ありふれた錬成士は最期のマスターと共に 作:見た目は子供、素顔は厨二
テスト週間にCCCイベントが来るとか何ぞ?
CCCはイベントシナリオ長いらしいから受験期には来ないといいなぁーとか思ってたけど、コレは何ぞ?
神よ! 俺がそんなに嫌いかぁあああああああ!!!!?
そんなストレスを解消する為に殴り書いた今回。
アサシンの過去、ご覧あれ。
ーーアサシンside
「ふっ!!」
大銀塊が振るわれると同時に兜を被った魔物が木っ端微塵に吹き飛ぶ。頭自体が吹き飛んだことで血が噴き出した。
65階層、橋の上での決闘はすぐに決着した。後にベヒモスと呼ばれることに魔物は下半身だけ取り残され、奈落へと落ちていった。カーグはそれを見て、嘆息する。
「…呆気ねぇなぁ」
この言葉は『キルギ・メラス』の総意だった。
決戦に要した時間はたったの1分間。それだけで橋という迷宮の戦場は処刑場と成り果てていた。背後では無数のトラウムソルジャーがいたはずなのだが、召喚魔法陣ごとズドラの範囲殲滅魔法で焦土と成り果てた。
なおこの間マイナとアイル、シャルナは物足りなさそうにガッカリしていた。カーグとズドラが獲物を独り占めしたせいだろう。
だがそれも仕方がない。このパーティーのレベルはそれほどに隔絶している。一つの例としてカーグのステータスを記す。
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カーグ・○○○○ 31歳 男 レベル:98
天職:農民
筋力:980
体力:1200
耐性:1020
敏捷:1500
魔力:700
魔耐:900
技能:剣術[+斬撃速度上昇][+斬撃威力上昇][+鎧貫][+無念有想][+幻影露剣]・剛力[+魔闘法]・縮地[+爆縮地][+重縮地][+震脚][+無拍子]・先読[+投影]・気配感知・魔力感知・隠業[+幻撃]・限界突破[+覇潰]
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確かにパラメーター自体も高い。しかしそれ以上に技能の派生が異常である。特に剣技が群を抜いて派生技能が現れていた。
他のメンバーもカーグよりは低いものの、同様のステータスの高さを誇る。なお、面倒ごとになるのでギルドの方には全員嘘のステータスを知らせている。ただえさえ多い勧誘の声が更に増すからである。そういったしがらみを嫌うメンバーは全員一致で勧誘を総スルーするとは決めているが、無いに越したことはない。
「…なんか思ってたよりも65階層も弱かったわね」
「本当に。このまま行けば楽勝」
「ですね! 防御の役目ですのに今のところ役目ほとんどありませんし! 強い敵が出てきてほしいです!」
「…シャルナ。障壁で魔物を潰してるところを見るとシャルナが防御役というのは少し違和感があるのだけれど…」
「…アイル。それをシャルナに言っても無駄よ。あの子最近『障壁とは攻撃の為にあるんです!』とか血迷ったこと言い出すことがあるから…」
「ま、とりあえず帰るか? 俺はカミさんに逐一報告を今日から義務付けられてしまったのだ。とっとと帰ろう」
「…アンタ、風来坊気取ってる割にはマルナさんには弱いわよね」
「仕方ないじゃん! 怖いんだもん! アイツ最近俺に対するスレイヤー系統の技能持ち始めたと思われるもーん!!」
「…マルナさんだったらあり得るわね」
「…だろ?」
マルナの亭主関白ならぬ主婦関白ぶりは『キルギ・メラス』の全員が知るところ。最強のパーティーの団長が嫁に尻で敷かれている様はギルドに戦慄を呼んだこともあった。
65階層をこうして談笑しながら去ろうとしていた『キルギ・メラス』。しかし次の瞬間、聞き、見る事となる。
『ーーーーー』
「「「「「ーーーッ!!!?」」」」」
まず聴こえてきたのは天上の歌のような声。それが直接頭に響いたものだった。有無を言わさず流れる甘い声に『キルギ・メラス』のメンバーは瞬時に戦闘態勢を敷く。
次に見たのは銀色の光。最初はただの光粒であったそれが拡大し、同時に人の形として変質していく。
その人陰は白を基調としたドレス甲冑のようなものを纏い始める。ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るしている。どう見ても戦闘服だ。まるでワルキューレのようである。
