デバフ)が掛かっているわけでもない。

 

 つまり考えられる変化は相手側、すなわちモードレッド達の方。しかし以前見せつけた差は一度見逃しただけの合間で埋められるものでも、ましてや追い抜かれるものでも無かった。

 

 だというのに。

 

「背中が空いておるぞ?」

「ッーー!!?」

 

 目の前の英霊(怪物)達は『アサシン』の思考のほんの些細な隙に付け込み、確かな負傷を負わせていく。現に今も背中の大銀の剣を避け、脇腹を串刺しにされた。『アサシン』が止まることなく動き回っているにも関わらずだ。

 

 劇的なステータスの変化では無い。ならば考えられる事など数少ないが、そのどれもがあの僅かな戦いではあり得ぬことだった。しかし目の前の戦士はどちらもそれを実行している。そう。

 

「ーー我が術、かの刹那の間に読み切ったとでも言うか!!?」

「ーーそん、通りだっ!!」

 

『アサシン』の動き、癖、思考をあの一回の戦いだけで二人は熟知したと言うことだ。全く信じたくも無い冗談。恐怖しか感じない。

 

 己の『アサシン』としてのナイフ型の宝具、『血に濡れた破国の棘(メルナキア・サーカル)』の鯨波のようなナイフの群もすぐに全弾弾かれた。

 

血に濡れた破国の棘(メルナキア・サーカル)』はかつて『神山のアサシン』がエヒト神から賜り、扱った代物。敵の体に刺す度に負荷(デバフ)を掛けていくという厄介極まり無い彼の常用武器。

 

 真にこの武器の恐ろしいのはこの武器に際限が無いということ。いくら投げようとも懐にいくつも再装填されるのだ。何故かは分からないが、『アサシン』にはどうでもいい。おそらくは神の御技とやらだろう、と適当に考えている。

 

 だが際限がない故にそのデバフ効果は酷く強い。一気に投げつけたならば、相手からすれば針の筵。いくつかならば弾けるかもしれないが、それでも擦り傷ぐらいはつく。ましてやその投擲者は他ならない『神山のアサシン』だ。本来ならば敵の体は嫌という程に重たく、虚弱になっているはずだ。

 

 それがどうか。この神敵たちの体には一切の傷が見られない。これほどの敵、一度も見たことがない。

 

 そしてそこから現れる心の焦りが謙虚に戦闘に現れた。戦闘中に敵二人、どちらをも見逃すという根本的なミスを犯すと言う形で。

 

 その過ちに気付いた時には既に遅い。二人の戦士はその隙を見逃すような生易しい相手などではないのだから。

 

「喰らいやがれ!!」

「遅いっ!!」

 

 上空からの薙ぎ下ろしの一撃と地を這う一閃。それがクロスするかのように『アサシン』を襲った。

 

 咄嗟に身を捩り、少しでも損傷を減らす。しかしそれでも左肩が半分ほど絶たれ、脇腹を負傷するという重症からは逃れることは出来なかったらしい。

 

 悪態代わりとばかりに『血に濡れた破国の棘(メルナキア・サーカル)』を上空へと投げ、己の周囲にばら撒いたが無意味。赤雷が当たり一面を焼き払う。趣味の悪いSFのようだ。

 

 その間にスカサハが場を逃れようとする『アサシン』を強襲する。『アサシン』もまた複製された宝具で鍔迫り合いを行おうとするものの、スカサハが一歩先を行った。

 

 その場にいたはずのスカサハの姿がまるで影が落ちたかのように消え去る。

 

 “魔境の智慧”、世界の理からすらも離れた場所へ身を置くが故にほぼ全ての権能を高い水準で得られるという力。戦闘中においては“千里眼”と呼ばれる未来予想の力すらも発揮されるこの力により、スカサハは一時的に『アサシン』の知覚領域外へと踏み込んだ。

 

 槍との交差どころか何一つの抵抗もなく、空振りに終わる『アサシン』の一撃。標的が消えたが故のこの状態は正に格好の的。

 

「死ぬなよ?」

 

 そう告げられてコンマ数秒。その間、『アサシン』は完全に防御へと徹しざるを得なかった。いつのまにか携えられた二双の槍。瞬時にそれらが『アサシン』の体を蹂躙したが故に。

 

「ガッーーー!!?」

 

 血の華が迷宮を彩った。全身に夥しいほどの生傷が作り出され、『アサシン』は成すすべもなく地面に崩れ落ちた。四肢はほぼ完全に絶たれた。立ち上がる余力すらも『アサシン』には無かった。

 

「ふむ…これまでかな?」

「チェックメイトってなぁ!! こんの芋虫が!」

 

 そう、正真正銘の詰みの形だ。

 

 だが同時に『アサシン』の頭に思い浮かんだのは、ある洞穴の中で力無く倒れていた少年のこと。かつての自身に、似ていた少年の姿だった。

 

 かの少年は、今かつての仲間と決別できたのか。それが『アサシン』の心残り。彼の英雄としての情けないまでの過去に渡る『後悔』の、その形。

 

 そして時は、さらに遡ることとなる。

 

 それはかつて、『最強』と呼ばれたパーティーの物語。『迷宮攻略記(ダンジョン・レコード)』と言う本に記された実話の、その裏側へと。




そんなわけで!
次回!
『アサシン』、過去の話!
興味ない人は飛ばしてね!!

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