銀髪の女は、その場で重さを感じさせずに跳び上がった。そして、天頂に輝く月を背後にくるりと一回転すると、その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げた。
バサァと音を立てて広がったそれは、銀光だけで出来た魔法の翼のようだ。背後に月を背負い、煌く銀髪を風に流すその姿は神秘的で神々しく、この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていた。
夕日に反射してキラキラと輝く銀髪に、大きく切れ長の碧眼、少女にも大人の女にも見える不思議で神秘的な顔立ち、全てのパーツが完璧な位置で整っている。身長は、女性にしては高い方で百七十センチくらいあり、愛子では、軽く見上げなければならい。白磁のようになめらかで白い肌に、スラリと伸びた手足。胸は大きすぎず小さすぎず、全体のバランスを考えれば、まさに絶妙な大きさ。
だが、惜しむらくはその瞳だ。彼女の纏う全てが美しく輝いているにも関わらず、その瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった。
そして抑揚もなく、ただ冷たい声で彼女はカーグ達へと話しかける。
「初めまして、エアートと申します。『キルギ・メラス』一行様。貴方方は神に選ばれました」
「…神に?」
「ええ。今すぐ本山へと向かいなさい。良かったですね。人の身にはあまりにも不相応な名誉です。しかと己を讃え、喜びなさい」
きっと神とやらはエヒト神のことを指すのだろう。それをすぐにカーグは理解する。そしてそれを理解すると同時に、『キルギ・メラス』の全員が応えた。
「シッ!!」
「“炎槍”!!」
「ふっ!!」
ナイフと白の炎、飛ぶ斬撃という攻撃的な答えで。
それらの攻撃は瞬時にエアートとの距離を詰め、淡く消える。銀色の無機質な魔力が閃いたかと思えば、瞬く間に力を失せて消えていったのだ。
「…もう一度、機会を与えましょう。本山に来る気はあるでしょうか?」
問われると同時に浮かぶのはカーグの故郷の姿。ただ一人の村人が神の御石に触れただけで炎に覆われた悪夢の光景。
『これは、神罰である』
狂った笑みを浮かべた男達が次々と人々の胸を貫き、焼いていく。必死に森の中へと逃げた途中に聞こえてきた声。それが今も耳にへばりついては離れない。
そして仲間達も同じような過去を持っている。苦しく、血に塗れた神が作り出した無情な光景を。
歯向かう理由はそれで十分だった。
「すまんが俺らは全員、神様とやらを良くは思ってないんでね! リーダーとしてんなもんお断りしますってなぁあああ!!!」
感情のこもっていない業務的な勧誘にカーグが怒りを滲ませ、拒絶する。それと同時にエアートの胸で交差するのは銀の斬撃と銅の衝波。カーグが“無念有想”で距離を瞬く間に詰めて、アイルが“衝撃変換”による圧倒的な破壊力を顕現させる。
本来ならばこれだけで決着は着くはずだ。トータスでも化け物としか揶揄できない1000を超える攻撃力を誇る二人が同時に放ったのだ。相手が無事であるはずがない。
ーーだというのにそれらの攻撃を弾く肌を持つ目の前の女は、何者だ?
パラメーターの明らかな違いを瞬く間に理解させられたカーグとアイル。その二人の耳に入った言葉こそ、死刑宣告に違いないものだった。
「私の間合いに入ってきた度胸は見事です。それでは私も全力で潰すことにいたしましょう」
神の断罪という名の刃が二人に振るわれた。その背の丈に見合わない巨大な双剣。カーグは“無念有想”により回避出来た。相手の無意識に漬け込むような歩行術。それにより紙一重であり、風圧によりダメージは免れなかったが、代わりに命を失うことはなかった。
しかし代わりに失うこととなった第一人の犠牲者。アイルの体が冗談のように真っ二つに切断された。切り飛ばされた上半身の頭は痛みも苦痛も分からず呆けていたような表情だ。もっともすぐにその顔には目障りとばかりに大剣が見舞われ、赤い花が咲いた。
血は彼女を汚すことさえも許さない。今なお純白を誇るかの『神の使徒』。エアートはアイルに瞳を少し向けると、淡々と告げる。
「まずは、一人目」
一切の高揚も悲哀もない、ただの事実だけの呟き。その聞こえてきた声が『キルギ・メラス』に現実逃避を認めさせなかった。
「ふ、ふざけんなぁあああああああああーーーー!!!!!」
炎を纏った小型のナイフが風を切り、流星の如く空を飛んだ。マイナの投擲である。物理的な威力と魔法的な威力が相乗した一撃。それらがミサイルの如く殺到するのだ。
だがその刃の豪雨は霧の如くエアートの前で消え去ることとなる。そしてマイナ本人も存在自体が消え失せる。
「二人目」
「あっ…」
マイナが己の最後を理解し、呟きを漏らした。だがその後の言葉はない。その形姿自体が消えたのだ。出来るはずもない。
ようやくここで残りの三人は理解する。目の前にいる存在の別格さを。強さとしての異次元ぶりを。
だが更に二人の姿がノイズを走らせ、歪み消える。シャルナとズドラだ。何の抵抗すらも許される事なく、体を分解された。痛みもなく、ただその場に呪詛を残すことさえも許されず。
世界から、消えたのだ。
「三人目、そして四人目。…まだ抵抗なさるつもりで?」
エアートは残されたカーグに問いかけた。
残るメンバーはただ一人。カーグのみだ。風圧により、鎧が割かれているが、未だその身は健在。しかしそれでも目の前の怪物に勝てる要因はない。
だが…
「上等だ…“限界突破”…“覇潰”っ!!」
だが、屈するなど許されない。必ず神など認めないという覚悟。それが『キルギ・メラス』の掟。残り一人となり、命欲しさに神に従するなど死んでもさらさらするつもりはない。
カーグの体を群青の魔力が包む。その魔力はただ高められたのではなく、精密にコントロールされた上でカーグの体に力を灯す。これがカーグが魔法の才能が無い代わりに得た“剛力”の派生技能“魔闘法”。“覇潰”と“魔闘法”により、身体能力は計8倍までに強化される。
これでも恐らくは目の前の怪物には及ばない。されど、カーグには今まで納めてきた技の数々がある。それらで、“神の使徒”を打ち破る!!
「…そうですか。ならば死になさい」
白い魔力が全方面へと波のように広がる。先程のマイナ、ズドラ、シャルナをこの世から消し去った技だろう。
しかしカーグの刃はその鯨波を断つ。本来ならば消え去るだけのはずの剣は傷一つ無い。カーグが剣技を納め、行き着いた極地“幻影霞剣”。対象も距離も有無を問わず、斬りたい物だけを斬る剣技の究極地。たとえそれが切れない物であろうと切り裂く、カーグが最強を欲しいままとする理由こそがこれにある。
同時にエアートは違和感を覚えた。己の右の指先に。
エアートが持っていたはずの大剣が地面に突き刺さる。うっかりでこぼしたわけではない。ただ、それを持ち続ける指が無かった。それだけだ。
「…なるほど。非常に惜しい才能ですね。我が主が駒として欲しがった理由もよく分かります。きっと神代であろうと貴方の力は通用したことでしょう」
左の大剣に更なる銀色の魔力が宿った。双剣が使えなくなったが故の判断だろう。残された右手は盾として使う気のようだ。
「ーーですが慈悲などありません。死になさい」
「ーーテメェが腹ん中ブチまけて死にな!!」
『神の使徒』と『稀代の剣士』。オルクスの橋の上で、階層にはそぐわぬ戦い。その戦いは火蓋を切って落とされた。
決着がついたのはたったの20分後のこと。
65階層はもはや使い物になどならないほどに悲惨さを極めていた。橋という原型は既にない。半分ほどは斬り落とされており、一部はごっそりと消失している。何故橋自体が落ちないのか不思議でならないほどだった。
壁も天井も例外はない。焼け爛れ、斬撃の跡が残り、空洞が開き、衝撃にクレーターを作り上げ崩壊しているという地獄の光景。瓦礫が次々と奈落の底へと呑まれていった。
そんな中、カーグは息を切らしながらも笑い、告げた。
「はぁはぁはぁ…俺の勝ちだ。『神の使徒』」
カーグの目の前には銀剣で壁と挟まり、胸を突き刺されたエアートの姿があった。その発する魔力は弱々しい。本来ならば神とのリンクにより無尽蔵であるはずのエアートの魔力。そのリンクをカーグは断ち切ることで勝利を収めたのだ。
「…見事、そう言っておきましょう。ここでは貴方の勝利だ」
それだけを淡々と告げると、エアートの瞳から光は失せた。『神の使徒』の死。あまりにも呆気なく、その体からは魂が消える。
カーグはエアートの死を確認すると辺りを見回した。唯一残っていたアイルの死体は無い。恐らくは二人の戦いにより、潰されたのか。それとも奈落へと落ちたのか。どちらにせよ助かるはずもなかったのだが。
「…何が勝利だ」
勝ったと言えどもカーグの体は既に半ば死体だ。“覇潰”の本来の限界である三分。それを余裕で超えたのだ。体どころかそのダメージは脳にすらも渡っている。恐らくはここから先、冒険者業は続けられないだろう。
失った物の数があまりにも多い。仲間も将来も神に潰された。それを思うとあまりにも、カーグは虚しさで胸がいっぱいになる。
ただそれでも生きねばと、そう思ったから。
カーグは上層への階段へと歩き始める。足元は覚束ないが、それでも名人級の技能を持つカーグは制御し、進んでいく。
(もしここで魔物が来たら…それはその時か)
笑えない冗談だ。本当に魔物の一匹とでも遭遇してしまえばその瞬間を持ってカーグは死ぬ。だが体力がまだ残っている現状で動かずにいるのはむしろ悪手。故に進むしか無かった。
ただ何階層まで登ったところだろうか。ようやく脳が少し回復し始め、思考が安定した時。ようやく何も自身に襲いかかって来ないのが分かった。
手負いのカーグはこれに違和感を覚えつつも、足は休めない。引きずりながらも、這い蹲りながらも外を目指す。無様でも生還するために、カーグは外へと向かった。
そしてようやくカーグの目に地上の光が見えた。一階層、その入り口が姿を現したのだ。
目の前には恐らくは商魂逞しい商人たちとそれを必死に値切ろうとする冒険者。そして活気に湧くヴェルシアの街がある。
ただ一人だ。しかしそれでもここまで生き残れた事実に歓喜が渦巻いた。
しかしカーグはこの時点で気づくべきだった。
魔物は確かにカーグの近辺にはいなかった。これはもしかすれば凄まじい奇跡で済ませられたかもしれない。
だが『冒険者』が一切いないのは。カーグと一度たりとも遭遇しなかったのは何故か。
その答えは入り口を抜けた先の光景にあった。業火に彩られたヴェルシアの街という悲惨な光景が、雄弁にカーグと冒険者が出会わない理由を指していた。
冒険者が一切いなければ、出会うはずもないのだから。
「…なんだよ、これ?」
商人達は死んでいた。金品を奪われた上で、理不尽な炎に晒されて。
剣士達は死んでいた。相棒とも言えた己の剣で胸を突き刺されて。
魔法士は死んでいた。魔法を詠唱をするための舌を引き裂かれて。
錬成士は死んでいた。汗と共に作り上げた己の武器を撒き散らせて。
拳士は死んでいた。腕も足も捥がれ、己の一生をコケにされて。
一般人は死んでいた。ただ意味もなく、私欲のために殺されて。
ギルド員は死んでいた。命を請う間もなく、頭を砕かれて。
過去、カーグの村も炎で覆われたことがあった。神罰として。
そして聴こえてくるあの日と同じ言葉。
「これは神罰である!」
「異端者どもに天罰を!」
「一人たりとも残すな! 」
「全ては我らがエヒト神が為に!!」
『『『『『然り! 然り!』』』』』
狂った神の信者は逃げ惑う人々の背を笑いながら貫いていく。それはもう狂ったように声を上げながら。
阿鼻叫喚。この場を表すにはそれで十分。
「来ましたね。カーグ・○○○○」
やがて聞き覚えのある声が耳に通った。先程まで、あの奈落での決闘中に聞いた声だ。嫌な汗を吹き出しながらもカーグは視線を声の元に向けた。
結果、瞳には白い『神の使徒』が映ることとなる。先程とは違うシスターのような服装だ。だがその顔も、無機質さも何も変わってはいない。間違えるはずもない。
「てんめぇえ! 生きてやがったのか!!?」
思い返すのは奈落で行われた瞬く間の蹂躙。仲間が霞みのように消えていった白昼夢のような光景。今でもその怒りは一時も消えてはいない。
しかし『神の使徒』は気にも止めず、屈託なき些事をカーグに送る。
「よもやエアートを、主の使徒たる一人を倒してここまで来るとは思っておりませんでした。『剣聖』、そう名乗っても支え無いほどの実力でした。ここに拍手を」
そして周りから聞こえてくる拍手の数々。カーグが辺りを見るとそこにはいくつもの、数百と渡る少女の顔。己の街が燃え上がるという状況も相まって、もはやタチの悪い悪夢のよう。だがカーグは理解した。
「…まさか、俺が倒したのは本当に『神の使徒』の一人だけだった。そういうことか…」
「その通りでございます。なお私の名はノイントです」
「ははっ…。クッソ、笑えねぇ冗談だ。で? アイツの仇討ちにここにきたのか? そんで俺を追い詰める為にこの町も焼いたってのか?」
カーグは“覇潰”と“魔闘法”の発動を準備する。これならば身体が燃え尽きるまで戦い、朽ちようと決意したためだ。
「ふざけんなよ、ど畜生ども?」
使徒は何百といる。だというのにカーグからは手負いの身とはとても思えないような凄まじく危うい武威が吹き荒れる。そのプレッシャーに優勢であり、感情などないはずの使徒達が僅かに後ずさった。
しかしノイントの後ろから
「この方々がどうなっても?」
マルナとシシリア。どこかふらついた様子で二人がゆったりとカーグの前まで進んできた。ただカーグの方は一切見えていない。むしろ蕩けた目をしており、焦点が合っていない。言うまでもなく状態異常が発生していた。
そして今、マルナの方にノイントの掌が差し出された。
二人の様子にすっかり警戒を怠っていたカーグは直前になり、ようやくノイントが今からしようとしていることに気がついた。純白で残酷な魔力の塊を見たから。
「やめろぉおおおおおおおおおーーーー!!!!!!」
カーグは瞬時に銀剣を握り、一閃しようとする。今にも“分解”をしようとするノイントの首を刎ねる為、“幻影霞剣”が今目覚める。
だがその前に二人の使徒がカーグから剣を奪い取る。“覇潰”と“魔闘法”を怠ったが故の代償。あっさりと己の相棒はカーグの掌から離れた。
故にカーグが見るのはようやく正気を取り戻し、カーグの方をハッとして見たマルナの顔。その顔が粉雪のように空気に溶けていく。あっさりとほんの刹那の間にマルナはこの世界から退場した。
もはやカーグの心境は絶望に達していた。どれだけもがこうと誰もが消えていく。
視界の端に見覚えのある少年の顔があった。昨日ギルガ達のイタズラから自分が救った新人の冒険者の顔だ。そのすぐ横にはギルガ達もいた。少年の前で突っ伏しているところを見ると彼らは最後の最後に根性を見せたのだろうか。
「貴方が抵抗なさいませんのなら、この子供の命だけは救いましょう。さぁ、神の駒として仕えなさい」
目の前で今も正気を取り戻さない世界でもうたった一人だけの『大切』。それすらも守らなければきっとカーグの心は完全に壊れる。彼女だけがカーグの心の防波堤だ。
だから、もう楽になりたかったから。
無力に、後悔したくはないから。
ただ一人の『大切』だけはどうしても失いたくは無いから。
復讐の心に胸を焦がしながらも、己の心を見ぬフリをして。カーグは余った力を使って跪く。
「誓おう。エヒト神に、シシリア以外の我が全てを捧げることを」
この日、『神の堕ちた迷宮街』は神の使いにより滅びを迎えた。オルクス迷宮の前にはただ一本の銀剣が残されることとなる。まるである男の過去が捨てられたかのように。
そして神山には新たな暗殺者が迎えられた。神の敵を忠実に殺す模範的な神の従者。
彼の最後はヴェルカ王国と共に迎えた。エヒト神の言葉一つでその暗殺者が王宮にいる者全てを骸へと変えた為だ。そして最後に城壁の上へと登り、自殺した。
彼は最後にこう告げたらしい。
『我らが神に祝福を! 我らが神に新たなる世界を!!』
彼の名は誰にも知られていない。ただ通称として『赤錆のマーダー』と、そう後世に伝えられている。新たなる神の国を作り出した英雄として。
本当の彼の歴史など、誰も知らずに。
だから、もう自身のような愚者をこれ以上作り出さない為にも暗殺者は刃を振るう。
かの少年もこれから何かを取りこぼし、後悔するに決まっている。かの神がいる限りは、必ず。
暗殺者は失いかけていた四肢を踏み込んで、赤錆のナイフを手に広げた。背の銀剣は使わない。今の彼には使ってはならないものだから。
「ーーーこの世界の為、死ぬがよい」
この世の人々から感情を消し去る為に。神によって苦しむ人をこれ以上は出さない為に。
彼は『神山のアサシン』として、生き続けるのだから。
8509文字ですね。今回。
…何気に最高記録かね?
そりゃあこんなに時間かかるわな。
次次回ぐらいでVSアサシンラストです。
彼が救われることを、私は願う、